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第二部
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そうと決まれば、とわたしは一旦しろまるをおろして、出かける準備を始める。一睡もしてなくて、完全に徹夜だが、今から寝治す気にもならないし、朝ごはんを食べる気にもならない。
――早くフィジャに会って、腕を治したい。
その一心だった。
とはいえ、まともにお風呂に入っていないので、シャワーだけはしっかり浴びる。このまま外に出てしまうのは流石にヤバいと分かるので。
一通り準備を済ませ、わたしは再びしろまるに目をやった。
連れて行くのは当然なし。精霊は、魔力が欠片でもあれば見ることが出来る存在。魔法は廃れてしまったようだが、イエリオさんという例がいるように、魔力持ち自体は存在しているようなので、連れて行って目立つのは避けたい。
具体的な見た目を教えてもらってはいないものの、この時代には魔物が存在しているらしいので、それと間違われても困る。
それに、どのみち魔法を外で使うつもりはないので、連れて行ったところであんまり役に立つとも思えない。
かといって、このままここに置いておくのも……。おとなしい性格というわけでもなさそうだし、留守番を任せるのは不安だ。
「……しろまる、わたし、ちょっと出かけてきたいんだけど……あなたのこと、どうしたらいいかな」
しゃがみこんで、なるべくしろまるに視点が近くなるようにしながら声をかけた。
師匠は普段、精霊をどう扱っていたっけ。あの精霊は正しく呼び出された精霊だから、全く同じように扱っても大丈夫かは分からないが……。
「おでかけなの? じゃあ、しろまる寝てる。帰ってきたら起こしてね」
そう言うと、しろまるは、わたしが精霊語で文字が書かれていた紙の上に、くるりととぐろをまくように丸くなった。
しろまるが具現化したことによって、精霊語は消えてしまっていたが、しろまるがまるくなってフッと消えると、再び文字が戻っていた。
文字はもう読めない。おそらく、翻訳魔法の効果が切れてしまったんだろう。しかし、先ほどまで確実にあったはずの魔力が、ほとんど感じられない。一瞬焦って、あわてて魔力を流すと、再びしろまるが現れた。
紙を手に持っていたので、空中に現れたしろまるが、どてんと床へ派手に落ちる。
「いったいの! 寝たばっかなのに! 寝たばっかなのに!」
「ご、ごめんなさい……。急にいなくなるからびっくりして。今度こそちゃんと寝て、大丈夫だから。次から起こす場所も気を付けるから」
しろまるに紙を渡すと、彼女(性別は不明だが声で判断することにする)は再び文字の羅列へと戻っていった。
成程、魔力を流せばまた出てきてくれるのか……。折角形になったのに、一回限りだったのかと、すごく焦ったわ。
「はあ……変態〈トラレンス〉」
わたしは疲れに溜息を吐いて、再び猫の獣人へと戻った。
紙をテーブルの上に置き、風はないもののどこかへ行かないように、とマグカップを重しに端へ載せ、家を出る。
病院に向かう足取りは軽く、気が付けば走り出していた。
――早くフィジャに会って、腕を治したい。
その一心だった。
とはいえ、まともにお風呂に入っていないので、シャワーだけはしっかり浴びる。このまま外に出てしまうのは流石にヤバいと分かるので。
一通り準備を済ませ、わたしは再びしろまるに目をやった。
連れて行くのは当然なし。精霊は、魔力が欠片でもあれば見ることが出来る存在。魔法は廃れてしまったようだが、イエリオさんという例がいるように、魔力持ち自体は存在しているようなので、連れて行って目立つのは避けたい。
具体的な見た目を教えてもらってはいないものの、この時代には魔物が存在しているらしいので、それと間違われても困る。
それに、どのみち魔法を外で使うつもりはないので、連れて行ったところであんまり役に立つとも思えない。
かといって、このままここに置いておくのも……。おとなしい性格というわけでもなさそうだし、留守番を任せるのは不安だ。
「……しろまる、わたし、ちょっと出かけてきたいんだけど……あなたのこと、どうしたらいいかな」
しゃがみこんで、なるべくしろまるに視点が近くなるようにしながら声をかけた。
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「おでかけなの? じゃあ、しろまる寝てる。帰ってきたら起こしてね」
そう言うと、しろまるは、わたしが精霊語で文字が書かれていた紙の上に、くるりととぐろをまくように丸くなった。
しろまるが具現化したことによって、精霊語は消えてしまっていたが、しろまるがまるくなってフッと消えると、再び文字が戻っていた。
文字はもう読めない。おそらく、翻訳魔法の効果が切れてしまったんだろう。しかし、先ほどまで確実にあったはずの魔力が、ほとんど感じられない。一瞬焦って、あわてて魔力を流すと、再びしろまるが現れた。
紙を手に持っていたので、空中に現れたしろまるが、どてんと床へ派手に落ちる。
「いったいの! 寝たばっかなのに! 寝たばっかなのに!」
「ご、ごめんなさい……。急にいなくなるからびっくりして。今度こそちゃんと寝て、大丈夫だから。次から起こす場所も気を付けるから」
しろまるに紙を渡すと、彼女(性別は不明だが声で判断することにする)は再び文字の羅列へと戻っていった。
成程、魔力を流せばまた出てきてくれるのか……。折角形になったのに、一回限りだったのかと、すごく焦ったわ。
「はあ……変態〈トラレンス〉」
わたしは疲れに溜息を吐いて、再び猫の獣人へと戻った。
紙をテーブルの上に置き、風はないもののどこかへ行かないように、とマグカップを重しに端へ載せ、家を出る。
病院に向かう足取りは軽く、気が付けば走り出していた。
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