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第四章『王女2人』
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時計の針が時間の経過を告げる音を打つ。その度に自身の脈拍が高まっていくような気がしてならない。政府の高官という役職に相応しい筋肉のないブヨブヨとした情けない腕であるが、それくらいは腕の脈を取らずとも自ずと分かってくる。心臓の慟哭の音が響いてくるからだ。
アナログの時計はほとんど全滅したかのように思えるが、富裕層や知識人といった人々はアナログ時計の良さというものを理解している故か、彼らがその時代遅れの品を所有している率は高い。
重要な会談の時にしろ、或いは国会討論の前にしろ、脈が高くなり、血圧が上がりそうになりそうな事態に陥ってきたことは珍しくない。
いや、そんな最近の事例を用いなくともこれまでの人生においてそういった事例は数え切れないほど起きてきた。エスカレーター式の小学校入学から始まり、大学受験、院内試験、秘書時代の業務、そして立候補時の選挙運動期間中。緊張が起きるたびに脈が高くなるのは症状のようなものだといっていいかもしれない。
それ故に仕方がないと割り切るべきか、はたまた今の状況においては自分がそうなってしまうのも仕方がないと諦めるべきだろうか。
そんなことを頭の片隅に起きつつも耐えられなくなったのか、政府高官の男は思わずメトロポリス社のフレッドセン社長から目を逸らす。
意図的に逸らしたわけではない。ただ、彼が両目から発する青白い光や有無を言わせぬ高圧的な態度に耐えられずに生物として無意識に目を逸らしたに過ぎない。
瞬きをするような僅かな変化ではあったが、それでもフレッドセンからすれば大きな変化と見てとったに違いない。サーベルのように両目を細く尖らせながら高官を怯ませた。両肩を思わず大きく震わせる高官。
乾いた笑いを溢してその場を取り憑こうと目論んだものの、フレッドセンは承知しながらったらしい。目の前の机を強く叩き付けて強制的に彼の意識を現実へと引き戻させた。
「聴こえていますか、我が社はこの値段では納得がいきません。民を下に見るのもいい加減にしてもらいたいものですね」
フレッドセンの言葉を聞いた高官は返す言葉がなかった。自分の言葉が喉の奥に引っ掛かって取れない小骨のように詰まって出てこないのだ。これに関しては言い訳の仕様がない。自分が適当な言い訳が思い付かなかったというだけのこと。
だが、フレッドセンにとっては絶好の機会であると判断したらしい。
ここぞとばかりに机を強く叩き、高官に対して2度目の圧をかけていく。
「……いい加減にしてください。こちらは日本国に属する者としてこれまで最大限の譲歩を行なってきました。しかし、あなた方はその真逆。あなたの方で妥協するつもりがないというのであれば私はもう交渉を打ち切ることを視野に入れなくてはなりません」
フレッドセンの声はよく通る。狭い部屋であるため聞き逃すということはない。
防音対策をしっかりとこなした部屋であるが、内部の音は別。高官の耳には嫌でも伝わってくる。
「そ、それは……」
「分かりませんか? 我が社が回収した宇宙船を欲しがる国は山とあるんです。想像してご覧なさい。敵国が宇宙船を手に入れて日本国の領空を脅かし、国会議事堂を爆破する姿を」
尻が沈むほど柔らかいクッションを備えた長椅子の上で高官はフレッドセンの言葉通りの光景を想像したに違いない。地球より何倍も進んだ科学力で作られたという宇宙船であるのならば国会議事堂を焼き尽くすのは赤子の手をひねるが如き簡単なことなのだ。
そればかりではない。宇宙船の熱線は高官の自宅をも簡単に焼き尽くすに違いない。せっかく手に入れた庭付きの巨大な家を燃やされてしまってはたまったものではない。
高官は氷のように真っ青な顔を浮かべて全身を震わせながらフレッドセンの姿を見つめていく。マジマジと舐め回すように見つめられてもフレッドセンはなんの感慨も湧かないらしい。出来の悪い生徒を見つめる教師のような軽蔑の目で高官を見下ろしていた。
長椅子の向かい側に置いていた肘掛け付きの柔らかな椅子の上で足を組んでいる。そこが我が物であるかのように。
フンと鼻を鳴らす音さえ聞こえる。その様子から見て察するに現在における交渉というのは完全に凍結してしまったらしい。
やがてフレッドセンが贅を尽くした椅子の上から立ち上がり、部屋から立ち去ろうとしたこともあり、高官は右手を震わせながら伸ばす。
「ま、待ってくれ! 私の方から総理へ提案してみよう!! こちらの方からも妥協させてもらう準備を進める!!!」
「……そのお言葉を信じましょう。では、また伺わせていただきます」
フレッドセンは慌てふためいた様子の高官の前で礼として深々と頭を下げてその場を後にした。頭を下げた後でフレッドセンは通された部屋のデジタル看板を見上げる。
看板に記されているのは案内した高官の名前とそこが議員である彼に与えられた控室であるということ。
随分と贅を尽くした部屋であるように思える。アナログ時計や柔らかそうな長椅子と1人のために作られた同じ仕様の椅子の他に絵画やファイル、書籍を収めた本棚。地面の下には映画スターが式典で歩くような柔らかなレッドカーペットが敷かれている。
そうした品々が税金で賄われているのかと思うと腹が立たないかと問われれば嘘になるだろう。
だが、それがステータスと言われれば仕方がないような気もする。深堀をしていってもいいのだが、問題はそこではない。自分や会社にとって1番大事であるのは今後の交渉のこと。
上手く宇宙船を納められ、取り引きを纏められるのかということだけが主題である。
フレッドセンは重い溜息を吐きながら国会議事堂の前に停めていた用意されていた浮遊車の中へと乗り込む。
クッションの上で両目を閉じ、仮眠でもしようかとしていた時のこと。
「お疲れ様です! 社長!」
と、傍から能天気とも朗らかともいえるような声が聞こえてきた。傍を振り返ると、そこには青いワンピースに身を包んださくらの姿。
さくらは前世紀の秘書に見られた両脇にファイルやタブレットを挟むという行動の代わりにフレッドセンの隣でウィンドウを表示し、今後のスケジュールを記した場所を提示していた。
「この後は我が社で株主の方々へと向けた書類の作成と重役を集めた会議となっております! 特に宇宙貿易部門の部長が今回の宇宙船の件について入念な話し合いを行いたいと」
「話し合い? なぜです?」
「部長の話によれば例の宇宙船を売り出す準備を進めたいんだそうで」
その言葉を聞いたフレッドセンは大きく溜息を吐き出す。その後にさくらへと向ける目には石のような憎しみが彼の瞳の中に宿っていた。もっともその目線は秘書であるさくらではなく、その話を提案した宇宙開発部門の部長へと向けられているのであることは明白。
それ故にさくらも動じることなく笑顔を浮かべ続けていたに違いない。
ともかくフレッドセンにとって不快な話であることに変わりはない。不快そうに整えられた両眉を寄せながらさくらへと言い放つ。
「また、その話ですか? その話なら断りなさいと言ったでしょう?」
「けど、社長。部長の話によれば植民惑星に売ればいい値段になるようですよぉ。火星にポーラ、あとはーー」
「それは下の下の策だと伝えなさい。それでも態度を改善しないのであれば部長解任だと告げるんです」
フレッドセンは長期的な任期を帯びた国家に君臨する指導者のような強圧的な口調でさくらへ向かって言い放つ。
通常の人であれば思わず身震いしてしまうような状態であるにも関わらず、「はーい」とさくらが間の抜けたような返事を行う。
相変わらずさくらは幼稚園における教師のような口調と態度ではあるが、仕事に関しては信頼できる相手だ。それ故に一字一句まで正確にとまではいかないが、フレッドセンの希望を可能な限り、伝えてはくれるだろう。問題はその後に宇宙開発部門の部長がどう出るかということ。
フレッドセンが両腕を組みながら宇宙開発部門の部長に対する不満や反論するべき点を頭の中で収めていた時のこと。
突然、車の停止する衝撃に巻き込まれ、否が応でも現実世界へと引き戻されざるを得なくなった。
慌てて周囲を確認すると、自分と同様に車の長椅子の背もたれに体を打ち付けられて呻めき声を上げるさくらの姿。
どうやら彼女であっても状態を把握するのは難しいだろう。フレッドセンが確認のために車を降りて周囲を確認するため扉のノブへと手を伸ばした時のこと。
いきなり彼の腕が強い力で引っ張られたかと思うと、外へと引き摺り出された。そこにはビームライフルを構えた1体のアンドロイドの姿。
長い金髪をたなびかせた日本人めいた顔からかけ離れたハリウッド女優のような顔にくびれを有した細く華奢な体。
強調された胸元や臀部はもともと、そういった嗜好を持つ邪な男性のために製造されたものであるに違いない。思わず同情してしまうような環境にあったアンドロイドが人間に対して反逆を企てのだろう。
フレッドセンが緋色のジャケットに白いブラウス、同じ色のタイトスカートを履いたアンドロイドを見つめながらそんなことを考えていた時のこと。
そのアンドロイドがビームライフルの銃口を突き付けながら乱暴な口調で言い放つ。戦争で民間人を威圧する軍人のように。
「メトロポリス社のフレッドセン=克之・村井だな? 貴様の会社が保有する宇宙船を我々に提供してもらおうか」
「……賞金稼ぎの奴らか……なんとも愚かしい手段をとったものです」
フレッドセンは乱暴な手段を用いたテロリストたちに対して侮蔑の意思を隠さなかったようだが、感情を有さないアンドロイドにとっては彼からいくら軽蔑の念を向けられようとも大したことではないのかもしれない。
いや、仮に相手が人間であったとしてもテロリストであれば同じ対応を示したに違いない。命乞いをする人間の言葉など戯言に過ぎないのだから。
相手が人間であろうが、アンドロイドであろうが、フレッドセンは絶体絶命の窮地に陥ったといってもいい。そんな状況であるにも関わらず、彼はふてぶてしい笑いを浮かべていた。
人間というのは死の間際に追い詰められた時こそ本性が露わになるというが、こういった笑いこそが彼の本性なのだろうか。
最後の最後に笑って最後を迎えるというのが彼の考えていた窮地におけるリアクションであるのかもしれない。
いや、そんな達観したような笑いではない。彼が浮かべていたのは勝利を確信しているような不気味な笑み。
もし、彼の前に立ち塞がったのが人間であればフレッドセンの意味深な態度を見て首を傾げたのであろうが、生憎なことに彼女はアンドロイド。
フレッドセンの異変に気付くことなく、彼女はビームライフルを構えたままフレッドセンの元へと近付いていく。
ビームライフルが目の前に突き付けられた時、彼はスーツの内ポケットから1個のカプセルを取り出す。
そして異変を察したアンドロイドがビームライフルの引き金を引くよりも前にカプセルを握り締めて己の身を『ロトワング』で武装させていく。
大抵の『ロトワング』の装着者が鎧を固めている姿であるのに対し、フレッドセンが護身のために身に纏った『ロトワング』の姿はといえばパワードスーツというよりかはボディースーツと評した方がいいほどの密着度であった。全身をピッタリと包んだ真っ白なタイツと薄い装甲が特徴的である。
しかし装甲が纏われているのは胸部や両肩の部分といった場所のみ。防御というよりかはあくまでも動きやすさに特化しているように思える。
兜はといえばシンプルな形で他の装着者が纏う鎧と比較しても飾り気がない。
唯一の特徴といえるのは額の部分に備え付けられたハルシャギクの花弁を模したと思われる箇所からライムを思わせる光が信号のライトのようにピカピカと発光していた。
両足にはレーザーガンの他に光状の鞭が用意されている。
