331 / 493
第五部
327
しおりを挟む
ということは、本当に、根本的な解決をしないといけない。その場しのぎでは駄目なのだ。
つまり、シャシカさんに、イナリを冒険者にすることを諦めさせなければいけない。
……方法は、全然思いつかないけど。
「……そもそも、冒険者って一回辞めても再度なれるものなんですか?」
冒険者、冒険者、と言われていて、実際、わたしがイメージするファンタジーなネット小説のものとそこまで差異がなかったので、聞いてこなかったが、わたしはこの国の冒険者というものをしっかりとは知らない。
「いくつか条件はあるけど、再び冒険者になることは出来るよ」
その条件を聞いてみると、五体満足であること、とか、辞めた理由が怪我によるものでない、とか、辞めた際に下級冒険者以上であること、とか、結構条件はあった。
でも、そのどれもをイナリさんはクリアしていて、今でも問題なく冒険者に復帰できる。
条件のほとんどが辞めるときのものなので、今から冒険者になれないようにするには――。
「――ちょっと」
じっとイナリが自身の手を見ていることに気が付いて、わたしは思わず声をかけた。一番に思い当たったことは同じらしい。
「最終手段だよ」
五体満足でなくなれば、冒険者には戻りたくても戻れない。だからといって、わざと腕なり脚なり、切り落とすのは違うだろう。
「……その手は、これからも服を作っていく手なんでしょ。切り落とさないで」
「――……うん」
ぴく、とイナリの耳が動いた。
大切な腕は取っておかないと。もし切り落としたって、またしろまる呼んでやるから。
しかし、他になにか――……。
「あ」
わたしはふと、ジェルバイドさんの顔を思い出していた。
「そういえば、冒険者の資格の永久剥奪って、条件なんなんですか?」
ジェルバイドさんも、先ほど並べられた条件全てをクリアしているが、彼はもう、冒険者になることは出来ない。多分、冒険者の資格の永久剥奪、ということだから彼みたいな犯罪者に適応されるのかもしれないが、一応、聞くだけ聞いておく。
――が。
「永久、剥奪? ……聞いたことないな」
彼はよっぽどの特例、ということか、資格の永久剥奪について、イナリは知らないようだった。
……これ以上は二人で考えても無駄かもしれない。それに、シャシカさんの襲撃という強烈な揉めごとも起きて、疲れている。わたしにいたっては、床下を這いつくばって行ったり来たりしたわけだし。
「今度、ちょっと話を聞いてみます。ルーネちゃんに」
ギルド長である彼女なら、きっと何か裏道を知っているかもしれない。
後日聞きに行こう、と決意し、とりあえず、わたしは絶対に一人にならないことを約束させられた。人通りの多い道を選び、とにかく不特定多数の人間がいるところに身を置け、と。
明日から、イナリが出勤するのと同時に家を出て、イナリの勤務中は街に居て、退勤するときにイナリの職場の近所の喫茶店で待ち合わせをして一緒に帰ることとなった。
つまり、シャシカさんに、イナリを冒険者にすることを諦めさせなければいけない。
……方法は、全然思いつかないけど。
「……そもそも、冒険者って一回辞めても再度なれるものなんですか?」
冒険者、冒険者、と言われていて、実際、わたしがイメージするファンタジーなネット小説のものとそこまで差異がなかったので、聞いてこなかったが、わたしはこの国の冒険者というものをしっかりとは知らない。
「いくつか条件はあるけど、再び冒険者になることは出来るよ」
その条件を聞いてみると、五体満足であること、とか、辞めた理由が怪我によるものでない、とか、辞めた際に下級冒険者以上であること、とか、結構条件はあった。
でも、そのどれもをイナリさんはクリアしていて、今でも問題なく冒険者に復帰できる。
条件のほとんどが辞めるときのものなので、今から冒険者になれないようにするには――。
「――ちょっと」
じっとイナリが自身の手を見ていることに気が付いて、わたしは思わず声をかけた。一番に思い当たったことは同じらしい。
「最終手段だよ」
五体満足でなくなれば、冒険者には戻りたくても戻れない。だからといって、わざと腕なり脚なり、切り落とすのは違うだろう。
「……その手は、これからも服を作っていく手なんでしょ。切り落とさないで」
「――……うん」
ぴく、とイナリの耳が動いた。
大切な腕は取っておかないと。もし切り落としたって、またしろまる呼んでやるから。
しかし、他になにか――……。
「あ」
わたしはふと、ジェルバイドさんの顔を思い出していた。
「そういえば、冒険者の資格の永久剥奪って、条件なんなんですか?」
ジェルバイドさんも、先ほど並べられた条件全てをクリアしているが、彼はもう、冒険者になることは出来ない。多分、冒険者の資格の永久剥奪、ということだから彼みたいな犯罪者に適応されるのかもしれないが、一応、聞くだけ聞いておく。
――が。
「永久、剥奪? ……聞いたことないな」
彼はよっぽどの特例、ということか、資格の永久剥奪について、イナリは知らないようだった。
……これ以上は二人で考えても無駄かもしれない。それに、シャシカさんの襲撃という強烈な揉めごとも起きて、疲れている。わたしにいたっては、床下を這いつくばって行ったり来たりしたわけだし。
「今度、ちょっと話を聞いてみます。ルーネちゃんに」
ギルド長である彼女なら、きっと何か裏道を知っているかもしれない。
後日聞きに行こう、と決意し、とりあえず、わたしは絶対に一人にならないことを約束させられた。人通りの多い道を選び、とにかく不特定多数の人間がいるところに身を置け、と。
明日から、イナリが出勤するのと同時に家を出て、イナリの勤務中は街に居て、退勤するときにイナリの職場の近所の喫茶店で待ち合わせをして一緒に帰ることとなった。
12
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
天使は女神を恋願う
紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか!
女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。
R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m
20話完結済み
毎日00:00に更新予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる