過去の名君は仮初の王に暴かれる

沖果南

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8 その夜 ※

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 少し欠けた月が天頂付近にさしかかったころ、控えめにドアがノックされた。
 いつもより丁寧に湯浴みした後、自室で本を読んでいたエルゼは、パッと顔をあげる。

「ど、どうぞ、お入りになって……」

 緊張のあまりか細くなってしまった声で返事をすると、大柄な人物が部屋の中に入ってきた。くつろいだ格好のロレシオだ。湯浴みしたばかりらしく、髪が少し濡れている。

「すまない、約束をしていたのに遅くなってしまって。夕食のあと、執事に捕まってしまってな」
「本を読んでいましたから、お気になさらず」
「邪魔したようだな。本を読み終えるまで待つから、ゆっくり読んでくれ」

 壁にもたれかかって腕を組もうとしたロレシオに、エルゼははにかむように微笑んでみせた。

「い、いえ、緊張して本の内容が全然頭に入ってこなくて……。今日はおしまいにします」

 静かな部屋に、パタン、と本を閉じる音が響く。
 ランプの灯に照らされたエルゼの白い頬は、心なしかほんのり上気している。ロレシオの心臓が大きく跳ねた。

「嬉しいことを、言ってくれる」

 ボソリと呟くと、ロレシオは大股で部屋を横切り、椅子に座っていたエルゼを軽々と抱え、ベッドの上にあおむけに寝かせる。エルゼのガウンの裾がめくれあがった。机の上にあるか細いランプの灯が、ほっそりとした白い足を浮かび上がらせる。
 エルゼは慌ててガウンの裾を掴もうと手を伸ばしたが、ロレシオがそれを阻んだ。

「こら、隠さずに見せなさい」
「きゃっ……!」
 
 大きな手が柔らかなガウンの合わせの部分から入り込み、エルゼの太ももを直に撫であげる。普段は淑女らしく厳格に隠されている部分が、ロレシオによって暴かれ、露わになっていく。
 ロレシオの手がついに上半身に伸び、腰紐をほどく。ガウンは重力に逆らわず、なめらかな肌を滑り落ちる。シュミーズの類はつけておらず、エルゼはあっという間に一糸まとわぬ姿になった。

 柔らかで豊かな胸が、呼吸にあわせて上下している。双丘の頂は、誘うように薄桃色に色づいている。きゅっとくびれた腰に、ふっくらした尻。男を欲情させるには十分な、官能的な体つき。
 欲情の色をくゆらせた青灰色の眼がエルゼの身体を見つめる。

「……君は、本当に美しい。初めて見たその日から、心に決めた人がいたというのに、どうしようもなく惹かれてしまったほど……」
「あ、あまり見ないで……」
「そう言われても、君からしばらく目が離せそうもない。君の魂がイヴァンカ様のものだと知った時、深い安堵と一緒に納得をしたんだ。私が、君に惹かれるのは当然だったのだと。君がどんな姿に変わろうとも、私は君に惹かれるだろう。……私の、愛おしい人」

 愛おしい人、と呼ばれたエルゼはかあっと頬が熱くなったのを感じた。初夜の時には囁かれなかった甘い言葉に、身体の奥底が喜びにうち震える。愛されることを諦めた心が、ようやく満ち足りた気持ちでいっぱいになる。
 そして、――それでもなお埋まらない空白を、この人に満たしてもらいたいと、エルゼは思った。
 目の前の男を望む柔肌が、潤むように赤く色づく。

 やがて、エルゼの肢体をくまなく見つめたロレシオは、おもむろに柔らかな唇に何度も優しいキスを落としはじめる。エルゼがついばむようなキスを返すと、ロレシオは嬉しそうに目を細め、さらに深く、エルゼの咥内をまさぐっていく。

「んっ……、んんっ……」

 お互いの唾液を交換し合うような、ぐちゅぐちゅとはしたない音が静かに部屋に響いた。翻弄されながらも、エルゼは夢中でロレシオの舌に応える。エルゼの拙い舌がロレシオの舌と触れるたびにロレシオが何かを堪えるような息を漏らした。

 永遠のように感じられた長いキスは、ロレシオは身体を離したことにより唐突に終わった。
 エルゼの頬にかかった髪を、ロレシオは名残おしそうにはらった。

「私はダメだな。どうしても、年甲斐もなく君を求めすぎてしまう……。君を前にすると、10代の小僧に戻った気になる」
「……どうして謝るんですの? すごく気持ちが良く、してくださっているのに……」

 サファイアブルーの瞳をぱちぱちと瞬きさせ、エルゼは不思議そうな顔をした。
 そんなエルゼを見て、ロレシオはガシガシと後頭部をかく。

「ああ、君は、まったく……っ。あまりに心根が純真すぎて、本当に二人分の人生を生きたのか、不思議になる……っ」

 ロレシオは、エルゼを細い肢体を力強く抱きあげ、自分の腿の上に座らせた。二人の距離が近くなる。それと同時に、熱い大きな手がエルゼの身体の輪郭をなぞった。

「あ……っ!」

 その手は限りなく優しいのに、キスで蕩けたエルゼを情け容赦なく官能の渦へと落としこんでいく。むき出しの首から肩。そして柔らかな胸を揉みしだき、腰を撫で、太ももへ――……。

