1 / 19
プロローグ
パンデミック後の世界
しおりを挟む
ほんの数年前、大国同士が激しく貿易戦争を繰り広げており、首脳の一言やSNSでのつぶやきひとつで、他国が右往左往するような日々が続いていた。
もっとも、それは国家間の話だ。一般国民はというと、大規模コンサートや世界的スポーツイベント、グルメに夢中で、いかに日常を楽しむかに余念がなかった。
当時のわが国は、外交に極端に弱い阿相政権下にあり、大国の首脳の気まぐれな一言にも翻弄され、ついには政権がなぎ倒されそうなほどの窮地に立たされていた。
だが、状況は思わぬかたちで変わる。「パンデミック」――その一言が世界を混乱の渦に叩き込んだことで、皮肉にも阿相政権はその危機を脱することになる。
もちろん、誰かが突然「パンデミック」と叫んだわけではない。予兆はあった。ある都市で原因不明の熱病が流行し始めた、という報道が徐々に人々の耳に届くようになっていたのだ。
やがて、国際機関が「パンデミック」を宣言。各国は一斉に国境を閉じ、航空便は止まり、観光もビジネスも姿を消した。さすがの大国も貿易戦争どころではなくなり、各国政府は国内の混乱収拾に奔走することになる。
この未曾有の混乱は、外交下手な阿相政権にとってはまさに“渡りに船”だった。
阿相元春は、もともと外交嫌いで、海外との往来を制限したいという本音を持っていた。若者が騒ぐイベントも嫌悪していたため、規制には容赦がなかった。
阿相政権はこれ幸いとばかりに、外国人の入国を制限し、国民の行動を徹底的に管理した。大規模イベントは禁止され、感染者と接触すればその行動履歴を細かく追及された。十分に確保できないワクチンの予約に人々は殺到し、テレビでは毎日感染者数が速報される。旅行も飲食もカラオケもフィットネスもNG、果ては部活動や学校までもが止まった。
経済への悪影響を懸念する声も上がったが、「パンデミック」の猛威がそれらをかき消してしまう。
結果的に、阿相元春ら“年寄り”の強硬な判断が、国内の感染拡大を一定程度抑えたという評価につながり、政権は一時的に支持率を回復する。
当然ながら、全国規模で人々が動く総選挙など論外とされ、任期満了以外の選挙はタブー視されるようになった。阿相政権は延命に成功したのである。
そのころ、新革党の党首・渦川俊郎は、苦悩のさなかにいた。
彼の政治的基盤は観光業であり、父が経営するホテルチェーンはパンデミックの打撃をもろに受け、ついには倒産に追い込まれた。
いかに理想を掲げようと、世界規模の疫病の前では成す術もない。まぐれで支持を取り戻した民自党の前に、新革党は風前の灯火となった。
それでも渦川はあきらめなかった。東奔西走し、打開策を模索した――が、ついに過労で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
突然の党首の死。新革党は求心力を失い、民自党への吸収合併がささやかれるようになる。もともと民自党への反発を旗印に集まった政党である以上、リーダーなき今、統一の意思は続かない。
老獪な阿相元春がこの隙を見逃すはずもなかった。阿相は、かつて新革党に属しながらも民自党との因縁が薄い古味良一に触手を伸ばす。
渦川への忠義から迷う古味だったが、意外にも彼を説得したのは、渦川を敬愛していた緒川順子であった。
緒川にとっても苦渋の選択だったが、渦川亡きあとを託せるのは古味しかいないと判断し、民自党への合流を受け入れるよう彼を説得した。もちろん、その背景には、阿相元春が緒川順子の実父であるという事実も影を落としている。
そして――古味良一は緒川順子と結婚した。
「パンデミック」に疲弊していた国民にとって、新革党の吸収と同時に報じられたこの結婚は一服の清涼剤となり、ワイドショーも新聞もこぞって報じた。(もちろん、裏の思惑や陰謀を匂わせる記事も乱れ飛んだ)
