377 / 493
第五部
373
しおりを挟む
祝集祭も後半戦を過ぎ、あと数日というにも関わらず、街はやっぱり賑わっていた。普通の、長期間開催される祭りだったら、中日は少し人の流れが穏やかだったり、ある程度空いている日、というものがあるんだろうが、祝集祭は開催期間、ずっと人で賑わっていた。
五年に一度の、ここでしか家族と集まらない、となると、自然とそうなるのかもしれない。イエリオみたいに、開催期間はずっと基本的に休み、と言う人も少なくないらしいし。
そんな中、わたしとイナリは、イナリの両親に会っていた。
イナリの父親は、イナリそっくりな人だった。イナリが年を取ったらこんな風になるのかな、と想像できてしまう程で、本当に父親似に生まれたのだな、と改めて思った。言葉にしたところで誰も喜ばないだろうから、口にはしないけど。
母親の方は、なんというか、美人、というよりは、愛嬌のある人だった。美人系ではなく、可愛い系の人。肉付きがよく、そのふっくらとしている丸さが、より魅力的に見える絶妙なライン。そして何より、人と見間違うくらいだった。
でも――イエリオの両親とも、フィジャの両親とも、決定的に違うのは、わたしのことを、あまり歓迎していない様子なところ。
嫁いびりをしてきそうなほど険悪、というわけではないが、なんとなく、良く思っていないのが感じられる。イエリオのときは手放しで喜ばれ、フィジャのときは分かりにくくはあったが問題なく受け入れてくれたから、余計にそう感じるのかもしれない。
少し重い空気の中、イナリが口を開く。
「彼女はマレーゼ。まだ家が建ってないし、首輪を送りあってないから、婚約状態だけど――僕の、嫁になる人だよ」
イナリの言葉に、イナリの母親の眉が、ぴくっと動いた。
わたしがこの場にいる時点で察してはいただろうに、それでも、イナリの口からハッキリと言われるのでは、また違うのだろう。
「あ、あの、よろしくお願いします」
わたしは、イナリの両親からなんとも言えない視線を受けながら、軽く頭を下げた。イナリを溺愛していて、どこぞの女に取られてしまうのが嫌、というのが分かればハッキリしていたのだが、どうにも、それだけじゃないように感じる。
それでも、わたしはそのくらいでひるんでなんかいられない。皆を家族として大切にする、と決めた以上に、わたしが、みんなと一緒にいたいから。
「――マレーゼさん、だったかしら」
ずっと黙っていたイナリの母親が、口を開く。
「あなた、本当にいいの?」
それは、なにも嫌悪感から、とか、そう言うわけではなく――ただただ、本当に疑問を感じたから聞いた、という風だった。
五年に一度の、ここでしか家族と集まらない、となると、自然とそうなるのかもしれない。イエリオみたいに、開催期間はずっと基本的に休み、と言う人も少なくないらしいし。
そんな中、わたしとイナリは、イナリの両親に会っていた。
イナリの父親は、イナリそっくりな人だった。イナリが年を取ったらこんな風になるのかな、と想像できてしまう程で、本当に父親似に生まれたのだな、と改めて思った。言葉にしたところで誰も喜ばないだろうから、口にはしないけど。
母親の方は、なんというか、美人、というよりは、愛嬌のある人だった。美人系ではなく、可愛い系の人。肉付きがよく、そのふっくらとしている丸さが、より魅力的に見える絶妙なライン。そして何より、人と見間違うくらいだった。
でも――イエリオの両親とも、フィジャの両親とも、決定的に違うのは、わたしのことを、あまり歓迎していない様子なところ。
嫁いびりをしてきそうなほど険悪、というわけではないが、なんとなく、良く思っていないのが感じられる。イエリオのときは手放しで喜ばれ、フィジャのときは分かりにくくはあったが問題なく受け入れてくれたから、余計にそう感じるのかもしれない。
少し重い空気の中、イナリが口を開く。
「彼女はマレーゼ。まだ家が建ってないし、首輪を送りあってないから、婚約状態だけど――僕の、嫁になる人だよ」
イナリの言葉に、イナリの母親の眉が、ぴくっと動いた。
わたしがこの場にいる時点で察してはいただろうに、それでも、イナリの口からハッキリと言われるのでは、また違うのだろう。
「あ、あの、よろしくお願いします」
わたしは、イナリの両親からなんとも言えない視線を受けながら、軽く頭を下げた。イナリを溺愛していて、どこぞの女に取られてしまうのが嫌、というのが分かればハッキリしていたのだが、どうにも、それだけじゃないように感じる。
それでも、わたしはそのくらいでひるんでなんかいられない。皆を家族として大切にする、と決めた以上に、わたしが、みんなと一緒にいたいから。
「――マレーゼさん、だったかしら」
ずっと黙っていたイナリの母親が、口を開く。
「あなた、本当にいいの?」
それは、なにも嫌悪感から、とか、そう言うわけではなく――ただただ、本当に疑問を感じたから聞いた、という風だった。
12
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる