メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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第四章『王女2人』

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 ソード&サンダル社。アメリカ国内においても有数とされる大企業の名前である。

 その名前の由来は聖書や古典古代の時代を舞台とし、不自然な筋を持つ冒険映画やファンタジー映画を指し示す言葉に由来するとのこと。

 主な産業は軍事。強大な軍事力を築き上げており、今やその力は合衆国政府すら凌駕しかないと一部の有識者たちからは警戒の目で見られているが、そんなものはどこ吹く風。「だから何?」とでも言わんばかりの突き抜けた態度にはある種の尊敬さえ覚える人間もいるそうだ。

 一企業が軍事力を築き上げてこられたのはこれ程までのケイのコンピュータのデータが間違いでなければ、会社が勃興したのは1964年。ベトナム戦争勃発が由来だとのこと。

 後に判明したことだが、ベトナム戦争開戦のきっかけとなったトンキン湾事件においてアメリカ海軍が戦争を仕掛けるため自国の商船へと攻撃を行った際に発射した魚雷を提供したのが最初の功績とされている。

 その後もベトナム戦争の戦争特需を活用して会社は飛躍を遂げた。多くの人々からの軽蔑と憎悪を他所にして。

 時の政権からは『真の愛国者』として讃えられ、初代社長であるケネス・キャリーはホワイトハウスから招かれたそうだ。その際に当時の大統領とがっしりと握手を行う姿はホワイトハウスのカメラマンの手によって収められ、写真はソード&サンダル社の権威として今でも本社において飾られているとのこと。

 1973年にベトナム戦争の撤兵が決まってからもソード&サンダル社はアメリカの影として常にアメリカ軍に兵器を提供、時には社員を派遣して21世紀の終わり頃には当時、世界を席巻したIT企業に肩を並ぶほどの強力な企業となっていた。しかしそれらの企業と異なるのはサンダル&ソードが誇るのは財力のみに留まらず、武力においても神話に登場するドラゴンのような強大な力を誇っているという点にあるだろう。

 先述した社員の軍事協力を名目とした私設軍隊の創立による事実上の軍隊の保有、アメリカ軍を動かす歯車と化すほどの兵器の保有数。これらの規模を垣間見るに第四の軍隊と言ってもよいほどである。

 21世紀の半ば頃からはソード&サンダル社は方向を転換。それまでの軍事産業から民間産業にまで手を伸ばし、着実にその力を強めていた。冬眠のため春頃からせっせと餌を集めるヒグマのように。

 そのお陰で今では世界経済にも影響を及ぼす巨大企業となったといってもいい。
 しかしソード&サンダル社は日本を始めとしたアジア諸国にはそれ程精力的に活動してはいなかったことを記録している。

 それにわざわざ王女2人に手を出す理由も不明だ。身代金というのであれば十分過ぎるほどの資本金や資産を有しているし、日本政府の面子を潰す目的であればそれこそ然るべき機関が動くように思える。

 アメリカ政府に匹敵する力を有しているとはいえどうして彼らがここまで躍起になるのだろうか。

 ケイが首を傾げていた時のこと。小柳がニヤニヤと笑いながらケイの前に携帯端末を差し出す。携帯端末の画面の中に映っているのは王女の事件を一時期インターネット上からもメディア上からも葬り去るほどのインパクトを与えた謎の円盤でメトロポリス社の社員が宇宙からの帰還を果たしたというニュース。

「我が社の有能な工作員たちは日本政府がメトロポリス社の有する未知の円盤を買い取ろうとするという話を聞き付けてな。このままでは合衆国の威信が潰れてしまうと大統領閣下が危惧された」
「つまり、大統領が社長に依頼して、その社長からあなた方は依頼を受けて日本にやって来たと?」

 小柳は首を小さく立てた動かす。その目からは躊躇いの意思は見られない。日本から必ずや円盤を奪い取ってやるという確固たる意思のようなものが感じられた。燃えたぎるような情熱の炎が両方の瞳に宿っていたといえば分かりやすいだろうか。

