メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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人と異形とが争いを繰り広げる惑星『ボーガー』

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「いいぞ! 二人とも戦え!! そして、どっちも果ててしまえ!!! それこそが我らが帝国を築き上げる第一歩なのだからなァァァ~!!」

 文邑は自身が人質を連れているということを自覚しているからか、はたまた人を操ることができるほどの強い“気”の使い手であることを自覚しているためか、普通の人間であれば躊躇われるような野次を飛ばすという行動が平然とできたのである。

 そんな鬼畜の所業を見て夢華は堂々と彼のやり方を非難したのだった。

「よくもそんなことができたわね! あなたは鬼畜よ! 人でなし! 外道! お前なんて糞尿桶の中に顔でも突っ込んで死んでしまえ!!」

 明らかに言い過ぎだと眉を顰めたくなるほど煽ったところで文邑は痺れを切らしたらしい。髪を強く掴んだかと思うと、自身の掌を夢華の口にあてて強制的に言葉が漏らすのを塞いだのであった。

「オレをあまり怒らせるなよ。小娘……命が惜しければここで黙って見ていることだ」

 夢華は口を塞がれつつも掌の下で唸り声を上げていた。さらなる罵声を浴びせてやりたいのは山々であったが、こうも掌で口を押さえ付けられていては出ようにも出てこない。敢えて例えるのであれば探索に向かった洞窟から出たいのに入り口を岩で塞がれて出られないといったどうしようもない心境だった。

 文邑はニヤリと笑った後で戦いを見守っていた或いは猿たちと戦闘を繰り広げていた兵士たちに向かって掌を広げていった。すると次の瞬間には群れていた兵士たちを空中へと持ち上げ、一切の身動きを封じてしまったのだ。

 この時文邑は縄や鎖といった拘束具の類は一切使っていなかった。使っていたのは己の超能力。言い換えればサイコケネシスのみだ。文邑が使用した超能力は地球でいうところの金縛りに相当するに違いなかった。

 道具で拘束されていないにも関わらず、兵士たちはその場から固まって動けないでいた。地球生まれの修也からすれば兵馬俑の兵士たちに見えたといっても過言ではない。

 今見えている兵士たちが本当に兵馬俑であれば単なる観賞用の趣きある芸術品として北京にある博物館にでも飾られているかもしれない。しかし文邑によって体を兵士たちからすればそんな認識を他所の星から来た人々に対して持たれたとすれば迷惑千万だと言うに違いなかった。

 というのも今の兵士たちは猿たちの追討を行なっていたのだ。動きを縛られては猿たちにとって格好の獲物と化してしまう。
 そのことはもちろん文邑にも分かっていた。分かっていたからこそ、止まった姿を見てニヤニヤと笑う猿たちに向かって大きな声で指示を出したのだった。

「よしッ! いいぞ! 猿ども攻撃を行え!! 先ほどお前たちが受けた屈辱を倍にして返してやるのだッ!」

 文邑は突撃の印だとばかりに攻撃を受けていた兵士たちに向かって拳を突き上げていった。猿たちは歓喜の声を上げて兵士たちを蹂躙していった。
 形勢はここにきて逆転したといっても過言ではない。周りを囲んでいた無防備な心臓を貫かれ、頭を刺されと悲惨な姿で地面の上を転がっていった。

 堪らなくなったのは奉天であった。堪忍袋の尾が切れたと思われる彼は修也に向けていたはずだった方天戟の先端を文邑へと向けて突き付けた。

「おっ、オレに向けるのか?」

「貴様の非道なやり口には我慢の限界がきた。今ここで貴様の首を刎ねさせてもらうぞ」

 奉天は声を震わせていた。彼自身の怒りが声を通じて修也に伝わってきた。
 だが、恐ろしい男か武器を突き付けられても声を震わせるほどの怒りを買っても文邑は動じる姿を見せなかった。
 それどころか、

「ふん、そんな大言壮語を叩いてもいいのか?妹が死ぬぞ」

 と、どこからか取り出した短剣を夢華の首元に当てて弄ぶようにチクチクと突き刺して挑発していった。
 雪のように白い首から斑点のような痕ができ、赤い汁が垂れていく姿が見えた。

「げ、外道め……」

 奉天の言葉などは無視して文邑は面白がるように言った。

「フフッ、さてと、そろそろこいつを目一杯の力で突き刺してやるか」

 文邑は短剣をわざと戻してから、見せつけるように刃をぺろぺろと舐めていく。飴を舐めるかのように舐める姿を見た奉天は背筋を凍る思いを覚えた。
 その時に感じた嫌悪感は幼い頃に見た小さな鼠が揺籠の中で眠る妹を噛もうとしていた光景を見つめていた時のようだ。

「どうした? 奉天!! 妹が可愛くないのか? お前がその男を殺さなければ妹が死ぬんだぞッ!」

 奉天はその言葉を聞いて覚悟を決めたようだ。方天戟をグルグルと一回転させた後に修也へと突き付けながら叫んだ。

「天よりの使者殿よ! 貴殿に恨みはないがここでオレが戦わねば妹が死ぬのだッ! 悪いが、ここで死んでもらうぞ!」

 修也に奉天の言葉の意味は分からなかった。ただ、切羽詰まった様子や背後で人質に取られている少女の姿、そして地面が震えんばかりの声から察するに彼が人質を取られ、自分と戦わされているということだけは分かった。

 気の毒だとは思うし、娘を持つ父親として目の前にいる奉天のことは放っておけなかった。

 だが、いくら気持ちが共感したからといってもここで死ぬわけにはいかない。修也はビームソードを両手で握り締めたまま奉天の出方を窺っていた。

 その時だ。背後から大きな音が聞こえてきた。何かが爆発するような音だった。
 目を凝らして見てみると、そこにはビームポインターを握り締めたまま空中の上で動きを縛られて固まっているジョウジの姿が見えた。

「ジョウジさん!!」

 修也は咄嗟に声を荒げた。

「大津さん、残念です……私は鎧を着ていなかったので、最初の拘束に囚われなかったのでこっそりと背後から襲撃を掛けようとしたのですが、その時に照準が狂いましてね……このザマです」

 ジョウジは自虐するようにクックッと笑い声を上げていく。

「何を訳の分からない言葉でごちゃごちゃと話してやがる。こちらにもわかる言葉で話やがれ!」

「これは失礼……」

 文邑にこちらの言葉は通じない。そのため彼は失敗の理由を知らない。言葉が通じないとは不便なものだ。と、そこまで考えついたところで修也は妙案を思い付いた。それを実行するためにはジョウジと奉天の力を必要とするので、一度ジョウジと話す必要があった。
 そのため修也は大声でジョウジを呼んだ。

「頼む!! あんたも武士ならば情けくらいはあるだろう!? 家族に最後の言葉を伝えさせるためにジョウジさんを一度、こちらに呼んでくれ!!」

「あいつはなんと言っているんだ?」

 文邑は首を傾げながら拘束しているジョウジに向かって問い掛けた。

 ジョウジは戸惑いつつも修也が発した言葉を正確に訳し、例え話を分かりやすく変えると、文邑はご満悦と言わんばかりの満足気な笑みを浮かべて言った。

「……そうか。よし、ならば遺言くらいは聞いてやるとするか」

 と、文邑は指を鳴らしてジョウジを体の不自由と空中からの拘束の両方から一時的に解放させ、背中を蹴って修也の元へと急がせのだった。

 ジョウジは這々の体で修也の元へと向かい、彼からの最後の言葉とやらを聞くために耳を傾けた。
 が、実際に修也が発したのはジョウジが想定していた言葉とは真逆のものであった。

「大津さん、正気ですか? そんなことをして……」

「なぁに、バレたらその時は悠介と麗俐に任せましょう」

 修也は自分の子どもたちが籠っている宿を目で追いながら言った。修也とて殺されるのは本望ではないが、いざという時は子どもたちに後を託すより他になかった。

 だが、計画はうまくゆく。修也の中ではそんな確信さえあった。

 その後でジョウジは奉天にも「万が一のために……」という名目で修也からの言葉を伝えていった。

 奉天は修也が考えた計画を聞いた際に思わず目を張ってしまった。

 奉天に極秘として打ち明けられた計画とは互いに何度か死闘を演じた後に相討ちで倒れたフリをし、文邑が夢華を離した後に奇襲をかけるというものだった。

(ま、まさか……そんなことを考えるとはな……こんな策士が天の世界におったとは……)

 奉天は自分の目の前で怪しげな行動を取ることもせずに、淡々とビームソードを構える修也の姿を見て、改めてその恐ろしさに肝を冷やされた。

 だが、そのことを見透かされてはならない。あくまでも自然に振る舞うのが奉天の役割だった。

 その後も演技ではなく、互いに本気で命を狙うつもりで得物を打ち合った。この時の心境としては見破られては不味いという一心からだった。

 そして、互いに睨み合いながら唸り声を上げて突っ込んでいく。もちろん方天戟やビームソードは急所を掠めている。
 お互いに急所を振りをしながら見られないように体を近付けてそのまま地面の上へと倒れ込んだのであった。

「ハハッ!勝った! 勝ったぞッ!」

「そ、そんな……お兄様ァァァァ~!!」

 夢華は絶叫した。無敵ともいえる兄が相討ちとなって死亡するなどあり得ないことだった。
 夢華が絶叫するのと同時に人質の価値がなくなったと判断したのだろう。文邑は夢華を放り捨てた。

「やった! これでもうオレには怖いものなんてないぞ! よしッ! お前たち!! このまま我々の手で皇帝を殺すぞ!!! そして、これからは我々の時代を築き上げるのだッ!」

 文邑がけたたましい笑い声を上げ、その姿を死亡した兄の死体に縋り付く夢華が睨み付けた。

「生意気な小娘め」

 文邑はまたしてもどこからか短剣を取り出し、それを投げ付けるために腕を振り上げようとした。
 文邑の手から短剣が放たれようとした時だ。額に向かって一筋の赤い光線が刺さっていった。鋭い光線を急所に浴びた文邑はそのまま地面の上へと倒れ込み、そして二度と起き上がることはなかった。

 夢華が訳がわからずに辺りを見回していると、死んだはずの兄が目の前で平然と起きがってきたのだ。

「お、お兄様……?」

 そして夢華が目の前を見つめると、その隣にはレーザーガンを握り締めた修也の姿があった。

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