セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉

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第四部 星巡再会

97 蒼雪妃

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「椿は俺が守ってあげる」
「約束だよ、えいちゃん」
 
 幼い頃、少年と少女は指切りを交わした。
 おそらくはもう覚えてはいない。
 椿だけが約束の幻影に縛られている。
 
「椿ちゃんは俺が守ってあげるよ」
 
 だから、大地のその言葉に椿は果たされない約束を重ね、理不尽にも激怒したのだ。
 
「どうせ男なんて約束を守らない生き物なんだから!」
「え? ど、どうしたの?」
 
 おろおろする大地を、氷壁の中へ放り込む。
 やってしまってから後悔した。
 人の好い大地をいいように利用しながら、その優しさに甘えている事を、椿は自覚していた。行き場のない彼女を救ったのは、大地と枢だった。
 さらに大地は蒼雪峰まで付いてきてくれたのだ。
 地球の話ができる相手は、大地しかいなかったのに、衝動に任せてとんでもないことをしてしまった。
 しかし、もう遅い。
 
「これで良かったのよ、どうせ近藤枢とその仲間は敵なんだから」
 
 そう、自分に言い聞かせた。
 
「永治のことを考えるのは、もう止めよう。私は蒼雪峰の女王。異世界の吸血鬼カミーリアこそ、本当の私だったのよ」
 
 雪で出来た棺の中には、もう一人の椿が眠っている。
 異世界で吸血鬼の女王として生きた、カミーリアの肉体が。
 椿は棺に手を伸ばす。
 
 
 
 
 氷に閉じ込められた大地を見て気が変わった俺は、吸血鬼の少女フレアの案内のもと、椿のもとへ向かっていた。
 今は螺旋階段をくるくる登っているところだ。
 思い出すのは「もう一人の自分と統合する」件について。
 俺はクリスタルと合体するなんてエグいと遠慮したが、椿は吸血鬼の自分と合体したんじゃなかろうか。そして完全な魔族になってしまった。
 
 想像を裏付けるように、背の高い黒髪の女性の後ろ姿が見えてくる。
 
「椿!」
 
 バルコニーに立って外の景色を見下ろしていた女性が振り返った。
 椿の面影を宿しながらも、椿ではない。
 セーラー服の少女は成熟した女性へと成長していた。
 床に打ち寄せる波のような青いドレスをまとい、深紅の瞳をこちらに向ける。純白の肌に、艶やかな黒髪。雪の結晶の飾りが付いた略式の王冠を額に嵌めている。
 まるで映画に出てくるプリンセスのような佇まいだ。
 
「その名前で呼ばないで。私はカミーリアよ」
 
 不機嫌そうに彼女は言う。
 俺はあえて名前を連呼した。
 
「椿椿椿椿……」
「嫌がらせなの?!」
「そうだ。大地を氷から出すまで呼び続けてやる」
 
 俺と椿は険悪に睨みあった。
 
「カナメ殿、吸血鬼の女王と知り合いなのか?」
「ああ?」
「蒼雪峰のカミーリアと言えば、有名な吸血鬼の女王だが」
 
 サナトリスが困惑した様子で言う。
 俺は眉をしかめた。
 
「知らん。俺が知ってるのは、すぐ頭に血が登ってやらかす馬鹿椿だけだ」
「だから私はカミーリアだってば!」
「別人だと主張するなら、大地を殺してみろよ? どうせ氷に入れた後、後ろめたくてズルズルそのままにしてるんだろ」
「!!」
「図星か」
 
 椿の顔に動揺が浮かぶ。
 
「……根拠もないことを、偉そうに。白蝿の羽音並みに耳障りだわ。叩きつぶしてあげる」
「やってみろよ」
 
 その瞬間、壁を這ってきた氷の薔薇を、俺の火炎魔法が吹っ飛ばした。
 
「カ、カナメ殿! 屋根が消し飛んだぞ!」
「風通しが良くなっていいじゃねえか」
 
 椿と俺の魔法がぶつかりあった余波で、天井と壁が壊れた。
 外の雪風が舞い込んで、視界が白くなる。
 雪が晴れると、崩れた壁の向こうに例の氷壁が見えた。
 あ、危な……氷漬けの人間と一緒に壁を割ってしまうところだった。
 それにしても、さっきのは予想より強力な魔法だったな。咄嗟に俺も手をゆるめずに火炎魔法を使うしかなかった。
 今の椿のレベルは……?
 
『ツバキ Lv.980 種族: 魔族 クラス: 蒼雪妃』
 
 鑑定の結果に、俺は密かに気を引き締めた。
 予想通り称号に「超越者」が付いている。それにレベルが接近している。昨日今日Lv.900台になった奴に負けるつもりは無いが、万が一ということもあるだろう。
 
「カミーリア様、こんなところで戦えば、氷の貯蔵庫が壊れてしまいますよ!」
 
 爆風になびく髪を押さえながら、フレアが叫んだ。
 氷の貯蔵庫って、あの氷壁のことか。……待てよ。
 
「……場所を移しましょう」
 
 忌々しそうに提案する椿。
 俺はその提案を一笑に付す。
 
「何でだ? もう死んだ奴らの事を、気にかける必要ないだろ」
「え……?!」
 
 椿は愕然とした。
 
「あなた大地を助けたいんじゃないの?!」
「お前が助ける気がないなら、諦める」
「は?」
 
 俺は聖晶神の杖を召喚した。
 無言で大地属性の呪文を思い浮かべる。それだけで、地面が揺れて、洋館の壁に亀裂が追加された。
 
「異世界の俺は、数えきれないくらい人の死を見てきた。アダマスの存続のために多くの人間を犠牲にした。今さら、この程度の人数の死を気にかけるとでも?」
 
 冷たい表情を作って畳み掛けると、椿は蒼白になった。
 
「……人間を守護する光の七神とは思えない言葉ね」
 
 実際は割りきれずにクリスタルの中で悶々としていたのだが、そこはそれ。今は言う必要がない。
 力加減に細心の注意を払いながら、大地属性の魔法を使って山脈の一部を崩す。小規模の雪崩が俺たちのすぐそばを駆け抜けていった。
 青い氷壁にピシリとヒビが入る。
 
「止めて!」
 
 椿が膝から崩れ落ちながら叫ぶ。
 
「殺さないで……!」
「……分かれば良いんだよ」
 
 これ絶対、俺が悪役だよな、と思いながら勝利宣言をした。
 
  
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