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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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悠介と麗俐は父親たちがこれまで地球人が出会ったことがない宇宙人と接触していたということも知らずに森の中への探索を続けていた。
昨日の調査ではこの森の中で待ち構えているかのように聳え立っていた巨大な洞窟の中へと足を踏み入れ、正体不明となった3体のアンドロイドと遭遇した場所である。2人からすれば忌まわしい土地であり、二度と足を踏み入れたくないと考えても不思議ではない場所であるに違いなかった。
しかしこの日は麗俐の指揮のもと果敢な探索が行なわれていた。
それでも足が怯えるのか、先日探索に訪れた例の洞窟の中へと足を踏み入れることはなかったが、洞窟の周りを囲っている緑豊かな森林には熱心な探索を行なっていたのである。
用心のため、それぞれがメトロポリス社特製のパワードスーツに身を包んでいる。外敵といった不測の事態に備えるための防備であり、2人にとってはお弁当の準備よりも優先されることであった。
朽ち果てた惑星の中に存在する小っぽけな森林に過ぎなかったのだが、2人からすれば広大な砂漠の真ん中に突然現れたオアシスに近かった。
オアシスのように水はないが、それでも荒廃した土地に緑があるというのは大きなことなのだ。
土壌の成分を分析して農耕に相応しい土地であるのかを判断したり、木の実や食べられそうな草が生えていないのかを熱心に調べたりしていた。
調査の過程で森の土が農業に適しているということは理解できたが、それ以上の収穫は望めないというのが現状であった。木の実も食べられそうな草も何も生えていない。或いはあったとしても毒々しい色を持って食べることができないのは素人目でも理解できるような木の実ばかりだった。冒険して手を出すのは簡単だが、ここには本格的な医療技術はない。手を出さないのが無難というものだ。
ここまで考えたところで毒々しい色を出すのは捕食者たちに『自分を食べるのは危険だから』と知らしめるためだという話を麗俐は思い出した。
また、それとは逆に敢えて美味しそうな色を出すことで捕食者をタナトスの元へと誘う危険な木の実があることも思い出した。
後者の具体的な例を挙げるとすれば長野県に生息しているドクウツギと呼ばれる植物がその代表的な例だといえるだろう。
ドクウツギは一見すれば綺麗な見た目をした果実で誤った情報を視覚へと送り、人や動物の脳に美味しそうだという錯覚を与える。
しかしドクウツギは絹のドレスを纏った華麗な男爵令嬢を思わせる外見とは反対にその中身は必殺必中の殺し屋のように危険である。というのも中脳や運動麻痺、痙攣中枢といった危険な症状を引き起こすからだ。小さな子どもが誤って口にした場合中毒症状に陥ることになるのは想像に易かった。
安全そうで危険だという罠のような木の実は惑星サ・ザ・ランドには育っていなかったのは不幸中の幸いであったが、油断はしていられない。
麗俐は探索で疲れたのか、大きな溜息を吐きながらヘルメットを外し、ホバークラフトに戻ると2人分の水が入ったペットボトルと栄養カプセルとを持ってきた。
弟にペットボトルと水を与えた後に木を背中に預けて弁当代わりに用意した栄養カプセルを口の中へと放り込む。なんの味もないカプセルであったが、それまでグゥグゥと喧しかった腹の虫の声が嘘のように静かになった。
弟の悠介も姉に倣って木に背を預け、栄養カプセルを口の中へと放り込む。敢えてモグモグと口を動かす動作を見せたのは物足りなさを感じたからだろう。
その様子が気になり、麗俐がジッと悠介を見つめていた時のことだ。悠介は突然モゴモゴと口を動かす動作をやめ、姉である麗俐を見つめた。
