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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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翌朝、修也は泥のような眠りから目を覚ました。疲れからか、体が思うように動かない。欠伸をしようとして上体を起こしたもののその際に体全体にヒビが入っていったような衝撃に襲われた。
窓からは未知の惑星の上に昇っている小さな太陽から生じた微かな光が差し込んでいた。修也はぼんやりとした様子で窓の外を確認してみた。相変わらず窓の外には燦々とした荒野が広がっているだけだ。
無限に広がるかと錯覚させるような荒野を見た修也は眠気覚ましに両肩を解そうとしたのだが、その際にもう一度全身に痛みが生じていった。五十肩を発症してしまったのかと思わせるほどの痛みに修也が思わず下唇を噛み締めていた時のことだ。
ゆっくりとした調子で扉を叩く音が聞こえた。
「大津さん、開けてください。ジョウジです」
どうやらノックの主はジョウジであるらしい。修也はせっかく部屋に来てくれたジョウジを出迎えるため今度は肩や体を痛めないようにしてゆっくりと上体を起こしていった。
「おはようございます。ジョウジさん、どうしてましたか?」
「いえ、くだらないことかもしれないのですが、それでも我々としては思うところがあり、どうしても大津さんに伝えておかねばならないと考えてこちらを訪れさせていただこうと思ったのです」
「是非とも伝えておかなければならないこととは?」
「この惑星の名前です」
修也は真剣に語るのでジョウジが何か重要な用事を持ってきたのかと思った。目の前に巨大な宇宙生物が現れたとか、悠介が昨日の会議の中で主張したような超能力やらサイコキネシスやらを持った星の住民が現れたのかと考えてしまったのだ。少し身構えたので緊張で凝り固まっていた両肩を柔らかくしていった。
「いつまでも『未知の惑星』だとか『謎の惑星』だなんて呼び方をしていれば記録にも困りますので、正式名称を決めておくことは重要だと思うのです」
修也はジョウジの言説に対して思わず突っ込みを入れてしまいたくなった。ジョウジは言葉の中で『記録』などという単語を用いているのだが、自分たちが死んでしまえば『記録』などというものは無意味に終わってしまうのではないだろうか。後にこの惑星を訪れた人に見せる用だとしても地球の上に存在するどの国の技術を用いても到達できないような星に訪れた人は自分たちと同様に漂流者なので無意味に終わってしまうのではないだろうか。
だが、真剣な目を前にしたジョウジの前に修也はどうしても自身の感じた思いを口に出すことができなかった。
突っ込みの代わりに口に出したのは素朴な疑問だった。
「どんな名前を星につけたのですか?」
修也からの質問にジョウジは授業中に手を当てられた子どものように嬉しそうな顔を浮かべながら答えた。
「サ・ザ・ランドという名前です」
「サ・ザ・ランドですか?」
さっぱりと意味のわからない単語だ。修也が頭を抱えていると、ジョウジが待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべて『サ・ザ・ランド』と名付けた意味を教えていく。
「サ・ザというのは以前、私とカエデさんと大津さんの3人で訪れた惑星オクタヴィルの言葉で『漂流』という言葉を表します。ランドはそのまま地球の英語で陸地や陸を意味する言葉です。しかし他の意味では『国』という言葉を示すともされていますね」
ジョウジからの解説を聞いた瞬間に修也の中で『漂流』と『国』という単語がハッキリと結び付いた。
普通に考えれば『漂流』という単語とランドという単語において大々的な訳として使われる『島』が結び付くはずだ。
だが、修也はわざわざジョウジが最後に『国』という単語を結び付けたことが引っ掛かって、『島』という意味よりも『国』という意味に意義を見出し始めていた。
もしかすればジョウジは地球に帰還することを諦め、この漂流先の星で独立国家を樹立しようと考えているのかもしれない。
