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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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「さて、あの母体はどうしたらいいのかな……」
悠介はレーザーガンを突き付けながら首を傾げる。先ほど姉に向かって話しかけたコブラ男の言葉が正しければあの怪物に地球のレーザーガンなど通用するはずがない。そうだとすればこんなものは所詮子どもの道具、大手ホームセンターの遊具コーナーに行けば手に入る玩具となんら変わらないのだ。
悠介が諦めたようにレーザガンを持つ手を下ろした時のことだ。母体が「キシャァァ」と威圧するかのように鋭い牙を見せた。宇宙船の中に灯りはないが、真っ白なナイフのような牙は確実に悠介を威嚇する。
だが、怖気付いて足を下げるような真似はしない。そんなことをすればせっかく母体打倒の道を切り開いてくれた姉に対して申し訳が立たない。悠介は試合の真ん中でレイアップシュートを決める直前の心境といっていい。
このシュートを外せば敗北は確定。外せば自分は他の部員たちから責められ針の筵、村八分の状態になるというプレッシャーが両肩に伸し掛かったような状況。
しかし自分が動かなければ先には進めない。悠介は自身の中にあった『勇気』という感情を総動員して母体へと挑んでいく。人によっては『蛮勇』だと揶揄するかもしれないが、悠介にとって何よりも大事な感情だ。邪魔などされたくない。
月のような『勇気』を味方に備えた悠介は自身にとって相棒ともいえるビームソードを握り締めながら向かう。天井を陣取る母体へと挑戦する悠介の姿はさながらファンタジーゲームの中に登場する魔王へと挑む勇者といったところだろうか。
シチュエーションとしてはあながち間違っていないようにも思えるのも面白い。例えるのならば悠介が伝説の剣を武器に仲間たちと共に向かう勇者で、卵から孵化したばかりの怪物たちを迎撃に向かわせる母体が魔王とすると実に分かりやすいではないか。
悠介は1人で誰かに向かって語りかけるように心の中で絶妙な比喩を面白がっていた。
もし、今の状況がロールプレイングゲームであれば悠介はその勇気に相応しい結末を世界が用意したに違いない。魔王子飼いの怪物たちを打破し、母体の心臓なり頭部なりに剣を突き立てていたことは明らかだ。
だが、残念なことに現実はゲームとは異なる。ゲームで上手く行ったことが現実では上手く反映されないことなどザラにある。
今回の事例も数多のゲームプレイヤーたちが直面してきた例と同じ状況となった。
悠介はゲームやアニメに登場する勇敢な勇者のように勢いよく突撃していったまではいいのだが、予想よりも卵から羽化した数が多かったのだ。卵から飛び出してきた幼体は産まれたばかりとは思えないほどの俊敏な動きで悠介へと飛び付き、その体を絡め取っていく。四方八方から飛び掛かられては防ぐことは厳しいはずだ。それ故に悠介は宙の上でバランスを崩してしまい引力に吸い寄せられ、地面の上に体を勢いよく打ち付けてしまった。
辺り一面にバラバラと散らばっていくのは図らずとも悠介の身代わりとなった宇宙のどの生き物よりも悍ましいエイリアンたちの肉片と臓器。血飛沫さえも飛び散るその様は地獄絵図さながらの光景といえた。先ほど飛び掛かってきたリプリーたちの肉片は想像以上にグロテスクだ。見る人によっては嘔吐さえこみ上げてきただろう。
幸運なことに悠介はこの光景を見ずに済んだ。疲れのため何も考えることなくのんびりと天井を眺めていたからだ。地球で受けていた数学の授業での退屈を紛らわせる時のように。
何も考えずに空の上を眺めていた反動のためか、当初飛び込んできたのは何もない虚空のみ。何もない真っ白な空間が広まっているだけのように思えた。
だが、それは一瞬の幻覚。退屈から生じた幻影に過ぎない。もう一度目を開いた後で飛び込んできたのは卵嚢と卵巣、そして侵入者に対して威嚇を行う母体の姿だった。
その姿を見た悠介は母体が悔しがっているのだと察してニヤリと笑う。この時の悠介はさながら相手チームの悔しがる姿を見た時の選手のようだ。バスケットボールの試合で決勝間近にレイアップシュートを決めたあの時の感覚。プレッシャーに打ち勝ち状況を打破した時の解放感。その両者に通じる体全体を包み込むような高揚感が悠介の全体から湧き上がっていく。
ニヤニヤと揶揄うような笑いを母体に向ける。悠介の顔はフェイスヘルメットに覆われて見られないはずだが、雰囲気から感じ取ったのだろうか。母体が狂ったような声を上げる。
その時にふと手を伸ばすと何か水のようなものに触れたことに気が付く。どうやら悠介の代わりに引力の法則で地面へとぶつかり、衝撃で砕け散ったリプリーの体液であるに違いない。
気色悪い。悠介は皮肉にも敵対する怪物の体液でようやく現実へと目を向けることになった。フェイスヘルメットの下で露骨な嫌悪感を示しながら手を引こうとした時のことだ。
痛覚が正常に作動し、喉の奥から悲鳴が上がった。慌てて視線を向けるとそこには小さなカブトガニのような生物の姿。
しかしその甲羅は幅広く悠介には見えなかったものの、甲羅の下には鋭い牙が生え揃っている。その小さな生物は悠介の右腕に向かって強く噛み付いたのである。
上げたところでどうしようもないことを本人自身が一番よく理解していたはずだ。だが、それでも上げずにいられなかったのは人間という生物が持つ性のため。
口をつんざけるような悲鳴が悠介の口から吐かれていく。それを聞いたのはその時まで母体へと意識を向けていた姉の麗俐。彼女は弟のただならぬ声に異常事態を察したらしい。
エネルギーブレードを構えながら慌てて悠介の元へと向かっていく。
麗俐は悠介の元へと辿り着くなり、悠介の頭部にまで到達し、悠介の頭を捕食しようとしたその小さな生物に対して勢いよくエネルギーブレードの刃を突き立てていく。滑りのついた頑強な自然の鎧であっても文明の利器の象徴たるエネルギーブレードの力には逆らえなかったらしい。
バチバチと火花を立てながら地面の上に落ちていき、グルグルと一回転を行ったかと思うとそのまま倒れ、2度と起き上がって来なかった。
「悠介! 無事!?」
問い掛ける麗俐の声は乱れていた。当然である。最愛の弟が今にも死にかねない状況であったからだ。身を案じない姉がいるだろうか。
麗俐は献身の証明のように怯え切った悠介の体を両手で抱き起こしていった。しかし姉の両手に抱かれながらも悠介はまだ全身を震わせている。
「大丈夫、もう大丈夫だから……」
麗俐はフェイスヘルメット越しではあるものの、悠介の頭を撫でようと手を伸ばす。が、悠介は自らの手を振って姉の手を拒否した。
「……いいよ、それよりもどうやってあいつを倒すのかを考えようよ」
「そうだよね……」
麗俐が両肩を落としながら言った。
この時に悠介のみならず麗俐もどこか落ち込んだ様子を見せるのは2度の襲撃が失敗に終わったから。2度とも母体へ向けて必死な特攻を仕掛けたものの、結果は大敗。
今のように地上で無駄な時間を過ごす羽目になってしまった。その事実に対する失望の念からきたものであることは間違いない。
あの母体は例えれば鉄壁の虎牢関を守る華雄といったところだろうか。敢えて『呂布』を比喩に用いなかったのは母体が例のアンドロイドほど高性能ではないため。『呂布』というよりは『華雄』と評した方が適切と判断したからだ。
父親から教えられた『三国志』の知識がこんなところで役に立つとは……。
麗俐は苦笑する。要らないと思った知識でも意外なところで役に立つものだ、と。
この時になってまた母体が声を上げなければ麗俐はもうしばらく無駄な時間を過ごしていたに違いない。
威嚇するような声が上がったことで麗俐は現実の世界へと戻ってこられた。
「どうするんだよ。あいつ」