「なぁ、お姉ちゃん……オレたち地球に戻れるのかな?」
問い掛ける悠介の声はいつになく弱気だった。
「さぁ、分からないな。今ここにあたしたちがいるのは脱出のためでもあるし、同時にこの惑星でいつまでも暮らしていくための土地探しの準備でもあるからね」
麗俐の役人的な言い回しに悠介は少し不満を持ったのか、少し乱暴な口調で言葉を返した。
「『分からないかな』か……いいよな、お姉ちゃんは無責任でさ」
「あんた今日は随分と好戦的じゃないの?」
麗俐も探索による疲労のため笑って済ませられる余裕がないのだろう。いつになく棘を含めた言い方で言葉を返した。
それに対して悠介は反論を述べなかった。代わりに独り言にしては大きすぎるほどの声で干した布団のように厚い雲に覆われた大空へと向かって言った。
「シーレにまた会いたいよ」
女々しい独り言に対して麗俐は何も言わなかった。ただ呆れたような表情を浮かべながらペットボトルに入った水を飲み干すだけであった。
両者ともに無言であったのは疲労もあるからだろうが、先ほどの休憩時から現れた不機嫌が原因であった。
お互いの間に不和が生じてしまったのは仕方がない。それでも口を一つも効かなかったのはあまり好ましい状況ではないはずだ。
もしこの場に修也がいれば2人は和解へと至り、仲良しとは言わずとも普通の関係のまま探索を行えたのだろう。
2人にとって不運であったのは修也の不在であった。それでもこの時までは2人にとって、いつものような姉弟喧嘩のまま終わると信じていた。
しかしこの燻った火種のように長くなりそうな姉弟喧嘩は呆気なく終焉を迎えることになる。
終焉のきっかけとなったのは自分たちの元へと駆け寄ってきた2人の男女だった。1人は黒い短い髪を整えた若い男だった。もう片方は同じく若かったが、女性だった。
どちらも配信サイトで顔出しの配信を行えばある程度の人気は得られるであろうほどの優れた顔を持つ男女だった。
黒い髪の男は茶色のヴィンテージスーツを着ていた。それに加えて革靴を履いていた。一見すれば会社にでも出掛けるかのように思う格好だ。
女性の方も同様だった。紺色のワンピースに同じ色のジャケット、そして首元の周りには地味な首飾りを付けていた。
20世紀の日本や韓国、台湾の映画で見るようなサラリーマンや女性事務員のような姿をしていたので2人にはそれだけ印象的であった。
古い時代の映画から抜け出てたような服を着た男女は何もない惑星においては違和感しかないような存在であるが、それ以上におかしかったのは服装である。
よく見れば男性の着ているスーツにも女性が着ているワンピースにもほつれ糸や汚れ、傷などが目立っていた。明らかに人為的なものだ。
女性の髪は麗俐と同様に長く綺麗であったが、その髪のあちこちが傷んでいるのが確認できた。
そればかりではない。ずっと走っているからか少し化粧が乱れているのも見えた。汗で白粉の一部が剥がれている姿は麗俐の同情を誘った。
足元に関していえば更に2人の注目を集めた。男性の履いていた革靴は靴クリームを最後に塗ったのかが分からないほどボロボロであったし、女性に至っては靴さえ履いておらず足元がバラバラであった。
2人は麗俐と悠介の存在を見つけるなり、大きく手を振ったものの、2人がパワードスーツを装着していることを確認すると、慌てて足を翻してその場から逃げ出そうとしていた。
「待ってくれ! オレたちは敵じゃあない!! ほら!!!」
と、悠介は万歳ポーズを取ってみて敢えて無抵抗の意志を示してみせたのである。
もちろん宇宙の果てなので日本語など通じないのは理解していた。それでも悠介が解しているのは日本語のみだ。
だからないよりはましだとばかりに日本語で会話を試みたのである。通常であるのならばここで足を止めるようなことはないだろう。
しかし2人の男女はよほど追い詰められていたのだろう。背を向けて逃げ出そうとしていたのを止め、悠介と麗俐の元へと慌てて駆け寄ってきた。