感情が先に迸ったこともあってか、修也は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「い、いけません! そんなことを……」
「おや、大津さん、気付かれましたか?そうです。ここを我々の国にしましょう。国民はたったの5名ですが御三方が死ぬまで、我々が故障するまでの間は楽しめると思いますよ」
予想は当たっていた。が、ジョウジはといえば指摘を受けても悪びれる様子もなくお菓子を見つけた親戚の子どもを見つめる老人のような言い方だった。
「じょ、冗談が過ぎますッ!」
修也は声を荒げた。帰還をほとんど諦めかけていたはずの修也がどうして今になってここまで激昂するのかは彼自身にもわからなかった。
ジョウジが付けた名前がそんなにも気に入らなかったというのだろうか。状況が飲み込めていないような顔を浮かべるジョウジを見て、修也が思わず苦悩した顔を浮かべていた時のことだ。
「まぁまぁ、難しいことはまた後で考えればいいじゃないですか。名前も決まったところで、今日はゆっくりと休むとしましょう。大津さんは映画はお好きですか?」
修也は無言だった。答える気も起きなかった。しかしジョウジは不機嫌そうな修也を放って、彼に構うことなく話を続けていった。
「宇宙船に内蔵されたビデオの中に面白そうな映画やドラマが見放題で揃ってますよ。恋愛、ミステリー、アクション、SFなどなど、あっ、そうだ! 大津さんは日本人ですし、日本のコントなどはいかがですか?髭ダンスという面白いものがーー」
「やめてください!」
修也は近くにあった壁を勢いよく叩いた。壁を叩く際にズシーンと大きな音が部屋の中に共鳴して鳴り響いていくのをジョウジは聞き逃さなかった。
ジョウジはここに来てようやく修也の気を害したことに気が付いた。通常のアンドロイドであればこのような過ちに気が付くことはない。
むしろこの場において適切な行動を行なっているのにどうして怒るのかと首を傾げたに違いない。
だが、『感情』があったのでジョウジは疑問に思うこともなく素直に頭を下げた。
「……すいません。私が無神経でした。あんな状態でビデオを観ようだなんて……」
「いえ、私の方こそ感情的になり過ぎてしまったようで……」
修也も慌てて頭を下げた。ジョウジが悲しそうな顔を浮かべて頭を下げる姿に良心が揺り動かされたのだ。頭を下げていくのと同時に熱したばかりの鉄のように熱が昇っていた頭が落ち着いてきた。冷たい氷をぶっかけられたことで頭を冷やされたような心境となっていた。
先ほどまでの自分がいかに愚かであったのかを反省させられた。
重苦しい空気が修也の部屋の中に漂っていく。部屋全体に重圧が作り出され、それが両肩の上にのしかかっていったかのように重苦しかった。
どうしようもないうな空気を断ち切ったのは意外にも彼の娘だった。
2人の間で繰り広げられた討論など露とも知らぬ麗俐は呑気な調子で扉をノックして修也を朝食に誘ったのであった。2人が天の助けだとばかりにそそくさとダイニングルームへと移動していったのは言うまでもないことであった。
ダイニングルームで提供された食事はレトルト食品ではなく栄養カプセルであった。その横に申し訳程度と言わんばかりにカップ一杯分のオレンジジュースが全員に差し出されていた。
「んだよ、ケチくせーな」
悠介は目の前に置かれた小さなカプセルを右手の親指と人差し指でこねるようにいじくり回していた。
「ぼやかない。ぼかやない。ご飯の量を確認したんだけど、今あるレトルト食品をまとめたら2週間くらいで食べ切っちゃうんだよ。なら、地球スタイルで3食に一度程度の割り合いにしちゃおうかなと思って」
麗俐の言葉は正論だった。2週間に全てを食べ切ってしまうよりかは少しでも一食に一度の割り合いでレトルト食品を残しておいた方がいいに違いないのだ。
だが、食事の楽しみを保つためとはいえども朝と昼は栄養カプセルしか摂取できないのが辛くて仕方がなかった。悠介は決まってもなおぶつくさと文句を垂れていた。
各々が栄養カプセルを口の中へと放り込み、オレンジジュースで流し込んだ後は各々の意見を語り合う会議の場所となった。
小さな会議場において、もっとも活発的な話し手は麗俐だった。彼女は戦争中の作戦会議において断固突撃や断固死守を叫ぶ軍人のように強気な姿勢で未知の惑星もといサ・ザ・ランド全体の探索を主張したのである。
