ヒノキの棒と布の服

とめきち

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第五十七話 王国の思惑

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 マリエナの森は、多数の冒険者や陣借り者の手で伐採され、その姿を変えて行った。
 魔物の暴走で森から魔物がいなくなったため、安全に作業が進み、区画割りに寄る作業の競争で予定より早く進んだのだ。

「お屋形さま~、こちらの伐採も終了です。」
「根っこはひり出したか?」
「へい、あとは移動するだけです。」
「わかった。」
 カズマは、グラビティの魔法で根っこを浮かし、広場へ移動させる。
 グラビティのコントロールを間違うと、空の彼方に飛び去ってしまうので、慎重にコントロールする。
 レビテーションとどう違うのかと言われるが、向こうは無理矢理浮かすので、魔力の消費が激しいと言う難点がある。

 微妙なコントロールが要求されるが、こちらの方が効率はいい。
 ごばっと、根っこが持ち上がり、地面には大穴があいている。
「埋めろ埋めろ!」
 この区画の班員が、寄ってたかって穴を埋める。
 何十本と言う根っこを運び出すと、そこにはモグラたたきのように穴がぼこぼこと開いているのだ。
 この穴を埋める作業も、けっこうな重労働だが、陣借り者も文句を言わずに働いている。
 なんと言っても、ここでの働きが、後の士官に影響する。
 辛抱の足りない奴は、三日と空けずに逃げ出してしまった。

「あいつらは、根性がなかったのさ。」
 あっけらかんとしたものだ。
 人間だれしも安定した生活を望むものだ。
 マリエナの森に、初めて来た時にはまだ一〇ヘクタールほどしか開いていなかった森が、すっかり耕地になっている。
 向こうにある台地に向かって、耕地が広がっているのだ。
 その向こうは、また森だが。
 魔物が襲ってこない安全地帯なのはありがたい。

 ゲオルグ=ベルンは、スコップ片手に笑う。
「こんな短期間で、ここまで開発できるなんて、考えられん。お屋形さまの魔法あってのことだよ。」
「そりゃまあ、伯爵はオシリスさまの加護があるからな。」
 マルソーは、笑って穴を掘る。

「なんだそりゃ?」
 ゲオルグは、横を向いて聞いた。
 マルソーは、首をひねる。
「あ?聞いてねえ?教会の中庭に祠があるだろう。」
「ああ。」
「あそこの祠は昔からあったそうだが、そこでお屋形さまは神託を受けたんだよ。」
「へえ!そこまでは知らなかった。」
「だから、この森を開けと言われた時に、すぐに受けたんだ。」

「なるほどねえ、もともとこの土地の守り人ってことか。」
「そうなるのかな。」
「すげえな、そいつは。」
「だから、俺たちはお屋形さまを盛りたてることにしたんだ。」
「ふうん、お前たちはマゼランの冒険者だろう?」
「そうだよ、それからお屋形さまの弟子でもある。」
「あんたの方が年上だろうに。」
「そんなもん、関係ねえ。技術のある奴は、みんな師匠だ。」
「ほえ~。」

「ま、一番弟子はあの子だけどな。」
 そこには、木の根っこを魔法で掘りだしているマレーネがいた。
「あの娘?」
「ああ、今では根っこ堀りにかけては、あの子が一番うめえ。」
「まあ、否定はせんが。」
「あの子に土ボコを教えたのが、お屋形さまさ。」
「へえ~。」

『メシだぞ~!』

 昼を告げる声が聞こえた。

「おい、行こうぜ。」
「おう。」
 今や、マルソーもジャックも、カズマの家臣気取りである。

「お師さま~。」
 エディットがかけてきた。
「おう、エディット。」
「ごはんが来たそうですよ。」
「そうか、今行く。」
 カズマは、根っこを運びこんで、手をはらった。

 カズマは、大きな樽に満々と水を出して、皆に手を洗わせた。
「ほ~い、手を洗えよ~、飯の前には手を洗うんだぞ。」
「「「へ~い。」」」
 地道に衛生観念を植えている。
 ゲオルグは、手を洗いながら聞いた。
「お屋形さま、手を洗うにはなにか理由があるんですかね?」
「体に悪い悪魔は、土の中にはいっぱいいるんだ。手を洗うと、そいつらが流されて病気にならない。」
「へえ!そんなことが…」
「だから、飯を食う前には手を洗って、毒が体に入らないようにするんだ。」
「なるほどねえ。」

 カズマは、賦役と言う観念がない。
 …と言うか、賦役と言う納税形態の経験がないので、よくわかっていないのだ。
 だから、大鍋で雑炊を作って、作業員に持ってきたら、みんな銭を出す。
「いくらだ?」
「あほう、タダだよ。」
「なんでだ?」
「作業してるんだ、メシくらい出すさ。」
「信じられん!」
 てなものである。

 働いたらメシが食えて、そのうえ賃金までくれる。
 集まった者たちは、こんな賦役は聞いたこともなかった。
 そのうえ、一〇時と三時に休憩が入る。
「こんなに楽してええんだべか?」
「いいんだよ、その分仕事ははかどってるだろう。」
「はあ、確かに。」
 だらだら仕事をしているより、確実に作業は進んでいた。
 今日は、イノシシ肉の入った麦雑炊とパンである。
 ま、濃い目のシチューみたいなもんだよ。

「魔道士隊まえへ~。」
「「「おう!」」」
「起こせ~。」
 ずばばばばば
 魔道士が集まって、一気に土ボコをかけると、あたり一面が平らになって石が上に出てくる。
 賦役部隊がそれを集めて、ネコ車で運ぶのだ。
 寡婦や孤児が、それを一個ずつカマスに詰めて行く。
 流れ作業である。

「メー、カマスもっといで。」
「はーい。」
 寡婦も孤児も、呼吸が合って来たようだ。
「おばちゃん、これでいい?」
「上等上等、さ、石を詰めるよ。」
「はーい。」
 二人は、テキパキとカマスに石を放り込む。

 できた土嚢は、用水の護岸に積んで行く。

 適材適所、王都から流れてきた者たちは、すでに三〇〇〇人ほども働いている。
 一面、森であった場所は、すでに三〇ヘクタールあまり、平地となって耕作を待っている。
「おーい、ロープ頼むぜ。」
「おう、どこだ?」
「ここからあそこに向けて、まっすぐ張りたい。」
「ちょっとまてよ、用水が曲がらねえか?」
「そうか?」
「ちょっとこの槍、持っててくれ。」
「こうか?」

 男は反対側に走って行って、もう一本の槍を立てた。
「ああ、もう少し右、右!」
「ここか?」
「行き過ぎた、あと二〇センチ左。」
「ここか?」
「そうだ。」
「もう一本槍がいるな。」
「もってくる。」

 男たちは、槍と言っているが、どう見たって赤白のアレである。
 土色と森の色の中では、赤白のポールは良く目立つ。
「お屋形さまは、よくこんなこと考え付くなあ。」
「まったくだ、しかしこれは見やすいな。」
「ほんとうだ、仕事が早いわ。」
「うむ。」
 ぼそぼそ言いながら、水路はまっすぐに修正されている。

 母子寡婦孤児、みんなに仕事がある。
 スラムの手足の不自由な者にも、割り振る仕事がある。
 住環境は、まだまだ仮小屋が多いが、住環境は少しずつ改善されている。

※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

 王国宰相は、戸惑っていた。
「なに?マリエナの森に入ってまだ三カ月にならんぞ。」
「はい、しかしすでに村ができつつあります。」
「ほう。」
「賦役に入っているのは三〇〇〇人あまりになり、作業小屋もそれに合わせて一〇〇棟以上が見られます。」
「それはまた…」
「開発は三〇ヘクタールはあろうと思われますが、まだ切り倒しが進んでいます。」
「そうか、今年すぐに耕作とは言えんが、五年先にはかなりの増産が見込めるな。」
「御意。」

「なんといっても、ここ三年の豊作で、兵糧はたまる一方だ。いつなんどき戦が起こっても、びくともしまい。」
「御意。」
「ごくろう、引き続き調査の手は緩めるな。」
「かしこまりました。」
「思ったより拾い物かもしれぬな、魔物一万匹は伊達ではないか…」
 トルメス宰相は、右手であごをなぜた。
「王都には、食料はいくらあっても困らんのだ。」

 まあ、時止めの革袋があれば、兵糧は悪くならないからねえ。
 めっさお高いけどね。
「その分は、数で対処も可能だろうよ。なにせい革袋だ。」
 そりゃそうだ。

 コメは一〇アール当たり五〇〇㎏採れる計算だから、一ヘクタールで五トン。
 一石一五〇㎏計算で。
 三〇ヘクタールで一五〇トン。
 つまり千石
 多いか少ないかは別にして、国人領主程度の土地は開発できている。
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