40 / 80
40.戦い
しおりを挟む
「――お姉様っ!?」
その光景を目の当たりにしたアリスは思わず絶叫した。ドラゴン・ブレスの直撃を受けたリーナが吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられたのだ。
そのまま、ぴくりとも動かなくなるリーナ。
ドラゴン・ブレスが直撃しながらも蒸発せず、生き残った時点でもはや人としての常識を越えた存在なのであるが……そんなこと、アリスには知る由もない。
重要なのはリーナが壁に叩きつけられてしまったこと。叩きつけられたあと動かなくなってしまったこと。
≪――ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
ドラゴンがゆっくりとリーナに近づく。まるで簡単には殺さぬと言わんばかりに。……当然か。矮小な人間に左目を潰されたのだ。誇り高きドラゴンが許すはずがない。
あのまま食いちぎるか。丸呑みにするか。あるいは前足で踏みつぶされたり尻尾で薙ぎ払われる可能性もある。
どちらにせよ、ドラゴンに狙われている以上、リーナの死は避けられない。
「…………」
自分は良い妹だっただろうかとアリスは自問する。
以前まではそんなことすら考えたことはなかった。むしろ、自分の相手をしてくれないリーナこそ悪い姉だとすら感じていた。
でも、今から思えばたくさんの酷いことをしてきたように思う。
そんなアリスを。そんな悪い子を。リーナは『妹』と呼んでくれた。アリスを守るために、あんな無茶までしてくれた。
ならば、次は自分の番だとアリスは覚悟を決める。
お姉ちゃんなのだから妹は守らなくちゃいけないとリーナは言った。
それなら――妹だって、姉を守らなければいけないのだ。
「お姉様!」
『みゃあ!?』
ミャーが驚愕の声を上げる。結界の外に出られないよう雷撃の膜で覆っていたというのに――アリスは、感電するのも構わず手を伸ばしたのだ。
衝撃がアリスの全身を襲う。
痛い。ものすごく痛い、としかアリスの語彙では表現することができない。
でも、だからどうしたのだろう?
リーナはもっと痛い目に遭ってきたのだ。
父親に物を投げられ、継母に殴られ、アリスに水魔法をぶつけられ――それでも、今まで耐えてきたのだ。泣きもせず、逃げもせず、ずっと、ずっと……。
それに比べれば、この程度の痛み、大したことはない。
『みゃあ!』
このバカ! とばかりに叫んでからミャーが雷撃の膜を消した。右腕は感電のせいでうまく動かないが、構うことなく結界から飛び出るアリス。
……特に考えがあるわけではない。アリスにはリーナほどの『力』はないし、そもそも前世の記憶もない6歳の少女なのだ。どうにかできると考える方が間違っているし、全部が全部理屈に叶った行動というわけでもない。
ただ、守りたいと願ったから。
その想いだけでアリスはドラゴンに向けて声を張り上げた。
「この! トカゲ! これ以上お姉様を傷つけるのは許しませんわよ!」
アリスにとってはあらん限りの大声。しかし、しょせんは何の訓練もしていない6歳児の発声だ。ドラゴンの耳に届くのかすら怪しいし、届いたとしてもドラゴンが興味を抱く保証もない。
だが。
それでも。
ドラゴンはアリスの声を拾い、アリスの方を向いた。
残された片目に浮かぶのは、やはり明確すぎるほどの殺意。
――最初から、何かがおかしかった。
リーナがダンジョンにやって来たときは咆吼で脅すだけで終わらせたのに、アリスがダンジョンに入ったらわざわざ転移魔法を発動させ、自分の元へと呼び寄せた。
さらには片目を潰されるまではリーナではなくアリスを狙い、わざわざ周囲から魔力を集めてまでドラゴン・ブレスの発射態勢を取り、確実に殺すことを選んだ。
まるで、恨みがあるかのように。
その恨みを思い出したかのようにドラゴンはアリスに近づき、今度こそ確実に殺そうとしている。
『みゃ!』
そんなアリスを守るためか、ミャーがあらゆる魔法を放つが……黒いドラゴンにはまるで効果がない。
再び、ドラゴンがその顎を開いた。
再び、魔力が口元に集まる。
「アリス様!」