かと思うと、スーツ姿の男が懐から妙な丸い玉を取り出した。丸い玉の頂上には凹みがあった。男はその凹みに向かって躊躇う様子も見せずに人差し指を押した。どうやら凹みの中にあったのは機械を作動させるためのスイッチであったらしい。同時に丸い玉がモワーンと辺り一体に妙な音を奏でていった。
それを確認するのと同時にスーツ姿の男がようやく口を開いた。
「あー、あー、私の声が聞こえてますか?」
「は、はい!」
悠介は緊張からか、声を上擦らせながら答えた。
だが、スーツ姿の男は悠介を無視して話を続けていった。
「私の名前はカサスと申します。こちらにいるのは妹のアリサです」
アリサと呼ばれた若い女性は丁寧に頭を下げた。心なしか自身に向かって頭を下げる姿がやつれているように見えた。
悠介と麗俐とが互いに自己紹介を終えたところでようやく本題へと入ることになった。この際に悠介が大多数の日本人のように回りくどい言い回しを使ったり、雑談を交えることなく直接的に問い掛けたのは彼がバスケットボールをプレイしているスポーツマンであったからだ。
欧米式のイエスノーがハッキリとした価値観が練習等で心の髄まで染み込んだ悠介だからこそできた芸当であった。
悠介のハッキリとした言い回しに2人はどこか言いにくそうに口を動かしていたが、このまま黙っていては2人も自分たちのことを助けられないと踏んだのだろう。
恐る恐る躊躇いがちにではあるが、ようやく口を開いた。
「我々が追われている理由は『狩り』だからです」
「『狩り』?」
「えぇ、ホーステン星人による人間狩りです」
答えにくそうにしている兄の代わりにアリサは『人間狩り』という単語を強調しながら事情を知らない2人に向かって言った。
悠介は2人が言い出しにくそうにしていた理由がようやく分かった気がした。
目の前にいる兄妹はホーステン星人なる異星人の人間狩りの対象に選ばれてサ・ザ・ランドに飛ばされたということなのだろう。哀れなものだ。
悠介と麗俐が2人を憐憫の目で見つめていた時のことだ。突然アリサが取り乱したかと思うと、怒られたばかりの子どものように両膝を地面の上につき、頭を両手で抑えながら叫んだ。
「ダメよ! 殺されるのよ! 私たち!!」
「大丈夫だよ、アリサ。ここまで来れば奴らも追ってこないさ」
カサスは周囲の目も気にすることなく取り乱した妹の背を優しく摩っていく。アリサは兄の優しさに勇気付けられたのか、元気を取り戻していった。
「とにかく、私たちはホーテンス星人から逃げなくてはならないんです。御二方はホーテンス星人とは無関係とのことですのでどうか助けていただけないでしょうか?」
アリサは翡翠を思わせる綺麗な緑色の瞳に涙を滲ませながら悠介へと懇願していった。
「ど、どうしようかな……」
悠介は鼻の下を伸ばしながら困惑した声を出した。
しかし姉の麗俐から見れば悠介は視線を逸らそうとしているものの、敬虔な修道女のように懇願してくるアリサに釘付けになっていた。
よく見ればその視線がアリサの人形のように美しい顔だけに、とどまらずプロモーションの整った胸元やら細くてバランスの取れた芸術品のような足やらに向いているのがよく分かる。男というのはどうしてこうも自身の欲望に対して忠実にいられるのだろうか。
麗俐が理解できないとばかりにその場を離れようとした時だ。それまで風一つなかったというのにいきなり風塵が舞い上がった。明らかに不自然な風だ。
麗俐が風の吹いた方向を見つめると、そこには宇宙服を思わせる防護服にプラズマライフルを構えた3人組の姿が見えた。
全員が顔の見えない巨大なフェイスヘルメットで身を隠しているから顔は確認できない。
だが、3人組の姿を見るのと同時にカサスとアリスの2人が尋常ではないほどの怯えを見せたことから3人組こそが人間狩りゲームを行なっていた張本人であることは間違いないだろう。
「いくよ、悠介」