こうして“ウルトラC”を決めた阿相政権は、倒れることなく、今なお続いているのである。
もっとも、それは国家間の話だ。一般国民はというと、大規模コンサートや世界的スポーツイベント、グルメに夢中で、いかに日常を楽しむかに余念がなかった。
当時のわが国は、外交に極端に弱い阿相政権下にあり、大国の首脳の気まぐれな一言にも翻弄され、ついには政権がなぎ倒されそうなほどの窮地に立たされていた。
だが、状況は思わぬかたちで変わる。「パンデミック」――その一言が世界を混乱の渦に叩き込んだことで、皮肉にも阿相政権はその危機を脱することになる。
もちろん、誰かが突然「パンデミック」と叫んだわけではない。予兆はあった。ある都市で原因不明の熱病が流行し始めた、という報道が徐々に人々の耳に届くようになっていたのだ。
やがて、国際機関が「パンデミック」を宣言。各国は一斉に国境を閉じ、航空便は止まり、観光もビジネスも姿を消した。さすがの大国も貿易戦争どころではなくなり、各国政府は国内の混乱収拾に奔走することになる。
この未曾有の混乱は、外交下手な阿相政権にとってはまさに“渡りに船”だった。
阿相元春は、もともと外交嫌いで、海外との往来を制限したいという本音を持っていた。若者が騒ぐイベントも嫌悪していたため、規制には容赦がなかった。
阿相政権はこれ幸いとばかりに、外国人の入国を制限し、国民の行動を徹底的に管理した。大規模イベントは禁止され、感染者と接触すればその行動履歴を細かく追及された。十分に確保できないワクチンの予約に人々は殺到し、テレビでは毎日感染者数が速報される。旅行も飲食もカラオケもフィットネスもNG、果ては部活動や学校までもが止まった。
経済への悪影響を懸念する声も上がったが、「パンデミック」の猛威がそれらをかき消してしまう。
結果的に、阿相元春ら“年寄り”の強硬な判断が、国内の感染拡大を一定程度抑えたという評価につながり、政権は一時的に支持率を回復する。
当然ながら、全国規模で人々が動く総選挙など論外とされ、任期満了以外の選挙はタブー視されるようになった。阿相政権は延命に成功したのである。
そのころ、新革党の党首・渦川俊郎は、苦悩のさなかにいた。
彼の政治的基盤は観光業であり、父が経営するホテルチェーンはパンデミックの打撃をもろに受け、ついには倒産に追い込まれた。
いかに理想を掲げようと、世界規模の疫病の前では成す術もない。まぐれで支持を取り戻した民自党の前に、新革党は風前の灯火となった。
それでも渦川はあきらめなかった。東奔西走し、打開策を模索した――が、ついに過労で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
突然の党首の死。新革党は求心力を失い、民自党への吸収合併がささやかれるようになる。もともと民自党への反発を旗印に集まった政党である以上、リーダーなき今、統一の意思は続かない。
老獪な阿相元春がこの隙を見逃すはずもなかった。阿相は、かつて新革党に属しながらも民自党との因縁が薄い古味良一に触手を伸ばす。
渦川への忠義から迷う古味だったが、意外にも彼を説得したのは、渦川を敬愛していた緒川順子であった。
緒川にとっても苦渋の選択だったが、渦川亡きあとを託せるのは古味しかいないと判断し、民自党への合流を受け入れるよう彼を説得した。もちろん、その背景には、阿相元春が緒川順子の実父であるという事実も影を落としている。
そして――古味良一は緒川順子と結婚した。
「パンデミック」に疲弊していた国民にとって、新革党の吸収と同時に報じられたこの結婚は一服の清涼剤となり、ワイドショーも新聞もこぞって報じた。(もちろん、裏の思惑や陰謀を匂わせる記事も乱れ飛んだ)
こうして“ウルトラC”を決めた阿相政権は、倒れることなく、今なお続いているのである。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