サ・ザ・ランドの探索に関しては危険や無意味という言葉でジョウジや修也は止めようとしたが、麗俐の意思は固かった。
このまま不毛な言い争いが続き、昨日同様に会議が進まないかもしれないと全員が危惧していた時のことだ。
カエデが息を吐き出すかのような小さく、注意しなければ聞き取れないような声で口を挟んだ。
「いいでしょう。麗俐さん、それに悠介さん、御二方が外を探索することを認めましょう」
「本当ですか!!!」
麗俐は両目を輝かせていた。母親から戒めを解かれた幼い子どものように麗俐は喜んでみせたが、そんな麗俐に釘を刺すかのようにカエデは言った。
「ですが、御二方が探索に際して万一のことがあったとしても我々としては責任を持ちません。それでも構わないのであればどうぞ」
どこか突き放すような言い方に麗俐は動揺していた。カエデの言葉の中に含まれる『我々』というのはジョウジやカエデたちのことだろう。つまるところ探索で行方不明になったとしても探索に手助けはしてくれないということだ。
もしかすれば言葉の中にはメトロポリス社のことも含まれているのかもしれないのだが、ワームホールに巻き込まれてどこかの惑星に漂着してしまった現在では既に意味をなさない言葉と化しているので深く考えない方で解釈させてもらおう。
麗俐がそんなことを考えていると、深海の水を彷彿とさせるような冷たい声で再度カエデが問い掛けてきた。
「どうします? 行くも行かないも全てあなた方の自由ですよ」
その言葉を聞いて麗俐は悩んでしまった。カエデの言葉を推察するに選択肢があるようでないように思えて仕方がなかった。というのも探索するという選択肢に対してデメリットのみを提示しているのに対し、探索しないという選択肢ならばこのまま安寧を約束しているかのように思えたのだ。
一見突き放して自由にさせているかのように思えてその実は一択のみという矛盾した現象が起きてしまっている。
だが、それでも麗俐はいくつもりだった。ポケットの中に隠していたカプセルを手に取りながらハッキリとした声でカエデに向かって言った。
「あたし、絶対に行くからね!」
麗俐の言葉は勇気に満ち溢れていた。カエデはその姿を見て、愚かな選択だと残念に思いつつも人類の歴史というのは麗俐のような勇者によって築かれてきたのだと感心を示したのであった。
麗俐に対して最低限の敬意を表した例としては優しく微笑んでみせたということがその証明といえるだろう。
窓からは未知の惑星の上に昇っている小さな太陽から生じた微かな光が差し込んでいた。修也はぼんやりとした様子で窓の外を確認してみた。相変わらず窓の外には燦々とした荒野が広がっているだけだ。
無限に広がるかと錯覚させるような荒野を見た修也は眠気覚ましに両肩を解そうとしたのだが、その際にもう一度全身に痛みが生じていった。五十肩を発症してしまったのかと思わせるほどの痛みに修也が思わず下唇を噛み締めていた時のことだ。
ゆっくりとした調子で扉を叩く音が聞こえた。
「大津さん、開けてください。ジョウジです」
どうやらノックの主はジョウジであるらしい。修也はせっかく部屋に来てくれたジョウジを出迎えるため今度は肩や体を痛めないようにしてゆっくりと上体を起こしていった。
「おはようございます。ジョウジさん、どうしてましたか?」
「いえ、くだらないことかもしれないのですが、それでも我々としては思うところがあり、どうしても大津さんに伝えておかねばならないと考えてこちらを訪れさせていただこうと思ったのです」
「是非とも伝えておかなければならないこととは?」
「この惑星の名前です」
修也は真剣に語るのでジョウジが何か重要な用事を持ってきたのかと思った。目の前に巨大な宇宙生物が現れたとか、悠介が昨日の会議の中で主張したような超能力やらサイコキネシスやらを持った星の住民が現れたのかと考えてしまったのだ。少し身構えたので緊張で凝り固まっていた両肩を柔らかくしていった。
「いつまでも『未知の惑星』だとか『謎の惑星』だなんて呼び方をしていれば記録にも困りますので、正式名称を決めておくことは重要だと思うのです」
