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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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修也は絵画が記された長方形の石をじっくりと眺めていく。謎の絵画が描かれた石の上には文字というものは存在していなかった。
恐らくここの先住民たちは文字という文明を持つ前に滅んでしまったに違いない。かつて地球上においても文字がない時代において洞窟壁画というものが存在していたのだ。ヨーロッパで見られる洞窟壁画の題材となっていたのはバイソンや馬、オーロック、鹿など、その日に捕えられた獲物などを記されたものとされている。
しかし21世紀初頭における研究では集団の宗教的集会更には歌や踊りといったパフォーマンスの一部として使われていたという説も出されている。まだまだ謎は残っている。22世紀の今でも考古学者たちは頭を悩ませているというのが現状である。
修也はそのことを頭の中で踏まえながら、この石に記されている絵を見つめていたが、先ほどはその日の日記やら儀式に使う絵画だと考えていたのだが、修也には何かの記録のように見えて仕方がなかった。単なる絵画というよりかは紙芝居のようなものだと表した方がいいかもしれない。
絵画を眺めながら、修也はあることを考えていた。以前何かの本で読んだのだが、地球人が地球の上で文明を残すことができたのは文字を読むことと書くことができたからである。
自分たちの失敗を後世へと伝える、もしくは自分たちが手に入れた技術を後世の人のために残す、こうした技術が残ったからこそ人類は文明を発達させることができたのだ。
体育や美術、音楽といった己の感性を磨き上げるための授業の他に主要5教科が小学校で重要視されるのもそういった理由からくるものだ。
修也がこのように考えたのは文字を残すこともなく宇宙の彼方にある星の中で誰にも知られることなく、霧のように消え去ったサ・ザ・ランドの人々に対する憐憫か、もしくは無意識の中に培った優越感のどちらかなのだろうが、どちらの思いを抱いているのかは修也自身にも分からなかった。
ただ一つ言えるのは、彼らの文明と地球文明とが交流を行う機会は一切ないということだった。
修也は慌てて意識を石の上に記された絵画へと戻していく。原始的な絵画には地球における洞窟壁画と同様にその日の獲物や日常生活のことなどが記されていた。
だが、石を追っていくにつれてその中身に変化が見え始めた。石の上に宇宙服と思われる服に身を包んだ異星人が姿を見せ、原住民たちを使役し始める姿を描いていったのである。
原住民たちは無抵抗のまま突然現れた異星人たちを歓待する姿を見せたようだ。石の上には獲った獲物の他に、金や宝石を彷彿とさせる華麗な品々を異星人たちに献上する姿を見せた。
異星人たちは何も言わずに差し出される金や宝石を見て物欲を高めたのだろう。突然プラズマライフルやビームライフル、そしてレーザーガンといった現在の地球でも見られる兵器で住民たちを攻撃し、奴隷にし始めた。
抵抗もせず、ただひたすら服従の態度を取り、抵抗の意思さえ見せなかった住民たちは生まれて初めて戦うための武器を手にした。獲物を仕留めるために用いていた弓をつがえ、槍を手にして無法極まる侵略者たちへと立ち向かっていったのである。
だが、彼らの抵抗は道端にある卵の殻を踏み潰すかのようにあっさりと潰されてしまった。宇宙人たちが操る未知の兵器を前に住民たちはあっさりと破られてしまったのである。
鬼畜極まる宇宙人たちは住民たちを呆気なく奴隷の身へと落とさせ、あたかも家の中を占領した強盗のように彼らに対して金や宝石を要求したのである。
服従も抵抗も死へと続く。そう考えた住民たちは逃亡の道を選んだのだが、彼らがそう簡単に哀れな逃亡を見逃すはずもなかった。
その時に彼らは自分たちの星から持ってきたと思われる凶悪な宇宙生物を猟犬代わりに放ったのである。これこそが麗俐たちが洞窟の中で遭遇した例の宇宙生物たちである。
奇妙な宇宙生物たちは山の中や森の中といった場所に隠れたサ・ザ・ランドの先住民たちに対して容赦なく襲い掛かった。彼らはサ・ザ・ランドの先住民たちとの間に大人と赤ん坊ほどの科学技術の差を有していながら星ごと破壊したりするような真似はせず、わざわざ宇宙生物を使って残虐な狩りを楽しんだのだ。
そして狩りに飽きれば逃げ込んだ先住民たちが森や山に向かって円盤から巨大なプラズマを落とす。その結果としてこの星には緑豊かな森や山は永遠に失われてしまうことになったのである。
修也はこの星に酸素以外の人間が生活のために移住できるような環境がない理由を理解した。恐ろしいまでの理不尽が現れ、サ・ザ・ランドの住民たちへと襲い掛かった。そして、彼らが生きていた痕跡というものや彼らが存在していた証拠を完膚なきまでに消し飛ばしてしまったのである。
唯一気まぐれでお目溢しがなされたのか、もしくはたまたま見逃されてしまったことである。石の中に刻まれたこの絵だけだ。修也は絵を一通り見終わるとこの星で起こったことが信じられなかったのか、はたまた恐ろしさで腰を抜かしたのか、パワードスーツを纏ったまま地面の上に勢いよく尻餅をついた。
起き上がろうとしても起き上がることができない。頭がフラフラとした。強い力で殴られたかのような気持ちだ。
かつて高校生であった頃に世界史の授業で人間たちがどのような悍ましい行為をしたのかを習った時と同じ衝撃であった。
修也はこの時ほど自分が醜い存在だと思ったことはない。修也はようやく理解した。かつて世界史の授業において先人たちが行なった残虐な行動に心の底から軽蔑の念を抱いたのにも関わらず、この壁画を読む前にサ・ザ・ランドの先住民たちに対して自分が思った感情はかつての愚かな先人たちと同じ気持ちにあったのだ、と。
修也はどことなく驕りがあったということをやっと自覚できたような気がする。
それは文明が進んだ22世紀の地球に産まれ、そこの恩恵を受けた『文明人』だという無自覚の優越感だった。
修也が自身の心のうちに大きな後悔の念を抱いていた時だ。
「大津さん、大丈夫ですか?」
ジョウジの呼び掛ける声が聞こえてきた。
「えぇ、大丈夫です。それよりもここに記されている絵は読みましたか?」
「……えぇ、酷い話ですよね。宇宙の果てには進んだ文明があると考えていましたが、思考回路はファンタジー映画に登場する怪物と変わらないようですね」
見事な比喩表現だ。修也は思わず笑みを溢してしまった。ジョウジが用いた巧みな比喩に釣られて笑ってしまったので、怒られた時に思わず笑ってしまうような間違った感覚とは少し異なるはずだ。
しかし理由はどうであれ、とにかく笑ってしまったことは事実だ。
修也は真剣な表情を浮かべ直し、ジョウジに話を続けるように促した。
「まるで人間の歴史をそのまま繰り返しているかのようです。愚かだとしか言えませんが、もう彼らのことを語り継ぐことでしか彼らを生かす方法はないのでしょうね」
ジョウジは悲しげな目を浮かべながら言った。本来のアンドロイドであれば淡々とサ・ザ・ランドにおける『史実』として語っていたに違いなかった。
彼が沈痛な表情で語るのも『感情』が存在しているからだろう。
「……そうですね。もし、地球に帰ることができたのであれば彼らのことを語り継ぎたいものです」
修也もジョウジの思いに答えるように、悲しそうな顔を浮かべながら言った。修也は彼らの生きた唯一の証ともいえる石を忘れないためか、もう一度石をなぞりながら絵をもう一度眺めようとした時のことだ。
「助けてください!」
と、背後から悲痛な叫びが聞こえてきた。無論知らない星の言葉なので修也たちにその意味が通じるはずなどなかった。
だが、それでも修也たちが声のした方向を振り向くと、そこには茶色の混じった髪を乱れさせながら必死に走ってくる若い女性の姿が見えた。
彼女は紺色のシャツに青いジーンズ、そして首元に目立たない小さな首飾りを付けていた。
思わず見惚れてしまうような美人だ。体も引き締まっており、彼女のプロモーションは娘の麗俐がよく読むようなファッション誌に登場するモデルを思わせるかのようであった。
そんな彼女は修弥の元へと駆け寄ると、彼のパワードスーツの胸元へと縋り付き、涙を流しながら助けを訴えたのである。
「助けてください! 私、追われているんです!!」
修也には彼女の言葉が理解できない。ただ切羽詰まっているということだけは肌で感じ取った。
修也は無言で子羊のように怯える彼女を背後へと隠したのである。その姿はか弱い姫を守る勇敢な騎士のようであった。