悠介が声を顰めながら問い掛ける。その声の中に現れたのは半ば『諦め』の感情で間違いない。
万策尽きたとでも言いたいのだろうが、生憎そういうわけではない。
諦めた様子を見せる悠介とは対照的に麗俐はこの時になってある作戦を思い付いた。それは目の錯覚を利用した二人羽織作戦。
立案者の麗俐曰く、リプリーの母体はその他の機能はともかくとして頭脳そのものは人間以下とのこと。それならばその哀れな頭脳にこそ漬け込む隙が生じるとのことだ。
麗俐の作戦としては先に悠介が飛び掛かる真似を行い、その後に悠介に放り投げられた麗俐自身が母体に向かってエネルギーブレードを突き刺すというものだ。
この作戦における最後の壁として立ち塞がるのは重力の法則。だが、それに関する対処法はリプリーの体をクッションにすれば良いだけなので特段問題はないだろう。
やはりこの作戦の要となるのは二人羽織の姿勢。といっても麗俐の体を隠すような上着はこの場には存在しない。そのため悠介が麗俐を背負いリプリーの母体へと飛ぶことになる。
「む、無茶だ! いくら母体の頭がそこまで高くないからって、そんなバレバレの作戦が通用するもんか!」
と、悠介は当然ながら抗議の意を示した。しかし麗俐もさるもの。
「じゃあ、他に有効な作戦はあるの?」
と、質問を投げ掛けて悠介の反論を封じ込めたのである。質問を封じられて困惑した様子の悠介に対して麗俐は得意げな笑顔を浮かべた。
かくして、この作戦は決行されることになった。予定通りに悠介が麗俐を背負い、母体へ向かって飛び掛かっていく。
しかし母体もさるものであちらこちらから迎撃のために幼体を飛ばす。
集中して飛び掛かってくるので悠介は両手を使って対処せざるを得なかった。
本来であればもう少し近付いてきたところで麗俐を放り投げたかったが、仕方があるまい。
悠介は真上に向かって麗俐を放り投げていく。麗俐は放り投げられた勢いのまま母体へと近付き、その心臓部に向かって躊躇うことなくエネルギーブレードを突き刺した。熱の刃が母体の心臓を貫き、凄まじい悲鳴を上げさせていく。
冷静さを欠いた母体は慌てて両腕を動かして麗俐を引き剥がそうと試みる。
しかし麗俐は獲物に飛び掛かるハイエナのように食い付いて離れなかった。
あくまでも剣を突き立てて息絶えるのを待っていた。麗俐の願いが神に届いたのだろう。やがて母体はそれまで闇雲に振り回していた腕を回すのも辞めたかと思うと素直に重力の法則に従って地面の上へと落ちていった。
この際に麗俐は母体の真上へと体を寄せたのである。それは母体をクッションの代わりとして利用するため。自身と弟の苦い経験から学んだことである。
結果的に地面の上には母体の哀れな亡骸が広がったが、麗俐の身は無事だった。
弟のことを心配してその姿を探したものの、自分の指示通りに動けたのか、エイリアンの亡骸の上に座っている姿が見えた。フェイスヘルメットを被っているため表情は見えないが、親指を立ててサムズアップの姿を見せていることから今の顔が試合に勝った後のように晴々としているだろうと推測するのは容易なことだ。
麗俐が一息を吐こうとすると彼女の両耳に金属のドリルが近付いてくるような音が聞こえた。嫌な予感がして身を翻すのと自身が先ほどまで立っていた場所に亀裂が生じていく。
背後を振り返ると、そこにはメトロイドスーツを着た修也の襟首を掴んで引き摺りながら地面の上に伸ばしていた腕を引き上げる“ソレ”の姿。
腕の先端で作り上げられているのは間違いなくカッター。あの場で避けなければ麗俐は間違いなく粉微塵になっていたに違いない。
“ソレ”は今の自分たちと同様にフェイスヘルメットをしているので姿は見えない。
だが、そのヘルメットの下には最初に見た時と同様に幽霊のような不気味な無表情を浮かべているに違いない。
宇宙船の母体を倒したばかりでまた強力な相手と戦わなければならないのは不本意だが、戦うしかあるまい。
麗俐はエネルギーブレードを構えて迎撃の構えを取った。
