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第五部
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服売りなんか。なんか、だって……?
その言葉は、ファッション系の職業についている人に対してはもちろん、イナリに対しても失礼だ。
――クマを作ってデザイン画を描いていた様子を、わたしの服を真剣に描き写していた姿を思い出して、わたしは思わず手が出そうになってしまった。
まあ、普通に負けると思うので、そこは我慢して、拳を握りしめるくらいにしておいたが。
「……帰って」
わたしは玄関を指さした。
「何をしに来たのか知らないけど、帰って。イナリがどこで輝くかなんて、本人が決めることよ。貴女が決めることじゃない」
イナリが帰って来るまでにまだまだ時間はある。そんなことは分かっているけど、シャシカさんにこれ以上この場にいて、痕跡を残してほしくないし、万が一にも、イナリと接触してほしくなかった。
わたしは冒険者としてのイナリを知らない。もしかしたら、かなりの実力を持っていたのかも。
でも、そんなことは関係ない。
わたしが知っているのは、今の職に就きたいと、寝不足になってまで頑張るイナリだ。だったら、わたしが応援したいのは、当然今のイナリの方で。
大体、わたしの防具を生き生きと選んでいた人のどこが輝いていないというのだ。
「アンタに何が分かるのさ! アタシは――」
「配偶者です」
まだごちゃごちゃと言うシャシカさんの言葉に、声をかぶせた。
「わたしは、イナリの配偶者で、この家にいる許可を貰ってる。貴女、クローゼットから入ってきたってことは、ちゃんとした訪問客じゃないんでしょ。さっさと帰って」
シャシカさんは非常に不服そうな顔をしていたが、やがて溜息を一つ吐いた。
「……まあ、アンタがいたらやりにくいし。今日は帰るよ」
「二度とこないで!」
口ぶりからして、イナリがいない時間を狙って家に侵入しているようだったが、それでも、この人がイナリと遭遇してしまう可能性なんて考えたくもない。
というか普通に不法侵入で犯罪なのでは。わたしが住んでいたかつての時代、国ではないけれど、不法侵入、またはそれに相当する行為が犯罪じゃない国なんてないだろう。
玄関からではなく、クローゼットから戻って行くのをわたしは見送る。
クローゼットの中は案の定、物があまりなくて、天井部分にぽっかりと穴が開いていた。その穴からシャシカさんは出入りしているのだろう。
一応、穴を隠す為の板はしてあるが、穴があると分かって見れば隠れない程度には分かりやすい。クローゼットの中は暗いし、しかも天井。気が付くまでは分かりにくい位置な上に、これだけクローゼットの中に物がなくて外に出ていたら、クローゼットを開く頻度も少ないわけで。
おそらく、イナリは気が付いていないのかもしれない。
穴を塞ぐように板を打ち付けてやりたかったが、生憎、トンカチも釘も、どこにあるのか、わたしは知らない。
仕方がないので、「勉強用に」とイエリオに買ってもらったノートとペンを取り出し、ノートに魔法陣を描いた、それを穴を塞ぐように張り付けた。穴が大きすぎて一枚ではカバーしきれないので、追加でもう二枚ほど。
魔法陣は本来なら窓枠に彫り込む、侵入者対策のもの。これがあれば、多少は防げるはず。
紙に描いたものなので、劣化は早いし、彫り込んだものよりは脆いけれど。
本当、二度とこないでほしい。思い出すだけでむかむかするわ。
その言葉は、ファッション系の職業についている人に対してはもちろん、イナリに対しても失礼だ。
――クマを作ってデザイン画を描いていた様子を、わたしの服を真剣に描き写していた姿を思い出して、わたしは思わず手が出そうになってしまった。
まあ、普通に負けると思うので、そこは我慢して、拳を握りしめるくらいにしておいたが。
「……帰って」
わたしは玄関を指さした。
「何をしに来たのか知らないけど、帰って。イナリがどこで輝くかなんて、本人が決めることよ。貴女が決めることじゃない」
イナリが帰って来るまでにまだまだ時間はある。そんなことは分かっているけど、シャシカさんにこれ以上この場にいて、痕跡を残してほしくないし、万が一にも、イナリと接触してほしくなかった。
わたしは冒険者としてのイナリを知らない。もしかしたら、かなりの実力を持っていたのかも。
でも、そんなことは関係ない。
わたしが知っているのは、今の職に就きたいと、寝不足になってまで頑張るイナリだ。だったら、わたしが応援したいのは、当然今のイナリの方で。
大体、わたしの防具を生き生きと選んでいた人のどこが輝いていないというのだ。
「アンタに何が分かるのさ! アタシは――」
「配偶者です」
まだごちゃごちゃと言うシャシカさんの言葉に、声をかぶせた。
「わたしは、イナリの配偶者で、この家にいる許可を貰ってる。貴女、クローゼットから入ってきたってことは、ちゃんとした訪問客じゃないんでしょ。さっさと帰って」
シャシカさんは非常に不服そうな顔をしていたが、やがて溜息を一つ吐いた。
「……まあ、アンタがいたらやりにくいし。今日は帰るよ」
「二度とこないで!」
口ぶりからして、イナリがいない時間を狙って家に侵入しているようだったが、それでも、この人がイナリと遭遇してしまう可能性なんて考えたくもない。
というか普通に不法侵入で犯罪なのでは。わたしが住んでいたかつての時代、国ではないけれど、不法侵入、またはそれに相当する行為が犯罪じゃない国なんてないだろう。
玄関からではなく、クローゼットから戻って行くのをわたしは見送る。
クローゼットの中は案の定、物があまりなくて、天井部分にぽっかりと穴が開いていた。その穴からシャシカさんは出入りしているのだろう。
一応、穴を隠す為の板はしてあるが、穴があると分かって見れば隠れない程度には分かりやすい。クローゼットの中は暗いし、しかも天井。気が付くまでは分かりにくい位置な上に、これだけクローゼットの中に物がなくて外に出ていたら、クローゼットを開く頻度も少ないわけで。
おそらく、イナリは気が付いていないのかもしれない。
穴を塞ぐように板を打ち付けてやりたかったが、生憎、トンカチも釘も、どこにあるのか、わたしは知らない。
仕方がないので、「勉強用に」とイエリオに買ってもらったノートとペンを取り出し、ノートに魔法陣を描いた、それを穴を塞ぐように張り付けた。穴が大きすぎて一枚ではカバーしきれないので、追加でもう二枚ほど。
魔法陣は本来なら窓枠に彫り込む、侵入者対策のもの。これがあれば、多少は防げるはず。
紙に描いたものなので、劣化は早いし、彫り込んだものよりは脆いけれど。
本当、二度とこないでほしい。思い出すだけでむかむかするわ。
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