足枷《あしかせ》無しでも、Stay with me

ゆりえる

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手術と……

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 足の腫れが順調に引き、予定日に詩奈しいなの足関節脱臼骨折観血的手術が施行された。
 全身麻酔をしてから、患部を切開し、骨折した部位をプレートとネジを使用し固定するのに3時間要した。
 麻酔量は、術後1時間ほどで目覚める程度だったが、詩奈しいなの場合、体質的に効き目が強く現れたようだった。
 その上、手術の前夜は、緊張からあまり眠れず睡眠不足だった事も有り、予定より約4時間も遅く目覚めた。

詩奈しいな! やっと、目が覚めたか! いや~、良かった! いつまでも寝ているから、心配していたんだぞ!」

 久しぶりに面会に来た父が、薄っすら涙目になっていたのが、麻酔で目覚めた後の朦朧もうろうとした頭でも、認識が出来た詩奈しいな

「手術は、大成功よ! また、リハビリ頑張ろうね、詩奈しいな!」

 手術を終えた詩奈しいなが、無事に目覚めた事で、母も目元が潤んでいた。

「このマスクは、外しちゃダメかな?」

 酸素マスクが顔にあたる部位が痛痒く感じ邪魔だったが、ナースコールで呼んだ看護師さんに、あと4時間くらいはそのままでいるようと告げられ、ガッカリした詩奈しいな

「手術、全く気付かないうちに終わってたんだ……全身麻酔って、ホントによく効くんだね~。なんかまだ頭がボーッとしている。今日はリハビリいいよね? 私、もう少し眠りたい……」

 そう言い、両親の返事を待たないうちに、再び眠りに落ちた詩奈しいな
 静かに寝入った詩奈しいなの顔を見届け、安心した様子の父が病室から去った。

 麻酔の余韻で再び寝落ちした詩奈しいなだったが、今度は寝付いてから1時間もしないうちに、手術前夜から飲食を禁じられていた空腹感で目覚めさせられた。

「お腹空いた……」

 うたた寝中だった母が、詩奈しいなの一言で目覚めた。

「起きたの、詩奈しいな? そりゃあ、ずっと食べてないから、お腹空くよね~。でも、今日は、水だけしか無理なの。味の薄いスープを連想しながら飲むといいかも」

 母が、常温のミネラルウォーターを詩奈しいなに手渡した。

「え~っ、まだ水だけなんだ……はあ、空腹過ぎて、もう眠れ無さそう」

 恵麻えま芽里めりは、学校の身体測定前にダイエットしたり、朝食を抜いて登校する事を聞いていた詩奈しいな
 幸い、そこまで体重を気にする必要の無い詩奈しいなは、怪我をしたあの日の朝、寝坊するまでは、朝食すら欠かした事が無かった。

 それが、前夜からずっと、何も口に出来ないまま、やっと水だけが許可された状態。
 ガスが出ないと、明日も食事はお預けと説明された。

 学校にいる時などは、ガスが出ると恥ずかしいから、ガマンしたり、出にくい体質だと良かったと願っていたが、今回ばかりは、是が非でも、明日までに出て欲しいと願ってやまない詩奈しいな
 ガスが出たとしても、術後の食事は、圧倒的に水分の多過ぎるお粥からのスタートだった。

 健康な時には、そんな緩いお粥など、食事のうちに入らないような存在だが、しばらく食べ物から遠ざかっている詩奈しいなには、例え、スカスカのお粥だとしても、十分過ぎるほど有難いご馳走に感じられた。

 普段から、緊張した時や冷えた時など、お腹が張りやすい神経質な胃腸の詩奈しいな
 翌朝、起床後すぐに、胃腸の辺りがポコポコ鳴り出し、思いの外すんなりと念願のガスが出て、母と二人で思い切りバンザイした。

