メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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人と異形とが争いを繰り広げる惑星『ボーガー』

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「けど、私はこの子の面倒を見なくてはならないの」

「それは鳥小屋の番人である私の仕事です。公主様がなさらなくてもよいはずです」

 話を聞くに彼女は鳥小屋の番人であるようだ。それに加えて公主ーー皇帝の娘と親しい口調を使っていることからある程度気心の知れた仲であるということは明白である。

 恐らく、例の公主が例の劉尊なる鷹を飼い慣らそうと息巻いて鳥小屋に入り浸っている時にでも仲良くなったのだろう。
 そんなことを考えながらジョウジは聴き耳を立てていく。

「けれど、劉尊は私が懐かせてみせると決めたのよ。そうでなければ奉天将軍……あなたの兄上と渡り合うことなどできるはずがないもの」

 公主が悲しそうな顔を浮かべていた。どうやらあの大猿を退けた奉天将軍によい感情を向けているらしい。
 奉天将軍に近付くため劉尊なる鷹を飼い慣らそうとしていたことがわかった。それが同じ趣味であろう鷹を共有するためか、はたまた妹である番人に近付くためであるかは不明である。

 だが、彼女が思っていた以上に劉尊は気高い存在であるためいくら餌を与えようとしても懐いてくれようとしないのだろう。

 ジョウジは地球で売られている恋愛を主軸としたライトノベルのような話を目の当たりにしていることに対して苦笑を漏らしそうになった。

 だが、公主にこのことを聞かれてしまえば厄介なことになるのは明白だ。必死に声を抑えて二人の会話にもう一度耳を傾けていった。

「何も大事な婿をお兄様になさる必要などありませんわ。公主様に見る目麗しい貴公子の方々から恋文が山のように届いておるではありませんか」

 それを聞いた公主は小さく首を横に振って言った。

「嫌、私は帝……お父様が勝手に決めた縁談になんて乗らないわ。私は奉天将軍を……あなたのお兄様を昔からお慕いしていたもの」

「……そのような我儘を言うものではありません。私の仕事がここにいる鳥のお世話であるように、あなた様のお仕事は国の繁栄のため己を殺して生きることではないのですか?」

 彼女の目が鋭く尖る。日本刀の刃ように鋭く細められた双眸から放たれた視線からは『我儘を言うな』という彼女自身の意思のようなものを感じられた。

 公主と同じく若い女性であり、尚且つ彼女よりも圧倒的に立場も地位も下であるはずの彼女が小姑のような説教めいた台詞を言うのは非常に珍しいように思われた。

 大抵の恋愛小説では彼女のような立ち位置の女性は哀れなお姫様に味方するポジションが多いからだ。
 ジョウジがメモをしたくなった時だ。なぜ彼女がそのようなことを言ったのかを理解した。

「そうね、お前もお前の兄上様も幼少期は食べるものにも困っていたような家だものね。そんなお前から見れば私は衣食住が保障され、父の権威や権力を使って国中の美しい着物や簪を手に入れるのにも関わらず、他の人たちのように自由な恋を望む身勝手な女に見えるのかもね……けど、そのことを承知で言わせてもらうわ。私はそれでも『恋』がほしい。『自由』がほしいのよ」

 公主は必死な思いで哀れな幼少期を過ごした番人の少女へと訴えていた。吐き出す言葉の一つひとつから熱い思いを感じられた。少女も公主が抱える周囲を圧倒さんばかりの強大な熱意に押されてか、反論の言葉が口から出てこなかった。

 しかし公主は反論の言葉が出ずとも自身の主張を訴え続けていく。

「ねぇ、確かに私は何不自由なく育てられたわ。けれど、私はこの子たちと同じ……籠の鳥なの。お願い、私の恋を応援すると言って」

 公主は鳥小屋の中で眠る鳥たちを指差しながら言った。彼女は鳥籠の中に囚われている鷹と自分とを重ね合わせて見るように誘導しているのだ。
 お淑やかなお姫様というだけではなく、相手の心情や情緒に訴え掛けて味方を得ようとするという、どこかしたたかな一面も見受けられた。

 ジョウジがそんな公主様と鳥小屋の番人とのやり取りを面白くおかしく見物していた時だ。

 鳥小屋の扉が開く音が聞こえてきた。二人して水汲み場から闇に紛れて顔を覗かせると、そこには昼間見せた態度とは別人のような恐ろしい顔を浮かべた皇帝の姿が見えた。

 眉間に皺を寄せ、興奮した様子で鼻息を荒くしながら顔全体をまだら色に染め上げている様子を見せた皇帝が娘に対して苛立っているということがわかった。
 皇帝は何か言いたそうにパクパクと口を動かす番人の少女を突き飛ばし、そのまま自身の娘を強く叩いたのだった。
 公主は顔を叩かれた衝撃のため背後へと吹き飛び、地面の上に勢いよく尻餅をついた。

 ドシンと確かな音が小屋の中で響き渡ったということもあって、小屋の中で眠っていた鳥たちはすっかりとパニックを引き起こしてしまったらしい。
 バタバタと羽を動かして黒い乱れ雪を小屋の中で降らしていった。

 小屋の背後にあった水汲み場の陰で様子を見守っていた修也とジョウジの頭部にも籠を抜け、風に乗って幾らかの羽が落ちてくるほどであり、騒ぎが収まる頃には小屋全体が抜け落ちた羽で埋められていた。
 ジョウジと修也は自分たちに付着した羽を手で静かに払い落としながら様子を見守っていった。

 二人はしばらく見つめていたものの、動きは見えない。重い沈黙が漂う中で皇帝と公主の両名が静かに睨み合う姿が見えた。
 睨み合いの合戦がしばらく続いた後、沈黙に耐え切れず最初に口を開いたのは意外にも皇帝の方だった。

「お前たちの会話は聞こえていたぞ。紅晶こうしょう、嫁に行くのがよほど嫌であるらしいな」

「嫌にございます」

 公主もとい紅晶はきっぱりと言い放った。この時彼女の双眸を大きく見開き、敵意を剥き出しにして言う姿を見るに彼女はたとえ実父からの命令であっても拒否することは明白のように思えた。

「フン、ここにおるくだらん鷹どものせいか?」

「違います。私が奉天将軍をお慕いしているからです」

「奉天? 確かに武勇には優れておるが、それだけの男であるぞ。奴は平民出身、由緒ある貴族の家柄でもなければ王族に連なる家でもない。ましてやお前は我が国を安定するべく丞相との婚姻を果たすべく幼き頃から言うておったというのに」

 皇帝は鼻を鳴らしながら言った。皇帝に相応しい大きく尊大な態度であった。
 それと同時に実娘の人生を左右する婚姻の相手にも口を挟む前時代的な父親像そのものであるといえた。

「帝が……お父様がいかに決められようとも私の決意は揺るぎませぬ」

「なるほど、それでまずは妹から取り入れようとわざわざ夜中に部屋を抜け出し、こんなところまで足を運んだというわけか」

 皇帝はすっかりと背後で腰を抜かして全身を震わせている少女を睨み付けながら言った。

「違います! 確かにお父様が仰られるように最初こそ奉天将軍とお近づきになりたいと思うで、通っておりました。ですが、劉尊と心を通わせようと思っている間に私は本当に劉尊とお友だちになりたいと考えるようになったのです」

「鷹と? 笑わせるな」

 皇帝は小馬鹿にするように言った。その口ぶりから察するに娘の言葉などは最初から信じていないようだった。

 それでもまだ何かを言いたげに拳を強く握り締める公主の腕を乱暴に掴み上げたかと思うと、そのまま鳥小屋から泣き叫ぶ彼女を強引に引っ張り出していった。

 小屋から出た後で、皇帝は一度だけ振り返って部屋の隅で猟師に遭遇した小鹿のように震えている少女に向かって言い放った。

「その小屋の中を片付けておけ。明日までに綺麗にしておけよ。そうでなければお前の首はないぞ」

 哀れな少女は皇帝からの脅しに心底震えたらしい。羽まみれの床の上に額を擦り付けて懸命に頭を下げていった。
 皇帝と公主が姿を消した後で、ジョウジは言葉の意味を理解できていなかった修也に対して先ほどまでのやり取りを翻訳して伝えていった。

 修也はジョウジの言葉を聞いて大きな衝撃を受けたらしい。しばらくの間は雪で凍り付いてしまったかのようにその場で動けずにいた。

 雪像のように固まってしまった修也を動すことができたのはジョウジが肩を強く揺さぶったからだった。

「あぁ、すいません。ジョウジさん」

 修也は申し訳なさそうに頭をかいた。

「いいえ、それよりも大津さん、話の意味は理解できましたか?」

「えぇ、しかし酷い話ですよね。いくら皇帝だからって実の娘の幸せを奪い取ろうとするなんて……」

 修也の両肩が大きく下がっているのが見えた。予想外の出来事を前にして彼も打ちのめされてしまったのだろう。
 そんな修也を揺らしてこのまま闇に紛れて帰ろうとした時だ。
 修也が勝手に動き出し、鳥小屋の方へと向かっていこうとした。

「大津さん、何をやっているんですか?」

 ジョウジは修也の腕を力強く掴み上げながら問い掛けた。
 その問い掛けに対して聞いた修也は平然とした顔で答えた。

「彼女を手伝いに行くんですよ。あれだけの量を子ども一人で掃除するのは大変でしょうし、手伝うんです」

 修也は悪びれる様子を見せなかった。それどころか平然とした様子で言い放った。

「大津さん、正気ですか? もし、彼女が我々に気がつき、上の人間に報告でもしたら厄介なことになりますよ」

「えぇ、そうなるでしょうね。しかしあんな子ども一人に過酷な仕事を押し付けてそれを見て帰るなんていうのは私の大人として或いは親としてのプライドが許せません。ですから手伝いに行くんです」

 修也は恐らく鳥小屋の番人に自身の娘を重ね合わせでもしたのだろう。あらゆる危険が起きているにも関わらず、助けようとするのはそうした厄介な感情が胸のうちから込み上げてきたからだ。

 ジョウジは本来であれば修也を止める立ち位置にあったが、この時はなぜか修也に同行したのであった。
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