子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~

九條葉月

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「――バケモノめ!」

 7歳の誕生日。実の父親から掛けられたのはそんな言葉だった。

 あぁ、またかと私は悲しくなってしまう。
 家族からの愛はとっくの昔に諦めたはずだけど……それでも、悲しい気持ちになってしまう。

 どうして?
 なぜそんなに忌み嫌うの?

 疑問を込めた瞳でお父様を見つめると――

「なんだその目は!?」

 怒りをまき散らしながら、私にコップを投げつけてくるお父様。本物の、高級な、透明ガラスのコップだ。

「痛っ」

 頭部に鈍痛が走る。
 ぽた、ぽたと。
 髪から滴り落ちているのはコップに入っていた水と――血だ。

 血。

 血が流れ落ちる。

 真っ赤な真っ赤な、赤い血が。

 激痛が頭を支配する。
 割れるほどに頭が痛い。
 いいや、もしかしたら本当に割れているのかもしれない。

 そんな激痛の中にあって、私は――

(――あっ)

 私は、すべてを思い出した・・・・・・・・・

「だ、旦那様!? 何をなさいます!?」

 私に駆け寄ってきてくれたのは家令(執事長)であるセバスチャン。彼はことあるごとに私を庇ってくれているのだ。

 なんだろう? 不思議な感覚だ。私自身を、少し上から見下ろしている『私』がいるような……。

「ぐぬぬ、」

 さすがに先々代から仕えているセバスチャンにコップを投げつけるわけにはいかないのか、お父様が忌々しげに吐き捨てた。

「セバス! その気持ち悪い女を別邸に押し込んでおけ! 二度と儂の前に姿を見せるな!」

「旦那様! しかし、お嬢様は旦那様の娘で――」

「ええい! うるさい! そんな銀髪・・が儂の娘であるものか! 血を啜ったような赤い目が、ランテス家の娘であるものか! 殺さないだけ有難く思え!」

「…………。……承知いたしました。さ、お嬢様。どうぞこちらへ」

 何を言っても無駄だと諦めたのか、セバスチャンが私の背中を押し、部屋の外に出るよう促してくれる。

「――お嬢様!」

 廊下に出ると、中でのやり取りを盗み聞きしていたのかメイド長のサラさんが駆け寄ってきてくれた。キツい顔つきの眼鏡さんだけど、心はとても優しいことを私は知っている。

 そう、セバスも、サラさんも、いつだって私の味方になってくれた。前世の記憶を思い出したところで、その事実を忘れるわけでもない。

「あぁ、なんてことでしょう!」

 サラさんが自分のハンカチを取りだし、私の頭の傷口を押さえてくれた。

「サラさん、ハンカチが汚れちゃいますよ」

「――っ! そんなこと、子供が気にせずとも良いのです!」

 耐えきれないとばかりに私を抱きしめてくれるサラさん。そのぬくもりは、この世界の親が与えてはくれないものだ。前世の私も経験できなかったことだ。

 でも、大丈夫。
 私の親はクズだけど、私には、ちゃんと心配してくれる『家族』がいるのだから。

「お嬢様。すぐに治癒術士の元で治療をしましょう」

 サラさんからの提案を、私が元々持っていた知識を使い、前世の思考力で判断する。

「いえ、大丈夫ですよ。それに、どうせ治療なんてしてくれないですし」

「それは……」

 貴族の邸宅には専属の治癒術士がいるものらしいけど、うちの治癒術士はあの父親の味方なので私が向かったところで追い返されるのがオチだ。たとえ家令(使用人を統括する立場)のセバスチャンがいたところで同じこと。治癒術士のバックにはあの父親が付いているのだから。

 だから私は期待しない。
 私の味方にはセバスチャンやサラさん、他数名のメイドさんがいる。それだけで十分だ。

 ちょっと前の私なら泣いてしまっていたかもしれない。
 でも、今の私には前世の記憶がある。たとえ別邸に軟禁されたって大丈夫。前向きに、ポジティブに。なんとかしてみせる。

「別邸に行くんですよね? 早く案内しないと怒られちゃいますよ?」

「お嬢様! しかし!」

「私は大丈夫です。むしろこの屋敷で暮らすより安全そうですし」

「そ、そこまで考えられて……。承知いたしました。すぐにご案内いたします」

 こうして。
 私は本邸を離れ、少し離れた別邸に軟禁されることとなった。


                      ◇


 別邸は十年くらい前まで本邸として使われていた建物らしく、新本邸の建設によって用済みとなり、放置されていたらしい。

 元々の本邸に相応しい立派な建物ではあるのだけど、今では外壁に蔦が生い茂り、割れた窓には板が打ち付けられていた。

 軋む音を立てながら玄関ドアが開けられる。
 夜。誰もいない洋館。前世で言えばもうホラーゲームとしか思えない状況だ。

「――灯火リヒト

 サラさんが呪文を唱えると、彼女の人差し指の先に魔法の明かり・・・・・・が灯った。

 そう、この世界には魔法があるのだ。科学の発展具合は中世程度だろうけど、その分魔法が発展し人々の生活を支えている感じ、なのだと思う。

「申し訳ございませんお嬢様。掃除が行き届いておらず……」

 サラさんが謝ってきたけれど、私からすれば大した問題じゃない。

「大丈夫です。私の部屋も似たような感じでしたから」

「……まことに申し訳ございません」

 悔しそうな声を絞り出すサラさんだけど、別に私を軽く見て掃除をさぼっていたわけではない。ただ、あの父親が私の部屋を掃除しないようわざわざ命令していただけで。

 ちなみにその情報を教えてくれたのは副メイド長のフィナさんだ。彼女も私に同情してくれていたので『不真面目なメイド』を演じながら私に色々と教えてくれたりしていたのだ。……私が前世の記憶を思い出す前から。

 フィナさん情報によると、私は前妻の娘で、この世界でも珍しい銀髪赤目として産まれたらしい。

 あの父親の嫌悪具合からして本当は私のことなんて『処分』したかったのだろうけど、なにやら私の母親の実家は偉い貴族らしく、そう簡単に『処分』はできなかったらしい。

 で、私が生まれてから七年間我慢した結果、とうとう今日『ぷっちーん』と来て私を別邸送りにしてしまったと。

 ぷっちーんと来て殺されなかったことを喜ぶべきか。その偉い貴族とやらから「孫娘を見せろ」と要求されたらどうするつもりなのかと呆れるべきか。なんとも微妙な心境になってしまう私だった。

(しかし、銀髪かぁ)

 サラさんの灯火リヒトを頼りに、自分の髪を一房取ってみる。確かに銀。まごうことなく銀。前世の記憶を思い出した今となってはキラキラして綺麗だと思うのだけど、異常と言えば異常なのかもしれない。

 物心ついた頃から半軟禁状態だったので、この世界にどれだけ銀髪がいるのかは分からない。今世の私の世界とは窓から見える光景とフィナさんが教えてくれる情報だけなのだ。

(きっと物心つく前から軟禁状態だったんだよね)

 と、そんなことを考えていると、一階の一番奥にある部屋に到着した。

「お嬢様。こちらは代々当主が使用していた寝室でして。おそらく一番居心地がよろしいかと」

「へぇ」

 この世界における貴族の邸宅は、一階に食堂や客室。二階に当主などの大人の部屋。三階に子供部屋というのが一般的らしい。なので一階に当主の寝室があるのは珍しいのではないだろうか? いや古い屋敷なので建てられた頃とは常識が変わっただけかもしれないけど。

 これまた軋むドアを開けると、さすがは当主の部屋だけあって広々とした豪勢な内装だった。ちょっと埃っぽいけど、まぁそれはしょうがないよね。

「ではお嬢様。すぐにとはいきませんが、少しずつメイドを派遣して掃除をさせますので……」

「え? いや、いいですよ。メイドさんが怒られちゃうかもしれないですし」

 あの父親なら私に協力したメイドさんたちも平気で折檻したりクビにするはず。私のせいで人生を狂わされるだなるなんて、そんなことは許されない。

「ですが……」

「それに、私も掃除は得意になったんですよ? だから、任せてください」

「……申し訳ございません」

「いいですから、いいですから」

 まだ後ろ髪引かれるセバスチャンとサラさんを帰らせ、ベッドの上で一息つく。

「……あの父親はほんとクズだなぁ」

 前世の記憶を思い出してから改めて実感したことを口にする。以前は『お父様』と呼んでいたけど、もう『父親』でいいや。

 天井に向かって手を伸ばす。視界を占める手の甲はどう見ても幼女のもの。前世では大人だったので違和感が凄い。

 7歳。にしては小柄に感じてしまうのはたぶん栄養が足りていないのだ。私にはまともな食事すら用意されなかったから。

 普通ならこんな幼女が別邸送りにされたら泣きわめきそうなものだけど……私は胸が高まるのを感じていた。

 ドキドキする。
 ワクワクする。
 こんな感情はどれくらい抱いてなかっただろう?

