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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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「……ここが動力部分か。ここを破壊すれば『マザー』も木っ端微塵に壊されちまうということだな」
修也はモニターの中に映る宇宙船の動力部分を見つめていく。映し出されていたのは宇宙船の心臓部とされる高性能のリアクター。
命よりも大事な『マザー』の動力源はホーテンス星のアンドロイドたちが扱う未知のエネルギーであることは間違いないだろう。恐らく地球の文明では想像もできないような高性能な方法で吸入されているに違いない。
というのも地球のSF小説で見られるようなリアクターならば大抵はタイヤの牽引力で用いるものの、タイヤは見当たらない。人力を用いて動かしている動きも見当たらないからだ。『マザー』はあまりにも兄弟で石炭や石油といったエネルギーで賄える量を遥かに超越している。
未知の技術とエネルギーを用いて考えなければ動力源が見えないことに説明が付かないではないか。
そんな未知のエネルギーや動力源で動く装置といっても爆弾を爆発させてしまえば破壊できるというのだから爆発が持つ衝撃や損壊力いうのはどこの宇宙に行っても信用できるものだそうだ。
修也がそんなことを考えていると、宇宙船のハッチが開く音が聞こえた。プシュという耳を研ぎ澄まさなければ聞こえないような微弱な音。それはまるで、出そうと思っても出てこない歯磨き粉のチューブからようやく歯磨き粉が出てきた時のように小さかった。
これまではハッキリと聞こえていたのに珍しいこともあるものだ。心臓部に潜入したこともあって気を遣っているのだろうか。
愚かな考えが頭に過りつつも修也が音のした方向を振り向くと、完璧な宇宙船の無機質な壁の中にそこだけ切り取られたように外の景色が見えていた。
コツコツと小さくタラップを降りる音が聞こえる。麗俐と悠介が宇宙船の外へ降りていっているのだろう。子どもたちの行動力には見習うものがある。
中年となった修也にはあまり縁がないように思えるので子どもたちが心のうちに持っている冒険心には見習うべきものがある。
修也は子どもたちに倣い恐る恐る宇宙船の外へと足を踏み出していく。未知の世界へと旅立つことは憚られたものだが、宇宙船の外に広がる景色はどこか特殊なもので地面の上に降りていく頃には恐怖心というものはすっかりと消え失せていた。
巨大なリアクターの周囲を守るように囲っているのは頑丈な鉄の柵。しかし頑丈ではあるものの侵入者を防ぐための仕様にはできていないらしい。
大きな柵の間に人が通れそうな隙間が存在しているのが、その照明であると言えるだろう。恐らくは管理者がリアクターに侵入するための通路。いくら文明が進んでいたとしても人もとい機械による細かなメンテナンスは必要なのだろう。
科学的に優れた高性能な機械も最後には人の手が欲しくなるものなのだろうか。
まだ人の手が離れることができない機械をどこか愛おしく思いつつ、修也は隙間をくぐっていく。リアクターの前には驚くほどあっさりと辿り着いた。
電流も流れていなければ地雷原も敷かれていない。番人や番犬の存在もない。
大事な心臓部であるというのにいささか無警戒過ぎるような気がする。
単なる第六感、と言われてしまえばそれまで。
だが、時に人間の中に働く本能はアンドロイドのデータや科学的に提唱されている理論を超えるような出来事を予知する力があるのだ。
修也が自身の第六感もとい単なる自身の勘に従ってコブラ男の袖を引き、彼にそのことを伝えても彼はアンドロイドらしく無表情のままだった。氷のような冷たい態度でコブラ男は質問に答えた。
「根拠はそれだけ?」
コブラ男の声は呆れているようだった。それにも関わらず修也は話を続けていく。
「えぇ、そうです。しかし伏兵の可能性もあるでしょう?」
「伏兵? そんなことを言っている間に我々はリアクターの目の前にまで到達しましたが」
コブラ男の言っていることは真実だった。修也たちはなんの妨害もないままリアクターの前へと辿り着き、コブラ男がイヤリングを外して爆弾を設置しようと準備している。ここまでなんの妨害もなかったからかゆっくりと耳からピアスを外そうとするコブラ男。そのコブラ男の背後を守るため入り口方向へと銃口を構える子どもたち。
今のところは大きな妨害もなく黙々と準備が進む。これで後は爆破予告を出して優秀な宇宙船を手に入れた後に爆発させれば全て終わり。『マザー』が破壊されたことによってホーテンス星人の面子は潰れた上、高性能なワープ機能を有した宇宙船に乗り込むことで修也たちは元の宇宙へ戻っていく。海へと旅立った鮭が最後は産卵のため川へと戻るように。
それだけ、それだけのはずだった。
しかし妙な胸騒ぎはいくら自身に言い聞かせても収まろうとしない。思えば怪奇映画などで先に異変に気がつくのは嫌な予感を覚える子どもたちだ。
映画の場合は子どもたちの進言は無視され、大人たちは危険な行動を続けていくのだ。そうした場合は大抵不幸がもたらされる。
今からでも遅くない。たとえ伝わらなかったとしても警告の言葉を発しようとした時のことだ。
突然地面から透明の液体が現れた。なんの変哲もない普通の地面だ。
どういった理屈で怪しげな液体が地面の上から現れるのかなど修也には分からない。
ただ、目の前に現れた“ソレ”が修也たちの身に危険を及ぼすものであるというのは事実だろう。名前は分からないので判明するまでの間は“ソレ”と回りくどく表することになるが、それでも構わないような気がした。
透明の液体はあっという間に人間の形に変貌した後に“ソレ”はニヤリと修也たちに向かって微笑む。原始的な機械に無理やり人間の笑顔をプログラミングさせて実行させたような不気味な笑顔だった。
笑いかけてきているはずであるのに、修也の中で嫌悪感が止まらない。無意識のうちに鼻のあたりに皺が集まっていく。ヒクヒクとさえ鳴ったかもしれない。
2人の子どもたちも同様であったようで両足を背後に下げ、逃げ出すような素振りを見せるなどの拒否反応を示していた。
目の前に立っているのが人間であれば眉を寄せるなど怒りの反応を見せたに違いないが、生憎目の前にいるのは冷徹で無情な殺戮マシーン。
『感情』という人間が持つ生きている証を全て取っ払った究極の機械。人間のように腹を立てるなどくだらない真似をするはずがない。
しばらくの間、彼はニコニコとこちらに向かって不気味な笑みを向けるだけだった。
このまま不毛な睨み合いが続くのかと息を呑んだのも束の間。彼はたった指を鳴らし、同時に彼は地球人たちが見たこともないような見事なパワードスーツに身を包んでいた。
白銀の見事な鎧であり、隅々まで磨き抜かれたボディには染みや汚れといったものは全くといっていいほど感じられなかった。
地球の偉人であれば立派な白銀の鎧の中心部には荘厳な絵画を思わせるような立派な装飾が施されているのだろうが、そこは無駄よりも利益を優先させるアンドロイド。なんの装飾も施されていない。
兜いわゆるフェイスヘルメットも同様だった。戦う相手の存在を認知する巨大な眼球を模したマゼンタのコアの他には何もない。
装飾品といえば立派なパワードスーツの腰に下げられたライトセイバーを収めたと思われる小さな鞘。そして背中に掛けているバックパップのみ。
どこか貧弱な装備だ。そう思っていたのはやはり修也自身の怠慢であったかもしれない。
“ソレ”はバックパップのジェット噴射を用いて空の上へと飛び上がり、コブラ男の目の前に到着したのだ。
「adiós junk」
正確な英語を呟いた後で“ソレ”はそのままライトセイバーを鞘から引き抜いてコブラ男の心臓を貫く。一瞬の出来事であったので修也たちも止めることができなかった。
コブラ男は正面から大きなダメージを背負ったためか、耐え切れなくなって地面の上へと倒れ込む。異常を告げる警告音が鳴り、コブラ男の内部からは火花が鳴り響く。
重度の損傷を負ったことは誰の目に見ても明らかだ。この時の修也はといえば何もできず、目の前で繰り広げられる惨劇を見物することしかできなかった。ボックス席の真上からオペラを眺めているような優雅なものではない。
短期間とはいえ危険を共に過ごした優秀なアンドロイドが目の前でなぶり殺しにされている姿を体が追い付かずに黙って見つめていることしかできない自分に不甲斐なさを覚えていた。
いや、正確にいえば怒りだろうか。何もできない怒りが修也の悲しみを大きくしていた。
だが、子どもたちは若い分、柔軟性が効いたらしい。背後に護衛として控えていたはずの2人がレーザーガンを突き付けながら叫ぶ。
「動くなッ!」
「動いたらその頭をこいつで吹き飛ばすからねッ!」
2人はいつも以上に大きな声を出しているように思えた。相手を怒鳴るように威嚇することで虚勢を張って恐怖を誤魔化そうとしている姿勢が顕著に現れている。
2人の心意気は立派なものだが、機械にはそんな見栄を張った姿勢などすぐに見抜かれてしまうことは想像に易い。
案の定、“ソレ”は虫の息となったコブラ男を放って修也たちの方へと向かってきている。
無表情のまま突撃してくる敵に耐え切れなくなったのか、麗俐は腰を抜かしていた。情けなく尻餅をつき、全身を震わせて弱みをみせるその姿は到底戦士のものとは思えない。
だが、修也は情けない態度を示した麗俐を責める気にはなれない。今の状態で悠介がレーザーガンを構え続けていられることも奇跡に近い。
修也がなんとかしようと足を踏み込んだ時のことだ。“ソレ”が地面の上を蹴り、宙の上で弧を描いたかと思うと修也の目の前へと降り立つ。目の前で丁寧な一礼を行うその姿はマジックショーが成功したに礼を述べる手品師のようだった。
思わずたじろいで見せた修也に対し、“ソレ”はフェイスヘルメットを近付け楽しげな声で言った。
「フフッ、やはりこんなものか。原始的な民族は原始的なやり方で脅すに限る」
「あ、あんた日本語を!?」
「あぁ、あんな原始的な言葉などここに入ってきた時の言葉だけで解析できたよ。実に簡単なことさ」
たったあれだけのやり取りで“ソレ”は言語を取得したらしい。優秀なのは内蔵されているコンピュータか。はたまたホーテンス星人並びにアンドロイドたちの技術か。いずれにしろ修也には及ぶこともできない領域の話。
素直に“ソレ”の言葉を受け入れた方がよしというものだろう。
それでも辻褄が合わないことはある。それは最初“にソレ”が発していた英語。
修也たちは英語を喋れない。当然会話に登ることもないのでコブラ男も英語に触れる機会はない。
そうなると、どこから英語を取得したのだろうか。修也が精一杯の大きな声を張り上げながら“ソレ”に向って問い掛けると、“ソレ”は待っていましたとばかりに嬉々とした声で話し始めていく。
「最近この辺りの星域……いいや、この宇宙全体から人間が消えつつあってね。それで我々は試しに別の宇宙の人間を狩るための計画を立てていたんだ。その第一段階として時折ワームホールから紛れ込む漂着物に我々は目を付けた」
“ソレ”の話によればホーテンス星人を名乗る宇宙人たちはワームホールから出てきた一台の宇宙船を鹵獲したのだそうだ。
その宇宙船に乗っていた人間が先ほど“ソレ”が話していた言語を口にしたというのが真相であるのは間違いない。
その話が本当であるとすれば、今ここで目の前にいる怪しげなアヤドロイドを倒さなければ修也たち自身の住む宇宙も危うくなってしまう。
