6 / 159
第一部 世界熔解
06 無意識の活躍
しおりを挟む
異世界に戻ってから数日経った。
神官たちの復元魔法や大工さんのおかげで、大聖堂は元通りの景観を取り戻しつつある。俺の身体であるクリスタルに入ったヒビも、自己修復スキルが働いて傷が浅くなっていた。
クリスタルの中で俺は悶々とする。
どうやったら現実世界に帰還できるのだろうか。
前回、戻る直前は絶体絶命の危機だった。もう一度、危機に陥ったら現実世界に帰れるだろうか。だが俺に攻撃を仕掛けてくる奴なんて滅多にいないから、検証しようがない。
「仲間の蘇生をお願いしに来ました」
そんなある日、冒険者が数人、動かない仲間を連れて大聖堂を訪れた。
大聖堂に寄進すると「回復」や「蘇生」の魔法を受けられることになっている。俺も魔法のレベル上げができるので、大聖堂の商売に無言で協力しているのだ。
「冒険で命を落とされたのでしょうか」
神官が、患者の症状を聞く医者のように、穏やかに冒険者たちに質問する。
冒険者のリーダーの男は首を横に振った。
「いえ。崖からパンジージャンプしました」
「は?」
「こいつ、魔法の使えない戦士の癖に、俺は風になる! って空を飛ぶ練習するんですよ……」
「それは……馬鹿ですね」
「ええ、馬鹿です」
神官が何とも言えない表情になる。
俺も呆れたけど、そんな驚かない。大聖堂に高額の寄進ができるほどの冒険者は、高レベルの変人が多いのだ。
「地面に叩きつけられる瞬間、仲間の魔法使いがあらかじめ掛けた、緊急脱出の魔法が発動したんですが、それが変に影響したのか、身体を回復させても魂が戻って来なくて……」
冒険者たちは、簡易の棺の中で眠っている仲間を、痛ましそうに見た。
待てよ……緊急脱出?
魂が戻ってこない……?
「頭が空を飛んでる馬鹿だけど、剣の腕は確かだし、勇敢で頼りになる大事な仲間です。アダマス王国の聖なるクリスタルの力なら、どんな病も治せると聞いています。金ならいくらでも出すので、どうか治してやってください!」
「我らが神、聖晶神アダマントさまは大変慈悲深い方です。必ず祈りに応えて下さるでしょう……アダマントさま?」
俺は唐突に思い付いたことがあって呆然としていた。
神官の視線に我に返る。
蘇生ね、ほれ。
「……ここはどこだ?」
パアッと魔法の光が辺りを走り、棺の中の男が目を開ける。
「馬鹿野郎! 面倒かけやがって!」
冒険者たちは歓喜の表情で起き上がった男の肩を叩き、歓声を上げる。
一方の俺は考え込んでいた。
現実世界に戻る時、無意識に俺は緊急脱出スキルを使ったのではなかろうか。心菜や真がどうやって現実世界に帰ったか知らないから、確実に脱出スキルが使えるとは限らないけれど、駄目もとで試してみよう。
緊急脱出スキルは習得済みだが、使う機会が無かったのでリストの端の方に埋もれている。
俺はステータスを表示して「緊急脱出」を探した。
あった。
しかも「緊急脱出Lv.1」が「緊急脱出Lv.3」になっている。
レベルが上がっているということは……まさか?!
「な、なんだ?! クリスタルが一瞬まぶしく光ったぞ」
「クリスタルに宿る聖なる意志が、あなたがたを祝福されたのです。滅多にないことですよ」
興奮してつい光ってしまった。いかんいかん。
しかしこれで現実世界に帰る方法が分かった。
この「緊急脱出Lv.3」を任意で使用できるようにすれば……魔法の式の一部を変更して……実行!
