足枷《あしかせ》無しでも、Stay with me

ゆりえる

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4.

病院での面会と……

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 母が出て行くと、個室の病室はシーンと静まり返った。
 初めての入院で、初めて1人きりになり、看護師さんが様子を見に来るかと思い、しばらく緊張しながら、じっとしていたが、誰も来る様子が無さそうで、気が緩みだした。
 小腹が空いたと思った頃、やけに廊下がバタバタと行き交う足音と話し声が響き、次は自分の病室かも知れないと詩奈しいなが構えていると、予想通りドアをノックする音がした。

「牧田さん、失礼します! 昼食です! 牧田さんは歩けないから、後から食べ終わった食器の回収に来ますね!」

 配膳人の女性は、時間に追われている様子で、早口の大声で伝えると、即座に出て行った。
 詩奈しいな用の病院の食事は、中学校の給食に比べ、少しボリュームが有った。

「頂きます!」

 誰もいなくても、つい、いつもの癖で手を合わせ、お辞儀じぎしてから食べ出した詩奈しいな
 ずっと寝ている体勢で、そこまでお腹が空いて無さそうだったが、食べ出すと、やはり成長期、アッと言う間に平らげていた。

「ご馳走様でした!」

 食後、昼食と共に出されたお茶と一緒に、鎮痛剤を飲んだ。
 しばらくすると、先刻の配膳人が食後のトレーを回収に来て、空っぽになったお皿が数枚乗っていたトレーを軽々と運んで戻った。
 食後の満腹感と薬の副作用と、それまでの緊張していた気持ちが緩んだ詩奈しいなはウトウトし出した。

 ほどなくして、コンコンとドアの叩く音がした。|
 慌てて目を覚まし、返事をした詩奈しいな

「はーい!」

 まだ部屋に母が戻って来てなかったから、てっきり母だと思い、ドアが開くと同時に話しかけた。
 
「お母さん、早かったね~! ちゃんと持って来てくれた?」

 母と予測して話しかけていた詩奈しいなの声に、どう反応していいか分からない様子で、病室の中に入って来た瑞輝みずき凌空りく

「お母さんじゃなくて悪いけど……」

(えーっ! これは夢……? どうして、矢本君! ……と、北岡君)

 慌てて、寝起きのボサボサ頭を手櫛で整えた詩奈しいな

「あっ、昨日は、病院まで来てくれたって、お母さんから聞いた。あの……ありがとう……」

 母だとばかり思っていたが、思いがけず瑞輝みずき凌空りくが現れ、咄嗟とっさの事で何を話していいのか分からなくなった詩奈しいな
 取り敢えず、昨夜遅い時間だったにも関わらず、病院に来てくれたお礼だけは伝えたかった。

「いや、それより、足首、大丈夫か? 痛くね?」

 心配そうな表情の瑞輝みずきを見て、これ以上、心配かけさせないように努める詩奈しいな

「足なら、大丈夫! 痛み止め飲んでるから、全然痛く無いし」

 から元気のようにも見えそうな詩奈しいなの口振りなのが、余計に痛々しく思えた瑞輝みずき凌空りく

「飲み物とか、何か買って来て欲しい物とか有る?」

「ううん、色々なの冷蔵庫に入れてもらっているから。ありがとう」

「牧田さん、今日のノート書いた分、コピーしたから、良かったら見て」

 凌空りくが、5枚のA3とA4のコピー紙をクリアファイルに入れて、詩奈しいなに手渡した。
 詩奈しいなは、早速その内容をパラパラとめくって見た。

「ありがとう。北岡君の文字、キレイで読みやすいね! 退院しても、お願いしたいくらい!」

「こんなので良かったら、お安い御用だよ」

 凌空りくが、ノートの内容を褒められ、嬉しそうに言った。

「なんてね、冗談だから! コピー代もかかるもんね。教科書とか、今、お母さんに持って来てもらっているし、私なら大丈夫!」

 こんなに分かりやすい内容なら、凌空りくが平日は毎日、学校の板書をコピーしてくれて、瑞輝みずきと一緒に来てくれるのが本望だったが、そんな事は図々しく思え、詩奈しいなからは口が裂けても言えなかった。

(それでなくても、矢本君には、昨日、お父さんに言われて、嫌な思いさせちゃってたし、これ以上、私に対する悪印象を増やしたくない! 心配させないように、何でも無いように振る舞わないと!)

