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閑話 妹・アリス 2
しおりを挟む――初めてその子に出会ったのは、私が伯爵家に引き取られた日。五歳の誕生日のことだった。
窓からの光を反射してキラキラと輝く銀色の髪。
下町で暮らしていた私とは違い、日焼けの全くない純白の肌。お人形さんみたいに整った顔つき。
身体は少し華奢だったけど、それがまたお姫様みたいで素敵だった。
なんて可愛いのだろう、と思った。
こんなに可愛い子が、私の『お姉ちゃん』になってくれるのかと思った。
嬉しかった。
心躍った。
でも、そんな彼女の、私に向ける感情はとても冷たくて。
何か話しかけても気のない返事。私にまるで興味のなさそうな目。
しかも私が話しかけてもすぐにメイドさんが割って入ってくるので、挨拶以上の会話はほとんどできなかったし、お姉ちゃんも、私とそれ以上会話をしようとはしなかった。
メイドさんは色々なことを教えてくれた。
お姉ちゃんの母親は、悪い人だったのだと。
母親が悪いことをしたから、お姉ちゃんも反省しなきゃいけないのだと。
お母さんも、新しいお父さんも、お姉ちゃんには冷たかった。大好きな二人がそんな態度を取るのだから、きっとお姉ちゃんは本当に悪い人なのだろうと思った。
屋敷での人間関係を理解した頃から、私に対する令嬢教育が始まった。……お姉ちゃん、などという物言いは下品。『私』ではなく『わたくし』という言葉を使え。常に胸を張って、背筋を伸ばし、自信満々に。そうすれば、男性の方から寄ってくるからと。
私には令嬢としての才能があったらしく、色々な家庭教師が色々なことを教えてくれた。
そして逆に、お姉ちゃん――いや、お姉様には一人も家庭教師が付けられなかった。
才能がないから見切りを付けられたのだ。と、私専属のメイドが教えてくれた。
そうなのかと私は残念に思った。
お姉様は才能がないから令嬢教育も受けられなかったし、才能がないから魔法の勉強もさせてもらえなかった。だからこそ罰として一緒に食事を食べることができなかったし、努力に応じた食事しか与えられないのだという。
なぜ努力をしないのだろうと私は不満に思った。いくら才能がなくても努力をすればそれなりの結果を残せるはずだし、そうすれば私もお姉様と普通に接することができるようになるのに。
「なぜお姉様は努力をしませんの?」
メイドさんの隙を突いて、私はお姉様に問いかけた。努力をして、お父様やお母様に認められれば、私たちは普通の姉妹として暮らすことができるのに、と。
「…………」
お姉様の答えは、沈黙。
口答えもしなかったし、ずっと下を向いたまま、こちらに目を向けることすらしなかった。
なぜ私を見てくれないのだろう?
なぜ何も言ってくれないのだろう?
――どうすれば、こっちを見てくれるのだろう?
◇
その答えはすぐに分かった。
いつものようにお母様がお姉様を叱り、頬をぶったとき。
お姉様は、お母様を見ていたのだ。
いつものように無感情な目。
でも、私には分かる。お姉様の瞳に怒りが込められていることに。
……あぁ、そうか。
あぁすればいいのか。
――お母様の真似をすれば、お姉様は私を見てくれる。
私は、理解した。
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