「ふぁ……、んっ……」

 エルゼは声を漏らす。とりわけ肌の薄い部分に触れると、エルゼの身体の奥がとくんとくんと疼いて仕方ない。
 愛撫に気を取られていると、ロレシオの舌が、急に目の前で誘うように揺れていたエルゼの双丘の頂にべろりと舐めあげた。予期せぬ強い刺激に、エルゼの肩がびくりとはねた。

「ひぁっ……!」

 思わず口から漏れ出た悲鳴のような嬌声に、エルゼは驚いて自らの口を手でふさぐ。しかし、ロレシオが二ッと笑ってすばやくエルゼの指に自分の指を絡めた。
 エルゼは顔を真っ赤にしてふるふると顔を振った。

「ろ、ロレシオ、様……。声が、でちゃっ……」
「昼間とは違って、この時間であればこの塔に君の声を聞くものはいない。だから、……聞かせてほしい」

 ロレシオはそう言うと、エルゼの敏感な頂きをぱくりと咥える。エルゼの身体が意志とは関係なく、びくびくと跳ねた。脳髄に痺れるような甘やかな電流が流れる。

「あっ……、ああっ……。んんっ」
「ああ、これだけで、こんなに喜んで……っ」
「ろ、ロレシオ……さまぁ……」
「はぁ、……ぁああっ……」

 エルゼはあられもなく声を漏らした。口をふさごうにも、ロレシオの大きな手が彼女の手を抑えている。一方的に与えられる強すぎる刺激から、逃げることはできない。それが一層、なにかいけないことをされているようで感じてしまう。
 いまやエルゼの両胸の蕾はすっかり色好き、ぷっくらとふくれていた。

「は、はあ………」
 
 しばらくその唇でいたずらにエルゼの敏感な場所を刺激していたロレシオは、膝の上で息を乱すエルゼを満足そうに見つめた。

「煽情的な眺めだ……。惜しむらくは、君の破瓜をおろそかにしてしまったことだ。あの時は、早く終わせてやろうと気が急いてしまった」

 ロレシオはエルゼを押し倒すようにしてベッドに寝かせると、自らの身体をエルゼの足にねじ込んだ。予期せぬかたちでロレシオに秘部を晒すような恰好になってしまったエルゼは、羞恥のあまり必死で首を振った。

「……ろ、ロレシオ様、これイヤっ!」
「大丈夫だ。すぐに良くなる」

 ロレシオは身もだえするエルゼの秘所に指を添わせる。
 その指はどこまでも丁寧で、まるで怯える子猫をあやすような手つきだった。指の腹で何度かやさしく縦筋を撫でると、ぴっちりと閉まっていた花弁がぐずぐずと蕩け始める。まるで、触られるのを今か今かと待ち望んでいたかのように。
 秘裂をなぞっていた指が、慎重にゆっくりとその場所を拓いていく。中にたまっていた蜜が、とろりと溢れてシーツを濡らした。

「あっ……!」
「……濡れているな」

 ふっと目を細めたロレシオは蜜を指の先で掬い、入り口を撫で、敏感な部分を探り当てる。すっかり尖った花芯に触れられると、エルゼは声にならない悲鳴をあげた。

「あっ、……ああっ、ああ――っ……!」
「ここか。君は分かりやすい」

 ロレシオの右手が、恥核の根元の部分を優しく擦り上げ、しこった部分をぐにぐにと潰し、指の先ではじく。その手は、エルゼの感じる場所を身体の隅から隅まで全て知り尽くしているようだった。

「ああっ、……あっ……ああぁっ!!」

 エルゼはもはや自分のあられもない嬌声など気にしていられない。腰の奥底に、経験したこともないようなどろりとした快楽が溜まっていく。
 その間に、もの欲しげにヒクヒクとしていた孔をふさぐようにして左手の指が一本ぐぽりと挿入された。経験の浅い彼女の隘路が、抵抗しながらもその指を飲み込んでいく。

「キツいが……、挿入はいったな」
「それ、……それ、だめ……ああっ……!!」

 急に増やされた刺激に、エルゼは首を振るものの、節くれだった長い指はエルゼの内部を擦り上げ、陰核への執拗な刺激する。
 エルゼの意識が一瞬遠ざかりかける。刺激が強すぎる。しかし、逃げようにもあまりの快楽に抵抗する力すら残っていない。

「ロレシオ、さまぁっ……! なんか、なんかキちゃ……、うっ!」
「エルゼ……」
「ああ、あああああ――っ!!!」

 ついに限界を迎えたエルゼの瞼の裏で、白い光がはじけた。
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