一刻の猶予もない。修也は腰に下げていたビームソードを抜き、そのまま“ソレ”の頭上を目掛けて勢いよく振り下ろしていく。
頭上からの攻撃はあっさりとライトセイバーによって受け止められ、ここに光剣と熱剣による決闘が行われることになった。
修也はモニターの中に映る宇宙船の動力部分を見つめていく。映し出されていたのは宇宙船の心臓部とされる高性能のリアクター。
命よりも大事な『マザー』の動力源はホーテンス星のアンドロイドたちが扱う未知のエネルギーであることは間違いないだろう。恐らく地球の文明では想像もできないような高性能な方法で吸入されているに違いない。
というのも地球のSF小説で見られるようなリアクターならば大抵はタイヤの牽引力で用いるものの、タイヤは見当たらない。人力を用いて動かしている動きも見当たらないからだ。『マザー』はあまりにも兄弟で石炭や石油といったエネルギーで賄える量を遥かに超越している。
未知の技術とエネルギーを用いて考えなければ動力源が見えないことに説明が付かないではないか。
そんな未知のエネルギーや動力源で動く装置といっても爆弾を爆発させてしまえば破壊できるというのだから爆発が持つ衝撃や損壊力いうのはどこの宇宙に行っても信用できるものだそうだ。
修也がそんなことを考えていると、宇宙船のハッチが開く音が聞こえた。プシュという耳を研ぎ澄まさなければ聞こえないような微弱な音。それはまるで、出そうと思っても出てこない歯磨き粉のチューブからようやく歯磨き粉が出てきた時のように小さかった。
これまではハッキリと聞こえていたのに珍しいこともあるものだ。心臓部に潜入したこともあって気を遣っているのだろうか。
愚かな考えが頭に過りつつも修也が音のした方向を振り向くと、完璧な宇宙船の無機質な壁の中にそこだけ切り取られたように外の景色が見えていた。
コツコツと小さくタラップを降りる音が聞こえる。麗俐と悠介が宇宙船の外へ降りていっているのだろう。子どもたちの行動力には見習うものがある。
中年となった修也にはあまり縁がないように思えるので子どもたちが心のうちに持っている冒険心には見習うべきものがある。
修也は子どもたちに倣い恐る恐る宇宙船の外へと足を踏み出していく。未知の世界へと旅立つことは憚られたものだが、宇宙船の外に広がる景色はどこか特殊なもので地面の上に降りていく頃には恐怖心というものはすっかりと消え失せていた。
巨大なリアクターの周囲を守るように囲っているのは頑丈な鉄の柵。しかし頑丈ではあるものの侵入者を防ぐための仕様にはできていないらしい。
大きな柵の間に人が通れそうな隙間が存在しているのが、その照明であると言えるだろう。恐らくは管理者がリアクターに侵入するための通路。いくら文明が進んでいたとしても人もとい機械による細かなメンテナンスは必要なのだろう。
科学的に優れた高性能な機械も最後には人の手が欲しくなるものなのだろうか。
まだ人の手が離れることができない機械をどこか愛おしく思いつつ、修也は隙間をくぐっていく。リアクターの前には驚くほどあっさりと辿り着いた。
電流も流れていなければ地雷原も敷かれていない。番人や番犬の存在もない。
大事な心臓部であるというのにいささか無警戒過ぎるような気がする。
単なる第六感、と言われてしまえばそれまで。
だが、時に人間の中に働く本能はアンドロイドのデータや科学的に提唱されている理論を超えるような出来事を予知する力があるのだ。
修也が自身の第六感もとい単なる自身の勘に従ってコブラ男の袖を引き、彼にそのことを伝えても彼はアンドロイドらしく無表情のままだった。氷のような冷たい態度でコブラ男は質問に答えた。
「根拠はそれだけ?」
コブラ男の声は呆れているようだった。それにも関わらず修也は話を続けていく。
「えぇ、そうです。しかし伏兵の可能性もあるでしょう?」