「良かった良かった~! 早速、看護師さんに伝えなきゃね!」

 もう朝食時間には連絡が間に合わず、昼食からの予定だったが、詩奈しいなが成長期という事で、特別に五分粥を用意してもらえる事になった。
 殆ど水分のようで流動食にも類似していたが、久しぶりの温かい食べ物は、その見かけよりずっと美味しく感じられ、少しでも長持ちさせようと、少しずつ口に含んだ詩奈しいな

「牧田詩奈しいなさん、ガスも出て、絶好調だね~! 術後は、せっかく引いていた腫れもまた戻ってしまったから、しばらく点滴になる。不便だけど、まあ若いから回復も早いかな」

 詩奈しいなの経過を診た執刀医が、楽観的な笑顔を浮かべて出て行った。
 彼の口振りから、そんな感じかと気を緩めていたが、実際には痛み止めを注射で打たれるのも痛く、それが切れた時には、手術前の比ではない堪え難い痛みだった。
 痛み止めの注射から点滴に移行すると、一時的に39度台の発熱が出た。
 安直に手術後は即、完治に近くなるような気持ちでいた詩奈しいなにとって、予想外に苦しい時間が続いた。

 手術の翌日の午後、瑞輝みずき凌空りくがお見舞いに来たが、彼らも、今までと違い、点滴に繋がれた詩奈しいなを見て戸惑った。

「牧田、手術は……?」

「この点滴で驚かせた? これは、痛み止めの成分なの。手術は大成功だから、大丈夫!」

 瑞輝みずき凌空りくを心配させまいと、笑顔を作った詩奈しいな

「そうか、痛み止めの点滴だったんだ、かなり痛いの?」

 詩奈しいなの様子を痛々しく見つめながら、凌空りくが尋ねた。

「手術の前後で比べると、手術後の方が、もっと痛いみたいだから、これは普通みたい。痛み止め効いているうちは、そんなに痛くないよ! 手術も、気付かないうちに終わっていたし。辛かったのは、お腹がずっと空いた事くらいかな」

 凌空りくの心配を打ち消そうと、気丈に言った詩奈しいな

「点滴でも車椅子乗れるんだっけ? 散歩とか行く?」

「ううん、今日はまだ遠慮しておく」

 その時点では下がっていたが、午前中に発熱し、点滴が絡んだ身体なのも気がかりで、まだ外に出る気分ではなかった詩奈しいな

「退院は、いつくらいになりそう?」

「手術後の経過次第みたい。それより、2人とも、中学入って初めての中間試験始まったよね? 北岡君のノートも今の期間は無いし、しばらくお見舞いはいいから、勉強頑張って!」

「僕達がお見舞いに来るのは、牧田さんは迷惑かな?」

 思いがけない凌空りくの言葉に、ビクッとなった詩奈しいな

「……そんな事、全然無い! 今はもう、友達も来なくなってしまったから、誰も来ないと寂しいし……入院生活は、初めての事の連続で、不安も多いし、2人の顔見ると、すごく安心する! ただ、私の為に、2人の勉強時間を割いてもらうのが悪いなって思って」

「元はと言えば、俺のせいで、牧田が入院しているんだから、俺は自分の出来る事で牧田の力になりたい!」

「僕は、瑞輝みずきの友達だし、瑞輝みずきの役に立ちたい。もちろん、牧田さんは、クラスメイトだし、牧田さんの応援もしたい。僕達が来たせいで、牧田さんと友達が不和になったなら、その分の穴埋めもしたいし。だから、迷惑じゃなかったら、僕らに遠慮しないで、牧田さん」

 2人の言葉が嬉し過ぎて、涙目になる詩奈しいな

「ありがとう! ごめんね、泣く気なんかなかったのに……多分、痛み止めの副作用だと思う、気持ちが何だか抑えられなくて……」

 泣いている詩奈しいなを見て、身体面だけではなく、精神面でも辛い事が多かったのだと、2人にも感じ取れ、自分がこの事態を招いたという心苦しさが一層強くなった瑞輝みずき

「ゴメンな、また来るから頑張れよ、牧田!」

「明日、また同じ時間くらいに来るから」

 その場にいるのが苦しくなり、2人はいつもより早目に病室を出た。
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