メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』

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「それよりも船内の状況はどうなっているんですか?」

 いつまで経っても両者の間に重苦しく、言葉も発することができないような膠着した空気が漂っていることもあってか、悠介が話題を逸らすようにジョウジに向かって問い掛けた。

 だが、余計な気遣いは裏目に出てしまったらしい。ジョウジは沈んだ顔で愛想笑いを浮かべている。いっそ怒鳴ったり泣いたりしてくれた方が楽だ。

 悠介は苦笑いを浮かべることしかできなかったのに対し、敢えて麗俐は深掘りする態度に出た。いつまでもタレントにしがみつくテレビ局のしつこいスカウトマンのように質問を投げ続けた。

 麗俐による必死の説得の甲斐もあってか、それまで石のように固く閉ざされていた口が何度も質問を投げ掛けられたことによってようやく開いていく。

「……実はですね、あのアンドロイドが暴れて犠牲者が出たんです」

「犠牲者?」

 予想だにしなかった言葉を聞いて、3人はそれまでの経緯も忘れ、食い入るようにジョウジの瞳を見つめていく。期待と羨望というよりかは好奇心と不安が入り混じった視線が注がれていく。

 そんな状況にあってもなお、プレッシャーを感じることなく言葉を発することができたのは彼がアンドロイドであったからだろう。

 大量の札束が仕舞い込まれた金庫のように固く閉ざされた唇を開こうとしている姿は哀れであった。が、それでも答えるまでジョウジを見つめていたのは3人の中に知る権利が存在していたからである。

 何人たりとも犯すことのできない不可侵的な権利。それこそが命懸けの作戦を遂行して帰還した勇者たちに与えられる当然の褒美だといってもいい。

 ジョウジもそのことを理解していたためか、重い口を開いてこれまでの経緯を語っていく。

「……殺されたんですよ。例のアンドロイドにアリサさんとカサスさんが」

 その言葉を聞いた3人にハンマーを後頭部から勢いよく叩き付けられたかのような衝撃が迸っていく。特に衝撃を受けたのはアリサと親交を深めていた麗俐。

 彼女は「信じられない」と何度もうわ言のように呟いた後で両膝を突いて嗚咽をあげている。既に『エンプレスト』のフェイスヘルメットは外しているので素顔の彼女が啜り泣く姿が遮られるようなことはない。

 修也は父親として娘の心を慰めるべく、その背中を優しく摩り続けていく。ジョウジはその間にひっそりと離脱したが、誰がジョウジの行動を責めることができるだろうか。

 アンドロイドとはいえ彼は『感情』を持つ特殊個体。延々と泣き続ける麗俐を見て、飛び火するのを避け、逃げたくなるのも当然といえるだろう。
 実際時間が許す限り、麗俐は泣き続けていた。体中の水分を全て吐き出せんばかりの勢いで。

 もし、この場において冷静な視点でものを見る第三者が同席していれば家族とはいえよく耐えたものだという評価を下すに違いない。もちろん機械的な判断なのでそんなことを人間の前で口にすれば責めらることは間違いないから意地でも口を紡いでいるだろうが。

 そんな不安を他所に、麗俐の涙が止まったのは3時間が経過してからのこと。その間にすっかりとサ・ザ・ランドの陽は西へと傾いている。暗く染まった夜の世界が自分たちの世界へと侵食し始めていく頃合いだ。

 辺りも見えず、いまだに土地勘も掴めないような場所に長い間留まっているのは望ましくない。

 ホーテンス星人の一団を壊滅させ、例のアンドロイドたちが全滅したといってもこの惑星にはまだ何が潜んでいるのか分からない。サ・ザ・ランドは常に未知の危機が侵入者たちに付き纏う物騒な星なのだ。一度入れば2度と外に出ることができない呪いの館のように。

