足枷《あしかせ》無しでも、Stay with me

ゆりえる

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孤独と……

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 学校で、瑞輝みずき凌空りくや若葉と共に4人で過ごす時間にも随分慣れ、それが当たり前のように感じ始めた頃、慣れた日常通りではなくなる日が訪れた。

 その日は、サッカーの地区予選日で、サッカー部の顧問をしている担任の浜口と、サッカー部員である瑞輝みずき凌空りく、マネージャーの若葉が、当然クラスから抜ける事になった。

 事前に、その旨を知っていた詩奈しいなは、母に相談し、その日だけ欠席する事も考えていたが、地区予選を勝ち進み、県大会以上まで進出した場合、その度に欠席するのは気が引けた。

「それじゃあ逃げているようだし、クラスメイト達に、矢本君達がいないと何も出来ない人間だと思われたくないから、取り敢えず今日は行く事にする! もし、それで、我慢できないほど辛かったら、次回からは休むかも知れない」

 行く前から諦めるのではなく、行ってどうなのか確かめてからでも休むのは遅くないと、強気で構える詩奈しいなに、成長を感じた母。
 骨折は辛い面も多いが、それを経験した事により、挫折しながらも、娘がこんなに頼もしく思える日が来るとは思わず、感動もひとしおだった。

「今日という1日は、詩奈しいなにとって、いつもより長く感じるかも知れないわね。でも、孤独を事を味わう事によって、また友達の有り難みを確認出来るような良い機会かも知れないし、大切にしなくてはならない気持ちが強くなりそうね」

 心配は皆無では無かったが、前向きに応援する母。
 
 母の車から降りると、いつもなら、玄関で瑞輝みずき達が待っていてくれて、リュックを背負ってくれていた。
 今朝の目標地点は、玄関では無く、重いリュックを背負ったまま4階まで上がり、1組の教室。
 4人で雑談しながら上がると、4階までの階段も長い距離には感じられなかったが、今朝は教室がかなり遠く感じられる。
 松葉杖を使って、階段をゆっくり上がっている間、何十名もの生徒達が詩奈しいなを追い抜いて行ったが、さげすむ視線を向ける事は有っても、誰一人として声をかけたり、手伝う様子など示さなかった。
 4階の教室に着くまで、一日が終わったようかのように疲れて、やっとドアを開けると、教室には既に2/3の生徒が着席していた。

「おやおや、お姫様! 今日は、ナイト達もいなくて、お一人様ですか~?」

「ボッチは可哀想だから、私達が一緒にいよ~か?」

「ダメダメ、私達みたいなパンピーは相手にしないって!」

「牧田さんは、こう見えて目が肥ていらっしゃるからね! 我がクラスの三貴神のように、顔面偏差値高い人材じゃないと受け付けてくれないよ~!」

「マジで~? 自分を棚に上げて、図々しくね?」

「ここしばらく、溜まったよね~! 今日は憂さ晴らしのチャンスじゃん!」

 瑞輝みずきや若葉が1組に来てからは、発する機会が無くなっていた詩奈しいなへの罵声をここぞとばかりに浴びせ出したクラスメイト達。

(やっぱり、矢本君や若葉がいないと、こうなるんだ……私、3人にしっかり守られていたんだ。1人の時間は寂しいけど……離れていても、今までどんなに彼らが私を守ってくれていたのか分かったから、何だか暖かい気持ちになれる)

 こうして彼らがサッカーの地区予選に行った事により、瑞輝みずきや若葉が1組に来てくれた有難ありがたみを改めて実感した詩奈しいな

 休憩時間も昼休みも、詩奈しいなに誰一人としていたわりの声をかけず、ひたすら罵声と嘲笑が飛び交っていた。

 そして5限目の体育の時間。
 他の女子達よりも早く更衣室に向かうつもりが、体操服が見当たらず、1人で探していた詩奈しいな
 そんな困っている詩奈しいなの様子を笑いながら見ているクラスメイト達。
 詩奈しいなの体操服が見付からないうちに、クラスメイト達は更衣室へと移動して行った。

 教室内は、どこも見付からず、まさかと思いつつトイレを探す事にした。
 少し前に用を足した時、詩奈しいなは洋式しか使えず気付かなかったが、和式トイレの便器の中に、体操服の袋ごと落とされている状態で見付かった。
 それをトイレの水が切れるようゆっくりと引き上げ、取り敢えず、手洗い場の横の床に置き、手洗いした後、制服姿のまま体育館へ向かった。