突然の変化にデータ解析が追い付いていないというのをいいことにフレッドセンは鞭を取りだし、女性型のアンドロイドを引っ張り上げていく。拘束はあっという間に済んだ。
もし、この事件を目撃していた人がいれば煙草を一服する暇さえ与えられなかったかもしれない。
アナログの時計はほとんど全滅したかのように思えるが、富裕層や知識人といった人々はアナログ時計の良さというものを理解している故か、彼らがその時代遅れの品を所有している率は高い。
重要な会談の時にしろ、或いは国会討論の前にしろ、脈が高くなり、血圧が上がりそうになりそうな事態に陥ってきたことは珍しくない。
いや、そんな最近の事例を用いなくともこれまでの人生においてそういった事例は数え切れないほど起きてきた。エスカレーター式の小学校入学から始まり、大学受験、院内試験、秘書時代の業務、そして立候補時の選挙運動期間中。緊張が起きるたびに脈が高くなるのは症状のようなものだといっていいかもしれない。
それ故に仕方がないと割り切るべきか、はたまた今の状況においては自分がそうなってしまうのも仕方がないと諦めるべきだろうか。
そんなことを頭の片隅に起きつつも耐えられなくなったのか、政府高官の男は思わずメトロポリス社のフレッドセン社長から目を逸らす。
意図的に逸らしたわけではない。ただ、彼が両目から発する青白い光や有無を言わせぬ高圧的な態度に耐えられずに生物として無意識に目を逸らしたに過ぎない。
瞬きをするような僅かな変化ではあったが、それでもフレッドセンからすれば大きな変化と見てとったに違いない。サーベルのように両目を細く尖らせながら高官を怯ませた。両肩を思わず大きく震わせる高官。
乾いた笑いを溢してその場を取り憑こうと目論んだものの、フレッドセンは承知しながらったらしい。目の前の机を強く叩き付けて強制的に彼の意識を現実へと引き戻させた。
「聴こえていますか、我が社はこの値段では納得がいきません。民を下に見るのもいい加減にしてもらいたいものですね」
フレッドセンの言葉を聞いた高官は返す言葉がなかった。自分の言葉が喉の奥に引っ掛かって取れない小骨のように詰まって出てこないのだ。これに関しては言い訳の仕様がない。自分が適当な言い訳が思い付かなかったというだけのこと。
だが、フレッドセンにとっては絶好の機会であると判断したらしい。
ここぞとばかりに机を強く叩き、高官に対して2度目の圧をかけていく。
「……いい加減にしてください。こちらは日本国に属する者としてこれまで最大限の譲歩を行なってきました。しかし、あなた方はその真逆。あなたの方で妥協するつもりがないというのであれば私はもう交渉を打ち切ることを視野に入れなくてはなりません」
フレッドセンの声はよく通る。狭い部屋であるため聞き逃すということはない。
防音対策をしっかりとこなした部屋であるが、内部の音は別。高官の耳には嫌でも伝わってくる。
「そ、それは……」
「分かりませんか? 我が社が回収した宇宙船を欲しがる国は山とあるんです。想像してご覧なさい。敵国が宇宙船を手に入れて日本国の領空を脅かし、国会議事堂を爆破する姿を」
尻が沈むほど柔らかいクッションを備えた長椅子の上で高官はフレッドセンの言葉通りの光景を想像したに違いない。地球より何倍も進んだ科学力で作られたという宇宙船であるのならば国会議事堂を焼き尽くすのは赤子の手をひねるが如き簡単なことなのだ。
そればかりではない。宇宙船の熱線は高官の自宅をも簡単に焼き尽くすに違いない。せっかく手に入れた庭付きの巨大な家を燃やされてしまってはたまったものではない。
高官は氷のように真っ青な顔を浮かべて全身を震わせながらフレッドセンの姿を見つめていく。マジマジと舐め回すように見つめられてもフレッドセンはなんの感慨も湧かないらしい。出来の悪い生徒を見つめる教師のような軽蔑の目で高官を見下ろしていた。
長椅子の向かい側に置いていた肘掛け付きの柔らかな椅子の上で足を組んでいる。そこが我が物であるかのように。
