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1 初夜 ※
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「はぁ……っ、はあ……」
夫となった男の律動的な動きに、エルゼは小さな声をもらした。腹の奥をたくましい肉茎で貫かれるたび、引きつれるような痛みとともに、かすかな快感がうまれる。
しかし、今はただ、エルゼはその快感に酔いしれる余裕はなく、ロレシオの広い背中にしがみつくのが精いっぱいだ。
「ロレシオ、さまっ……」
「大丈夫か?……その、痛むのではないか……?」
「だいじょ、……ぶ、です……。ですから、もっと……」
「ぐっ……。そう煽らないでくれ。君の身体に、……無理を強いることを、したくない」
ロレシオは熱にうなされたような、青灰色の瞳でエルゼの白い肢体を見つめる。劣情にぎらつくその瞳の奥にはどこか、遠慮のような、罪悪感のような色が浮かんでいた。その罪悪感の理由を知っているエルゼの胸の奥が、チリチリと痛む。
「あっ……、んう……っ!」
厚くゴツゴツした手のひらで、ロレシオはエルゼの輪郭を確かめるようになぞっていく。無骨な見た目から想像がつかないほど、ロレシオの手は優しい。
エルゼはその手を握る。このたくましい手に掴まっていないと、身体中をさざ波のように襲うかすかな快感の波が、やがてどこか遠く攫って行ってしまう気がして。
やがて、エルゼのまっさらな腹に、ロレシオは熱い精を放つ。
口づけのない男女の交わりは、意外なほどあっさりと終わった。
ロレシオはすぐにエルゼから体を離し、エルゼに背を向けた。エルゼは乱れた髪を整え、用意してあったタオルで自ら身体を清める。
二人は終始無言だった。
月明かりにぼんやりと照らされる部屋の中で、とあることに気づいたエルゼはハッとした。
「すみません。……シーツに血がついてしまいました」
「君が謝ることではない。それより、……痛まないか。初めてだったんだろう」
「……ええ、大丈夫ですわ」
エルゼは控えめに答えた。少なくとも、予期していたほどの痛みではない。
それにしても、奇妙な感じすらする。結婚したとはいえ、ロレシオと会ったのは今日で3度目。それまで貞淑な貴族令嬢としてふるまってきた彼女は、会って3度目の男に純潔を捧げたのだ。
今から遡って半日前。エルゼ・ラグベニューは王妃として、割れんばかりの拍手喝采と歓声の中ヴォルクレール城に迎えられた。
長らく独身を貫いていた名君ロレシオ・マディオがついに花嫁を迎えるというのだから、人々の熱狂ぶりは当然だった。
表向き微笑みながら人々の歓声に応えつつも、一方のエルゼの心の中は暗い。
国王ロレシオ・マディオは、本心からこの結婚を望んではいない。そして、エルゼもまた、とある理由からこの城には足を踏み入れたくなかった。
愛のない結婚をしてしまったという事実が、エルゼの気持ちをじわじわと蝕んでいく。
エルゼの服の支度が終わったころ、ロレシオはようやくエルゼに向き合った。
「……初夜の儀はこれで終わりだ。本当にすまない。私のような賤しい男が、本来は君のような美しい令嬢を娶る資格はないというのに」
ロレシオは目を伏せる。彼は、自身の血なまぐさい経歴を恥じているようだ。
もともと、ロレシオは男爵家の三男に産まれた男であり、玉座とは程遠い家系であった。もしこのサントロ王国が安泰であったならば、彼は一人の騎士として一生を終えたに違いない。
しかし、サントロ王国はロレシオが物心ついたころから、すでに崩壊しかかっていた。人々は飢餓と重税に苦しむなか、貴族たちは堂々と違法な商売に明け暮れ、宰相たちはその違法な商売を見逃す代わりに、賄賂を受け取る。もちろん、国庫は火の車である。