同じように結界を抜け出したフィナがアリスを守るように抱きしめるが、それでどうなるという話ではない。
死んだ、とアリスは確信する。
リーナのように結界が張れるわけではないし、リーナのように自動回復のスキルを持っているわけでもない。たとえミャーやフィナが結界で守ったところで、そのあと壁に叩きつけられればそれだけで死ぬだろう。
迫り来る、明確な死。
僅か6歳にして『死』を目の当たりにして。
アリスの脳裏に浮かんだのは、あの日……初めて会ったときのリーナの姿だった。
嬉しかった。
幸せだった。
こんなに綺麗な子がお姉ちゃんになってくれるんだって。アリスは、純粋に喜んだのだった。
「お姉ちゃん……」
令嬢教育が始まってから口にしなくなった呼び方。
「お姉ちゃんと、もっと、仲良くなりたかった……」
それだけだったのに。
ただ、それだけを願ったのだ。
お姉ちゃんと、仲良くなりたい。
その言葉が、届いたかのように。
「――ありがとね、アリス。おかげさまで回復できた」
この世界の何よりも美しい声が、アリスの心を埋め尽くした。
「灯火」
何の変哲もないはずの、明かりを灯す生活魔法。
それを、リーナはドラゴンの残った右目、そのすぐ近くで発動した。
≪ガァアァアア!?≫
普段であれば大したことがなく、無視したであろう輝き。だが、片目を潰されたばかりのドラゴンは過剰に反応してしまった。意識をリーナやアリスたちから離し、灯火の明かりを消すために明後日の方向を向いてしまう。
それは、完全なる隙であった。
「――飛翔」
ぴくりとも動かなかったはずのリーナの身体が、浮かんだ。
そのまま空中で身体を捻り、岩壁に両足を突く。
「――天井歩き」
ダンジョンで得たスキルを使い、リーナが洞窟の壁を、天井を駆ける。
ただでさえアリスに意識を向けていたドラゴンは、その予想外の動きのせいでリーナの姿を完全に見失った。
「――神威象りたる天の光よ。すべてを焼き尽くす神々の怒りよ」
洞窟内に走る、雷光。
天井を駆け抜けながら、リーナが上級攻撃魔法を発動しているのだ。
「世界を照らす光で以て、世界を害する邪悪を討て!」
雷が、リーナの右手に迸った。
「――雷よ、我が敵を討ち果たせ!」
狙いは、ドラゴンの残った右目。
すでにリーナの身体は天井の天辺に到着し、ドラゴンの頭は目と鼻の先にある。
しかし、リーナは万全を尽くすため、さらにスキルを発動させた。
「――精密射撃!」
必中スキルによって放たれた上級攻撃魔法は、狙い違わずドラゴンの右目を穿った。
ドラゴンにとっては完全なる奇襲。当然のことながら瞼を閉じる余裕はなかった。
≪ガァアアアァアアアアァアアアァアアアァアアァアアアッ!≫
両目を失ったドラゴンが絶叫する。いかな巨体を誇ろうと、いかな強大な魔力を誇ろうと。両目を失っては平常心でいられるはずがない。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
滅多矢鱈に暴れ回るドラゴン。ドラゴン・ブレスは洞窟内を滅茶苦茶に薙ぎ払い、前足は目的も定まらぬまま地面を何度も踏みしめ、その長い尻尾を振り回して岩壁を、天井を削っていく。
しかし距離を取れば何とかなる動きだ。両目が見えぬまま、ドラゴンの巨体で、逃げ回る人間を捉えようというのが無理な話なのだ。
飛び散る岩石を避けながらリーナがミャーたちに合流する。
「みゃー! 出口はどこかな!?」
『みゃ! みゃあ!』
相変わらず何を言っているかは分からないものの、なんとなく『駄目だ! あのドラゴンを倒さなきゃ!』と説明してくれたような気がするリーナ。
つまりは、前世のゲームで言う強制イベント。ボスであるあのドラゴンを倒すまでは外に出られないのだとリーナは理解した。
ならば、倒すしかない。
大丈夫。できるとリーナは確信する。
すでにいくつかのヒントは得ているのだから。
ドラゴンの鱗は固く、上級攻撃魔法を直撃させても傷一つ付かない。
でも、今のドラゴンはリーナの攻撃で両目を失った。――鱗がない場所ならば、十分攻撃は通るのだ。
つまりは、内部。体内を破壊すれば何とかなる。
思い出すのは、魔法の練習をしていた日々のこと。