フンと鼻を鳴らす音さえ聞こえる。その様子から見て察するに現在における交渉というのは完全に凍結してしまったらしい。
やがてフレッドセンが贅を尽くした椅子の上から立ち上がり、部屋から立ち去ろうとしたこともあり、高官は右手を震わせながら伸ばす。
「ま、待ってくれ! 私の方から総理へ提案してみよう!! こちらの方からも妥協させてもらう準備を進める!!!」
「……そのお言葉を信じましょう。では、また伺わせていただきます」
フレッドセンは慌てふためいた様子の高官の前で礼として深々と頭を下げてその場を後にした。頭を下げた後でフレッドセンは通された部屋のデジタル看板を見上げる。
看板に記されているのは案内した高官の名前とそこが議員である彼に与えられた控室であるということ。
随分と贅を尽くした部屋であるように思える。アナログ時計や柔らかそうな長椅子と1人のために作られた同じ仕様の椅子の他に絵画やファイル、書籍を収めた本棚。地面の下には映画スターが式典で歩くような柔らかなレッドカーペットが敷かれている。
そうした品々が税金で賄われているのかと思うと腹が立たないかと問われれば嘘になるだろう。
だが、それがステータスと言われれば仕方がないような気もする。深堀をしていってもいいのだが、問題はそこではない。自分や会社にとって1番大事であるのは今後の交渉のこと。
上手く宇宙船を納められ、取り引きを纏められるのかということだけが主題である。
フレッドセンは重い溜息を吐きながら国会議事堂の前に停めていた用意されていた浮遊車の中へと乗り込む。
クッションの上で両目を閉じ、仮眠でもしようかとしていた時のこと。
「お疲れ様です! 社長!」
と、傍から能天気とも朗らかともいえるような声が聞こえてきた。傍を振り返ると、そこには青いワンピースに身を包んださくらの姿。
さくらは前世紀の秘書に見られた両脇にファイルやタブレットを挟むという行動の代わりにフレッドセンの隣でウィンドウを表示し、今後のスケジュールを記した場所を提示していた。
「この後は我が社で株主の方々へと向けた書類の作成と重役を集めた会議となっております! 特に宇宙貿易部門の部長が今回の宇宙船の件について入念な話し合いを行いたいと」
「話し合い? なぜです?」
「部長の話によれば例の宇宙船を売り出す準備を進めたいんだそうで」
その言葉を聞いたフレッドセンは大きく溜息を吐き出す。その後にさくらへと向ける目には石のような憎しみが彼の瞳の中に宿っていた。もっともその目線は秘書であるさくらではなく、その話を提案した宇宙開発部門の部長へと向けられているのであることは明白。
それ故にさくらも動じることなく笑顔を浮かべ続けていたに違いない。
ともかくフレッドセンにとって不快な話であることに変わりはない。不快そうに整えられた両眉を寄せながらさくらへと言い放つ。
「また、その話ですか? その話なら断りなさいと言ったでしょう?」
「けど、社長。部長の話によれば植民惑星に売ればいい値段になるようですよぉ。火星にポーラ、あとはーー」
「それは下の下の策だと伝えなさい。それでも態度を改善しないのであれば部長解任だと告げるんです」
フレッドセンは長期的な任期を帯びた国家に君臨する指導者のような強圧的な口調でさくらへ向かって言い放つ。
通常の人であれば思わず身震いしてしまうような状態であるにも関わらず、「はーい」とさくらが間の抜けたような返事を行う。
相変わらずさくらは幼稚園における教師のような口調と態度ではあるが、仕事に関しては信頼できる相手だ。それ故に一字一句まで正確にとまではいかないが、フレッドセンの希望を可能な限り、伝えてはくれるだろう。問題はその後に宇宙開発部門の部長がどう出るかということ。
フレッドセンが両腕を組みながら宇宙開発部門の部長に対する不満や反論するべき点を頭の中で収めていた時のこと。
突然、車の停止する衝撃に巻き込まれ、否が応でも現実世界へと引き戻されざるを得なくなった。