 詩奈しいなは、元々見学で制服のままでも構わないはずだが、いつもは着替えている事を知っている体育教師は、授業に遅れた上、なぜ体操服に着替えないのか尋ねた。

 自分からは言わないでおこうと思っていたが、尋ねられ以上は隠さず、体操服が無くて探していた事や、和式トイレの便器の中に落とされていた事を伝えた。
 体育教師は憤慨し、生徒達がバレーボールの練習試合をしていたのを止めさせ、集合させた。

「牧田の体操服が無くなっていて、和式トイレの便器の中で発見された! 誰の仕業だ?」

 もちろん、名乗り出る者などいない。

「卑怯な事をする奴だな! 知っていながらかばう奴も、かばう奴だ! お前らは連帯責任だ!! うさぎ跳びで、体育館内を3周だ!!」

「ええ~っ!!」

 生徒達はブーイングし、却下しようとしていた。

「よかろう、うさぎ跳びをやらない奴は内申点下げる!」

 そう言われ否応なく、うさぎ跳びをした一同。
 その間、詩奈しいなは、体育教師に指示された通り、その体操服の件を職員室にいる教師に伝え、大き目のビニール袋をもらい、体操服の袋ごとビニールに入れた。

 教師達は、帰りのホームルーム時間に、その件を各教室の生徒達に伝え、今後、このようなイジメ行為が為されないよう戒めた。
 1組も浜口の代理の教師が、自分が受け持った日に限って、このような事になった事を厄介そうに感じ取れるような口ぶりで語った。
 その後は、浜口に頼まれていた通り、詩奈しいなのリュックと汚された体操服の入ったビニール袋を校門の外で待っている母親の車まで先に届け、職員室に戻った。

「足、筋肉痛で痛いし、ガチでキレた~!」

「いちいちチクるかよ~?」

「マジウザ」

 クラスメイト達が文句を口々に言っている中、詩奈しいなが、下校しようとした。

「待ちなよ~!」

「自分だけ涼しい顔して帰れると思ってんの?」

 芽里めりとクラスメイトの女子の1人が、詩奈しいなから無理矢理、松葉杖を奪った。
 他のクラスメイトが、バランスを崩した詩奈しいなを押し退けて転ばせた。

「いつまで怪我人でいるつもり? ホントは、もう、とっくに治ってるんじゃね?」

「わざと、矢本君達に構われたくて、治ってないふり続けてるんだよ!」

「こんな杖無くたって、歩けるくせに!」

 芽里めりが以前と同様に、松葉杖を床に叩き折ろうとした時だった。

「何やってんだ~!!」

 180㎝以上は有りそうな大柄な上級生と思われる男子と、その仲間のような男子が3人で教室に入って来た。

「怪我してる女子1人相手に、よってたかってイジメてんじゃねーよ!」

 強面こわもての男子達に驚いたクラスメイト達は、慌てて教室から退散した。

「牧田詩奈しいなさんだな? 大丈夫か?」

 いきなり現れた上級生に助けてもらい、自分の名前まで尋ねられ、キョトンとしている詩奈しいな

「どうして、私の事を……?」

「俺は、3年の有川いさむ従妹いとこの若葉から、放課後だけでも様子を見るように頼まれてたんだ。いや~、松葉杖を壊される前に間に合って良かった!」

 意外にも親しみやすい笑顔を向けて来たいさむ

「そうですか……? 若葉が頼んでいてくれたんですね……有川さん、ありがとうございます!」

「まだ、あいつら、その辺に隠れてそうだな。俺らが去るのを見計らって、また牧田さんを襲うつもりかも知れないから、下まで送る」

 そう言い、仲間達に松葉杖を持たせ、瑞輝みずきがするように、詩奈しいなを背中に乗せたいさむ
 
「オンブまでしてもらって、すみません」

「この方が早いだろ? 実は俺、この後、柔道部の部活が有るから、わりと急いでいる!」

 瑞輝みずきよりずっと軽々と素早く車まで背負ってくれた大きな背中に、安心感を覚えた詩奈しいな

「ありがとうございます! 助かりました!」

 母は、初めて見る中学生にしてはかなり大柄な男子に驚きながらも、詩奈しいなを背負って連れて来てくれたお礼を伝えた。

「驚いたわ! 誰なの、あの大きな男子? 上級生?」

「若葉の従兄いとこなんだって、3年生なの。若葉が、放課後だけ様子見るように、頼んでくれていたみたい。おかげで、助かった~! 来てくれてなかったら、また松葉杖を折られるところだったから!」