 だってここでは自由に生きられる。好きな時間に起きて、好きな時間に眠ることができる。

 機嫌が悪いと八つ当たりしてくる父親もいないし、言葉と暴力で私の心を折ろうとする継母も、そんな継母の真似をする異母妹もいない。

 そしてなにより前世の記憶がある。今までできなかったことを、色々と試すことができるのだ。

 久しく感じることのなかった、『子供らしい』心の動き。

(こんな薄汚い別邸には義母もやって来ないだろうし。まさに天国だよね)

 ポジティブ・シンキングした私は伸ばしていた手を一旦握り、人差し指だけを伸ばした。

 思い出すのは、先ほど人差し指の先に魔法の明かりを灯していたサラさんの姿。

「えーっと、灯火リヒト、だったかな?」

 サラさんがやっていたように呪文を唱えると、私の指先に明かりが灯った。

「おおー!」

 なんかよく分からないけど魔法が使えた。記憶を思い出す前の私は家庭教師も付けられず、魔法も習えなかったからねぇ。

 一般庶民は魔法を使えないのが普通だと聞くし、サラさんがメイド長になれた一因も魔法が使えたからだと聞く。その意味で言えば私に魔法の才能がありそうなのは良かった良かった。

 あとの問題は灯火リヒトしか呪文が分からないことだ。別邸の中になにか魔法に関する本でもないかなぁ。さすがにもう本邸の図書室は使えないだろうし……。

 そんなことを考えていると。
 ぐぅうう、っと。私のお腹が鳴った。

 私の誕生日。普段は食堂にすら呼ばれない私は急に父親と食事をすることになって。久しぶりにまともなゴハンが食べられるかなーっと期待していたというのに……。あの父親、私の顔を見るなり別邸送りを決めてくれたのでまだ夕食を食べていないんだよね。

「……とりあえず。母親の実家がある手前、食事くらいは出るはず」

 もし出なかったらセバスチャンに頼んで廃棄食品を恵んでもらうしかないか。貴族のお嬢様なら泣きわめく状況だろうけど、前世では食えない経験もしていたので問題なし。

 あとは、やはり――

「――魔法」

 どうにかして魔法を勉強しよう。そうすればこの家を出て、別の場所で生き抜くこともできるはず。だってあの父親がまともな嫁ぎ先を見つけるはずがないし。どうせ金目当てでとんでもない相手を探してくるはずだ。

 そんなのは嫌だ。
 家や嫁ぎ先に人生を狂わされるくらいなら、野垂れ死ぬ覚悟で『自由』を手に入れた方がいい。どうせ死ぬなら前のめりに死んでやる。

 異世界ものの定番なら冒険者になるのがいいと思う。だけど、そもそも冒険者という職業があるのかすらも分からない。フィナさんもそっち方面のことは教えてくれなかったんだよね。

 あと、もう一つの定番だと修道院か。でも持参金がないと虐められるとも聞いたことがあるし……。いざとなれば森の中でサバイバル生活も覚悟しなきゃいけないかもしれない。

 サバイバル知識はある。
 でも、前世の経験を7歳の肉体でどれだけ再現できるものか……。

「まっ、明日になれば誰かしら様子を見に来てくれるだろうし、とりあえず今日は寝るとするかな」

 あの父親に投げつけられたコップのせいで洋服はビショビショ。着替えもないのでもう脱いでしまうことにする。

「……あ、そういえば、頭のケガ」

 痛くなくなったからすっかり忘れていたけど、コップを投げられた時に出血したのだった。

 滴り落ちてこないからもう血は止まったのだと思う。あとは消毒だけど……この世界に『消毒』という概念はあるのだろうか? 医療の知識が中世だと消毒液すらなさそうだけど。なにせ貴族は回復術士に治してもらえるからなぁ。

 そもそも、消毒液があるならまずサラさんが持ってきてくれたはずだ。ポケットの中に入れていたハンカチで傷口を押さえるのもどうなのさって話だし。この世界の衛生観念、推して知るべし。

 あとは、一応水で洗い流す?
 この世界って水はどうしているんだろう? さすがに水道はなさそうだし、あったとしても殺菌消毒はしてなさそう。井戸水を使うのもなんか怖いなぁ。というか七歳の少女の身体じゃ井戸から水をくみ上げられないかも。

 貴族令嬢&自室でもほぼ軟禁状態&前世の記憶を思い出したばかりの私は、この世界のことを何も知らないのだと実感してしまう。もうちょっと副メイド長のフィナさんに質問しておけばよかった……。

「う~ん……よし」

 結論。
 化膿しないことを祈って、今日は寝る。
 それで死ぬならそこまでの人生だ。幽霊になってあの父親を呪い殺してやろう。

 決意を新たにしながらベッドに入る。

 ベッド自体は良いもので、とても柔らかい。
 しかし布団の上には埃が溜まっていたし、カビ臭かった。

 でも、大丈夫。

 前世。電気も止まった真冬の夜。ダンボールを被って眠った経験と比べれば遥かにマシなのだから。






【ご報告】
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます!




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