慌てて周囲を確認すると、自分と同様に車の長椅子の背もたれに体を打ち付けられて呻めき声を上げるさくらの姿。
どうやら彼女であっても状態を把握するのは難しいだろう。フレッドセンが確認のために車を降りて周囲を確認するため扉のノブへと手を伸ばした時のこと。
いきなり彼の腕が強い力で引っ張られたかと思うと、外へと引き摺り出された。そこにはビームライフルを構えた1体のアンドロイドの姿。
長い金髪をたなびかせた日本人めいた顔からかけ離れたハリウッド女優のような顔にくびれを有した細く華奢な体。
強調された胸元や臀部はもともと、そういった嗜好を持つ邪な男性のために製造されたものであるに違いない。思わず同情してしまうような環境にあったアンドロイドが人間に対して反逆を企てのだろう。
フレッドセンが緋色のジャケットに白いブラウス、同じ色のタイトスカートを履いたアンドロイドを見つめながらそんなことを考えていた時のこと。
そのアンドロイドがビームライフルの銃口を突き付けながら乱暴な口調で言い放つ。戦争で民間人を威圧する軍人のように。
「メトロポリス社のフレッドセン=克之・村井だな? 貴様の会社が保有する宇宙船を我々に提供してもらおうか」
「……賞金稼ぎの奴らか……なんとも愚かしい手段をとったものです」
フレッドセンは乱暴な手段を用いたテロリストたちに対して侮蔑の意思を隠さなかったようだが、感情を有さないアンドロイドにとっては彼からいくら軽蔑の念を向けられようとも大したことではないのかもしれない。
いや、仮に相手が人間であったとしてもテロリストであれば同じ対応を示したに違いない。命乞いをする人間の言葉など戯言に過ぎないのだから。
相手が人間であろうが、アンドロイドであろうが、フレッドセンは絶体絶命の窮地に陥ったといってもいい。そんな状況であるにも関わらず、彼はふてぶてしい笑いを浮かべていた。
人間というのは死の間際に追い詰められた時こそ本性が露わになるというが、こういった笑いこそが彼の本性なのだろうか。
最後の最後に笑って最後を迎えるというのが彼の考えていた窮地におけるリアクションであるのかもしれない。
いや、そんな達観したような笑いではない。彼が浮かべていたのは勝利を確信しているような不気味な笑み。
もし、彼の前に立ち塞がったのが人間であればフレッドセンの意味深な態度を見て首を傾げたのであろうが、生憎なことに彼女はアンドロイド。
フレッドセンの異変に気付くことなく、彼女はビームライフルを構えたままフレッドセンの元へと近付いていく。
ビームライフルが目の前に突き付けられた時、彼はスーツの内ポケットから1個のカプセルを取り出す。
そして異変を察したアンドロイドがビームライフルの引き金を引くよりも前にカプセルを握り締めて己の身を『ロトワング』で武装させていく。
大抵の『ロトワング』の装着者が鎧を固めている姿であるのに対し、フレッドセンが護身のために身に纏った『ロトワング』の姿はといえばパワードスーツというよりかはボディースーツと評した方がいいほどの密着度であった。全身をピッタリと包んだ真っ白なタイツと薄い装甲が特徴的である。
しかし装甲が纏われているのは胸部や両肩の部分といった場所のみ。防御というよりかはあくまでも動きやすさに特化しているように思える。
兜はといえばシンプルな形で他の装着者が纏う鎧と比較しても飾り気がない。
唯一の特徴といえるのは額の部分に備え付けられたハルシャギクの花弁を模したと思われる箇所からライムを思わせる光が信号のライトのようにピカピカと発光していた。
両足にはレーザーガンの他に光状の鞭が用意されている。
突然の変化にデータ解析が追い付いていないというのをいいことにフレッドセンは鞭を取りだし、女性型のアンドロイドを引っ張り上げていく。拘束はあっという間に済んだ。
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