メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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人と異形とが争いを繰り広げる惑星『ボーガー』

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「それはなんじゃ?」

 玉座の上に腰を掛ける若い皇帝は興味深そうにジョウジが持ってきたものに興味を示した。

「はい、これは我が社の社長より陛下に捧げるための品でございます。どうかお納めのほどを……」

 ジョウジは箱を開いて土産の解説を始めていった。土産として用意したのは日本のレトルト食品や圧縮して保存した一流料亭の料理、それ以外では日本の駒や凧といった玩具、そして扇子や掛け軸といった工芸品に『政宗』といった刀剣の類も含まれていた。


 多くの献上品がジョウジの手によって皇帝の前に差し出されたが、中でも気に入ったのは日本の最新鋭の技術を用いられて作られたからくり時計だった。わざと古い姿で作っていることもあってか、皇帝は玉座の上で子どものように時計を何度も何度も見つめていた。

「お気に召していただきましたか?」

 玉座の近くにまで接近したジョウジは恐る恐るといった様子で問い掛けた。

「もちろんじゃ! そなたらの星と我が国との交易を許そうではないか。それだけではないぞ、滞在中は宮殿を宿舎にすることやその中や街を自由に歩くことも許可しようぞ。我が国の素晴らしさを他の星にも広めるがよい!」

 皇帝は徳川吉宗のからくり時計がよほど気に入ったらしい。鼻息を荒くしながら新しい玩具を手に入れて熱心に遊ぶ幼児のようにからくり時計を触っていた。

 そんな無邪気な皇帝の姿を見ていた本初は鼻を鳴らし、軽蔑の目で見つめていたことを修也は見逃さなかった。

 本当に彼は『三国志』に登場する袁紹本初のように自分こそが皇帝の地位に相応しい人物だと思い込んでおり、そのため皇帝を見下ろしているのではないだろうか。

 邪推ともいえる想定であるし、あくまでもあれは地球の3世紀の出来事をモデルにした物語。地球から遠く離れた惑星と同じ形で再現されるはずがない。
 修也はそんなことを考えていると、本初が修也たちの方を向いて言った。

「さぁ、使者殿。お疲れにござろう。すぐに部屋へご案内させていただこう」

 皇帝からいわゆる『お褒めの言葉』を預かったこともあってか、先ほどよりも少し態度を軟化させて修也たちにも一定の礼節を持って接してきた。

 優しくなった本初の案内に従って修也たちはくつろぎ、寝起きし、身支度を整えるための宿舎へと案内された。

 元々異国から来た使者をもてなすための場所であったということもあって宿舎の中は豪華を極めた。白を基調した壁には金色の装飾が施されていた。地面の上には高品質な赤色の絨毯が敷かれていた。
 その上に机や椅子、寝台といったさまざまな家具が置かれていた。

 しかしこれまで訪れた星の客室とはいささか趣向が異なるものであったといってもいい。机を例に挙げれば机も筆を使うための机であり、基本的に椅子と併用して用いる西洋の机とはいささかタイプが異なった。

 第一部屋の隅に置かれた肘掛けの付いた椅子と併用して使うための椅子ではないということは傍目に見てもわかることではないか。
 恐らく机の上に客人のため用意されている紙やら墨やら柔らかな毛が揃えられた筆で書き物を行うに違いなかった。

 だが、修也には習字の心得などはない。習字など高校の授業でやったきりである。そもそも異星の筆を使ってまで書くべきものなどは検討もつかない。

 それ以外では真っ白なカーテンと蚊帳の中間ともいえるような寝台が置かれているだけだ。いわゆる天蓋というものなのだろうが、西洋のものとは大きく異なるので修也には検討がつかなかった。

 正確にいえば修也が見たのは『牀』と呼ばれる古代中国で使われていた細長い台状の寝台であった。この星で使われているものが地球と丸っきり同じものであるかは不明だが、それでも形や使い方が酷似していることだけは確かである。

 もちろん修也は寝台のことを知らなかったので、これは後ほど彼自身が携帯端末のインターネットを操作して知ることとなる情報である。

 修也はザッと部屋を見渡した後で持ってきたトランクを置いて寝台の上へと寝そべっていった。

 その後はやるべきこともないので携帯端末を触って暇を潰そうとしていたのだが、思いもよらぬことで修也の暇つぶしは遮られてしまうことになった。
 初めに聞こえてきたのは何やら訳のわからない大きな声だった。

 だが、次第にその声は恐怖が混じったものへと変わっていき、最後には絶望の色へと変わっていくのが分かった。

 一体何が起きたのだろう、と修也は携帯端末を鞄の中へと戻し、代わりにカプセルを握り締めながら警戒の目的もあって部屋の中を見渡していった。
 しばらく寝台の上で体育座りをしながら様子を窺っていた時だ。
 扉がバターンと勢いよく開かれたかと思うと、血相を変え、全身に脂汗を流したジョウジが姿を見せた。