悠介はレーザーガンを突き付けながら首を傾げる。先ほど姉に向かって話しかけたコブラ男の言葉が正しければあの怪物に地球のレーザーガンなど通用するはずがない。そうだとすればこんなものは所詮子どもの道具、大手ホームセンターの遊具コーナーに行けば手に入る玩具となんら変わらないのだ。
悠介が諦めたようにレーザガンを持つ手を下ろした時のことだ。母体が「キシャァァ」と威圧するかのように鋭い牙を見せた。宇宙船の中に灯りはないが、真っ白なナイフのような牙は確実に悠介を威嚇する。
だが、怖気付いて足を下げるような真似はしない。そんなことをすればせっかく母体打倒の道を切り開いてくれた姉に対して申し訳が立たない。悠介は試合の真ん中でレイアップシュートを決める直前の心境といっていい。
このシュートを外せば敗北は確定。外せば自分は他の部員たちから責められ針の筵、村八分の状態になるというプレッシャーが両肩に伸し掛かったような状況。
しかし自分が動かなければ先には進めない。悠介は自身の中にあった『勇気』という感情を総動員して母体へと挑んでいく。人によっては『蛮勇』だと揶揄するかもしれないが、悠介にとって何よりも大事な感情だ。邪魔などされたくない。
月のような『勇気』を味方に備えた悠介は自身にとって相棒ともいえるビームソードを握り締めながら向かう。天井を陣取る母体へと挑戦する悠介の姿はさながらファンタジーゲームの中に登場する魔王へと挑む勇者といったところだろうか。
シチュエーションとしてはあながち間違っていないようにも思えるのも面白い。例えるのならば悠介が伝説の剣を武器に仲間たちと共に向かう勇者で、卵から孵化したばかりの怪物たちを迎撃に向かわせる母体が魔王とすると実に分かりやすいではないか。
悠介は1人で誰かに向かって語りかけるように心の中で絶妙な比喩を面白がっていた。
もし、今の状況がロールプレイングゲームであれば悠介はその勇気に相応しい結末を世界が用意したに違いない。魔王子飼いの怪物たちを打破し、母体の心臓なり頭部なりに剣を突き立てていたことは明らかだ。
だが、残念なことに現実はゲームとは異なる。ゲームで上手く行ったことが現実では上手く反映されないことなどザラにある。
今回の事例も数多のゲームプレイヤーたちが直面してきた例と同じ状況となった。
悠介はゲームやアニメに登場する勇敢な勇者のように勢いよく突撃していったまではいいのだが、予想よりも卵から羽化した数が多かったのだ。卵から飛び出してきた幼体は産まれたばかりとは思えないほどの俊敏な動きで悠介へと飛び付き、その体を絡め取っていく。四方八方から飛び掛かられては防ぐことは厳しいはずだ。それ故に悠介は宙の上でバランスを崩してしまい引力に吸い寄せられ、地面の上に体を勢いよく打ち付けてしまった。
辺り一面にバラバラと散らばっていくのは図らずとも悠介の身代わりとなった宇宙のどの生き物よりも悍ましいエイリアンたちの肉片と臓器。血飛沫さえも飛び散るその様は地獄絵図さながらの光景といえた。先ほど飛び掛かってきたリプリーたちの肉片は想像以上にグロテスクだ。見る人によっては嘔吐さえこみ上げてきただろう。
幸運なことに悠介はこの光景を見ずに済んだ。疲れのため何も考えることなくのんびりと天井を眺めていたからだ。地球で受けていた数学の授業での退屈を紛らわせる時のように。
何も考えずに空の上を眺めていた反動のためか、当初飛び込んできたのは何もない虚空のみ。何もない真っ白な空間が広まっているだけのように思えた。
だが、それは一瞬の幻覚。退屈から生じた幻影に過ぎない。もう一度目を開いた後で飛び込んできたのは卵嚢と卵巣、そして侵入者に対して威嚇を行う母体の姿だった。
その姿を見た悠介は母体が悔しがっているのだと察してニヤリと笑う。この時の悠介はさながら相手チームの悔しがる姿を見た時の選手のようだ。バスケットボールの試合で決勝間近にレイアップシュートを決めたあの時の感覚。プレッシャーに打ち勝ち状況を打破した時の解放感。その両者に通じる体全体を包み込むような高揚感が悠介の全体から湧き上がっていく。
