メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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第一章『伝説の始まり』

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 会議はその後もつつがなく進んでいった。船内に置かれている宇宙食の分配法、船内に整備されている人工畑の扱い方などを女性からレクチャーされた。
 これらの食糧の管理もカエデが行なってくれるので心配はいらない。

 では、どうしてわざわざこの場で食料のことをレクチャーをしたのかというと、

「大津さんが宇宙に居るという不安からご飯をパクパクしちゃわないか不安だったからわざわざ伝えたんですよ!」

 という至極もっともなものだった。

 人間というのは不安に駆られると余計に食料を欲しがるものだ。
『ストレスに負けてつい……』という台詞は古今東西で聞かれてきた言葉だ。

 修也とて人間である。誘惑に負けることがないとは決して言い切れなかった。
 それ故にどうしても説明を受ける必要があったのだ。船内に備蓄されている食料がいかに大事なものであるかということが分かれば手を付ける気が薄れるという考えから出たもので間違いない。

 ご苦労なことだ。修也が苦笑していると、ジョウジが椅子の上から立ち上がった。

 ジョウジの説明は交易星と呼ばれる星々についての説明だった。交易星はこの百年間の間に二十から三十ほどの規模で見つかっている星の名称である。

 奇妙なことに人類がこれまで発見し、開拓したどの星にも知的生命体は存在するのだが、どの星も例外なく地球の文明よりも低いのだ。
 広大な宇宙だというのに銀河系には地球と同程度もしくは地球以上の科学力を持つ星は見つかっていない。

「ただし可能性はゼロではありません。宇宙には数多の星々が存在します。アメリカの天文学者フランシス・ニックの論文によれば二十世紀の頃から地球には宇宙人と思われる知的生命体の来訪が確認されているようです」

 ジョウジは自身の中に存在する人工知能を用いて『知的生命体』とやらの存在をミーティングルームの中にいた面々に示唆していった。

 しばらくの間は教会に向かう素足の婦人からストッキングと花束を奪おうとした小人宇宙人の話やら夫妻を誘拐してその記憶を盗み取ろうとした宇宙人の話になった。

 ダラダラと無意味な話が続くように思われだが、

「まぁ、そういう恐ろしい宇宙人が居るかもという可能性の話ですよ。みなさんこわ~い宇宙人と出会われた際には十分気を付けてくださいねー」

 と、水色のワンピースの女性によって強引に話を打ち切られてしまった。
 その後は宇宙人よりも現実的な、宇宙海賊の話だった。

「う、宇宙海賊の撃退も私の仕事なんですか!?」

 修也にとっては寝耳に水の話だ。宇宙海賊というのは交易路の中に稀に出現する逸れものたちの総称である。
 専門家の分析によれば宇宙海賊となるのは百年以上前から締め付けが厳しくなり、今や地上では活動ができなくなった暴力団やそれに追随する不良たちであるそうだ。

 国によって追い詰められた暴力団たちはイタチの最後っ屁とばかりに残っていた資金をふんだんに使い締め付けの厳しくなった地球から宇宙へと拠点を変えたのだった。今では略奪した金やいわゆるみかじめ料などで最新鋭の宇宙船や兵器を買って更なる大金をせしめているのだから余計に性質が悪い。

 こうした宇宙海賊による交易路の妨害や貿易船からの略奪は日本のみならず世界各国における問題となっていた。
 そんな厄介な宇宙海賊撃退の担当は当然ながら『メトロイドスーツ』の着用を『マリア』によって命じられた大津修也の仕事となる。

 そのことが想像できなかったはずはなかったのだが、不思議なことに修也の頭からはすっかりと抜け落ちていた。

「無重力の空間での戦いになりますから気を付けてくださいね。大津さん」

 水色のワンピースを着た女性は可愛らしい笑みを浮かべながら言った。

「わ、分かりました」

 了承はしたものの、修也の回答はどこかぎごちないものだった。緊張と不安が混じったような独特な声だった。
 修也の中にある宇宙海賊の知識はニュースで聞いたり、映画やテレビで観るくらいだったので、実際に対峙するとなるとやはり緊張もする。

 よくある宇宙海賊モノの映画に登場する頭のネジが吹っ飛んだような相手に出会わないことを祈りたい。
 そう切実に願ってはいたが、それでも遭遇する時には遭遇するものなのだろう。
 ここまでくれば腹を括るより他にない。

 とにかく、三つの星との交易並びにメトロポリス社が社運を賭けているという新惑星開拓事業はいよいよ明日始まるのだ。気を引き締めなくてはなるまい。
 修也が拳を強く握り締めていると、そんな修也の心境を解すように水色のワンピースを着た女性が言った。

「まぁ、とにかく出発は明日ですから、大津さんは今日のところは帰って家族サービスでもしてあげてください」

 ジョウジの言葉は相変わらず淡々としていた。アンドロイドであるから仕方がない面はあったとしてももう少し労るように言ってほしいものだ。

 修也は苦笑しながらメトロポリスを後にした。普段ならばこのまま真っ直ぐ帰るところなのだが、今日は地球にいられる最後の日だ。せっかくなので修也は立ち止まって夕焼けを眺めることにした。普段ならば見上げることもない空の上をゆっくりと見つめていく。

 西に傾いた陽の光がビルの窓辺に反射し、宝石箱のような美しさを醸し出していた。

「……あぁ、綺麗だなぁ」

 修也は美しい夕焼けを前に感嘆の声を上げた。
 退勤前に素晴らしい景色を見たことによって、すっかりと気分も良くなったらしい。通勤カバンを小学生が手さげ袋を動かすように大きく上下に動かしながら駅まで向かって行った。

「フフン、フフン」

 普段ならば風呂に入る時以外には口ずさまない鼻歌まで歌っている。そのせいか、他の乗客たちからは真白い目で見られていた。

 だが、気にすることなく修也は自宅へと戻っていった。

「ただいま!!」

 玄関で出迎えてくれた妻に向かって修也は明るい声で叫んだ。

「あなたどうしたの? どうしてそんなに機嫌がいいの? 私にも教えてよ」

「フフッ、帰りにいいものを見たんだよ」

 修也は妻に鞄を手渡すと、帰り道に夕焼けを見たことを嬉々とした顔で話していった。

「子どもの頃は学校の帰りもしくは塾に行く途中に夕焼けを見たもんだよ。地球とのお別れの前に目に焼き付けておいてよかったよ」

「フフッ、それはよかったね」

 妻は可愛らしい顔で笑う。彼女も昔見た夕焼けの記憶を思い返しているのだろう。懐かしいと言わんばかりに 目を細めていた。

「今日の夕食は?」

「あなたの好きなエビフライの盛り合わせだよ」

 修也はそれを聞いて心の中で密かに握り拳を作っていた。
 エビフライは昔から修也が好きだった料理だ。恐らく明日から宇宙に旅立つ自分のために張り切って料理を用意してくれたのだろう。

 ありがたいことだ。修也は早速書斎に向かい、スーツから簡単な部屋着に着替えることにした。
 せっかくの送別記念だ。今夜の夕食にはビールをつけても構わないだろう。

 修也はエビフライを肴にビールを味わえることを楽しみにしていた。
 今日の送別会は非常に盛り上がりそうである。修也はスーツを変えながら鼻歌を歌っていた。
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