「これからしばらく試験前期間だから、部活も無いし、また明日も来るよ」

 2人に余計な心配をさせまいと気遣う詩奈しいなの言動も、瑞輝みずきには通用しなかった。
 瑞輝みずきの言葉が嬉しい反面、後ろめたさも感じられた詩奈しいなは、何とか、説得しようと試みる。

「私は、入院のおかげで、今回の試験パスされそうだし、ホントにいいから、2人とも、自分達の試験勉強を頑張って!」

「僕達なら、余裕だから! なっ、瑞輝みずき?」

 凌空りくに腕を突かれ、相槌あいづちを打つ瑞輝みずき

「俺は、凌空りくに比べたら、そんなに勉強に余裕が有るわけでは無いけど……これからは、頑張る事にする!」

 今まで、勉強面は、友人である凌空りくの担当と決め付け、瑞輝みずきは、自分の得意分野であるスポーツで学校では点数稼ぎしていたが、大怪我をさせた詩奈しいなを気を遣い、勉強も力を入れる心境になった。

 2人が病室を出て、しばらく経過しても、詩奈しいなはまだ、2人が面会に来てくれた興奮から冷めなかった。

(矢本君がお見舞いに来てくれた! 初めてのお見舞いは矢本君だったなんて、もうこの怪我に感謝したい気分! これぞ、怪我の功名かな?)

 お手柄とばかりに怪我した右足首を愛おしそうに撫でる詩奈しいな

 一方、病院を出た瑞輝みずき凌空りくは、病室の中より塞いだ雰囲気で話していた。

「牧田の様子見て、どう思った、凌空りく?」

「うちのクラス担任が言っていたけど、牧田さん、骨折だけじゃなくて、靭帯じんたいも切れていたって。痛み止めが効いているうちはいいけど、切れるとかなり痛いだろうね。昨日、あの暗くなるまで、その状態で、何時間も落ちたままって、かなりしんどかったと思うよ」

 昨日の詩奈しいなが見付かった状態を思い出しただけで、詩奈しいなの痛みが伝わる気がし、自分まで苦しくなる凌空りく
 傍目から見ていただけでも十分辛さが伝わり、詩奈しいな笑って大丈夫と言っているのを真に受けられるようなものではないと瑞輝みずきも分かっていた。

「牧田をあんな風にして、もしもこの先、元通りにならなかったら、俺は、どうしたらいいんだろう?」

 自分と弟で作った穴から出られずに、朝からずっと、そこで痛みに1人で耐えていた詩奈しいな
 怒りをあらわにぶつけて来た父親。
 何でも無かった事のように気丈に取り繕う詩奈しいな
 そして、この先ずっと引き摺って行く事になるかも知れない詩奈しいなの後遺……

   その全てが、中学1年生の瑞輝みずきには重過ぎて、それらの責任を一身に背負う覚悟が口で言うほど安易には出来ず、悲観的な思いに囚われていた。

「大丈夫って言った牧田さんを信じて、今は、僕達で出来る事を頑張るしかないよ」

「そうだな。さっき、牧田にも言ったけど、これからは、俺、勉強も頑張る事にしたから、よろしくな、凌空りく!」

「協力は惜しまないけど、僕も、瑞輝みずきを見習って、体力つける事にするよ! 昨日、牧田さんを軽々とおぶっていた瑞輝みずきを見て、僕も、それくらいたくましくなれたらって思ったんだ!」