攻撃魔法が地下室に飛び散らないよう、リーナは四角い結界の中に攻撃魔法を発生させ、その威力を結界内に留めようとした。
失敗したら圧力を逃がしきれない圧力鍋のように爆発してしまったが……逆に言えば、結界を破壊するほどの威力があるのだ。
だからこそ。狙うのはドラゴンの体内。固い鱗を、結界だと想定する。
「――精密射撃」
必中スキルでドラゴンの体内、おそらくは心臓があるだろう場所に狙いを定める。
使う魔法は、最も得意な雷魔法。最も威力があるだろうもの。
――最上級雷攻撃魔法。
さすがに威力がありすぎるのが予想されたので、試したことはない。
だが、今なら使えるという不思議な直感があった。
深呼吸。
深呼吸。
深呼吸……。
心を落ち着け、体内の魔力を感じ取ったリーナは、呪文を詠唱し始めた。
「――神々よ、今こそ我が矛となろう」
ぱちり、と。リーナの髪の毛先が爆ぜた。
「――神威象りたるは天の光。森羅万象焼き尽くしたるは天上の業火」
膨大な魔力風が渦を巻き、リーナの体内から一気に魔力が抜けていく。
「――雷鳴は世界を揺らし、閃光は地平を駆け抜ける」
ぱちり、と。ドラゴンの体内が小さく爆ぜた。
「――恵みの光。神罰の化身。善たる者には言祝ぎを。悪たる者に潰滅を」
体内の小さな爆発。その痛みにドラゴンが暴れ回るが、リーナは構わず詠唱を続けた。
「――神の力なる雷光で以て、世界を害する邪悪を討たん!」
呪文の完全詠唱。
それが、終わった。
「――神雷よ、世界を救え!」
落雷のような轟音。
それが、ドラゴンの体内から鳴り響いた。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!?≫
ドラゴンの口から鮮血が吐き出される。
鱗の隙間からも血が噴き出した。
肉の焦げるニオイ。
内部から爆ぜ飛ぶ鱗たち。
ドラゴンはまるで痙攣するかのようにその長い首を天井へと伸ばし――そのまま、土埃をあげながら地面に倒れ込んだ。
≪――邪竜を討伐しました。『勇者』の称号が与えられます≫
その光景を目の当たりにしたアリスは思わず絶叫した。ドラゴン・ブレスの直撃を受けたリーナが吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられたのだ。
そのまま、ぴくりとも動かなくなるリーナ。
ドラゴン・ブレスが直撃しながらも蒸発せず、生き残った時点でもはや人としての常識を越えた存在なのであるが……そんなこと、アリスには知る由もない。
重要なのはリーナが壁に叩きつけられてしまったこと。叩きつけられたあと動かなくなってしまったこと。
≪――ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
ドラゴンがゆっくりとリーナに近づく。まるで簡単には殺さぬと言わんばかりに。……当然か。矮小な人間に左目を潰されたのだ。誇り高きドラゴンが許すはずがない。
あのまま食いちぎるか。丸呑みにするか。あるいは前足で踏みつぶされたり尻尾で薙ぎ払われる可能性もある。
どちらにせよ、ドラゴンに狙われている以上、リーナの死は避けられない。
「…………」
自分は良い妹だっただろうかとアリスは自問する。
以前まではそんなことすら考えたことはなかった。むしろ、自分の相手をしてくれないリーナこそ悪い姉だとすら感じていた。
でも、今から思えばたくさんの酷いことをしてきたように思う。
そんなアリスを。そんな悪い子を。リーナは『妹』と呼んでくれた。アリスを守るために、あんな無茶までしてくれた。
ならば、次は自分の番だとアリスは覚悟を決める。
お姉ちゃんなのだから妹は守らなくちゃいけないとリーナは言った。
それなら――妹だって、姉を守らなければいけないのだ。
「お姉様!」
『みゃあ!?』
ミャーが驚愕の声を上げる。結界の外に出られないよう雷撃の膜で覆っていたというのに――アリスは、感電するのも構わず手を伸ばしたのだ。
衝撃がアリスの全身を襲う。
痛い。ものすごく痛い、としかアリスの語彙では表現することができない。
でも、だからどうしたのだろう?
