メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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職人の惑星『ヒッポタス』

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「それはつまりこの星の人類に天敵がいたということですか?」

 声を震わせながら問い掛けたのは悠介だった。悠介の脳裏に浮かんだのは21世紀の初頭に大流行りしたという巨人をテーマにした有名な漫画だった。
 巨人が人を食う天敵という斬新な設定は22世紀の現在においても真似されるほどだ。

 ジョウジも悠介の顔を見て言いたいことを察したのだろう。首をコクンと縦に動かした。

「その通りです。今ここに飛んでいる甲冑がヒッポタスに住む人々にとっての脅威そのものなんです」

 ジョウジは甲冑によってこの星で過去に何が起こったのかを淡々とした口調で説明していった。
 甲冑によって街が壊滅したこと、甲冑たちによってヒッポタス星人の8割が壊滅に追い込まれてしまったことなどを語っていった。
 甲冑たちによる被害を説明していると、悠介は難しい顔を浮かべて言った。
「では、この星の人たちはその甲冑たちにやられっぱなしということですか?」

「そうではありません」

 ジョウジの声は明るかった。希望を含ませる言い方に悠介は和んだ表情を浮かべた。

「この甲冑は無敵ではありません。剣そのものに強い打撃を与えればすぐに倒れます」

「なるほど」

 どうやら甲冑ではなく剣が本体であるらしい。興味深い話だ。
 一同が感心した表情で話を聞いていた時のことだ。スコーピオン号かま来客を告げる音を鳴らした。
 カエデがモニターを確認すると、モニターには甲冑で武装し、両手に戦斧や槍を構えた屈強な男たちの姿が見えた。
 例の甲冑ではない。データによれば例の生きた甲冑が身に付けている武器は剣のみである。

 つまるところ彼らは武装した人間たちということになる。
 だが、全身から敵意というものが明確に感じられた。突然自分たちのコミュニティの中に現れた異物を排除するために動き出したのだろう。

「……不味いな」

「ジョウジさん、どうしますか?」

 修也がカプセルを握り締めながら問い掛けた。ジョウジは黙って視線を彼が握り締めているカプセルに向けた。

 修也は『メトロポリススーツ』の力を用いて自分たちの元に迫ってきた人々を撃破するつもりでいるに違いなかった。
 修也の年齢や経験からいっても武力行使のような愚かな手段に出るとは考えにくかった。

 だが、可能性は0というわけにはいくまい。彼らが感情のままに武器を振るっていけば修也たちも危害を加えられる羽目になってしまう。そうなれば修也は自分たちを守るために戦うだろう。

 強く握り締められたカプセルからはそうした意図がハッキリと感じられた。
 そのことを汲んだ上での適切な対応を考えなくてはならないのがジョウジの辛いところであった。

 頭の中でジョウジが混沌とした脳内で適切な対処法の例を探し出そうとしていた時だ。

「チッ、待ってられねぇ! オレは行くぞ!!」

 悠介がカプセルを持って外に出ようとした時だ。

「いえ、悠介さん! 私に適切な考えがあります!」

 ジョウジは咄嗟に自分の口から出た言葉に驚きを隠せなかった。というのもこの時のジョウジには考えがまとまっていなかったからだ。考えもなしに暴れ狂おうとせん悠介を止めたい。それだけだったのだ。本格的に自分が人間に近付いてきていることに驚きを隠せなかった。
 唖然として口を開いているジョウジに対して悠介は怪訝そうな表情を向けた。

「どうしたんです? 他に何か方法があるっていうんですか?」

「そ、その……」

 ジョウジはこの時人間の言う『頭が白くなる』という状態を産まれて初めて体験することになった。雄弁なアンドロイドはすっかりと言葉を失ってしまった。
 口元をプルプルと震わせているジョウジの中で何か思うところがあったのか、悠介がジョウジの顔を見ようとした時だ。
 ようやく彼が口元の端を吊り上げていった。