人々は疲弊し、無気力になっていた。
そんな衰退する国で、ロレシオは、第二の首都ガレスで蜂起した。腐敗する王政に反旗を翻したのだ。
人々は流星のごとく現れた救国の騎士に熱狂し、忠誠を誓った。革命の騎士は3年をかけて戦いに勝利し、ついに国王マンフレートとその一派を一掃したのである。
国民たちからの熱狂的な支持を得て、ロレシオは国王の座についた。
国王となったロレシオは善政を布き、よく国を治めた。
腐敗した政治は全て一新され、古の悪法は改正された。また、平民たちにも教育の門戸を開き、帝国中に学校を普及させたのも彼だった。
だからこそ、彼の経歴は血なまぐさいものであっても、決して唾棄されるべきものではない。輝かしい変革の前には、決まって薄暗い歴史が付いてくるもの。
きれいごとで全て片付けられないことくらい、エルゼはわかっている。
(むしろ、ロレシオ様が汚れ役を買って出たようなものだわ。彼がいなかったら、いまごろサントロ王国はどうなっていたことか)
ロレシオを思いやったエルゼは、そっと武骨な手に自分の手を重ねた。
「この国の偉大なる国王が自らを賤しいなどと言わないでください。貴方には、素晴らしい経歴がおありなのですから」
新妻の心からの言葉は、ロレシオの心を慰めた様子はなかった。エルゼの優しい手は、すげなく振り払われる。
「私にそう優しい言葉をかけないでくれ。私はしょせん国賊なのだ。そんな輩に幸せになる資格はどこにもないだろう。当初の約束通り、私からの君への愛は望まないでくれ」
エルゼはハッとして口をつぐむ。
ロレシオには、長年片思いをしている相手がいるという。その相手を思い続ける限り、エルゼは彼に愛されることはない。それは、結婚する際に条件として内密に伝えられたことだった。
(ああ、そうだったわ……)
エルゼは切ない微笑みを浮かべる。
「わかっていますわ」
――わたくしなんかが、愛されないことくらい。
前世からずっと、分かっていることだ。
夫となった男の律動的な動きに、エルゼは小さな声をもらした。腹の奥をたくましい肉茎で貫かれるたび、引きつれるような痛みとともに、かすかな快感がうまれる。
しかし、今はただ、エルゼはその快感に酔いしれる余裕はなく、ロレシオの広い背中にしがみつくのが精いっぱいだ。
「ロレシオ、さまっ……」
「大丈夫か?……その、痛むのではないか……?」
「だいじょ、……ぶ、です……。ですから、もっと……」
「ぐっ……。そう煽らないでくれ。君の身体に、……無理を強いることを、したくない」
ロレシオは熱にうなされたような、青灰色の瞳でエルゼの白い肢体を見つめる。劣情にぎらつくその瞳の奥にはどこか、遠慮のような、罪悪感のような色が浮かんでいた。その罪悪感の理由を知っているエルゼの胸の奥が、チリチリと痛む。
「あっ……、んう……っ!」
厚くゴツゴツした手のひらで、ロレシオはエルゼの輪郭を確かめるようになぞっていく。無骨な見た目から想像がつかないほど、ロレシオの手は優しい。
エルゼはその手を握る。このたくましい手に掴まっていないと、身体中をさざ波のように襲うかすかな快感の波が、やがてどこか遠く攫って行ってしまう気がして。
やがて、エルゼのまっさらな腹に、ロレシオは熱い精を放つ。
口づけのない男女の交わりは、意外なほどあっさりと終わった。
ロレシオはすぐにエルゼから体を離し、エルゼに背を向けた。エルゼは乱れた髪を整え、用意してあったタオルで自ら身体を清める。
二人は終始無言だった。
月明かりにぼんやりと照らされる部屋の中で、とあることに気づいたエルゼはハッとした。
「すみません。……シーツに血がついてしまいました」
「君が謝ることではない。それより、……痛まないか。初めてだったんだろう」
「……ええ、大丈夫ですわ」
エルゼは控えめに答えた。少なくとも、予期していたほどの痛みではない。
それにしても、奇妙な感じすらする。結婚したとはいえ、ロレシオと会ったのは今日で3度目。それまで貞淑な貴族令嬢としてふるまってきた彼女は、会って3度目の男に純潔を捧げたのだ。
今から遡って半日前。エルゼ・ラグベニューは王妃として、割れんばかりの拍手喝采と歓声の中ヴォルクレール城に迎えられた。
長らく独身を貫いていた名君ロレシオ・マディオがついに花嫁を迎えるというのだから、人々の熱狂ぶりは当然だった。
表向き微笑みながら人々の歓声に応えつつも、一方のエルゼの心の中は暗い。
国王ロレシオ・マディオは、本心からこの結婚を望んではいない。そして、エルゼもまた、とある理由からこの城には足を踏み入れたくなかった。
愛のない結婚をしてしまったという事実が、エルゼの気持ちをじわじわと蝕んでいく。
エルゼの服の支度が終わったころ、ロレシオはようやくエルゼに向き合った。
「……初夜の儀はこれで終わりだ。本当にすまない。私のような賤しい男が、本来は君のような美しい令嬢を娶る資格はないというのに」
ロレシオは目を伏せる。彼は、自身の血なまぐさい経歴を恥じているようだ。
もともと、ロレシオは男爵家の三男に産まれた男であり、玉座とは程遠い家系であった。もしこのサントロ王国が安泰であったならば、彼は一人の騎士として一生を終えたに違いない。
しかし、サントロ王国はロレシオが物心ついたころから、すでに崩壊しかかっていた。人々は飢餓と重税に苦しむなか、貴族たちは堂々と違法な商売に明け暮れ、宰相たちはその違法な商売を見逃す代わりに、賄賂を受け取る。もちろん、国庫は火の車である。
人々は疲弊し、無気力になっていた。
そんな衰退する国で、ロレシオは、第二の首都ガレスで蜂起した。腐敗する王政に反旗を翻したのだ。
人々は流星のごとく現れた救国の騎士に熱狂し、忠誠を誓った。革命の騎士は3年をかけて戦いに勝利し、ついに国王マンフレートとその一派を一掃したのである。
国民たちからの熱狂的な支持を得て、ロレシオは国王の座についた。
国王となったロレシオは善政を布き、よく国を治めた。
腐敗した政治は全て一新され、古の悪法は改正された。また、平民たちにも教育の門戸を開き、帝国中に学校を普及させたのも彼だった。
だからこそ、彼の経歴は血なまぐさいものであっても、決して唾棄されるべきものではない。輝かしい変革の前には、決まって薄暗い歴史が付いてくるもの。
きれいごとで全て片付けられないことくらい、エルゼはわかっている。
(むしろ、ロレシオ様が汚れ役を買って出たようなものだわ。彼がいなかったら、いまごろサントロ王国はどうなっていたことか)
ロレシオを思いやったエルゼは、そっと武骨な手に自分の手を重ねた。
「この国の偉大なる国王が自らを賤しいなどと言わないでください。貴方には、素晴らしい経歴がおありなのですから」
新妻の心からの言葉は、ロレシオの心を慰めた様子はなかった。エルゼの優しい手は、すげなく振り払われる。
「私にそう優しい言葉をかけないでくれ。私はしょせん国賊なのだ。そんな輩に幸せになる資格はどこにもないだろう。当初の約束通り、私からの君への愛は望まないでくれ」
エルゼはハッとして口をつぐむ。
ロレシオには、長年片思いをしている相手がいるという。その相手を思い続ける限り、エルゼは彼に愛されることはない。それは、結婚する際に条件として内密に伝えられたことだった。
(ああ、そうだったわ……)
エルゼは切ない微笑みを浮かべる。
「わかっていますわ」
――わたくしなんかが、愛されないことくらい。
前世からずっと、分かっていることだ。
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