 それ故に修也と悠介の2人で麗俐の手を引いて宇宙船の中へ戻り、休憩がてらに例のダイニングルームへと腰を下ろす。

 この時にコーヒーを淹れたのは麗俐でも修也でもなく、ジョウジ。戦闘で疲れ、精神にも大きな打撃を受けた2人を気遣うために彼なりの気遣いであった。

 修也は小さく頭を下げながら紙コップの中に入ったらコーヒーを受け取る。白い湯気が立ち昇るコーヒーを一口啜ると、途端に修也の口の中へと豆の苦味と旨味とが凝縮された味が口いっぱいに広がっていく。温度も味もプロが淹れたコーヒーにひけをとらない優れものであった。

 流石はアンドロイドというところだろうか。修也が両手で紙コップから伝わる温もりを感じていると、沈んだ表情の麗俐が恐る恐るという調子でジョウジへと問い掛ける。

「そういえば、カエデさんとファティマさんは?」

「……部屋です。あのアンドロイドに捕まえられましてね。麗俐さんが泣いている間に私が御二方を埋葬した後で、拘束を解きに向かったのですが、目の前で仲間を殺された衝撃が大きかったのか、いまだに部屋から出てきません」

 カエデは精神を大きく傷付けられたファティマを気遣って部屋でケアにあたっているのだそうだ。これで情緒不安定にでもなっていてくれればまだ何か対策を施すことができただろう。

 しかし彼女は怒りを人もといアンドロイドにぶつけるよりかは自身の殻の中へと閉じこもることを選択したらしい。その証拠に塞ぎ込んで部屋から出てこようとしない。
 無理に自分の世界から引き出そうとすればどうなってしまうのかはジョウジにも分からないそうだ。ただ、心理学の観点からいえばあまり好ましい方法ではないことは確かだ。

「私は専門家ではありませんからね。コンピュータに内蔵されている知識以上のことは求められません」

 通常のアンドロイドであればここでキッパリと言い放ったに違いないが、やはりジョウジは感情を持つ変異体。申し訳なさそうに両肩を寄せながら小さな声で答えていた。

「しかし、彼女が部屋から出てこないと我々は帰ることができませんよ」

「お父さん!」

 麗俐は父親の冷酷とも言える言葉を遮るように叫ぶ。しかし愛娘に怒鳴られたとしてもこの場において修也は企業戦士として一個人のことよりも全体のことを優先して話すことを決意したらしい。
 唇を一文字に結びながらアンドロイドよりも淡々とした口調で話の先を続けていく。

「我々は各惑星で培った商品を地球へと送り届ける義務があります。また、ファティマさんも地球に送らなくてはなりません。地球で専門の医師やメディカルケアロボットに心を診てもらうことが彼女にとっても我々にとっても最適な処置となるのではないでしょうか?」

 修也の言葉は一字一句とまでは言わないが、正論だった。ジョウジはファティマの精神を考えず、淡々とした調子で最適の状況ばかりを機械のように語る人間がいることに驚きを隠せなかった。

 いや、これまで見えてこなかっただけで、こうした一面こそ修也の護民官としての素質なのではないだろうか。

 ジョウジは感服するのと同時に修也の要求を聞き入れ、彼女や各惑星で手に入れた商品を携えて例の宇宙船で地球へ戻ることを決めた。作戦の決行日は翌日である。

 カサスとアリサの墓参りを済ませた後に全員が手に入れた宇宙船の中へと乗り込むという形になった。

 アメリカ製の最新式の宇宙船、スコーピオン号は残念ながらサ・ザ・ランドに放置せざるを得なかったが、それに関しては、

「次の哀れな犠牲者にくれてやりましょう」

 と、修也の一言で片がついた。

 問題は報告書に関してであるが、会社の方にはスコーピオン号を放棄せざるを得なかった具体的な理由などいくらでも思い付くので苦労はしないだろう。

 ジョウジがちょうど、カエデにそのことを伝えようとした時のことだ。部屋とダイニングルームを繋ぐハッチが開き、カエデが姿を見せた。

 アンドロイドらしからぬやつれきった様子を見せている。よほどファティマの対応に身を粉にしていたに違いない。
 カエデの話によればファティマはゼンマイの切れた玩具のように大人しくベッドの上で眠っているとのこと。