修也はそのまま彼女を守るように手を引いて、自分たちが乗ってきたカーゴヘリの中へと優しく招き入れたのである。
カーゴヘリで運転している間にもジョウジは錯乱した様子の彼女の発する訳のわからない言葉を拾いながら、必死に頭の中に内蔵されている翻訳機能を用いて彼女の言語を日本語に訳するための努力を行なっていた。
しかし別の宇宙における言葉であるためか、未知の言語を取得して既存の言語に置き換えることができる地球最高の翻訳機能を用いてはいたが、なかなか彼女の言葉を翻訳することはできなかった。
ようやく翻訳が可能になったのはスコーピオン号へと帰還してからである。
修也たちは憔悴した様子の彼女に対して努めて優しく接するように心掛けた。
水や茶を与え、菓子を与えながら雑談を交えて打ち解ける様子を見せたことで彼女もようやく安堵の表情を見せたらしい。
カエデの提供した水が入った紙コップを両手で握り締めながら彼女は丁寧に頭を下げて言った。
「助けていただきありがとうございます。私の名前はファティマ。ベガ星雲の端にある第六惑星に住むホモ・サピエンスです」
「ファティマさんですね。私の名前は大津修也です。地球にあるメトロポリス社の護衛官を務めております。こちらはジョウジさんとカエデさんです」
ジョウジは修也の言葉をファティマの言葉に翻訳し終えた後でカエデと共に深々と頭を下げていった。
互いの自己紹介も終えたところで修也はようやく本件を切り出したのである。
「ところで、ファティマさん。あなたはどうして逃げていたのですか? 何か恐ろしいことがあったみたいですが……」
「あいつらのせいです……」
「あいつら?」
「えぇ、あの悪魔たちに私は追われていたんです」
『悪魔』という物騒な単語が出てきた際に宇宙船の中に残っていた全員が目を合わせた。
一体どんな存在が現れたのだろうか。宇宙船の中に居合わせた全員が息を潜めながらファティマのことを見つめていたのだが、ファティマは答えたくなかったのだろう。
それまで落ち着いて席の上に腰を掛けていたというのに、『悪魔』とやらの存在を話す時になると椅子の上から落ちて悲鳴を上げてしまうのだ。
事情を聞くのは時間が必要になるかもしれない。
全員が顔を見合わせていたものの、なんとか彼女を落ち着かせるべく、カエデはファティマに肩を貸して麗俐の部屋にあるベッドへと運んでいったのである。
恐らくここの先住民たちは文字という文明を持つ前に滅んでしまったに違いない。かつて地球上においても文字がない時代において洞窟壁画というものが存在していたのだ。ヨーロッパで見られる洞窟壁画の題材となっていたのはバイソンや馬、オーロック、鹿など、その日に捕えられた獲物などを記されたものとされている。
しかし21世紀初頭における研究では集団の宗教的集会更には歌や踊りといったパフォーマンスの一部として使われていたという説も出されている。まだまだ謎は残っている。22世紀の今でも考古学者たちは頭を悩ませているというのが現状である。
修也はそのことを頭の中で踏まえながら、この石に記されている絵を見つめていたが、先ほどはその日の日記やら儀式に使う絵画だと考えていたのだが、修也には何かの記録のように見えて仕方がなかった。単なる絵画というよりかは紙芝居のようなものだと表した方がいいかもしれない。
絵画を眺めながら、修也はあることを考えていた。以前何かの本で読んだのだが、地球人が地球の上で文明を残すことができたのは文字を読むことと書くことができたからである。
自分たちの失敗を後世へと伝える、もしくは自分たちが手に入れた技術を後世の人のために残す、こうした技術が残ったからこそ人類は文明を発達させることができたのだ。
体育や美術、音楽といった己の感性を磨き上げるための授業の他に主要5教科が小学校で重要視されるのもそういった理由からくるものだ。
修也がこのように考えたのは文字を残すこともなく宇宙の彼方にある星の中で誰にも知られることなく、霧のように消え去ったサ・ザ・ランドの人々に対する憐憫か、もしくは無意識の中に培った優越感のどちらかなのだろうが、どちらの思いを抱いているのかは修也自身にも分からなかった。
ただ一つ言えるのは、彼らの文明と地球文明とが交流を行う機会は一切ないということだった。
修也は慌てて意識を石の上に記された絵画へと戻していく。原始的な絵画には地球における洞窟壁画と同様にその日の獲物や日常生活のことなどが記されていた。