「……悠介さん、それに大津さん、よろしければ私の後ろに控えてくださいませんか?」

「えっ、何を言って?」

「申し訳ありませんが、麗俐さんとカエデさんは倉庫の方から圧縮した荷物を持ってきください。この星で扱う荷物です
 。間違えないように」

 そう言って目を日本刀のように細めて尖らせるジョウジを前にして逆らうこともできなかったらしい。慌てて背中を向けて倉庫へと向かっていく。

 その様子を真剣な目で追っていたジョウジに質問をぶつけたのは修弥の方だった。

「ジョウジさん、これはどういうことですか?」

「大津さん、突然のことで申し訳ありません。ですが、私にいい考えがありましてね」

「いい考え?」

「えぇ、今回の作戦としては飴と鞭を使った作戦でいこうと思います」

「あ、飴と鞭ですか?」

 修也が困惑した顔を浮かべた。

「えぇ、まずは商品を先に見せて我々に敵意がないことを証明します。その上でお二方のどちらかが近くの木にでも『ロトワング』の攻撃を行ってください。そうすれば我々と敵対するメリットがないことを証明できます」

 ジョウジの言葉は屁理屈でしないだろう。しかし筋は通っているので大々的に批判するともなればジョウジの敵う言葉を用意しなくてはならない。

 が、明確な反論を二人は有していない。そのため押し黙ってジョウジが推進する『飴と鞭』作戦を実行に移すしかなかった。

 カエデは入口のタラップを下ろし、荷物を持った修也と悠介を連れたジョウジが両手を挙げながらそのタラップの上を降りていった。

 タラップから降りていくと、三人の目の中へ日に焼けた肌のような森が飛び込んできたのだ。

 辺り一面が色褪せて赤茶けているといってもいい。茶色いトーンが貼られたかのような土に枯れたような色をした草木。そして空の端で微かに霞んでいるかのような灰色の空。全体的に暗い雰囲気が漂っている。

 このような閉鎖的な空間で生活をしているためにこの鎧を着た男たちは好戦的になってしまったのかもしれない。
 そんなことを考えていた時のことだ。鉄の甲冑の鎧に身を包んだ男が槍を突き付けながら問い掛けた。いや、問い掛けたというよりかはほとんど叫んでいるといった方が正しい。

 しかし見方を変えればそれは生物としては当然の反応だった。自分たちの知らない乗り物から突然降りてきて目の前に現れたのだ。
 人間の本能に従っている人々に警戒するなと言われる方が無茶があるというものだ。

 鎧を着込んだ人たちの耳の裏や額には極度の緊張と疲労から大量の脂汗が噴き出していた。

 ジョウジは槍や戦斧の先端を突き付けている人々に対してかつてヒッポリタスの惑星を訪問した際に覚えた言語を使って友好的な解決を試みようとした。

 だが、これだけ多くの街が散乱としているような星なのだ。かつて覚えた言葉が通じる保証などどこにもなかった。

 緊張の一瞬。顔が引き攣る。だが、今にも槍や斧を振いそうな様子から察するにいつまでこの状態を保ってくればしないだろう。彼等の緊張や恐怖を取り除く意味でも喋ってみる価値はあるはずだ。

 ジョウジはかつての交易の際に覚えた言葉を使って敵意がないことを示していった。

「我々は敵ではありません。大丈夫です。それどころかあなた方にプレゼントを持ってきたんですよ。よろしければ話だけでも聞いてください」

 ジョウジの口からその言葉が発せられてからしばらくの間は先ほどと変わらない緊張が続いていった。

 だが、槍を構えた男が突き付けていた槍を下ろし、被っていた兜の下から深海の水深よりも冷たい口調で言った。

「あんたの言葉は本当なのか? 我々にいいものを届けてくれるというのか?」

 ジョウジは展開が開けたことに対して安堵の笑みを浮かべた。

「もちろんです。我々が持ってきたものは全てあなた方の生活を豊かにするもの……損はありませんよ」

 ジョウジの言葉を聞いた人々の表情は見えない。だが、決して悪いようにはしないだろう。先ほどの期待したような口調から察するに殺すような真似をしないことだけは確かだ。

 しばらくの間ジョウジを交えて話し合ったかと思うと、もう一度三人に武器を突き付けて言った。

「……悪いが、あんたらの言葉を全部信用したわけじゃない。本当にそうしてもらえるのか付いてきてくれんかね?」

「はい、分かりました!」

 ジョウジは即答した。自分たちの疑いが晴れるどころかこのまま街に着いて行きスムーズに貿易が進むというのならば願ったり叶ったりである。

 訝しげな顔を浮かべる修也と悠介の両名に対してジョウジは先ほどの自分が考えたことを懇切丁寧に教えていった。

 屁理屈で出たような作戦が上手くいって笑みを浮かべているジョウジに対して二人はそれでも納得していないような顔を浮かべていた。
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