ニヤニヤと揶揄うような笑いを母体に向ける。悠介の顔はフェイスヘルメットに覆われて見られないはずだが、雰囲気から感じ取ったのだろうか。母体が狂ったような声を上げる。
その時にふと手を伸ばすと何か水のようなものに触れたことに気が付く。どうやら悠介の代わりに引力の法則で地面へとぶつかり、衝撃で砕け散ったリプリーの体液であるに違いない。
気色悪い。悠介は皮肉にも敵対する怪物の体液でようやく現実へと目を向けることになった。フェイスヘルメットの下で露骨な嫌悪感を示しながら手を引こうとした時のことだ。
痛覚が正常に作動し、喉の奥から悲鳴が上がった。慌てて視線を向けるとそこには小さなカブトガニのような生物の姿。
しかしその甲羅は幅広く悠介には見えなかったものの、甲羅の下には鋭い牙が生え揃っている。その小さな生物は悠介の右腕に向かって強く噛み付いたのである。
上げたところでどうしようもないことを本人自身が一番よく理解していたはずだ。だが、それでも上げずにいられなかったのは人間という生物が持つ性のため。
口をつんざけるような悲鳴が悠介の口から吐かれていく。それを聞いたのはその時まで母体へと意識を向けていた姉の麗俐。彼女は弟のただならぬ声に異常事態を察したらしい。
エネルギーブレードを構えながら慌てて悠介の元へと向かっていく。
麗俐は悠介の元へと辿り着くなり、悠介の頭部にまで到達し、悠介の頭を捕食しようとしたその小さな生物に対して勢いよくエネルギーブレードの刃を突き立てていく。滑りのついた頑強な自然の鎧であっても文明の利器の象徴たるエネルギーブレードの力には逆らえなかったらしい。
バチバチと火花を立てながら地面の上に落ちていき、グルグルと一回転を行ったかと思うとそのまま倒れ、2度と起き上がって来なかった。
「悠介! 無事!?」
問い掛ける麗俐の声は乱れていた。当然である。最愛の弟が今にも死にかねない状況であったからだ。身を案じない姉がいるだろうか。
麗俐は献身の証明のように怯え切った悠介の体を両手で抱き起こしていった。しかし姉の両手に抱かれながらも悠介はまだ全身を震わせている。
「大丈夫、もう大丈夫だから……」
麗俐はフェイスヘルメット越しではあるものの、悠介の頭を撫でようと手を伸ばす。が、悠介は自らの手を振って姉の手を拒否した。
「……いいよ、それよりもどうやってあいつを倒すのかを考えようよ」
「そうだよね……」
麗俐が両肩を落としながら言った。
この時に悠介のみならず麗俐もどこか落ち込んだ様子を見せるのは2度の襲撃が失敗に終わったから。2度とも母体へ向けて必死な特攻を仕掛けたものの、結果は大敗。
今のように地上で無駄な時間を過ごす羽目になってしまった。その事実に対する失望の念からきたものであることは間違いない。
あの母体は例えれば鉄壁の虎牢関を守る華雄といったところだろうか。敢えて『呂布』を比喩に用いなかったのは母体が例のアンドロイドほど高性能ではないため。『呂布』というよりは『華雄』と評した方が適切と判断したからだ。
父親から教えられた『三国志』の知識がこんなところで役に立つとは……。
麗俐は苦笑する。要らないと思った知識でも意外なところで役に立つものだ、と。
この時になってまた母体が声を上げなければ麗俐はもうしばらく無駄な時間を過ごしていたに違いない。
威嚇するような声が上がったことで麗俐は現実の世界へと戻ってこられた。
「どうするんだよ。あいつ」
悠介が声を顰めながら問い掛ける。その声の中に現れたのは半ば『諦め』の感情で間違いない。
万策尽きたとでも言いたいのだろうが、生憎そういうわけではない。
諦めた様子を見せる悠介とは対照的に麗俐はこの時になってある作戦を思い付いた。それは目の錯覚を利用した二人羽織作戦。
