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第百十六話 事後報告
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オルレアン公爵領最大のタブーに手を突っ込んだカズマであるが、これには国王陛下も青ざめた。
「かかかカズマ!」
そう言って、絶句したという。
国王にしたら、叔母さんだからな。
少しは『情』ってものもあるのだろう。
「あ?王国のお荷物を片付けてやったんや、なにが文句おす?」
いやまあ、文句と言うか、大丈夫なのか?
「先代はいざ知らず、当代の国王陛下が、放置しはったのが最大の汚点どす。」
そりゃまあ、そうですが。
「むしろ、先代国王の喪に服して、おとなしゅうしてはるなら強硬手段はとらへんかったわ!」
はあ、はいはい。
「国王陛下も、もう少しやりようがあったんとちがいますか?弟に丸投げて、頭おかしいとちゃうの?」
「そこまで言う?」
「あたりまえや、長男ならそこまで面倒みよし。」
「まあ、そうですね。」
「分にそぐわぬ行動が、自分の首を絞めるのどす。ようわからはったやろ。」
これには国王も二の句が継げなかった。
「とにかくあとは、先代陛下の菩提を弔ってもらいまひょ。」
カズマ~
「これで、わが領地の血税を食いつぶすダニはおらへんくなったし。」
だ、ダニて…
そこまで言う?
「ダニどすがな、国家においてもダニどすやろ。」
「当代はんが始末つけへんかったのがアカンのどす。」
先代が亡くなった時点で、喪に服して修道院に入れるとか、やりようはいくらでもあったはず。
そして、彼女らのわがままを増大させたのは、オルレアン公爵の甘やかし。
華やかな世界が楽しいのはわかるが、四〇越えてまだやるのは度を越えたスキモノと言われる。
世間の噂なんて、本人には聞こえてこないものだ。
自分たちの評判が地面に落ちて、腐って穴掘ってるとは思ってもみなかったようだ。
社交界なんて、華やかで嬉しいのは十代のころだけだよ。
そのうち、権謀術数うずまく政治の場だとわかりそうなものだ。
もちろん、そこには婚姻による閨閥の形成も視野に入っているので色目流し眼コワイコワイ。
ね、楽しい場所じゃない。
そんな表の顔だけを、オルレアンに持ちこんで飲めや歌え?
あのねえ、ぜんぜん領地のタシになってへんやないの。
まったくアホなオバハンたちだ。
だからヨメの貰い手もなかった。
使えないから。
だから鬱々と過ごした。
ヨメに行けないから。
これ、完全に当代国王の責任である。
「ちっ、やっぱり王様はワイバーンに喰われた方が良かったかもせえしまへんな。」
「また~お屋形さまは、お口が悪うございますねえ。」
アリスティアにからかわれて、ちょっと口がとがるカズマである。
「アリスさま、ワイバーンてなんどす?」
つい、アリスティアに引っ張られて、エリシアも王都訛りが炸裂する。
「このまえ、王宮に突っ込んではったやないですか。」
「ああ、あれどすか。」
「お屋形さまの分析やと、あの兜には魔法の中継機能があって、ファイヤーボールを吐いてブレスに見えるよう偽装してはったんやて。」
「ワイバーンがブレス?それは聞いたことおへん。」
「どすやろ?で、調べてみたらそう言う機能が見つかったそうやよ。」
「なるほど。」
カズマはアリスティアに向かって口を開く。
「それでもあの兜が溶けるほどの高温を出せる魔道士が、西側にはいてるんやな。」
アリスティアは、カズマの口にクッキーを放り込んだ。
細い、指の形のクッキーである。
「む、これクリーム分離したんか?」
「そうどす。」
「おいしおす。」
「エリシアはんも食べとーみ。」
アリスティアにクッキーを口に運ばれ、目を白黒させる。
「あ、すごくミルクの香りがしはる。」
「どすやろ、これは牛のミルクを遠心分離かけたんどす。」
「遠心分離…」
エリシアは首をひねりながらクッキーを見た。
「まあまあ、そういうもんやと思いなはれ。」
「おいしいは正義どす。」
マリア=ザギトワは、三人の訛りをうらやましく眺めた。
「あれ、あたしたちの訛りだと、ものすごく聞こえにくいのよね。」
けてけてけ~である。
極端に口を開けないで話すので、地元の人以外は何を言っているのかわからない。
そばかすの浮いた鼻にしわを寄せて、ちょっと顔をしかめた。
閑話休題
三婆問題は、王室に少なくない衝撃を与えた。
あまり好き勝手やってると、シメちゃうよ。
…という恐怖が、貴族社会に激震をもたらしたのだ。
一介の成り上がりものが、王家の血筋に手を出した。
これは考えられないことだ。
代々の貴族には、恐れ多くて手が出ない。
たまたま、カズマが娘婿だったので、オルレアンに責任追及は出せないのだ。
ただし、あまりにも放蕩三昧だったので、王室としてもスキャンダルになる。
恐ろしいことに、未婚の庶子がいたらしい。
離宮に隠して育てていたようだが。
姉にも妹にも話せなかった。
どこまでアブナイおばはん達だったのか。
だれも離宮には足を運ばないので、だれも知らない子供がいたらしい。
「子供…」
国王は、頭を抱えた。
「父親はだれか?」
宰相トルメスは、頷いて書類を見せた。
「こんな大物の息子か…」
「どうされます?」
「幸い三男だ、親子ともども処分するしか…」
王位継承権のある子供をポコポコ産まれてはかなわん。
「放蕩三昧の結果がこれか。」
「御意」
二人は暗い部屋の中で、がくりと首が垂れた。
「私の責任か…」
国王は迷いに迷っている。
「陛下のおっしゃったとおり、闇に処分が相当かと。」
「本当に、それを知る者は!」
「全員、処分するしかありません。」
つまり、子供が生まれたことを知る者は、すべていなかったことにされる。
オルレアン公爵邸の離宮に勤めていたメイド、執事などは時をおかず病死してしまった。
領都オルレアンには、三婆の呪いとか噂が流れたが、人の噂も四十九日(なんだその縁起の悪い数字は!)
いや、七十五日。
日々の行事や事件に紛れてそんな話は立ち消えて行った。
次女ビビアンも、クレルモンフェランの山岳修道院に入ってすぐに病を得て儚くおなりになった。
アメリアとキャサリンは青くなって、自分の化粧料にも異議を唱えることもなくなった。
普通に生きればあと三十年~四十年は命があるのだから。
侍女たちに比べると、さすがに内情を知っているおふた方だが、始末する訳にもいかなかった。
この後、お二人は真摯に祈りをささげる生活になったそうだ。
国王陛下は、すぐに迫る諸事に、そんなことは忘却の彼方に行ってしまった。
西側は、どんな手をつかってくるのかわからない。
このイシュタール大陸と言うのは、なんとなく遅れているので、諜報と言う考えがない。
ないというのか、情報の大切なことがわかっていないのだ。
カズマは、トラを使って『カルカン族』を走らせているが、その重要性はゴルテスも気づいていない。
カルカン族は、いろいろな街の諸情報を持っているが、仲間内で交換するだけだった。
カルカン族自身にも、情報戦の重要性などに考えは至っていなかった。
だからトラは、なんでこんなこと聞きたいのかにゃ?と思っていた。
「トラ、タマとブチとミケは戻ったか?」
「いえ、まだですにゃ。」
「そうか。」
「あ、キジタがもどってますにゃ。」
「そうか、呼べるか?」
「はいにゃ。」
トラは、低く唸った。
「にゃああああ」
その声を聞きつけたのか、キジタの薄茶色い耳がぴくぴくと動く。
やがてキジタがやってきた。
薄い茶色のトラジマ。
少し細めのオスである。
「呼んだかにゃ。」
「お屋形さま、キジタですにゃ。」
「おお、キジタよくきはったな、近う近う。」
「はは」
キジタは、三〇センチほど前に出た
「それでは聞こえん、もっと近う。」
「はっ」
さらに五〇センチほど前に出た。
「ここやここ。」
カズマは、イスの前を指さしている。
キジタは、トラを見返した。
トラはうんうんと頷く。
カズマの前に出て、ぴしっと立つが、しっぽがぴくりぴくりと揺れている。
「俺は市場中心で調べてきました。」
「市場?」
「はい、オルレアンの街には、三つの公設市場があります。」
「うん。」
「サンカンタン、レ・アル、ムフタールに行って、話を聞いております。」
「それで?」
「現況、足らぬものはないとのことですが。」
「ですが?」
「農家が領都へ入るまでに、私設の関があって、関料が高いので自然と物価が跳ね上がっております。」
「ふむ、そうか。ごうろうさんやった。」
カズマは懐から金貨を出して、キジタに持たせた。
「お、お屋形さま!これは多すぎます。」
「いや、ええ。持っていき。」
「お屋形さま。」
「お屋形さまは、その価値があるとお認めにゃ。」
トラは笑って見せた。
キジタは恐縮してカズマの前を下がった。
「キジタは知らずともよい。のう、トラ。」
「トラはどこまでも、お供しますにゃ。」
「ええ子や。」
カズマは、トラのあたまをなでる。
トラは目を細めて、それを受けた。
「ゴルテス、ロイブルを呼べ。」
「はは。」
トラは、するすると下がった。
カズマは、ソファに深く座り込んだ。
「ふう、ここも難題が山積みかや。」
「ほほ、お屋形さまらしくもない。難題は、砕いて進みなはれ。」
アリスティアは、すまして隣に浅く座った。
ティリスがいないと、カズマを盛り立てるのはアリスティアの仕事だ。
「そんなにあおっては困ります、聖女どの。」
「おや、エリシアはん。」
「旦那さまが苛烈なことはわかりますけど、やりすぎは恐怖政治どすえ。」
「おっしゃいますこと。」
アリスティアは、にこにこと答える。
「レオノール、マルソーとジャックを呼べ。」
部屋の隅に控えていたマリア=レオノール=カリフが、すぐに部屋を出る。
「あての家臣が屋敷の掃除ですますはずがないやろ。」
「そうどすな、ミシェルとヨール、オスカーとヘンリー・アランも来るように言っておくれやす。」
「がってん。」
ラルが駆け出して行った。
「別にあれはそんなことせんでもええんやけどな。」
エディットとマレーネもやってきた。
「あ~、ゲオルグ=ベルンとマルノ=マキタがおったらなあ。」
「呼びますか?」
カズマのボヤキに、アリスティアが聞く。
「いや、まだ領地の開発をがんばってはる。ここの人間を使うわ。」
「かしこまりました。」
「お屋形さま、使ってほしいものがおります。」
エリシアがカズマの横から声をかけた。
「ほう?」
「トーヴァン男爵の次男ですが、今年十七になります。」
「おやまあ、男爵はなんと?」
「ぜひおそばでと。」
「なんや、本人連れてきてはるの?」
「はい、兵舎に部屋を与えております。」
「そうか、呼びよし。」
「はい。」
エリシアは外に声をかけた。
「セバスチャン」
「はは」
「モリス=トーヴァンを呼んで。」
セヴァスチャンも、執事を動かした。
「なかなか館も動き出したねえ。」
カズマは満足そうである。
「かかかカズマ!」
そう言って、絶句したという。
国王にしたら、叔母さんだからな。
少しは『情』ってものもあるのだろう。
「あ?王国のお荷物を片付けてやったんや、なにが文句おす?」
いやまあ、文句と言うか、大丈夫なのか?
「先代はいざ知らず、当代の国王陛下が、放置しはったのが最大の汚点どす。」
そりゃまあ、そうですが。
「むしろ、先代国王の喪に服して、おとなしゅうしてはるなら強硬手段はとらへんかったわ!」
はあ、はいはい。
「国王陛下も、もう少しやりようがあったんとちがいますか?弟に丸投げて、頭おかしいとちゃうの?」
「そこまで言う?」
「あたりまえや、長男ならそこまで面倒みよし。」
「まあ、そうですね。」
「分にそぐわぬ行動が、自分の首を絞めるのどす。ようわからはったやろ。」
これには国王も二の句が継げなかった。
「とにかくあとは、先代陛下の菩提を弔ってもらいまひょ。」
カズマ~
「これで、わが領地の血税を食いつぶすダニはおらへんくなったし。」
だ、ダニて…
そこまで言う?
「ダニどすがな、国家においてもダニどすやろ。」
「当代はんが始末つけへんかったのがアカンのどす。」
先代が亡くなった時点で、喪に服して修道院に入れるとか、やりようはいくらでもあったはず。
そして、彼女らのわがままを増大させたのは、オルレアン公爵の甘やかし。
華やかな世界が楽しいのはわかるが、四〇越えてまだやるのは度を越えたスキモノと言われる。
世間の噂なんて、本人には聞こえてこないものだ。
自分たちの評判が地面に落ちて、腐って穴掘ってるとは思ってもみなかったようだ。
社交界なんて、華やかで嬉しいのは十代のころだけだよ。
そのうち、権謀術数うずまく政治の場だとわかりそうなものだ。
もちろん、そこには婚姻による閨閥の形成も視野に入っているので色目流し眼コワイコワイ。
ね、楽しい場所じゃない。
そんな表の顔だけを、オルレアンに持ちこんで飲めや歌え?
あのねえ、ぜんぜん領地のタシになってへんやないの。
まったくアホなオバハンたちだ。
だからヨメの貰い手もなかった。
使えないから。
だから鬱々と過ごした。
ヨメに行けないから。
これ、完全に当代国王の責任である。
「ちっ、やっぱり王様はワイバーンに喰われた方が良かったかもせえしまへんな。」
「また~お屋形さまは、お口が悪うございますねえ。」
アリスティアにからかわれて、ちょっと口がとがるカズマである。
「アリスさま、ワイバーンてなんどす?」
つい、アリスティアに引っ張られて、エリシアも王都訛りが炸裂する。
「このまえ、王宮に突っ込んではったやないですか。」
「ああ、あれどすか。」
「お屋形さまの分析やと、あの兜には魔法の中継機能があって、ファイヤーボールを吐いてブレスに見えるよう偽装してはったんやて。」
「ワイバーンがブレス?それは聞いたことおへん。」
「どすやろ?で、調べてみたらそう言う機能が見つかったそうやよ。」
「なるほど。」
カズマはアリスティアに向かって口を開く。
「それでもあの兜が溶けるほどの高温を出せる魔道士が、西側にはいてるんやな。」
アリスティアは、カズマの口にクッキーを放り込んだ。
細い、指の形のクッキーである。
「む、これクリーム分離したんか?」
「そうどす。」
「おいしおす。」
「エリシアはんも食べとーみ。」
アリスティアにクッキーを口に運ばれ、目を白黒させる。
「あ、すごくミルクの香りがしはる。」
「どすやろ、これは牛のミルクを遠心分離かけたんどす。」
「遠心分離…」
エリシアは首をひねりながらクッキーを見た。
「まあまあ、そういうもんやと思いなはれ。」
「おいしいは正義どす。」
マリア=ザギトワは、三人の訛りをうらやましく眺めた。
「あれ、あたしたちの訛りだと、ものすごく聞こえにくいのよね。」
けてけてけ~である。
極端に口を開けないで話すので、地元の人以外は何を言っているのかわからない。
そばかすの浮いた鼻にしわを寄せて、ちょっと顔をしかめた。
閑話休題
三婆問題は、王室に少なくない衝撃を与えた。
あまり好き勝手やってると、シメちゃうよ。
…という恐怖が、貴族社会に激震をもたらしたのだ。
一介の成り上がりものが、王家の血筋に手を出した。
これは考えられないことだ。
代々の貴族には、恐れ多くて手が出ない。
たまたま、カズマが娘婿だったので、オルレアンに責任追及は出せないのだ。
ただし、あまりにも放蕩三昧だったので、王室としてもスキャンダルになる。
恐ろしいことに、未婚の庶子がいたらしい。
離宮に隠して育てていたようだが。
姉にも妹にも話せなかった。
どこまでアブナイおばはん達だったのか。
だれも離宮には足を運ばないので、だれも知らない子供がいたらしい。
「子供…」
国王は、頭を抱えた。
「父親はだれか?」
宰相トルメスは、頷いて書類を見せた。
「こんな大物の息子か…」
「どうされます?」
「幸い三男だ、親子ともども処分するしか…」
王位継承権のある子供をポコポコ産まれてはかなわん。
「放蕩三昧の結果がこれか。」
「御意」
二人は暗い部屋の中で、がくりと首が垂れた。
「私の責任か…」
国王は迷いに迷っている。
「陛下のおっしゃったとおり、闇に処分が相当かと。」
「本当に、それを知る者は!」
「全員、処分するしかありません。」
つまり、子供が生まれたことを知る者は、すべていなかったことにされる。
オルレアン公爵邸の離宮に勤めていたメイド、執事などは時をおかず病死してしまった。
領都オルレアンには、三婆の呪いとか噂が流れたが、人の噂も四十九日(なんだその縁起の悪い数字は!)
いや、七十五日。
日々の行事や事件に紛れてそんな話は立ち消えて行った。
次女ビビアンも、クレルモンフェランの山岳修道院に入ってすぐに病を得て儚くおなりになった。
アメリアとキャサリンは青くなって、自分の化粧料にも異議を唱えることもなくなった。
普通に生きればあと三十年~四十年は命があるのだから。
侍女たちに比べると、さすがに内情を知っているおふた方だが、始末する訳にもいかなかった。
この後、お二人は真摯に祈りをささげる生活になったそうだ。
国王陛下は、すぐに迫る諸事に、そんなことは忘却の彼方に行ってしまった。
西側は、どんな手をつかってくるのかわからない。
このイシュタール大陸と言うのは、なんとなく遅れているので、諜報と言う考えがない。
ないというのか、情報の大切なことがわかっていないのだ。
カズマは、トラを使って『カルカン族』を走らせているが、その重要性はゴルテスも気づいていない。
カルカン族は、いろいろな街の諸情報を持っているが、仲間内で交換するだけだった。
カルカン族自身にも、情報戦の重要性などに考えは至っていなかった。
だからトラは、なんでこんなこと聞きたいのかにゃ?と思っていた。
「トラ、タマとブチとミケは戻ったか?」
「いえ、まだですにゃ。」
「そうか。」
「あ、キジタがもどってますにゃ。」
「そうか、呼べるか?」
「はいにゃ。」
トラは、低く唸った。
「にゃああああ」
その声を聞きつけたのか、キジタの薄茶色い耳がぴくぴくと動く。
やがてキジタがやってきた。
薄い茶色のトラジマ。
少し細めのオスである。
「呼んだかにゃ。」
「お屋形さま、キジタですにゃ。」
「おお、キジタよくきはったな、近う近う。」
「はは」
キジタは、三〇センチほど前に出た
「それでは聞こえん、もっと近う。」
「はっ」
さらに五〇センチほど前に出た。
「ここやここ。」
カズマは、イスの前を指さしている。
キジタは、トラを見返した。
トラはうんうんと頷く。
カズマの前に出て、ぴしっと立つが、しっぽがぴくりぴくりと揺れている。
「俺は市場中心で調べてきました。」
「市場?」
「はい、オルレアンの街には、三つの公設市場があります。」
「うん。」
「サンカンタン、レ・アル、ムフタールに行って、話を聞いております。」
「それで?」
「現況、足らぬものはないとのことですが。」
「ですが?」
「農家が領都へ入るまでに、私設の関があって、関料が高いので自然と物価が跳ね上がっております。」
「ふむ、そうか。ごうろうさんやった。」
カズマは懐から金貨を出して、キジタに持たせた。
「お、お屋形さま!これは多すぎます。」
「いや、ええ。持っていき。」
「お屋形さま。」
「お屋形さまは、その価値があるとお認めにゃ。」
トラは笑って見せた。
キジタは恐縮してカズマの前を下がった。
「キジタは知らずともよい。のう、トラ。」
「トラはどこまでも、お供しますにゃ。」
「ええ子や。」
カズマは、トラのあたまをなでる。
トラは目を細めて、それを受けた。
「ゴルテス、ロイブルを呼べ。」
「はは。」
トラは、するすると下がった。
カズマは、ソファに深く座り込んだ。
「ふう、ここも難題が山積みかや。」
「ほほ、お屋形さまらしくもない。難題は、砕いて進みなはれ。」
アリスティアは、すまして隣に浅く座った。
ティリスがいないと、カズマを盛り立てるのはアリスティアの仕事だ。
「そんなにあおっては困ります、聖女どの。」
「おや、エリシアはん。」
「旦那さまが苛烈なことはわかりますけど、やりすぎは恐怖政治どすえ。」
「おっしゃいますこと。」
アリスティアは、にこにこと答える。
「レオノール、マルソーとジャックを呼べ。」
部屋の隅に控えていたマリア=レオノール=カリフが、すぐに部屋を出る。
「あての家臣が屋敷の掃除ですますはずがないやろ。」
「そうどすな、ミシェルとヨール、オスカーとヘンリー・アランも来るように言っておくれやす。」
「がってん。」
ラルが駆け出して行った。
「別にあれはそんなことせんでもええんやけどな。」
エディットとマレーネもやってきた。
「あ~、ゲオルグ=ベルンとマルノ=マキタがおったらなあ。」
「呼びますか?」
カズマのボヤキに、アリスティアが聞く。
「いや、まだ領地の開発をがんばってはる。ここの人間を使うわ。」
「かしこまりました。」
「お屋形さま、使ってほしいものがおります。」
エリシアがカズマの横から声をかけた。
「ほう?」
「トーヴァン男爵の次男ですが、今年十七になります。」
「おやまあ、男爵はなんと?」
「ぜひおそばでと。」
「なんや、本人連れてきてはるの?」
「はい、兵舎に部屋を与えております。」
「そうか、呼びよし。」
「はい。」
エリシアは外に声をかけた。
「セバスチャン」
「はは」
「モリス=トーヴァンを呼んで。」
セヴァスチャンも、執事を動かした。
「なかなか館も動き出したねえ。」
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