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第三部
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コテルニアを制作する上で作られた資料は完璧と言ってもいいくらいの出来で、トバラルへと素材を変えても十分に使えそうだった。いくつか注意点とトバラルの栽培方法を述べるだけ、と思っていたのだが、話が何度も何度も脱線してしまい、結局、かなり時間がかかってしまった。
別にその脱線した会話も楽しいからいいと言えばいいのだが、折角夕飯を済ませたのにお腹が空いてきて。
時間は二十三時過ぎ。今から何か口にするのもなあ、とためらわれる時間。かといって、一度空腹を意識するとどうにも気になってしまう。すぐに寝られるかなあ、と考えていると……。
――くるるぅ……。
「――聞かなかったことにしてください」
盛大にお腹の音が鳴った。イエリオさんのお腹が。
「ホットミルクでも作りますか?」
「でも……」
「わたしもお腹、空いちゃったので」
一人だったら我慢して寝たが、イエリオさんもいるなら夜食を食べてもいいだろう。食べる、というか、飲む、だけど。
この世界のミルクは牛乳ではなくて、そういう木の実がある。常温や冷たいときはほとんど牛乳と変わらないのだが、温めるとはちみつや砂糖がいらないくらい甘くなる。
でも、その甘さはくどくなく、それでいてそこそこお腹に溜まるので、寝る前の空腹を収めるには丁度いい。
「……手伝います」
顔をほんのりと赤くしながらそう言った。あんまり否定しないあたり、本当にお腹が空いているのかもしれない。お腹が鳴っていたしね、そりゃあ空いてるよね。
頭を使っても、意外とお腹は空くものなのだ。
二人でキッチンに向かい、冷蔵庫からミルクを取り出す。イエリオさんの家の冷蔵庫は、すごく綺麗に使われている。使われているというか、あんまり使ってないからこその綺麗さ、という感じがあるけれど。
わたしが来てからはある程度食材を揃えているので、勿論ミルクも冷蔵庫の中にある。
電子レンジ……のような家電で温めると吹きこぼれやすい、とフィジャから口酸っぱく言われたので(フィジャの家にいる間、一回盛大にやらかしました)、小さな鍋にミルクを入れて温める。
本当は木べらとかでゆっくりかき混ぜるといいのだが、洗い物が増えてもめんどうなので、時折、焦げ付かないように軽く鍋をゆする。
「今日はありがとうございました」
沸騰するのはまだかな、と鍋を見つめていると、ふと、イエリオさんが声を上げた。
「コテルニアの布ですか? まあ、約束してたことですし、わたしから言い出したことなので、たいしたことでも」
もっと改良できるよ、と言った手前、突き放すのはなんだかためらわれる。無責任じゃない? そういうことを仕事にしていて、ましてや前文明が好きな相手にそう言って、何もしないのは。
実際、脱線しまくったおかげでここまで時間がかかっただけで、アドバイス自体はたいしたことをしていない。
そう思ったのだが。
「いえ、それも、ですが。それだけでなく――なんというか、そう、大げさな言い方にはなりますが、救われた気分なんです」
「救われた?」
なんのことだ、と思わず聞き返すも、「はい」と肯定の返事が。別に、たいしたことはしていないと思うんだけど。
別にその脱線した会話も楽しいからいいと言えばいいのだが、折角夕飯を済ませたのにお腹が空いてきて。
時間は二十三時過ぎ。今から何か口にするのもなあ、とためらわれる時間。かといって、一度空腹を意識するとどうにも気になってしまう。すぐに寝られるかなあ、と考えていると……。
――くるるぅ……。
「――聞かなかったことにしてください」
盛大にお腹の音が鳴った。イエリオさんのお腹が。
「ホットミルクでも作りますか?」
「でも……」
「わたしもお腹、空いちゃったので」
一人だったら我慢して寝たが、イエリオさんもいるなら夜食を食べてもいいだろう。食べる、というか、飲む、だけど。
この世界のミルクは牛乳ではなくて、そういう木の実がある。常温や冷たいときはほとんど牛乳と変わらないのだが、温めるとはちみつや砂糖がいらないくらい甘くなる。
でも、その甘さはくどくなく、それでいてそこそこお腹に溜まるので、寝る前の空腹を収めるには丁度いい。
「……手伝います」
顔をほんのりと赤くしながらそう言った。あんまり否定しないあたり、本当にお腹が空いているのかもしれない。お腹が鳴っていたしね、そりゃあ空いてるよね。
頭を使っても、意外とお腹は空くものなのだ。
二人でキッチンに向かい、冷蔵庫からミルクを取り出す。イエリオさんの家の冷蔵庫は、すごく綺麗に使われている。使われているというか、あんまり使ってないからこその綺麗さ、という感じがあるけれど。
わたしが来てからはある程度食材を揃えているので、勿論ミルクも冷蔵庫の中にある。
電子レンジ……のような家電で温めると吹きこぼれやすい、とフィジャから口酸っぱく言われたので(フィジャの家にいる間、一回盛大にやらかしました)、小さな鍋にミルクを入れて温める。
本当は木べらとかでゆっくりかき混ぜるといいのだが、洗い物が増えてもめんどうなので、時折、焦げ付かないように軽く鍋をゆする。
「今日はありがとうございました」
沸騰するのはまだかな、と鍋を見つめていると、ふと、イエリオさんが声を上げた。
「コテルニアの布ですか? まあ、約束してたことですし、わたしから言い出したことなので、たいしたことでも」
もっと改良できるよ、と言った手前、突き放すのはなんだかためらわれる。無責任じゃない? そういうことを仕事にしていて、ましてや前文明が好きな相手にそう言って、何もしないのは。
実際、脱線しまくったおかげでここまで時間がかかっただけで、アドバイス自体はたいしたことをしていない。
そう思ったのだが。
「いえ、それも、ですが。それだけでなく――なんというか、そう、大げさな言い方にはなりますが、救われた気分なんです」
「救われた?」
なんのことだ、と思わず聞き返すも、「はい」と肯定の返事が。別に、たいしたことはしていないと思うんだけど。
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