 詳しい話は明日、彼女が目を覚ましてからゆっくりとするより他にない。それも単刀直入に尋ねるのではなく、朝食がてらにさりげないという調子を装って。
 改めてみると、厄介なことを提案したものだ。修也は苦笑するより他に仕方がなかった。

 翌朝、珍しく栄養剤ではなくバナナとロールパン、そして卵焼きをまとめたブラックファーストセットというパックを開き、お盆の上に載せる。そのお盆を部屋へと持っていき、ファティマに食べさせながら修也は昨日の話を行う。

 ファティマは修也の話を神妙な顔で聞いていた。一つ一つの話に対して小さく頷いてみせている。彼女からすれば納得のいかないことであっただろう。

 通常であれば彼女はますます意固地になって自分の殻の中へとより深く閉じこもることになるだろう。

 だが、彼女の意思は修也たちが思っていたものより強かったらしい。修也の言葉を素直に聞き入れて小さく首を動かす。
 儚いながらも微かに自分の意思を示したことに修也は感謝の意を示した。
 どうやら自分たちが懸念していたことは『杞憂』に終わったらしい。修也は密かに胸を撫で下ろす。

 自分が安心した素振りを見せないよう、修也は何度も頭を下げ、丁寧な言葉で感謝を口にしていく。その日、メンタルケアのためカエデを部屋に残してファティマは自室にいた。

 そんな修也たちが向かったのはジョウジが昨日掘ったという墓の前。それは盛り上げられた土の上に小さな石を備え付けた墓と呼ぶにはお粗末すぎるほどの簡素なもの。

 しかし真心は存分に伝わってくる。修也たちは一斉に両手を合わせて両目を瞑り、哀悼の意を示していく。

 カサスとアリサの住んでいた星における死者の弔い方は知らない。そのため地球のそれも日本式と呼ばれる方法での弔い方となった。

 簡素な葬式はあっという間に終わり、残るのは引っ越し作業のみ。ファティマを除く全員で荷物をもう片方の宇宙船へと詰め込む。全員で行うと早く終わるものだ。

 夜になって、作業を終えた後で修也たちがホーテンス星人から奪い取った宇宙船を見渡すと、宇宙船の中は修也たちが交易で手に入れた商品が入った箱で一杯になった。

 四方八方に箱が置かれているのでいかに多くの荷物がスコーピオン号の中に詰め込まれていたのかが分かるだろう。

 修也がその荷物の量に圧倒されていると、ハッチが開いてカエデに手を引かれたファティマの姿が見えた。
 ヨロヨロとおぼつかない足取りで歩いていく彼女は宇宙船の中央に座らされ、地面の下を見つめる。誰の顔も見ないことが精神の安定へと繋がっていくのかもしれない。

 例のアンドロイドによる襲撃に際して、彼女はよほど強く心が抉られたのだろう。修也は彼女の鞭で叩かれた背中のように傷だらけであろう心を心配していた。

 この傷を癒すためには一刻も早く地球の医者に彼女を見せなくてはならない。
 そう決意した修也は口元を一文字に結ぶと、両目を大きく広げ、大きな声で宇宙船に指示を出す。

 修也の音声に反応した宇宙船はすぐにサ・ザ・ランドを飛び立つ。地表を離れ、大気圏を抜けていく姿は光のように早かった。

 宇宙船が宇宙に飛び出るのと同時に自動でモニターが下りてきた。モニターには先ほどまで修也たちが過ごしていた惑星の姿が映っている。修也たちはモニターに映る惑星の姿を目に焼き付けていく。それこそが2度と戻らない辺境の惑星に対する愛のように思えてならない。

 存分に惑星を鑑賞し終えた後で修也は宇宙船に大きな声で命じた。

「座標は地球! 別宇宙にアリ! ワープ機能を用いて向かうべし!」

 宇宙船のコンピュータは何も言わない。ただ、爆音を奏でたかと思うと、そのままワープへと突入して姿を消していく。
 後に残ったのはジョウジがサ・ザ・ランドと名付けた惑星の姿のみ。

 この未知の惑星はこれからも見知らぬ宇宙の上を漂い続けるだろう。その惑星の上に宇宙船やアンドロイドの残骸、そして多くの謎を残して……。
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