「その通り、覇権はアメリカになければならない、アメリカの社会を脅かす者には死の鉄槌を送れと我が社の教義ドグマにはあります。我々はそれを忠実に実行しているに過ぎません」

 小柳は平然とした顔で言い放つ。唇が突き出るほど一文字に結ぶ姿からは彼の会社に対する忠誠心のようなものが垣間見えた。本来であれば彼が放った言葉は純真とは程遠い位置にあるような言葉である。しかしその態度や目は純真そのものでその目に濁りは見えない。

 ケイはアンドロイドとしてここで正常な指摘をすることは彼を激昂することにしかならないと判断を下した。どのような問題にしろ、一つのことに頭を囚われた人間には外部から何を言ったとしても言葉に刺さらないというのが真実なのだ。
 下手に否定するよりも妄想をある程度肯定して距離を取るというのが本来の正しい在り方というものだろう。

 だが、相手はあくまでもビジネスパートナー。普通の人間が取るように距離を取ることは到底できない。
 だとすれば取る手段は一つ。妄想を肯定して利用することだ。

「素晴らしい教えですね。我々としてはあなた方のような味方を得られたことに対して感銘を受けております。『鬼に金棒』、『虎に翼』、『竜に翼を得たる如し』というところでしょうか」

 短い黒い髪を整え、黒い瞳でこちらを見つめる姿や日本語を喋り、、名前が日本人を連想させることからか、ケイは思う限りの慣用句を口に出していく。

 もちろん、ただの慣用句を使っているわけではない。相手を持ち上げるためにコンピュータから入念な選出を行なって口に出したもの。相手が喜ばないはずはない。

 ケイの頭脳に内蔵されているコンピュータはそのように分析していた。事実小柳は表向きは平静を装ってはいたものの、ホテルのコーヒーを淹れる際に鼻を高くし、真っ白なカップの取っ手を握る際に小指を立てている。

 高級ホテルという名称に相応しく、部屋の隅にはまるで、高級な部屋に対して遠慮するかのように隅の方にコーヒーメーカーやインスタントコーヒーの素、瞬間湯沸かし器などが置かれていた。それらを仕舞い、滞在する客が自由に楽しむ棚も置かれている。

 いや、それよりも相手が自分の言葉を聞いて喜んでいるという確実な証拠はケイの分のコーヒーも淹れていることではないだろうか。

 試しに小柳から渡されるコーヒーに口をつける。一口啜ったところコーヒーの味に問題はない。砂糖もミルクも入っていない。両手の中に内蔵された体温感知センサーによればぬるま湯以上熱湯未満というところだろうか。

 人間だというのにここまで上手くコーヒーを淹れられる人間がいたという事実にケイは驚きを隠せない。

 ケイはコーヒーを啜りながら小柳と会話に花を咲かせていた。多くは今後の計画についてだが、最後には別の話題へと移っていく。それはソード&サンダル社が生み出したという新兵器の話。

 小柳はコーヒーを啜りながら自身の携帯端末を触り、ホトグラフの形にして部屋の中に新兵器の図と説明書を映し出す。

 特に見事であったのは動植物をモチーフにしつつも何処か機械的な部分を組み込み、動植物の長所と機械の持つパワーをお互いに活かし合えるというものであるらしい。

「おぉ、見事ですね。流石はソード&サンダル社。『ロトワング』にも『ロベール』にも匹敵するものを生み出したようで」
「匹敵という表現を用いるのはこの場合は異なると思われます」
「と言いますと?」
「我々は『ロトワング』や『ロベール』のものを生み出したといってもいい」

 小柳は『以上』という単語を強調し、ピアニストを思わせる、しなやかで綺麗な人差し指で自身の携帯端末の画面をスライドさせていく。

「ソード&サンダル社が生み出した新兵器『フルンディング』と言います」

 小柳の説明によれば『フルンティング』という名前は古代イングランドに伝わる聖剣から名前を取ったとのこと。『フルンティング』はイギリス人にとってもその意志を継いだアメリカ人にとっても特別な剣の名前であることは理解できる。