「あぁ」
2人はそれぞれのパワードスーツを身に付けて怯えていた2人を守るように3人組の前へと立ちはだかったのである。
3人組はゆっくりと地上へ降りてきたかと思うと、無言で麗俐たちに向かってプラズマライフルの銃口を向けた。
昨日の調査ではこの森の中で待ち構えているかのように聳え立っていた巨大な洞窟の中へと足を踏み入れ、正体不明となった3体のアンドロイドと遭遇した場所である。2人からすれば忌まわしい土地であり、二度と足を踏み入れたくないと考えても不思議ではない場所であるに違いなかった。
しかしこの日は麗俐の指揮のもと果敢な探索が行なわれていた。
それでも足が怯えるのか、先日探索に訪れた例の洞窟の中へと足を踏み入れることはなかったが、洞窟の周りを囲っている緑豊かな森林には熱心な探索を行なっていたのである。
用心のため、それぞれがメトロポリス社特製のパワードスーツに身を包んでいる。外敵といった不測の事態に備えるための防備であり、2人にとってはお弁当の準備よりも優先されることであった。
朽ち果てた惑星の中に存在する小っぽけな森林に過ぎなかったのだが、2人からすれば広大な砂漠の真ん中に突然現れたオアシスに近かった。
オアシスのように水はないが、それでも荒廃した土地に緑があるというのは大きなことなのだ。
土壌の成分を分析して農耕に相応しい土地であるのかを判断したり、木の実や食べられそうな草が生えていないのかを熱心に調べたりしていた。
調査の過程で森の土が農業に適しているということは理解できたが、それ以上の収穫は望めないというのが現状であった。木の実も食べられそうな草も何も生えていない。或いはあったとしても毒々しい色を持って食べることができないのは素人目でも理解できるような木の実ばかりだった。冒険して手を出すのは簡単だが、ここには本格的な医療技術はない。手を出さないのが無難というものだ。
ここまで考えたところで毒々しい色を出すのは捕食者たちに『自分を食べるのは危険だから』と知らしめるためだという話を麗俐は思い出した。
また、それとは逆に敢えて美味しそうな色を出すことで捕食者をタナトスの元へと誘う危険な木の実があることも思い出した。
後者の具体的な例を挙げるとすれば長野県に生息しているドクウツギと呼ばれる植物がその代表的な例だといえるだろう。
ドクウツギは一見すれば綺麗な見た目をした果実で誤った情報を視覚へと送り、人や動物の脳に美味しそうだという錯覚を与える。
しかしドクウツギは絹のドレスを纏った華麗な男爵令嬢を思わせる外見とは反対にその中身は必殺必中の殺し屋のように危険である。というのも中脳や運動麻痺、痙攣中枢といった危険な症状を引き起こすからだ。小さな子どもが誤って口にした場合中毒症状に陥ることになるのは想像に易かった。
安全そうで危険だという罠のような木の実は惑星サ・ザ・ランドには育っていなかったのは不幸中の幸いであったが、油断はしていられない。
麗俐は探索で疲れたのか、大きな溜息を吐きながらヘルメットを外し、ホバークラフトに戻ると2人分の水が入ったペットボトルと栄養カプセルとを持ってきた。
弟にペットボトルと水を与えた後に木を背中に預けて弁当代わりに用意した栄養カプセルを口の中へと放り込む。なんの味もないカプセルであったが、それまでグゥグゥと喧しかった腹の虫の声が嘘のように静かになった。
弟の悠介も姉に倣って木に背を預け、栄養カプセルを口の中へと放り込む。敢えてモグモグと口を動かす動作を見せたのは物足りなさを感じたからだろう。
その様子が気になり、麗俐がジッと悠介を見つめていた時のことだ。悠介は突然モゴモゴと口を動かす動作をやめ、姉である麗俐を見つめた。
「なぁ、お姉ちゃん……オレたち地球に戻れるのかな?」
問い掛ける悠介の声はいつになく弱気だった。
「さぁ、分からないな。今ここにあたしたちがいるのは脱出のためでもあるし、同時にこの惑星でいつまでも暮らしていくための土地探しの準備でもあるからね」