「伏兵? そんなことを言っている間に我々はリアクターの目の前にまで到達しましたが」
コブラ男の言っていることは真実だった。修也たちはなんの妨害もないままリアクターの前へと辿り着き、コブラ男がイヤリングを外して爆弾を設置しようと準備している。ここまでなんの妨害もなかったからかゆっくりと耳からピアスを外そうとするコブラ男。そのコブラ男の背後を守るため入り口方向へと銃口を構える子どもたち。
今のところは大きな妨害もなく黙々と準備が進む。これで後は爆破予告を出して優秀な宇宙船を手に入れた後に爆発させれば全て終わり。『マザー』が破壊されたことによってホーテンス星人の面子は潰れた上、高性能なワープ機能を有した宇宙船に乗り込むことで修也たちは元の宇宙へ戻っていく。海へと旅立った鮭が最後は産卵のため川へと戻るように。
それだけ、それだけのはずだった。
しかし妙な胸騒ぎはいくら自身に言い聞かせても収まろうとしない。思えば怪奇映画などで先に異変に気がつくのは嫌な予感を覚える子どもたちだ。
映画の場合は子どもたちの進言は無視され、大人たちは危険な行動を続けていくのだ。そうした場合は大抵不幸がもたらされる。
今からでも遅くない。たとえ伝わらなかったとしても警告の言葉を発しようとした時のことだ。
突然地面から透明の液体が現れた。なんの変哲もない普通の地面だ。
どういった理屈で怪しげな液体が地面の上から現れるのかなど修也には分からない。
ただ、目の前に現れた“ソレ”が修也たちの身に危険を及ぼすものであるというのは事実だろう。名前は分からないので判明するまでの間は“ソレ”と回りくどく表することになるが、それでも構わないような気がした。
透明の液体はあっという間に人間の形に変貌した後に“ソレ”はニヤリと修也たちに向かって微笑む。原始的な機械に無理やり人間の笑顔をプログラミングさせて実行させたような不気味な笑顔だった。
笑いかけてきているはずであるのに、修也の中で嫌悪感が止まらない。無意識のうちに鼻のあたりに皺が集まっていく。ヒクヒクとさえ鳴ったかもしれない。
2人の子どもたちも同様であったようで両足を背後に下げ、逃げ出すような素振りを見せるなどの拒否反応を示していた。
目の前に立っているのが人間であれば眉を寄せるなど怒りの反応を見せたに違いないが、生憎目の前にいるのは冷徹で無情な殺戮マシーン。
『感情』という人間が持つ生きている証を全て取っ払った究極の機械。人間のように腹を立てるなどくだらない真似をするはずがない。
しばらくの間、彼はニコニコとこちらに向かって不気味な笑みを向けるだけだった。
このまま不毛な睨み合いが続くのかと息を呑んだのも束の間。彼はたった指を鳴らし、同時に彼は地球人たちが見たこともないような見事なパワードスーツに身を包んでいた。
白銀の見事な鎧であり、隅々まで磨き抜かれたボディには染みや汚れといったものは全くといっていいほど感じられなかった。
地球の偉人であれば立派な白銀の鎧の中心部には荘厳な絵画を思わせるような立派な装飾が施されているのだろうが、そこは無駄よりも利益を優先させるアンドロイド。なんの装飾も施されていない。
兜いわゆるフェイスヘルメットも同様だった。戦う相手の存在を認知する巨大な眼球を模したマゼンタのコアの他には何もない。
装飾品といえば立派なパワードスーツの腰に下げられたライトセイバーを収めたと思われる小さな鞘。そして背中に掛けているバックパップのみ。
どこか貧弱な装備だ。そう思っていたのはやはり修也自身の怠慢であったかもしれない。
“ソレ”はバックパップのジェット噴射を用いて空の上へと飛び上がり、コブラ男の目の前に到着したのだ。
「adiós junk」
正確な英語を呟いた後で“ソレ”はそのままライトセイバーを鞘から引き抜いてコブラ男の心臓を貫く。一瞬の出来事であったので修也たちも止めることができなかった。