リーナはもっと痛い目に遭ってきたのだ。
父親に物を投げられ、継母に殴られ、アリスに水魔法をぶつけられ――それでも、今まで耐えてきたのだ。泣きもせず、逃げもせず、ずっと、ずっと……。
それに比べれば、この程度の痛み、大したことはない。
『みゃあ!』
このバカ! とばかりに叫んでからミャーが雷撃の膜を消した。右腕は感電のせいでうまく動かないが、構うことなく結界から飛び出るアリス。
……特に考えがあるわけではない。アリスにはリーナほどの『力』はないし、そもそも前世の記憶もない6歳の少女なのだ。どうにかできると考える方が間違っているし、全部が全部理屈に叶った行動というわけでもない。
ただ、守りたいと願ったから。
その想いだけでアリスはドラゴンに向けて声を張り上げた。
「この! トカゲ! これ以上お姉様を傷つけるのは許しませんわよ!」
アリスにとってはあらん限りの大声。しかし、しょせんは何の訓練もしていない6歳児の発声だ。ドラゴンの耳に届くのかすら怪しいし、届いたとしてもドラゴンが興味を抱く保証もない。
だが。
それでも。
ドラゴンはアリスの声を拾い、アリスの方を向いた。
残された片目に浮かぶのは、やはり明確すぎるほどの殺意。
――最初から、何かがおかしかった。
リーナがダンジョンにやって来たときは咆吼で脅すだけで終わらせたのに、アリスがダンジョンに入ったらわざわざ転移魔法を発動させ、自分の元へと呼び寄せた。
さらには片目を潰されるまではリーナではなくアリスを狙い、わざわざ周囲から魔力を集めてまでドラゴン・ブレスの発射態勢を取り、確実に殺すことを選んだ。
まるで、恨みがあるかのように。
その恨みを思い出したかのようにドラゴンはアリスに近づき、今度こそ確実に殺そうとしている。
『みゃ!』
そんなアリスを守るためか、ミャーがあらゆる魔法を放つが……黒いドラゴンにはまるで効果がない。
再び、ドラゴンがその顎を開いた。
再び、魔力が口元に集まる。
「アリス様!」
同じように結界を抜け出したフィナがアリスを守るように抱きしめるが、それでどうなるという話ではない。
死んだ、とアリスは確信する。
リーナのように結界が張れるわけではないし、リーナのように自動回復のスキルを持っているわけでもない。たとえミャーやフィナが結界で守ったところで、そのあと壁に叩きつけられればそれだけで死ぬだろう。
迫り来る、明確な死。
僅か6歳にして『死』を目の当たりにして。
アリスの脳裏に浮かんだのは、あの日……初めて会ったときのリーナの姿だった。
嬉しかった。
幸せだった。
こんなに綺麗な子がお姉ちゃんになってくれるんだって。アリスは、純粋に喜んだのだった。
「お姉ちゃん……」
令嬢教育が始まってから口にしなくなった呼び方。
「お姉ちゃんと、もっと、仲良くなりたかった……」
それだけだったのに。
ただ、それだけを願ったのだ。
お姉ちゃんと、仲良くなりたい。
その言葉が、届いたかのように。
「――ありがとね、アリス。おかげさまで回復できた」
この世界の何よりも美しい声が、アリスの心を埋め尽くした。
「灯火」
何の変哲もないはずの、明かりを灯す生活魔法。
それを、リーナはドラゴンの残った右目、そのすぐ近くで発動した。
≪ガァアァアア!?≫
普段であれば大したことがなく、無視したであろう輝き。だが、片目を潰されたばかりのドラゴンは過剰に反応してしまった。意識をリーナやアリスたちから離し、灯火の明かりを消すために明後日の方向を向いてしまう。
それは、完全なる隙であった。
「――飛翔」
ぴくりとも動かなかったはずのリーナの身体が、浮かんだ。
そのまま空中で身体を捻り、岩壁に両足を突く。
「――天井歩き」
ダンジョンで得たスキルを使い、リーナが洞窟の壁を、天井を駆ける。
ただでさえアリスに意識を向けていたドラゴンは、その予想外の動きのせいでリーナの姿を完全に見失った。
「――神威象りたる天の光よ。すべてを焼き尽くす神々の怒りよ」
洞窟内に走る、雷光。
天井を駆け抜けながら、リーナが上級攻撃魔法を発動しているのだ。
「世界を照らす光で以て、世界を害する邪悪を討て!」
雷が、リーナの右手に迸った。
「――雷よ、我が敵を討ち果たせ!」
狙いは、ドラゴンの残った右目。
すでにリーナの身体は天井の天辺に到着し、ドラゴンの頭は目と鼻の先にある。
しかし、リーナは万全を尽くすため、さらにスキルを発動させた。
「――精密射撃!」
必中スキルによって放たれた上級攻撃魔法は、狙い違わずドラゴンの右目を穿った。