麗俐の役人的な言い回しに悠介は少し不満を持ったのか、少し乱暴な口調で言葉を返した。
「『分からないかな』か……いいよな、お姉ちゃんは無責任でさ」
「あんた今日は随分と好戦的じゃないの?」
麗俐も探索による疲労のため笑って済ませられる余裕がないのだろう。いつになく棘を含めた言い方で言葉を返した。
それに対して悠介は反論を述べなかった。代わりに独り言にしては大きすぎるほどの声で干した布団のように厚い雲に覆われた大空へと向かって言った。
「シーレにまた会いたいよ」
女々しい独り言に対して麗俐は何も言わなかった。ただ呆れたような表情を浮かべながらペットボトルに入った水を飲み干すだけであった。
両者ともに無言であったのは疲労もあるからだろうが、先ほどの休憩時から現れた不機嫌が原因であった。
お互いの間に不和が生じてしまったのは仕方がない。それでも口を一つも効かなかったのはあまり好ましい状況ではないはずだ。
もしこの場に修也がいれば2人は和解へと至り、仲良しとは言わずとも普通の関係のまま探索を行えたのだろう。
2人にとって不運であったのは修也の不在であった。それでもこの時までは2人にとって、いつものような姉弟喧嘩のまま終わると信じていた。
しかしこの燻った火種のように長くなりそうな姉弟喧嘩は呆気なく終焉を迎えることになる。
終焉のきっかけとなったのは自分たちの元へと駆け寄ってきた2人の男女だった。1人は黒い短い髪を整えた若い男だった。もう片方は同じく若かったが、女性だった。
どちらも配信サイトで顔出しの配信を行えばある程度の人気は得られるであろうほどの優れた顔を持つ男女だった。
黒い髪の男は茶色のヴィンテージスーツを着ていた。それに加えて革靴を履いていた。一見すれば会社にでも出掛けるかのように思う格好だ。
女性の方も同様だった。紺色のワンピースに同じ色のジャケット、そして首元の周りには地味な首飾りを付けていた。
20世紀の日本や韓国、台湾の映画で見るようなサラリーマンや女性事務員のような姿をしていたので2人にはそれだけ印象的であった。
古い時代の映画から抜け出てたような服を着た男女は何もない惑星においては違和感しかないような存在であるが、それ以上におかしかったのは服装である。
よく見れば男性の着ているスーツにも女性が着ているワンピースにもほつれ糸や汚れ、傷などが目立っていた。明らかに人為的なものだ。
女性の髪は麗俐と同様に長く綺麗であったが、その髪のあちこちが傷んでいるのが確認できた。
そればかりではない。ずっと走っているからか少し化粧が乱れているのも見えた。汗で白粉の一部が剥がれている姿は麗俐の同情を誘った。
足元に関していえば更に2人の注目を集めた。男性の履いていた革靴は靴クリームを最後に塗ったのかが分からないほどボロボロであったし、女性に至っては靴さえ履いておらず足元がバラバラであった。
2人は麗俐と悠介の存在を見つけるなり、大きく手を振ったものの、2人がパワードスーツを装着していることを確認すると、慌てて足を翻してその場から逃げ出そうとしていた。
「待ってくれ! オレたちは敵じゃあない!! ほら!!!」
と、悠介は万歳ポーズを取ってみて敢えて無抵抗の意志を示してみせたのである。
もちろん宇宙の果てなので日本語など通じないのは理解していた。それでも悠介が解しているのは日本語のみだ。
だからないよりはましだとばかりに日本語で会話を試みたのである。通常であるのならばここで足を止めるようなことはないだろう。
しかし2人の男女はよほど追い詰められていたのだろう。背を向けて逃げ出そうとしていたのを止め、悠介と麗俐の元へと慌てて駆け寄ってきた。
かと思うと、スーツ姿の男が懐から妙な丸い玉を取り出した。丸い玉の頂上には凹みがあった。男はその凹みに向かって躊躇う様子も見せずに人差し指を押した。どうやら凹みの中にあったのは機械を作動させるためのスイッチであったらしい。同時に丸い玉がモワーンと辺り一体に妙な音を奏でていった。