コブラ男は正面から大きなダメージを背負ったためか、耐え切れなくなって地面の上へと倒れ込む。異常を告げる警告音が鳴り、コブラ男の内部からは火花が鳴り響く。
重度の損傷を負ったことは誰の目に見ても明らかだ。この時の修也はといえば何もできず、目の前で繰り広げられる惨劇を見物することしかできなかった。ボックス席の真上からオペラを眺めているような優雅なものではない。
短期間とはいえ危険を共に過ごした優秀なアンドロイドが目の前でなぶり殺しにされている姿を体が追い付かずに黙って見つめていることしかできない自分に不甲斐なさを覚えていた。
いや、正確にいえば怒りだろうか。何もできない怒りが修也の悲しみを大きくしていた。
だが、子どもたちは若い分、柔軟性が効いたらしい。背後に護衛として控えていたはずの2人がレーザーガンを突き付けながら叫ぶ。
「動くなッ!」
「動いたらその頭をこいつで吹き飛ばすからねッ!」
2人はいつも以上に大きな声を出しているように思えた。相手を怒鳴るように威嚇することで虚勢を張って恐怖を誤魔化そうとしている姿勢が顕著に現れている。
2人の心意気は立派なものだが、機械にはそんな見栄を張った姿勢などすぐに見抜かれてしまうことは想像に易い。
案の定、“ソレ”は虫の息となったコブラ男を放って修也たちの方へと向かってきている。
無表情のまま突撃してくる敵に耐え切れなくなったのか、麗俐は腰を抜かしていた。情けなく尻餅をつき、全身を震わせて弱みをみせるその姿は到底戦士のものとは思えない。
だが、修也は情けない態度を示した麗俐を責める気にはなれない。今の状態で悠介がレーザーガンを構え続けていられることも奇跡に近い。
修也がなんとかしようと足を踏み込んだ時のことだ。“ソレ”が地面の上を蹴り、宙の上で弧を描いたかと思うと修也の目の前へと降り立つ。目の前で丁寧な一礼を行うその姿はマジックショーが成功したに礼を述べる手品師のようだった。
思わずたじろいで見せた修也に対し、“ソレ”はフェイスヘルメットを近付け楽しげな声で言った。
「フフッ、やはりこんなものか。原始的な民族は原始的なやり方で脅すに限る」
「あ、あんた日本語を!?」
「あぁ、あんな原始的な言葉などここに入ってきた時の言葉だけで解析できたよ。実に簡単なことさ」
たったあれだけのやり取りで“ソレ”は言語を取得したらしい。優秀なのは内蔵されているコンピュータか。はたまたホーテンス星人並びにアンドロイドたちの技術か。いずれにしろ修也には及ぶこともできない領域の話。
素直に“ソレ”の言葉を受け入れた方がよしというものだろう。
それでも辻褄が合わないことはある。それは最初“にソレ”が発していた英語。
修也たちは英語を喋れない。当然会話に登ることもないのでコブラ男も英語に触れる機会はない。
そうなると、どこから英語を取得したのだろうか。修也が精一杯の大きな声を張り上げながら“ソレ”に向って問い掛けると、“ソレ”は待っていましたとばかりに嬉々とした声で話し始めていく。
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“ソレ”の話によればホーテンス星人を名乗る宇宙人たちはワームホールから出てきた一台の宇宙船を鹵獲したのだそうだ。
その宇宙船に乗っていた人間が先ほど“ソレ”が話していた言語を口にしたというのが真相であるのは間違いない。
その話が本当であるとすれば、今ここで目の前にいる怪しげなアヤドロイドを倒さなければ修也たち自身の住む宇宙も危うくなってしまう。
一刻の猶予もない。修也は腰に下げていたビームソードを抜き、そのまま“ソレ”の頭上を目掛けて勢いよく振り下ろしていく。
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