立案者の麗俐曰く、リプリーの母体はその他の機能はともかくとして頭脳そのものは人間以下とのこと。それならばその哀れな頭脳にこそ漬け込む隙が生じるとのことだ。
麗俐の作戦としては先に悠介が飛び掛かる真似を行い、その後に悠介に放り投げられた麗俐自身が母体に向かってエネルギーブレードを突き刺すというものだ。
この作戦における最後の壁として立ち塞がるのは重力の法則。だが、それに関する対処法はリプリーの体をクッションにすれば良いだけなので特段問題はないだろう。
やはりこの作戦の要となるのは二人羽織の姿勢。といっても麗俐の体を隠すような上着はこの場には存在しない。そのため悠介が麗俐を背負いリプリーの母体へと飛ぶことになる。
「む、無茶だ! いくら母体の頭がそこまで高くないからって、そんなバレバレの作戦が通用するもんか!」
と、悠介は当然ながら抗議の意を示した。しかし麗俐もさるもの。
「じゃあ、他に有効な作戦はあるの?」
と、質問を投げ掛けて悠介の反論を封じ込めたのである。質問を封じられて困惑した様子の悠介に対して麗俐は得意げな笑顔を浮かべた。
かくして、この作戦は決行されることになった。予定通りに悠介が麗俐を背負い、母体へ向かって飛び掛かっていく。
しかし母体もさるものであちらこちらから迎撃のために幼体を飛ばす。
集中して飛び掛かってくるので悠介は両手を使って対処せざるを得なかった。
本来であればもう少し近付いてきたところで麗俐を放り投げたかったが、仕方があるまい。
悠介は真上に向かって麗俐を放り投げていく。麗俐は放り投げられた勢いのまま母体へと近付き、その心臓部に向かって躊躇うことなくエネルギーブレードを突き刺した。熱の刃が母体の心臓を貫き、凄まじい悲鳴を上げさせていく。
冷静さを欠いた母体は慌てて両腕を動かして麗俐を引き剥がそうと試みる。
しかし麗俐は獲物に飛び掛かるハイエナのように食い付いて離れなかった。
あくまでも剣を突き立てて息絶えるのを待っていた。麗俐の願いが神に届いたのだろう。やがて母体はそれまで闇雲に振り回していた腕を回すのも辞めたかと思うと素直に重力の法則に従って地面の上へと落ちていった。
この際に麗俐は母体の真上へと体を寄せたのである。それは母体をクッションの代わりとして利用するため。自身と弟の苦い経験から学んだことである。
結果的に地面の上には母体の哀れな亡骸が広がったが、麗俐の身は無事だった。
弟のことを心配してその姿を探したものの、自分の指示通りに動けたのか、エイリアンの亡骸の上に座っている姿が見えた。フェイスヘルメットを被っているため表情は見えないが、親指を立ててサムズアップの姿を見せていることから今の顔が試合に勝った後のように晴々としているだろうと推測するのは容易なことだ。
麗俐が一息を吐こうとすると彼女の両耳に金属のドリルが近付いてくるような音が聞こえた。嫌な予感がして身を翻すのと自身が先ほどまで立っていた場所に亀裂が生じていく。
背後を振り返ると、そこにはメトロイドスーツを着た修也の襟首を掴んで引き摺りながら地面の上に伸ばしていた腕を引き上げる“ソレ”の姿。
腕の先端で作り上げられているのは間違いなくカッター。あの場で避けなければ麗俐は間違いなく粉微塵になっていたに違いない。
“ソレ”は今の自分たちと同様にフェイスヘルメットをしているので姿は見えない。
だが、そのヘルメットの下には最初に見た時と同様に幽霊のような不気味な無表情を浮かべているに違いない。
宇宙船の母体を倒したばかりでまた強力な相手と戦わなければならないのは不本意だが、戦うしかあるまい。
麗俐はエネルギーブレードを構えて迎撃の構えを取った。
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やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
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