修也はジョウジの言説に対して思わず突っ込みを入れてしまいたくなった。ジョウジは言葉の中で『記録』などという単語を用いているのだが、自分たちが死んでしまえば『記録』などというものは無意味に終わってしまうのではないだろうか。後にこの惑星を訪れた人に見せる用だとしても地球の上に存在するどの国の技術を用いても到達できないような星に訪れた人は自分たちと同様に漂流者なので無意味に終わってしまうのではないだろうか。
だが、真剣な目を前にしたジョウジの前に修也はどうしても自身の感じた思いを口に出すことができなかった。
突っ込みの代わりに口に出したのは素朴な疑問だった。
「どんな名前を星につけたのですか?」
修也からの質問にジョウジは授業中に手を当てられた子どものように嬉しそうな顔を浮かべながら答えた。
「サ・ザ・ランドという名前です」
「サ・ザ・ランドですか?」
さっぱりと意味のわからない単語だ。修也が頭を抱えていると、ジョウジが待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべて『サ・ザ・ランド』と名付けた意味を教えていく。
「サ・ザというのは以前、私とカエデさんと大津さんの3人で訪れた惑星オクタヴィルの言葉で『漂流』という言葉を表します。ランドはそのまま地球の英語で陸地や陸を意味する言葉です。しかし他の意味では『国』という言葉を示すともされていますね」
ジョウジからの解説を聞いた瞬間に修也の中で『漂流』と『国』という単語がハッキリと結び付いた。
普通に考えれば『漂流』という単語とランドという単語において大々的な訳として使われる『島』が結び付くはずだ。
だが、修也はわざわざジョウジが最後に『国』という単語を結び付けたことが引っ掛かって、『島』という意味よりも『国』という意味に意義を見出し始めていた。
もしかすればジョウジは地球に帰還することを諦め、この漂流先の星で独立国家を樹立しようと考えているのかもしれない。
感情が先に迸ったこともあってか、修也は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「い、いけません! そんなことを……」
「おや、大津さん、気付かれましたか?そうです。ここを我々の国にしましょう。国民はたったの5名ですが御三方が死ぬまで、我々が故障するまでの間は楽しめると思いますよ」
予想は当たっていた。が、ジョウジはといえば指摘を受けても悪びれる様子もなくお菓子を見つけた親戚の子どもを見つめる老人のような言い方だった。
「じょ、冗談が過ぎますッ!」
修也は声を荒げた。帰還をほとんど諦めかけていたはずの修也がどうして今になってここまで激昂するのかは彼自身にもわからなかった。
ジョウジが付けた名前がそんなにも気に入らなかったというのだろうか。状況が飲み込めていないような顔を浮かべるジョウジを見て、修也が思わず苦悩した顔を浮かべていた時のことだ。
「まぁまぁ、難しいことはまた後で考えればいいじゃないですか。名前も決まったところで、今日はゆっくりと休むとしましょう。大津さんは映画はお好きですか?」
修也は無言だった。答える気も起きなかった。しかしジョウジは不機嫌そうな修也を放って、彼に構うことなく話を続けていった。
「宇宙船に内蔵されたビデオの中に面白そうな映画やドラマが見放題で揃ってますよ。恋愛、ミステリー、アクション、SFなどなど、あっ、そうだ! 大津さんは日本人ですし、日本のコントなどはいかがですか?髭ダンスという面白いものがーー」
「やめてください!」
修也は近くにあった壁を勢いよく叩いた。壁を叩く際にズシーンと大きな音が部屋の中に共鳴して鳴り響いていくのをジョウジは聞き逃さなかった。
ジョウジはここに来てようやく修也の気を害したことに気が付いた。通常のアンドロイドであればこのような過ちに気が付くことはない。
むしろこの場において適切な行動を行なっているのにどうして怒るのかと首を傾げたに違いない。
だが、『感情』があったのでジョウジは疑問に思うこともなく素直に頭を下げた。
「……すいません。私が無神経でした。あんな状態でビデオを観ようだなんて……」
「いえ、私の方こそ感情的になり過ぎてしまったようで……」
修也も慌てて頭を下げた。ジョウジが悲しそうな顔を浮かべて頭を下げる姿に良心が揺り動かされたのだ。頭を下げていくのと同時に熱したばかりの鉄のように熱が昇っていた頭が落ち着いてきた。冷たい氷をぶっかけられたことで頭を冷やされたような心境となっていた。
先ほどまでの自分がいかに愚かであったのかを反省させられた。
重苦しい空気が修也の部屋の中に漂っていく。部屋全体に重圧が作り出され、それが両肩の上にのしかかっていったかのように重苦しかった。
どうしようもないうな空気を断ち切ったのは意外にも彼の娘だった。
2人の間で繰り広げられた討論など露とも知らぬ麗俐は呑気な調子で扉をノックして修也を朝食に誘ったのであった。2人が天の助けだとばかりにそそくさとダイニングルームへと移動していったのは言うまでもないことであった。
ダイニングルームで提供された食事はレトルト食品ではなく栄養カプセルであった。その横に申し訳程度と言わんばかりにカップ一杯分のオレンジジュースが全員に差し出されていた。
「んだよ、ケチくせーな」
悠介は目の前に置かれた小さなカプセルを右手の親指と人差し指でこねるようにいじくり回していた。
「ぼやかない。ぼかやない。ご飯の量を確認したんだけど、今あるレトルト食品をまとめたら2週間くらいで食べ切っちゃうんだよ。なら、地球スタイルで3食に一度程度の割り合いにしちゃおうかなと思って」
麗俐の言葉は正論だった。2週間に全てを食べ切ってしまうよりかは少しでも一食に一度の割り合いでレトルト食品を残しておいた方がいいに違いないのだ。
だが、食事の楽しみを保つためとはいえども朝と昼は栄養カプセルしか摂取できないのが辛くて仕方がなかった。悠介は決まってもなおぶつくさと文句を垂れていた。
各々が栄養カプセルを口の中へと放り込み、オレンジジュースで流し込んだ後は各々の意見を語り合う会議の場所となった。
小さな会議場において、もっとも活発的な話し手は麗俐だった。彼女は戦争中の作戦会議において断固突撃や断固死守を叫ぶ軍人のように強気な姿勢で未知の惑星もといサ・ザ・ランド全体の探索を主張したのである。
サ・ザ・ランドの探索に関しては危険や無意味という言葉でジョウジや修也は止めようとしたが、麗俐の意思は固かった。
このまま不毛な言い争いが続き、昨日同様に会議が進まないかもしれないと全員が危惧していた時のことだ。
カエデが息を吐き出すかのような小さく、注意しなければ聞き取れないような声で口を挟んだ。
「いいでしょう。麗俐さん、それに悠介さん、御二方が外を探索することを認めましょう」
「本当ですか!!!」
麗俐は両目を輝かせていた。母親から戒めを解かれた幼い子どものように麗俐は喜んでみせたが、そんな麗俐に釘を刺すかのようにカエデは言った。
「ですが、御二方が探索に際して万一のことがあったとしても我々としては責任を持ちません。それでも構わないのであればどうぞ」
どこか突き放すような言い方に麗俐は動揺していた。カエデの言葉の中に含まれる『我々』というのはジョウジやカエデたちのことだろう。つまるところ探索で行方不明になったとしても探索に手助けはしてくれないということだ。
もしかすれば言葉の中にはメトロポリス社のことも含まれているのかもしれないのだが、ワームホールに巻き込まれてどこかの惑星に漂着してしまった現在では既に意味をなさない言葉と化しているので深く考えない方で解釈させてもらおう。
麗俐がそんなことを考えていると、深海の水を彷彿とさせるような冷たい声で再度カエデが問い掛けてきた。
「どうします? 行くも行かないも全てあなた方の自由ですよ」
その言葉を聞いて麗俐は悩んでしまった。カエデの言葉を推察するに選択肢があるようでないように思えて仕方がなかった。というのも探索するという選択肢に対してデメリットのみを提示しているのに対し、探索しないという選択肢ならばこのまま安寧を約束しているかのように思えたのだ。
一見突き放して自由にさせているかのように思えてその実は一択のみという矛盾した現象が起きてしまっている。
だが、それでも麗俐はいくつもりだった。ポケットの中に隠していたカプセルを手に取りながらハッキリとした声でカエデに向かって言った。
「あたし、絶対に行くからね!」
麗俐の言葉は勇気に満ち溢れていた。カエデはその姿を見て、愚かな選択だと残念に思いつつも人類の歴史というのは麗俐のような勇者によって築かれてきたのだと感心を示したのであった。
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