それを確認するのと同時にスーツ姿の男がようやく口を開いた。
「あー、あー、私の声が聞こえてますか?」
「は、はい!」
悠介は緊張からか、声を上擦らせながら答えた。
だが、スーツ姿の男は悠介を無視して話を続けていった。
「私の名前はカサスと申します。こちらにいるのは妹のアリサです」
アリサと呼ばれた若い女性は丁寧に頭を下げた。心なしか自身に向かって頭を下げる姿がやつれているように見えた。
悠介と麗俐とが互いに自己紹介を終えたところでようやく本題へと入ることになった。この際に悠介が大多数の日本人のように回りくどい言い回しを使ったり、雑談を交えることなく直接的に問い掛けたのは彼がバスケットボールをプレイしているスポーツマンであったからだ。
欧米式のイエスノーがハッキリとした価値観が練習等で心の髄まで染み込んだ悠介だからこそできた芸当であった。
悠介のハッキリとした言い回しに2人はどこか言いにくそうに口を動かしていたが、このまま黙っていては2人も自分たちのことを助けられないと踏んだのだろう。
恐る恐る躊躇いがちにではあるが、ようやく口を開いた。
「我々が追われている理由は『狩り』だからです」
「『狩り』?」
「えぇ、ホーステン星人による人間狩りです」
答えにくそうにしている兄の代わりにアリサは『人間狩り』という単語を強調しながら事情を知らない2人に向かって言った。
悠介は2人が言い出しにくそうにしていた理由がようやく分かった気がした。
目の前にいる兄妹はホーステン星人なる異星人の人間狩りの対象に選ばれてサ・ザ・ランドに飛ばされたということなのだろう。哀れなものだ。
悠介と麗俐が2人を憐憫の目で見つめていた時のことだ。突然アリサが取り乱したかと思うと、怒られたばかりの子どものように両膝を地面の上につき、頭を両手で抑えながら叫んだ。
「ダメよ! 殺されるのよ! 私たち!!」
「大丈夫だよ、アリサ。ここまで来れば奴らも追ってこないさ」
カサスは周囲の目も気にすることなく取り乱した妹の背を優しく摩っていく。アリサは兄の優しさに勇気付けられたのか、元気を取り戻していった。
「とにかく、私たちはホーテンス星人から逃げなくてはならないんです。御二方はホーテンス星人とは無関係とのことですのでどうか助けていただけないでしょうか?」
アリサは翡翠を思わせる綺麗な緑色の瞳に涙を滲ませながら悠介へと懇願していった。
「ど、どうしようかな……」
悠介は鼻の下を伸ばしながら困惑した声を出した。
しかし姉の麗俐から見れば悠介は視線を逸らそうとしているものの、敬虔な修道女のように懇願してくるアリサに釘付けになっていた。
よく見ればその視線がアリサの人形のように美しい顔だけに、とどまらずプロモーションの整った胸元やら細くてバランスの取れた芸術品のような足やらに向いているのがよく分かる。男というのはどうしてこうも自身の欲望に対して忠実にいられるのだろうか。
麗俐が理解できないとばかりにその場を離れようとした時だ。それまで風一つなかったというのにいきなり風塵が舞い上がった。明らかに不自然な風だ。
麗俐が風の吹いた方向を見つめると、そこには宇宙服を思わせる防護服にプラズマライフルを構えた3人組の姿が見えた。
全員が顔の見えない巨大なフェイスヘルメットで身を隠しているから顔は確認できない。
だが、3人組の姿を見るのと同時にカサスとアリスの2人が尋常ではないほどの怯えを見せたことから3人組こそが人間狩りゲームを行なっていた張本人であることは間違いないだろう。
「いくよ、悠介」
「あぁ」
2人はそれぞれのパワードスーツを身に付けて怯えていた2人を守るように3人組の前へと立ちはだかったのである。
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