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第三部
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「――はっ!」
目を覚ませばそこはベッドの上だった。イエリオの家にあるわたしのベッドの上、ではなく、ベッドがいくつも並ぶ――イエリオが寝ていた病室に似た造りの部屋のベッドの上だった。
外は暗く、窓から月灯りが差し込んでいた。気絶して、すっかり眠ってしまったらしい。
起き上がると、ちょっとふらっと来たものの、それも一瞬のことだ。気持ち悪くもない。頭を打ってしまったが、そこまで酷いことにはならなかったようだ。
窓から外を見ると、ひと気はないものの、魔物の影もない。……もう、全部終わったんだろうか?
室内にはわたしの他にも、数人の女性が眠っている。どこかしら包帯をまかれている人ばかりだ。人数は少なく、空きのベッドの方が多い。病室を男女で分けている、というところか。
明らかに後から置かれたであろうベッドにも、元からあったのであろうベッドにも、ナースコールのようなものはついていない。
数人眠る患者だけしかおらず、医者や看護師もいない。
下手に歩き回らないほうがいいだろうか、と思ったけれど、もうひと眠りするにはすっかり目が覚めてしまった。
廊下に出ても人影はない。でも、誰もいない、という感じではなくて、たまたま人がいないだけの様に思えた。廊下の電気、ついたままだし。
あれからどうなったのか知りたいし、今何時なのかも知りたい。多少歩いても大丈夫なようだし、とわたしは廊下を歩き、人を探す。
「あっ、目が覚めました?」
しばらく歩いていると、看護師らしき女性に出会う。かなりガタイがいい……といか、筋肉質な女性だ。確かに、この人が冒険者、ないし、元・冒険者と言われたら、納得だ。
そんなことに気が付かないなんて、支部に着いたとはいえ、周りが見えなくなっていたらしい。
「まだ気持ち悪いとか、頭が痛い、とかはありますか?」
「いえ、起き上がったときはちょっとふらついたんですが、今は特に。頭は……ぶつけたところを触ると少し痛いかも」
頭を触りながらわたしは答える。たんこぶになっているのかもしれない。
看護師さんの話を聞くと、わたしはあのとき、軽い脳震盪を起こして気絶してしまったらしい。
体調が特に悪くないのであれば大丈夫だとは思うが、確実なことが言えないので一応医者に見てもらってほしい、と、今医者がいる部屋を教えてもらった。
「あの、今何時か教えてもらっても?」
「今ですか? ええと……夜の九時過ぎですね」
看護師さんは腕時計を見ながら応える。
九時。結構寝てしまったな……。気絶した時点の時刻が何時か知らないので正確には分からないが、五時間くらいは寝たんじゃないだろうか。
他にも、ホールの騒動はどうなったのか、とか、城壁を食べていた『何か』はどうなったのか、とか――イエリオは目が覚めたか、とか。聞きたいことは山ほどあったけど、この看護師さん、どうやら仕事中のようなので、あれこれ聞くのもためらわれる。下手に邪魔しちゃ悪いし……。
とりあえずは案内された医者の元に行って、頭の様子を見てもらってから欲しい情報をくれる人を探すか……。
わたしは看護師さんと別れ、教えてもらった部屋へと向かうのだった。
目を覚ませばそこはベッドの上だった。イエリオの家にあるわたしのベッドの上、ではなく、ベッドがいくつも並ぶ――イエリオが寝ていた病室に似た造りの部屋のベッドの上だった。
外は暗く、窓から月灯りが差し込んでいた。気絶して、すっかり眠ってしまったらしい。
起き上がると、ちょっとふらっと来たものの、それも一瞬のことだ。気持ち悪くもない。頭を打ってしまったが、そこまで酷いことにはならなかったようだ。
窓から外を見ると、ひと気はないものの、魔物の影もない。……もう、全部終わったんだろうか?
室内にはわたしの他にも、数人の女性が眠っている。どこかしら包帯をまかれている人ばかりだ。人数は少なく、空きのベッドの方が多い。病室を男女で分けている、というところか。
明らかに後から置かれたであろうベッドにも、元からあったのであろうベッドにも、ナースコールのようなものはついていない。
数人眠る患者だけしかおらず、医者や看護師もいない。
下手に歩き回らないほうがいいだろうか、と思ったけれど、もうひと眠りするにはすっかり目が覚めてしまった。
廊下に出ても人影はない。でも、誰もいない、という感じではなくて、たまたま人がいないだけの様に思えた。廊下の電気、ついたままだし。
あれからどうなったのか知りたいし、今何時なのかも知りたい。多少歩いても大丈夫なようだし、とわたしは廊下を歩き、人を探す。
「あっ、目が覚めました?」
しばらく歩いていると、看護師らしき女性に出会う。かなりガタイがいい……といか、筋肉質な女性だ。確かに、この人が冒険者、ないし、元・冒険者と言われたら、納得だ。
そんなことに気が付かないなんて、支部に着いたとはいえ、周りが見えなくなっていたらしい。
「まだ気持ち悪いとか、頭が痛い、とかはありますか?」
「いえ、起き上がったときはちょっとふらついたんですが、今は特に。頭は……ぶつけたところを触ると少し痛いかも」
頭を触りながらわたしは答える。たんこぶになっているのかもしれない。
看護師さんの話を聞くと、わたしはあのとき、軽い脳震盪を起こして気絶してしまったらしい。
体調が特に悪くないのであれば大丈夫だとは思うが、確実なことが言えないので一応医者に見てもらってほしい、と、今医者がいる部屋を教えてもらった。
「あの、今何時か教えてもらっても?」
「今ですか? ええと……夜の九時過ぎですね」
看護師さんは腕時計を見ながら応える。
九時。結構寝てしまったな……。気絶した時点の時刻が何時か知らないので正確には分からないが、五時間くらいは寝たんじゃないだろうか。
他にも、ホールの騒動はどうなったのか、とか、城壁を食べていた『何か』はどうなったのか、とか――イエリオは目が覚めたか、とか。聞きたいことは山ほどあったけど、この看護師さん、どうやら仕事中のようなので、あれこれ聞くのもためらわれる。下手に邪魔しちゃ悪いし……。
とりあえずは案内された医者の元に行って、頭の様子を見てもらってから欲しい情報をくれる人を探すか……。
わたしは看護師さんと別れ、教えてもらった部屋へと向かうのだった。
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