「ジョウジさんどうかしたんですか?」

 滅多に見せない姿のジョウジを訝しげながら修也は問い掛けた。

「……襲撃です」

 この時ジョウジの口調はあくまでも落ち着いたままだった。しかし言葉の節々に動揺の色が溢れていたのはどう見ても隠し通せるようなものではなかった。
 その様子から外では修也が予想だにしなかったことが発生しているに違いなかった。

 修也が頭の中で嫌な予感を浮かべながらジョウジに導かれるまま最初に通された正面玄関へと案内された。
 そこには理性や知性といったものを一切持っていない巨大な毛むくじゃらの猿が武装した兵士たちを相手にしていた。

 槍やら剣やらを突き付けられても怯えた様子で一切怯む姿を見せようとしない。
 むしろ武器を見せられて戦意をより向上させたのかもしれない。大きな雄叫びを上げて兵士たちを震え上がらせていた。
 その姿は大昔に流行ったという大猿を題材としたパニック映画に恐怖の象徴として登場する大猿そのものだった。

「だ、だめだ……オレたちでは敵わない」

 兵士の一人が剣を構えながら呟いた。

「おい、そんなことを言うなよ! オレたちは帝を守る兵士だぞ」

 同僚の兵士は弱気になった仲間を叱り付けて鼓舞しようとしたが、それでも大猿の剣幕に怯んでいるのは彼も同じであるらしい。同僚と同じように剣を持つ手がプルプルと震えていた。

「大津さん、どうしますか?」

 背後で大猿に手も足も出ない兵士たちの情けない姿を見ていたジョウジが修也の耳元で問い掛けた。

「……私がいきましょう」

 修也が大猿の前に踊り出ようとした時だ。突然兵士たちから歓呼の声が湧き上がっていく。
 修也とジョウジの2名が背後を振り返ると、そこには黒色の大鎧を身に付けた大男の姿が見えた。

 身長は日本人の平均身長と同じくらいの修也よりも胸部二つ分ほど高く見えた。

 完全な想像に過ぎないのだが、彼の身長は190㎝を超えるのではないだろうか。

 そうなればこの文化レベルの星では『巨人』として扱われていてもおかしくはない。平均身長が22世紀の日本人とほぼ同じである170㎝代の修也の身長よりも低い人々からすればあの男の存在は脅威でしかないに違いない。

 もしかすれば彼は『三国志』における伝説の武将、呂布奉先に相当する人物であるかもしれない。

 そんなことを考えていた時だ。先ほどの大猿にも負けないような大きな声で例の武将が自分の身長と同じくらいの長さを誇るかぎ形の形状の刃が付いた戟という武器を曲芸師のように両手で振り回しながら叫んだ。

「無礼な猿めッ! 畏れ多くも帝がお住まいになられる内裏をその卑しき足で踏み入れるとはなッ! 貴様はこの黄奉天こうほうてんが許さんッ!」

 奉天と呼ばれた男は戟を振り回しながら歌舞伎役者のような大胆な見えを切ってみせた。

 修也とジョウジの両名は兵士たちからは賞賛の声が飛んでいくのを聞いた。
 確かな安心感から来た賞賛の声であり、それは救世主を信奉する宗教団体の教徒たちに近いものを感じた。

(黄奉天? 孫本初のように名前が同じだというわけではないのだな……しかしそれでも『三国志』に登場する呂布にそっくりだ……)

 ジョウジが呂布のような人物を注目の目で見つめていた。黄奉天は石畳を引っこ抜いて投石を浴びせてくる大猿の元へと素早い速さで潜り込むと、そのまま大猿の胸元に向かって戟を突き刺していったのだった。

 胸部に鋭い一撃を喰らった大猿は両手と両足を地面の上に伸ばしながら地面の上へと倒れていく。このまま勝負は呆気なく終わるかと思われたのだが、大猿は戟を突き刺したまま立ち上がっていった。

 そして背中を見せて立ち去ろうとした奉天を両手で掴み上げようと目論んだものの、そんな稚拙な攻撃に引っ掛かるような相手ではなかったようだ。
 奉天は大猿の両手を飛び上がることで避けると、今度は腰に差していた剣を抜いてそのまま大猿の両目へと飛び掛かっていったのだった。

 奉天は剣を大猿の片目に突き刺し、大猿の片目の光を奪って動揺を誘ったのだった。大猿は制御不能になったと言わんばかりに尻餅をつき、両手と両足をバタバタと動かしていた。

 奉天は暴れ回っている隙を突いて、大猿の首元へと飛び掛かっていった。奉天は既に両目を突き刺したことで赤く染まり上がった剣を喉元へと躊躇うことなく突き刺したのだった。

 どこを見ても無駄一つない完璧な動きだった。その姿は京劇に登場する英雄の姿そのものだ。
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