「えっ! またそんな事になっていたの!! やっばり、矢本君達がいないと、クラスメイト達にとってイジメの標的になってしまうのね……」

 母が、溜め息を吐いた。

「それと、知らない先生が、リュックと濡れた体操服を届けてくれて慌ただしく戻って行ったけど、どうしたの?」

 事情を教師から聞いていなかった様子の母。

「体操服見付からなくて、やっと見つかったのが、和式トイレの中だった……濡れているし汚いから、制服のまま体育館に向かったら、先生にどうしたのか聞かれて、隠さずそのまま言ったの。先生が誰がやったか聞いても、誰も答えなかったから、クラスメイト達は、うさぎ跳びで体育館3周になってしまって……」

「連帯責任になったのね。それは、余計に詩奈しいなが逆恨みされてしまうわね。それで放課後、また松葉杖を狙われたという流れかしら?」

「うん、どうなんだろう? うさぎ跳びが無くても、そうなっていたのかも知れないし。今日1日、矢本君達がいない時間過ごして、ホントに私は守られていたって確認させられた! 遠征中なのに、従兄いとこの上級生に頼んでくれていた若葉の気持ちも嬉しかった! 嫌な事も有ったけど、嬉しい気持ちの方が、今日は強く感じられた!」

 こんな辛い目に遭った後でも、そう言って笑顔で報告して来た詩奈しいなの強さに救われる思いの母。
 詩奈しいながずっと強い心でいられるように、足が治っても、瑞輝みずき達との友情がずっと続いてくれるように祈らずにいられなかった。

 翌朝、若葉の姿が目に入ると、松葉杖で全力で急いだ詩奈しいな

「おはよう。昨日は、若葉の従兄いとこさんに頼んでくれてありがとう!」

「おはよ~、聞いたよ~! また松葉杖、危ないところだったって! いさむが、うどの大木にならずに役に立ってくれて良かった!」

「誰が、うどの大木だって!!」

 そのタイミングで足早に登校していたいさむが、若葉の背後から現れた。

「あっ、いさむ、昨日、ありがとね~!」

 従兄いとことはいえ、3年生の男子に向かって呼び捨てにしているところが、若葉らしいと思った詩奈しいな

「まあ大事な従妹いとこ殿の御依頼と有らば、いつでも参上するって! だから、次の週末、お礼のデートはどう、若葉?」

「地区予選勝ったし、県大会の時も様子見てくれたら、考えてあげてもいいけど~!」

 あまり本気にしてない様子の若葉。

「約束したぞ、若葉!」

 照れたような表情でそれだけ言い、去ったいさむ

いさむさん、本気っぽいけど……若葉、デートするの?」

 いさむを前にすると、体形の違いから毎回圧倒させられる凌空りくが尋ねた。

「まさか~、私には瑞輝みずきがいる事くらい、いさむだってよく知ってるはずだし~! ねっ、瑞輝みずき?」

 若葉が、瑞輝みずきと腕を組み、10㎝以上身長差の有る瑞輝みずきの顔を見上げた。

(若葉、私や北岡君がいてもお構いなしに、そういう風に腕を組めるんだ。それに、そういう事を言えるって、スゴイ……矢本君は、若葉の事、どう思っているのかな? こんなキレイで魅力的な女子にアプローチされたら、男子だったら、断れないよね……)

 詩奈しいなは、瑞輝みずきの反応が知りたい気持ちと、知るのが怖い気持ちの狭間はざまにいた。

「俺は、幼馴染みってだけだから、若葉の勝手にしろよ!」

 ぶっきらぼうに返答し、若葉の腕から離れ、詩奈しいなのリュックを持った瑞輝みずき

「つれないよね~、瑞輝みずきって! つまんない、詩奈しいな、行こう!」

(矢本君は、若葉の事を幼馴染みなだけって……)

 瑞輝みずきの返答が、腑に落ちないような表情の若葉に比べ、ホッコリ気分になった詩奈しいな
 そんな詩奈しいなわずかな表情の変化も見逃さなかった凌空りくは、複雑な心境になった。
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