ドラゴンにとっては完全なる奇襲。当然のことながら瞼を閉じる余裕はなかった。
≪ガァアアアァアアアアァアアアァアアアァアアァアアアッ!≫
両目を失ったドラゴンが絶叫する。いかな巨体を誇ろうと、いかな強大な魔力を誇ろうと。両目を失っては平常心でいられるはずがない。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
滅多矢鱈に暴れ回るドラゴン。ドラゴン・ブレスは洞窟内を滅茶苦茶に薙ぎ払い、前足は目的も定まらぬまま地面を何度も踏みしめ、その長い尻尾を振り回して岩壁を、天井を削っていく。
しかし距離を取れば何とかなる動きだ。両目が見えぬまま、ドラゴンの巨体で、逃げ回る人間を捉えようというのが無理な話なのだ。
飛び散る岩石を避けながらリーナがミャーたちに合流する。
「みゃー! 出口はどこかな!?」
『みゃ! みゃあ!』
相変わらず何を言っているかは分からないものの、なんとなく『駄目だ! あのドラゴンを倒さなきゃ!』と説明してくれたような気がするリーナ。
つまりは、前世のゲームで言う強制イベント。ボスであるあのドラゴンを倒すまでは外に出られないのだとリーナは理解した。
ならば、倒すしかない。
大丈夫。できるとリーナは確信する。
すでにいくつかのヒントは得ているのだから。
ドラゴンの鱗は固く、上級攻撃魔法を直撃させても傷一つ付かない。
でも、今のドラゴンはリーナの攻撃で両目を失った。――鱗がない場所ならば、十分攻撃は通るのだ。
つまりは、内部。体内を破壊すれば何とかなる。
思い出すのは、魔法の練習をしていた日々のこと。
攻撃魔法が地下室に飛び散らないよう、リーナは四角い結界の中に攻撃魔法を発生させ、その威力を結界内に留めようとした。
失敗したら圧力を逃がしきれない圧力鍋のように爆発してしまったが……逆に言えば、結界を破壊するほどの威力があるのだ。
だからこそ。狙うのはドラゴンの体内。固い鱗を、結界だと想定する。
「――精密射撃」
必中スキルでドラゴンの体内、おそらくは心臓があるだろう場所に狙いを定める。
使う魔法は、最も得意な雷魔法。最も威力があるだろうもの。
――最上級雷攻撃魔法。
さすがに威力がありすぎるのが予想されたので、試したことはない。
だが、今なら使えるという不思議な直感があった。
深呼吸。
深呼吸。
深呼吸……。
心を落ち着け、体内の魔力を感じ取ったリーナは、呪文を詠唱し始めた。
「――神々よ、今こそ我が矛となろう」
ぱちり、と。リーナの髪の毛先が爆ぜた。
「――神威象りたるは天の光。森羅万象焼き尽くしたるは天上の業火」
膨大な魔力風が渦を巻き、リーナの体内から一気に魔力が抜けていく。
「――雷鳴は世界を揺らし、閃光は地平を駆け抜ける」
ぱちり、と。ドラゴンの体内が小さく爆ぜた。
「――恵みの光。神罰の化身。善たる者には言祝ぎを。悪たる者に潰滅を」
体内の小さな爆発。その痛みにドラゴンが暴れ回るが、リーナは構わず詠唱を続けた。
「――神の力なる雷光で以て、世界を害する邪悪を討たん!」
呪文の完全詠唱。
それが、終わった。
「――神雷よ、世界を救え!」
落雷のような轟音。
それが、ドラゴンの体内から鳴り響いた。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!?≫
ドラゴンの口から鮮血が吐き出される。
鱗の隙間からも血が噴き出した。
肉の焦げるニオイ。
内部から爆ぜ飛ぶ鱗たち。
ドラゴンはまるで痙攣するかのようにその長い首を天井へと伸ばし――そのまま、土埃をあげながら地面に倒れ込んだ。
≪――邪竜を討伐しました。『勇者』の称号が与えられます≫
362
あなたにおすすめの小説
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
気弱令嬢の悪役令嬢化計画
みおな
ファンタジー
事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?
しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?
いやいやいや。
そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!
せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。
屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる