セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉

文字の大きさ
101 / 159
第四部 星巡再会

101 幼馴染

しおりを挟む
 リーシャンから悲鳴混じりの連絡があった後、俺は「追跡トレース」を行って、連絡元の座標を特定した。
 黒崎が通信魔法に割り込んだせいで痕跡が乱れていたが、やっぱりリーシャン達はまだ灼熱地獄にいたようだ。念のため魔神アグニの宮殿に設置しておいた転移石を使い、転移魔法を使って現地に飛んだ。
 
「夜鳥!」
「近藤、遅いぞ……」
 
 壁が壊された高級服飾店で待っていたのは、石化したリーシャンを抱えた夜鳥だった。
 今は昼なので女性の姿だが、色気の無い男物のシャツとズボンの上から、なぜかハムスターの着ぐるみを被っている。
 
「どうしてハムスター?」
「そんなことはどうでも良いんだよっ」
 
 夜鳥は着ぐるみを脱ぎ捨て、それだけでは足りなかったのか、わざわざ火の魔法を付けて着ぐるみを燃やし、残った炭を十回くらい踏みつけた。
 どんだけハムスターが嫌いなんだ。
 
「リーシャン、巻き込んでごめんな。……浄化解呪ディスペル
 
 俺は冷たくなったリーシャンの体を抱き上げ、解呪の魔法を使った。
 青い光に包まれ、灰色になった表皮に真珠の輝きと艶が戻ってくる。
 
「ふっかーつ!」
「いきなり元気だな」
 
 リーシャンは俺の腕から飛び上がって、高らかに復活宣言をした。
 
「カナメ、僕らに喧嘩を吹っ掛けたら倍返しだって、ベルゼビュートに教えてあげようよ!」
「そうだな。ちょっと行きがてら、魔族の奴らを滅ぼすか……って、第一目標は、真と心菜の救出だっての」
 
 思わず同意しかけて、それが目的ではなかったと思い直す。
  
「カナメ殿。その、マコトとココナとやらは、カナメ殿の大切な相手なのか」
 
 一緒に来ていたサナトリスが聞いてきた。
 ちなみに椿と大地も付いてきている。椿は黒崎の話を聞いて、思いつめた表情で「私も行くわ」と言い出したのだ。黒崎と椿は幼馴染らしいから、何か事情があるのかもしれない。
 サナトリスの疑問に答えたのは、俺ではなく大地だった。
 
「真さんは枢さんの親友で、心菜ちゃんは枢さんの恋人ですよね!」
「恋人?!」
 
 大地の回答に、サナトリスがなぜかショックを受けている。
 椿や夜鳥はもともと俺の仲間で、真と心菜と面識があるし、黒崎と因縁があるから、一緒に死風荒野に行くのは違和感ないのだが、サナトリスはどうだろう。ここから先は危険だし、救出という目的を共有できないなら、無理して付いてくるのはどうかと思うのだが。
 
「サナトリス。ここから先は俺の個人的な旅になるんだ。だから――」
「私も行く!」
 
 サナトリスは必死な顔で、俺の袖をにぎった。
 
「知りたいのだ。カナメ殿がその、ココナという女性をどのように思っているか……それが分かれば、私も先に進める気がする」
「……」
 
 俺はまだ心菜の記憶が完全に戻った訳でも、呪いが解けた訳でもなかった。
 知りたいのは、俺も同じだ。
 
「行きましょう、死風荒野へ。私が案内するわ」
「椿」
 
 椿が決然とした表情で言う。
 旅に備えてか、OLの恰好から着替えて、長い黒髪を三つ編みにした魔女っ娘の服装になっていた。手にした杖の先には六角形の雪の結晶が付いている。 
 
「よし。黒崎をとっちめてやろうぜ」
「キュー!」
 
 巨大化したウサギギツネのメロンも俺に賛同するように鳴く。
 俺たちは死風荒野があるという、東へ向かうことにした。
 
 
 
 
 その頃、真は、死風荒野にある魔神ベルゼビュートの居城にいた。
 死風荒野は、地面から鋭い棘が生え、毒を含んだ風が吹く土地だ。通常の人間なら空気を吸うだけで死ぬような場所だが、真はスキルでレベルを上げているのと、もともと毒の効果を受け付けない称号も持っているので平気である。
 毒を撒き散らす不気味な棘は、魔神の居城の中にもタケノコのように伸び、城の装飾の一部になっていた。
 
「床からも節操なく棘が生えてやがる……おい黒崎、これ伐採しないのか」
 
 玉座に悠々と腰かける黒崎を見上げ、真は毒づいた。
 
「切ってもすぐに生えてくるからな……」
 
 黒崎=魔神ベルゼビュートは平然と答える。
 その姿は真の知る、人間の黒崎のものと異なっている。
 顔こそ人間のものだが、胴体には赤い複眼がうごめき、黒い節足が脇から生えている。背中からは昆虫の翅とサソリの尾が伸びていた。人間と魔界蟲が合体したような醜悪な姿だ。
 
「……人間やめてやがるのか」
 
 よくもまあ、望んでそんな姿になるものだと、真はおぞけが走った。
 自分なら頼まれてもごめんだ。
 
「この姿が気になるか? 小早川真」
「てめえが自分と同じ人間だったなんて、信じたくないだけだ」
「くくっ、正直だな。だが、人間をやめてみれば分かる。いかに世界が不自由で堅苦しいものだったか」
 
 黒崎は暇を持て余しているらしく、真の世間話に乗ってきた。
 ちょうどいい。情報を引き出してやる。
 真は無意識に緊張で乾いた唇を舐め、会話を続けた。
 
「あんたにとって、世界は不自由で堅苦しいものだったのか?」
「特に地球ではな。俺と椿は孤児だった。そして、強盗を企む大人たちの使い走りをさせられていた。異世界に来て、やっと自由になったのさ。小早川真、お前たち、普通の家庭で不自由なく育ってきた奴らには、この感覚は理解できないかもしれないがな」
「……」
 
 てめえばっかり不幸だと思ってんじゃねえ。
 心の中だけで、真は黒崎を罵倒する。
 親に恵まれなかったのは、真と枢も同じだった。枢とは盗んだパンを分け合った仲だ。幼馴染との思い出を回想して、真はこんな状況なのに笑いそうになった。
 
「光の神を標榜する奴らに、思い知らせてやる。最後に勝つのは俺たちだ」
 
 そう宣言する黒崎にピントを合わせ、真は彼のレベルを確認する。
 鑑定しなくても表示される簡易ステータスを。
 
『魔神ベルゼビュート Lv.2021』
 
 
しおりを挟む
感想 396

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...