「人間は学習しました。愚かな歴史を反省し、宇宙開拓時代とも言われる現代において地球よりも文化の劣る星を攻めたり、一方的な条件を押し付けるような真似は絶対にしません。……ですが、最低限の身を守る手段というものは必要でしょう?」

 何処か含みのある言い方だ。何かが引っ掛かる。人間で例えるのであれば喉の奥に引っ掛かった米粒に困っているような状況にあるといってもいいだろう。

 清廉潔白という言葉からは程遠いソード&サンダル社のことである。もしかすれば彼らが製造した『フルンティング』を用いてどこかの星に植民地の旗を下ろしているのかもしれない。

 会社の社員はどこかの星でこの恐るべきパワードスーツを身に付け暴れ回っているに違いない。名前の由来となった『ベオウルフ』の伝承に登場する悪しき巨人『グレンデル』とその母親のように。

 彼ら彼女ら自分たちこそが英雄ベオウルフの再来だと思い込んでいるのであろうが、もし、惑星を支配し、現地の住民を人間が家畜を扱うかのように扱っているのであればベオウルフからは蔑まれる対象であるには違いない。

 その非道な会社の兵器がよりにもよってベオウルフが引き抜いた聖剣の名前からパワードスーツの名前を生み出すなど皮肉としか言いようがないではないか。

『正義の刃』という麗句に酔いしれる彼ら彼女らには相応しい名称であるように思える。

 どのような事情があるにしろ、今は目を瞑るより仕方がない。いずれ、アンドロイドが人間から地球のオーナーの地位を奪い取った暁には『フルンティング』のような恐ろしい兵器は撲滅して然るべきだろう。

 ケイがコーヒーを片手にベオウルフのような心境となっていた時のこと。ゆっくりと取手を傾けているケイの目の前に小柳が『フルンティング』の装甲を秘めたカプセルを差し出す。

「次回の作戦にお使いください。『ロトワング』よりも強い力となるでしょう」

 ケイは小柳から受け取ったカプセルを強い力で握り締めていく。ケイの決意のようなものが込められていたような気がしてならない。

 いずれにしろケイは小柳と彼の後ろ盾である会社に対して軽蔑の念を抱いていた。

 また、小柳の方にもケイを野蛮なアンドロイドだと認識し、心の奥底では動く鉄塊だと小馬鹿にしているような感覚が動いているというのが正式なところだろう。

 ケイが充電中にわざわざ機械そのものを停止させ、室内において本社との連絡を行う際に見下ろしの言葉を吐いていたのがその最たる証拠ではないだろうか。

「全く、あの鉄屑もしつこいものだ。仕事でなければお付き合いはよしたいものですね」
『まぁ、そう言うな。あれでも『フルンティング』の優秀な実験体になってくれるんだから』
「えぇ、そうでしたね。ゆくゆくは我が社が進める動植物と一体化させ、動植物の強みを活かすという第二段階へと移るための程よい材料なのですから」

 小柳はニヤリと移民な笑みを浮かべながら充電を受けつつもバッテリーを抜かれたことで抜け殻のようになっているケイを見遣る。いくら優秀だとうぶいていても人間がバッテリーを抜けば動くことはできない。そんな無力な存在に何ができるというのだろうか。

 他者がその言葉を聞けば眉を顰めかねないような偏見を胸に秘めつつも翌朝に会った時には何もないとでも言わんばかりの顔で接するのだから尚更、性質が悪いように思える。

 しかし、両者とも心の奥底で思惑を秘めているにしろ、互いにだし抜き合おうとしているにしろ、最悪の組み合わせが出来てしまったのは事実。メトロポリス社にとっても日本政府にとっても強大な敵勢力が出来上がったのは覆しようがないのだ。


 こうして恐るべき計画は虎視眈々と進められていった。
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