だが、石を追っていくにつれてその中身に変化が見え始めた。石の上に宇宙服と思われる服に身を包んだ異星人が姿を見せ、原住民たちを使役し始める姿を描いていったのである。
原住民たちは無抵抗のまま突然現れた異星人たちを歓待する姿を見せたようだ。石の上には獲った獲物の他に、金や宝石を彷彿とさせる華麗な品々を異星人たちに献上する姿を見せた。
異星人たちは何も言わずに差し出される金や宝石を見て物欲を高めたのだろう。突然プラズマライフルやビームライフル、そしてレーザーガンといった現在の地球でも見られる兵器で住民たちを攻撃し、奴隷にし始めた。
抵抗もせず、ただひたすら服従の態度を取り、抵抗の意思さえ見せなかった住民たちは生まれて初めて戦うための武器を手にした。獲物を仕留めるために用いていた弓をつがえ、槍を手にして無法極まる侵略者たちへと立ち向かっていったのである。
だが、彼らの抵抗は道端にある卵の殻を踏み潰すかのようにあっさりと潰されてしまった。宇宙人たちが操る未知の兵器を前に住民たちはあっさりと破られてしまったのである。
鬼畜極まる宇宙人たちは住民たちを呆気なく奴隷の身へと落とさせ、あたかも家の中を占領した強盗のように彼らに対して金や宝石を要求したのである。
服従も抵抗も死へと続く。そう考えた住民たちは逃亡の道を選んだのだが、彼らがそう簡単に哀れな逃亡を見逃すはずもなかった。
その時に彼らは自分たちの星から持ってきたと思われる凶悪な宇宙生物を猟犬代わりに放ったのである。これこそが麗俐たちが洞窟の中で遭遇した例の宇宙生物たちである。
奇妙な宇宙生物たちは山の中や森の中といった場所に隠れたサ・ザ・ランドの先住民たちに対して容赦なく襲い掛かった。彼らはサ・ザ・ランドの先住民たちとの間に大人と赤ん坊ほどの科学技術の差を有していながら星ごと破壊したりするような真似はせず、わざわざ宇宙生物を使って残虐な狩りを楽しんだのだ。
そして狩りに飽きれば逃げ込んだ先住民たちが森や山に向かって円盤から巨大なプラズマを落とす。その結果としてこの星には緑豊かな森や山は永遠に失われてしまうことになったのである。
修也はこの星に酸素以外の人間が生活のために移住できるような環境がない理由を理解した。恐ろしいまでの理不尽が現れ、サ・ザ・ランドの住民たちへと襲い掛かった。そして、彼らが生きていた痕跡というものや彼らが存在していた証拠を完膚なきまでに消し飛ばしてしまったのである。
唯一気まぐれでお目溢しがなされたのか、もしくはたまたま見逃されてしまったことである。石の中に刻まれたこの絵だけだ。修也は絵を一通り見終わるとこの星で起こったことが信じられなかったのか、はたまた恐ろしさで腰を抜かしたのか、パワードスーツを纏ったまま地面の上に勢いよく尻餅をついた。
起き上がろうとしても起き上がることができない。頭がフラフラとした。強い力で殴られたかのような気持ちだ。
かつて高校生であった頃に世界史の授業で人間たちがどのような悍ましい行為をしたのかを習った時と同じ衝撃であった。
修也はこの時ほど自分が醜い存在だと思ったことはない。修也はようやく理解した。かつて世界史の授業において先人たちが行なった残虐な行動に心の底から軽蔑の念を抱いたのにも関わらず、この壁画を読む前にサ・ザ・ランドの先住民たちに対して自分が思った感情はかつての愚かな先人たちと同じ気持ちにあったのだ、と。
修也はどことなく驕りがあったということをやっと自覚できたような気がする。
それは文明が進んだ22世紀の地球に産まれ、そこの恩恵を受けた『文明人』だという無自覚の優越感だった。
修也が自身の心のうちに大きな後悔の念を抱いていた時だ。
「大津さん、大丈夫ですか?」
ジョウジの呼び掛ける声が聞こえてきた。
「えぇ、大丈夫です。それよりもここに記されている絵は読みましたか?」
「……えぇ、酷い話ですよね。宇宙の果てには進んだ文明があると考えていましたが、思考回路はファンタジー映画に登場する怪物と変わらないようですね」
見事な比喩表現だ。修也は思わず笑みを溢してしまった。ジョウジが用いた巧みな比喩に釣られて笑ってしまったので、怒られた時に思わず笑ってしまうような間違った感覚とは少し異なるはずだ。
しかし理由はどうであれ、とにかく笑ってしまったことは事実だ。