俺は異世界を脱出した。
ガバッと布団から上半身を起こし、俺は周囲の状況を確かめた。
ここは地球は日本の自分の部屋、ベッドの上だ。
枕元のスマホを取り上げて、メッセージをチェックする。
最後に心菜とチャットした日時から、数時間しか経っていない。
「良かった……」
異世界で何日過ごしても、こちらでは数分程度のようだ。
安心すると眠くなってくる。
また元通り寝転んで、うとうとしていると、外が騒がしくなった。
「なんだよ……うるさいな」
どこかで消防車のサイレンが鳴っている。
人の叫び声や、ざわめきが遠く聞こえてきて、睡眠を妨げた。
俺はこの時、異世界から帰ってきたばかりで……簡単に言うと、寝ぼけていた。
「……ええと……なんだモンスターの群れかー」
無意識に広域マップを操作しながら索敵スキルを使用する。
敵を示す赤い点が数十以上表示されていて、俺は「また魔族が攻めてきたのかな」と思った。異世界でクリスタルだった頃、一時期、アダマスに魔族が大量に攻めてきた事があったのだ。その頃を思い出して、夢うつつに魔法を使う。
「……晴天千落雷」
上空に展開した魔方陣から、千の雷が降る。
雷撃は速やかにモンスターを殲滅した。
ちゃんと手加減しているので、人や建物には当たっていないはずだ。
サイレンの音が消えて静かになる。
「ふああ……やっと静かになった。おやすみ……」
欠伸して、布団をかぶる。
魔法で魔力を消耗したので余計に眠い。
その朝、目覚ましが鳴っても気付かずに、俺は寝過ごした。
神官たちの復元魔法や大工さんのおかげで、大聖堂は元通りの景観を取り戻しつつある。俺の身体であるクリスタルに入ったヒビも、自己修復スキルが働いて傷が浅くなっていた。
クリスタルの中で俺は悶々とする。
どうやったら現実世界に帰還できるのだろうか。
前回、戻る直前は絶体絶命の危機だった。もう一度、危機に陥ったら現実世界に帰れるだろうか。だが俺に攻撃を仕掛けてくる奴なんて滅多にいないから、検証しようがない。
「仲間の蘇生をお願いしに来ました」
そんなある日、冒険者が数人、動かない仲間を連れて大聖堂を訪れた。
大聖堂に寄進すると「回復」や「蘇生」の魔法を受けられることになっている。俺も魔法のレベル上げができるので、大聖堂の商売に無言で協力しているのだ。
「冒険で命を落とされたのでしょうか」
神官が、患者の症状を聞く医者のように、穏やかに冒険者たちに質問する。
冒険者のリーダーの男は首を横に振った。
「いえ。崖からパンジージャンプしました」
「は?」
「こいつ、魔法の使えない戦士の癖に、俺は風になる! って空を飛ぶ練習するんですよ……」
「それは……馬鹿ですね」
「ええ、馬鹿です」
神官が何とも言えない表情になる。
俺も呆れたけど、そんな驚かない。大聖堂に高額の寄進ができるほどの冒険者は、高レベルの変人が多いのだ。
「地面に叩きつけられる瞬間、仲間の魔法使いがあらかじめ掛けた、緊急脱出の魔法が発動したんですが、それが変に影響したのか、身体を回復させても魂が戻って来なくて……」
冒険者たちは、簡易の棺の中で眠っている仲間を、痛ましそうに見た。
待てよ……緊急脱出?
魂が戻ってこない……?
「頭が空を飛んでる馬鹿だけど、剣の腕は確かだし、勇敢で頼りになる大事な仲間です。アダマス王国の聖なるクリスタルの力なら、どんな病も治せると聞いています。金ならいくらでも出すので、どうか治してやってください!」
「我らが神、聖晶神アダマントさまは大変慈悲深い方です。必ず祈りに応えて下さるでしょう……アダマントさま?」
俺は唐突に思い付いたことがあって呆然としていた。
神官の視線に我に返る。
蘇生ね、ほれ。
「……ここはどこだ?」
パアッと魔法の光が辺りを走り、棺の中の男が目を開ける。
「馬鹿野郎! 面倒かけやがって!」
冒険者たちは歓喜の表情で起き上がった男の肩を叩き、歓声を上げる。
一方の俺は考え込んでいた。
現実世界に戻る時、無意識に俺は緊急脱出スキルを使ったのではなかろうか。心菜や真がどうやって現実世界に帰ったか知らないから、確実に脱出スキルが使えるとは限らないけれど、駄目もとで試してみよう。
緊急脱出スキルは習得済みだが、使う機会が無かったのでリストの端の方に埋もれている。
俺はステータスを表示して「緊急脱出」を探した。
あった。
しかも「緊急脱出Lv.1」が「緊急脱出Lv.3」になっている。
レベルが上がっているということは……まさか?!
「な、なんだ?! クリスタルが一瞬まぶしく光ったぞ」
「クリスタルに宿る聖なる意志が、あなたがたを祝福されたのです。滅多にないことですよ」
興奮してつい光ってしまった。いかんいかん。
しかしこれで現実世界に帰る方法が分かった。
この「緊急脱出Lv.3」を任意で使用できるようにすれば……魔法の式の一部を変更して……実行!
俺は異世界を脱出した。
ガバッと布団から上半身を起こし、俺は周囲の状況を確かめた。
ここは地球は日本の自分の部屋、ベッドの上だ。
枕元のスマホを取り上げて、メッセージをチェックする。
最後に心菜とチャットした日時から、数時間しか経っていない。
「良かった……」
異世界で何日過ごしても、こちらでは数分程度のようだ。
安心すると眠くなってくる。
また元通り寝転んで、うとうとしていると、外が騒がしくなった。
「なんだよ……うるさいな」
どこかで消防車のサイレンが鳴っている。
人の叫び声や、ざわめきが遠く聞こえてきて、睡眠を妨げた。
俺はこの時、異世界から帰ってきたばかりで……簡単に言うと、寝ぼけていた。
「……ええと……なんだモンスターの群れかー」
無意識に広域マップを操作しながら索敵スキルを使用する。
敵を示す赤い点が数十以上表示されていて、俺は「また魔族が攻めてきたのかな」と思った。異世界でクリスタルだった頃、一時期、アダマスに魔族が大量に攻めてきた事があったのだ。その頃を思い出して、夢うつつに魔法を使う。
「……晴天千落雷」
上空に展開した魔方陣から、千の雷が降る。
雷撃は速やかにモンスターを殲滅した。
ちゃんと手加減しているので、人や建物には当たっていないはずだ。
サイレンの音が消えて静かになる。
「ふああ……やっと静かになった。おやすみ……」
欠伸して、布団をかぶる。
魔法で魔力を消耗したので余計に眠い。
その朝、目覚ましが鳴っても気付かずに、俺は寝過ごした。
224
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる