メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
106 / 237
第一植民惑星『火星』

16

しおりを挟む
 自身の放った隕石の破片が打ち返されていき困惑したのはアレックスの方であった。

 アレックスは焦りさえ感じていた。自分はここまで追い込まれているにも関わらず、目の前にいる少女は平気で破片を砕き返していくのだ。あり得ない。そんなことがあっていいはずがなかった。

 仮に今の自分がもし目の前の少女と同じ状況であったとしても自分ならば到底真似することはできなかった。
 アレックスはスライムの下で歯軋りをしながら麗俐を睨んでいた。

 腹たち紛れにアレックスは何度も溶岩を放っていくものの、その都度冷静な態度を貫いた麗俐の前に弾き返されてしまったのだ。弾き返された溶岩の岩石が剥がれ、岩石がスライムの体に飛んでいくたびにアレックスは焦りのようなものを感じていた。

 もちろん、こんな攻撃が続いたところでどうにでもなるわけがない。向こうは何もできないのだ。
 溶岩をビームライフルに組み込むことができれば話は別だが、ただ破片を撃ち込んでくるだけであるのならば特に痛くも痒くもない。

 アレックスがそう信じ込んでいた時のことだ。麗俐が打ち返した溶岩の岩石が原型を保ったままアレックスの元へ戻ってきたのだった。
 アレックスは必死に交わしたものの、岩石は左肩を掠めていった。

 と、この時アレックスの左肩に棘のように生えていた岩石の角飾りが粉々に砕かれてしまったのだ。

 飛び散った岩石の角飾りはそのままアレックスの背後にあった岩石にぶつかり、粉々に砕かれていってしまったが、もしあの岩石が直撃していれば自分はどうなってしまったのだろうか。

 アレックスの全身に鳥肌が立っていった。このまま隕石を飛ばしていれば間違いなく、自身の身は破裂だ。
 そうなる前に目の前の少女を完膚なきまでに叩きのめさなくてはならない。
 そのためには強力な力で相手を叩きのめさなくてはいけない。

 決意を固めたアレックスは自身の体全体に溶岩の炎をたぎらせていった。
 全身から湯気が立ち上るほど、今のアレックスの体はマグマで満ち溢れていた。

 アレックスは声を荒げながら麗俐を確実に葬るため全身から湯気のみならずマグマを溢れさせ、その上で両腕に備わった剣を突き付けながら麗俐の元へと向かっていった。

 この時麗俐に対する恐怖と自身の思い通りに事が運ばないという苛立ちのためすっかりと興奮して頭に血が昇っていたアレックスに対して唯一警告の言葉を発したのは彼に取り憑いた山高帽のような姿をした生物だった。

(お前の体からはあまりにもマグマが吐き出され過ぎだ。危険過ぎる。そんなことでは僅かな熱量でお前の体を守るものはなくなってしまうぞ)

「うるせぇぞ! テメェはすっこんでろッ!」

 アレックスは昔からこうだった。人の忠告も聞かずに独断専行を押し進めていく性格なのだ。自分のことを思っての忠告にも耳を貸すことなどなかった。
 それどころかそんな忠告を受けた時の彼の反応はといえば暴力による対応のみであった。

 そのため両親も教師も医者も弁護士でさえ彼を見放した。弁護を放棄したと思えるような態度を見たアレックスは証人席から弁護士に向かって野次を飛ばしたが、刑務官に押さえ掛かられたことによって断念せざるを得なかった。

 だが、出所後に自身の弁護を放棄した弁護士に対する粛清はしっかりと行なった。
 屈辱を受けた報いを返すというのは彼にとっての流儀であったからだ。幸いなことに弁護士の犯罪は通り魔の仕業だとされて捜査の手はアレックスに及ぶことはなかった。

 もし、この時警察がアレックスに追及の手を伸ばしていればここ二週間の間に発生した連続強盗殺人事件は発生しなかったに違いなかった。

 アレックスは山高帽のような姿をした生物からの忠告を完璧に無視した。それどころか、そんなものはどこ吹く風だと言わんばかりに麗俐の元へと突っ込んでいった。

 だが、麗俐は目の前からマグマを全身から吹き流した恐ろしい男が迫ってきているにも関わらず、足を後ろに下がらせるといった逃げようとする素振りなどは見せようとしなかった。
 そのまま無言で迫ってくるアレックスの体に向かってビームソードを突き刺していった。

 アレックスの胴体に対して深くビームソードが突き刺さっていった。その瞬間にビームソードの刃の中へと含まれた熱線がアレックスの体全体に轟いていった。

 もし、この時アレックスが忠告に従って頭を冷やしていればその結果は大きく変わったに違いなかった。

 だが、いくら終わったことを悔いたとしても仕方がない。結果的に麗俐が突き刺した熱がアレックスの体全体へと伝わっていったのだ。
 アレックスの体全体に回っていたマグマのエネルギーがビームソードの刃から伝わった熱によってその熱エネルギーが逆流していくことになった。

 その場にいた全員の耳に「言葉にならぬほどの悲鳴」が聞こえてきた。
 この世が終わるかと感じるほどの大きな声であったので、その場にいた全員の中に深く印象付けられることになってしまった。

 だが、麗俐は心の内に生じた動揺を体からは見せることもせずに、落ち着いた手付きでビームソードの刃をアレックスの体から抜き取っていった。
 そして、そのまま何の感情を抱くこともなくアレックスの体をその場から強く蹴り飛ばしていった。

 限界状態のアレックスに対して麗俐は背中を向けて家族の元へと戻ろうとしていた。
 普通であるのならばここでアレックスは死んだと思うべきだろう。

 だが、アレックスはまだ生きていた。麗俐が『執念』の元で『明日なき明日を撃つ者トゥモローシューター』に挑んでいたようにアレックスもまた『執念』によってその命を地上で長引かせていたのだ。

 その目的はただ一つ、自身の死出の旅の道連れとして麗俐を巻き込むためであった。
 今ならば麗俐は油断している。その肩を勢いよく掴んで引き摺り下ろし、自身の自爆の道連れにするには最適であるように思えた。

 そのまま油断している麗俐の背後から回り込み、その肩を掴み上げようとした時のことだ。

 背後から一筋の熱線が飛んでいき、アレックスの心臓部を貫いていった。その熱線が引き金となってアレックスはマグマエネルギーの暴発を抑え切れずに爆死してしまうことになった。

 肉片の一つも残さない完璧な自爆であった。そのため無惨な死体を見なくて済んだのはこの場にいた全員にとっての幸いであったというべきだった。

 だが、胸を撫で下ろしてばかりもいられない。アレックスに取り憑いていたはずの山高帽のような姿をした生物が宙の上へと飛んでいくのが見えた。

 背後の爆発音と宙の上に逃げ出していく山高帽のような姿をした生物を見て麗俐は思わず腰を抜かしてしまった。
 麗俐が恐る恐る背後を振り返ると、そこにはビームポインターを構えたカエデの姿が見えた。

 どこかぶっきらぼうな態度をしたカエデはパワードスーツを身に付けたままの麗俐に向かって言った。

「勘違いしないでくださいね。あなたには私のメンテナンスをしてもらう予定なので、ここで死なれては困るんです」

「あ、ありがとう」

 だが、麗俐は高飛車な態度を取られていたにも関わらず、反感を持つどころか、カエデに助けてもらったことが嬉しくて兜を取り、逆だ微笑み返した。
 だが、カエデは先ほどと同様に高飛車な態度で腕を組むばかりだった。
 その実は悪く思ってはいない。そんな憎らしく思っていない心境が伝わってくるかのようだった。


 麗俐はそんなカエデの心境を察し、嬉しくなり、胸を弾ませながら家族の元へと向かっていった。

 次なる惑星に向けての準備もある。麗俐は足早にロケットへと向かっていった。
 ロケットの中に戻ってからも大変であった。
 発着場の管制官から報告を聞いて駆け付けてきた警察官たちに事情を話はなければならなかったのだ。
 幸いなことに中央ポリスステーションに連れて行かれることは免れたものの、長い時間を掛けることになったので出発は翌朝となってしまった。
 調書を取り、満足した警察官たちの後ろ姿を見送った後に、ようやく発着場から許可をもらうことができた。
 それからジョウジとカエデの運転によって無事に火星を出発することができた。

 こうしてメトロポリス社は火星において最悪のトラブルに引き込まれてしまう形になったが、無事に火星を出発して次なる惑星へと向かっていった。

 長い時間を掛けることになったが、これで火星ともお別れである。
 名残惜しい気もするが、人類が見つけた惑星の中ではどの星よりも発展を遂げ、地球ともっとも近い環境を作り出した唯一の植民惑星ともこれでお別れである。

 後ろ手を引かれる思いはあったが、メトロポリス社における交易の仕事はまだ山のように残っているのだ。
 こんなところで挫けるわけにはいかなかった。

 修也は運転席の中で退屈紛れにそんなことを考えていたが、その一方で気になるのは例の山高帽のような生物の行方であぅた。
 アレックスと共に爆死することなく、山高帽のような生物は無事に生き延びていたのだ。どこへ行ったのだろうか。
 修也の疑問は膨らむばかりだった。

 修也が宇宙船の中で山高帽のような生物のことを考えていた時、奇しくもその怪生物はアレックスのかつての根城へと向かっていた。

 相変わらずの朽ち果てたトレーラーハウスであったが、砂埃がまとわりつき汚れきった窓の外からゴミだらけとなった部屋の隅で弱々しい手付きで掃除を行うメイドのような服を着たアンドロイドの姿が見えた。
 メイド服は虐待のためところどころボロボロになってしまっていたが、それでもアンドロイドであるため彼女は気にする素振りも見せずに黙々と作業に励んでいた。

 山高帽のような生物はこれまで取り憑いてきた相手は生身の生物ばかりであり、アンドロイドのような機械生命体に取り憑いたことはなかった。

 だが、そのことを知らない山高帽のような生物は澱んだボロボロの窓の外から絶好の機会を窺っていた。












 あとがき

 本日より日常生活の方が忙しくなっていったということもあり、しばらくの間連載の方を休止させていただきます。

 ただ、再三繰り返させていただくことになりましたが、自分にとっても大事な作品ということなので落ち着き次第、不定期になりますが、未完結となっている他の作品と共に連載を再開させていきたいと考えております。

 勝手ではありますが、それまでお待ちいただければ幸いです。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

処理中です...