修也は真剣な表情を浮かべ直し、ジョウジに話を続けるように促した。
「まるで人間の歴史をそのまま繰り返しているかのようです。愚かだとしか言えませんが、もう彼らのことを語り継ぐことでしか彼らを生かす方法はないのでしょうね」
ジョウジは悲しげな目を浮かべながら言った。本来のアンドロイドであれば淡々とサ・ザ・ランドにおける『史実』として語っていたに違いなかった。
彼が沈痛な表情で語るのも『感情』が存在しているからだろう。
「……そうですね。もし、地球に帰ることができたのであれば彼らのことを語り継ぎたいものです」
修也もジョウジの思いに答えるように、悲しそうな顔を浮かべながら言った。修也は彼らの生きた唯一の証ともいえる石を忘れないためか、もう一度石をなぞりながら絵をもう一度眺めようとした時のことだ。
「助けてください!」
と、背後から悲痛な叫びが聞こえてきた。無論知らない星の言葉なので修也たちにその意味が通じるはずなどなかった。
だが、それでも修也たちが声のした方向を振り向くと、そこには茶色の混じった髪を乱れさせながら必死に走ってくる若い女性の姿が見えた。
彼女は紺色のシャツに青いジーンズ、そして首元に目立たない小さな首飾りを付けていた。
思わず見惚れてしまうような美人だ。体も引き締まっており、彼女のプロモーションは娘の麗俐がよく読むようなファッション誌に登場するモデルを思わせるかのようであった。
そんな彼女は修弥の元へと駆け寄ると、彼のパワードスーツの胸元へと縋り付き、涙を流しながら助けを訴えたのである。
「助けてください! 私、追われているんです!!」
修也には彼女の言葉が理解できない。ただ切羽詰まっているということだけは肌で感じ取った。
修也は無言で子羊のように怯える彼女を背後へと隠したのである。その姿はか弱い姫を守る勇敢な騎士のようであった。
修也はそのまま彼女を守るように手を引いて、自分たちが乗ってきたカーゴヘリの中へと優しく招き入れたのである。
カーゴヘリで運転している間にもジョウジは錯乱した様子の彼女の発する訳のわからない言葉を拾いながら、必死に頭の中に内蔵されている翻訳機能を用いて彼女の言語を日本語に訳するための努力を行なっていた。
しかし別の宇宙における言葉であるためか、未知の言語を取得して既存の言語に置き換えることができる地球最高の翻訳機能を用いてはいたが、なかなか彼女の言葉を翻訳することはできなかった。
ようやく翻訳が可能になったのはスコーピオン号へと帰還してからである。
修也たちは憔悴した様子の彼女に対して努めて優しく接するように心掛けた。
水や茶を与え、菓子を与えながら雑談を交えて打ち解ける様子を見せたことで彼女もようやく安堵の表情を見せたらしい。
カエデの提供した水が入った紙コップを両手で握り締めながら彼女は丁寧に頭を下げて言った。
「助けていただきありがとうございます。私の名前はファティマ。ベガ星雲の端にある第六惑星に住むホモ・サピエンスです」
「ファティマさんですね。私の名前は大津修也です。地球にあるメトロポリス社の護衛官を務めております。こちらはジョウジさんとカエデさんです」
ジョウジは修也の言葉をファティマの言葉に翻訳し終えた後でカエデと共に深々と頭を下げていった。
互いの自己紹介も終えたところで修也はようやく本件を切り出したのである。
「ところで、ファティマさん。あなたはどうして逃げていたのですか? 何か恐ろしいことがあったみたいですが……」
「あいつらのせいです……」
「あいつら?」
「えぇ、あの悪魔たちに私は追われていたんです」
『悪魔』という物騒な単語が出てきた際に宇宙船の中に残っていた全員が目を合わせた。
一体どんな存在が現れたのだろうか。宇宙船の中に居合わせた全員が息を潜めながらファティマのことを見つめていたのだが、ファティマは答えたくなかったのだろう。
それまで落ち着いて席の上に腰を掛けていたというのに、『悪魔』とやらの存在を話す時になると椅子の上から落ちて悲鳴を上げてしまうのだ。
事情を聞くのは時間が必要になるかもしれない。
全員が顔を見合わせていたものの、なんとか彼女を落ち着かせるべく、カエデはファティマに肩を貸して麗俐の部屋にあるベッドへと運んでいったのである。
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