 瑞輝みずきだけではなく、凌空りくも、昨日の一件から触発されたようだった。

 夕刻、母が沢山の荷物を持ち、病室に戻った時も、詩奈しいなはまだ興奮冷めやらぬ様子で、母に矢継ぎ早に報告した。

「そう、私がいない時で、向こうも気まずくなくて良かったわね! 明日も来るなら、私も家に戻って、洗濯やお父さんの食事とか作っておきたいし、学校終わる前くらいの時間に出かける事にするわ」

 母なりに、彼らが気後れせずに見舞いに来られるように言った。

「本当に、明日来るかどうかは分からないけど……でも、あの2人は、その場だけの適当な事は言わなそうだから、お母さんが、その時間に出かけてくれると助かる」

 明日もまた会えるかも知れない期待に胸を膨らませている詩奈しいな。そんな詩奈しいなの様子を見て、これだけの大怪我をしているにも関わらず、明るく前向きになれていられるのは、瑞輝みずき凌空りくのおかげだと思えた母。

(今日も明日も来てもらえるのだったら、学校に行っている時よりずっと、一緒にいられる時間が長くて嬉しい! 初めての入院が、こんな素敵な時間になるなんて!)

 ただ1つ、詩奈しいなにとって気がかりな事が有った。


 詩奈しいなには、中沢恵麻えまと、小畑芽里めりという小学5年生からの親友がいる。
 気がかりなのは、ふと思い出した彼女達との小学校卒業を控えた頃の会話内容だった。

「ほら、矢本君と有川さん、朝とか帰りも休憩もいつも一緒にいるけど、あの2人って付き合っているのかな?」

 休憩時間中、窓から校庭を見下ろすと、瑞輝みずき若葉わかばが一緒に歩いているのが目に入り、気になった恵麻えまが、詩奈しいな芽里めりに尋ねて来た。

「幼馴染みだって事は知っているけど、どうなんだろう?」

 もちろん詩奈しいなも2人一緒にいるのをよく目にし、恵麻えまと同様に気になっていた。

恵麻えまって、矢本君の事好きなの?」

 芽里めりがニヤニヤしながらズバリ尋ねた。

「あはは、バレてた~? もう1年近く好きなんだけど。知ったからには、ちゃんと協力してよ、2人とも!」

(知らなかった……! 恵麻えまも、矢本君を好きだったんだ! 私もだよ……って、今のうちに言うべきかな? でも、どっちみち、矢本君には有川さんがいるし……私たちの出る幕なんて無いよね……)

「もちろん、協力する! 私は、北岡君が好きだから、恵麻えまとかぶらなくて良かった~! 詩奈しいなも、私達に協力してね!」

 詩奈しいなが言おうか迷っているうちに、今度は芽里めりが言い放ち、先手必勝のように2人で盛り上がっているところ、詩奈しいなの出番は無さそうに感じた。

「そうか、芽里めりは北岡君なの、了解だよ~! 中学に入ったら、同じクラスになれるといいね~!」

「ところで、詩奈しいなは誰か、好きな男子いないの?」

 2人とも自分達の相手と、かぶらなかった事でホッとしている様子でいるところに、今更、詩奈しいな瑞輝みずきが好きとは言えなかった。

「私は……特に誰もいない。中学は、別の小学校からも来るから、その人達に期待しようかな~!」

「そうなんだ~! 他校に期待だね~!」

「好きな人出来たら、協力してあげるから、すぐ報告するんだよ~、詩奈しいな!」

「うん、楽しみだな~!」

 好きな人がいないように振る舞い、当たり障りの無いように言った詩奈しいなにより、その時は3人笑顔で話せていた。

 その時、恵麻えま芽里めりの口を割ってでも、自分も瑞輝みずきが好きだと宣言していたなら良かったと、詩奈しいなは後々何度となく後悔する事になるのだった。
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