魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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トマホーク・ターヴェラント編

白籠ナイトメアーその⑩

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ハリー・S・トマスは絶好のチャンスを得たとも言えよう。唖然とした様子でジョニーの蛮行を眺める、石井聡子と背後に控えていた黒髪の丸渕眼鏡の女性を押し除けて、トマホーク・コープ日本支社の支社長室へと駆け込んで行く。
トマスは支社長室の周りを包囲している警官たちに向かって、武器保存ウェポン・セーブから取り出した、レーザーガンで脅しながら、急いで電子キーでロックを解除して、自分の部屋へと転がり込む。
そして、部屋の中に転がり込もうとする警官たちを静止するために、慌てて扉の前に表示されたモニターにロックを打ち込む。これで、警察官どもは入って来れない筈だと、安堵の溜息を吐いて、急いで支社長の象徴にして、この部屋の中心を飾る窓の側の大きなデスクに近付く。
トマスは急いで、デスク下に設置された通信モニターを開く。現れたのは間違いない。トマホーク・コープの現社長にして、直属の上司であるウォルター・J・ギルフォードの顔。
トマスは声を絞り込み、ウォルターに事態の悪化を告げた。
ウォルターは暫しの沈黙を経てから、トマスに向かって冷たい声で問い掛ける。
「何故、失敗したのだ?」
「え?何ですって?」
「分からぬのか?低脳め……貴様は何故カーゴヘリや我々の開発したロボット兵器、殺人円盤などを所有しながら、日本の警察なんぞに負けたのかと、私は問いただしているのだ」
洞窟の鍾乳洞から垂れる水滴のような小さな音のような声。トマスは答えられずに自身のデスクを眺めていた。
通信モニターの向こうの男は小さく溜息を吐いてから、改めてトマスを見つめて、
「良いか、貴様には我が社の戦力の何分の一かを貸し与えた。貴様に成功後の報酬も約束した。どれもこれも、貴様を信じたために起きた失策だ。私や会社はこの件にはこれ以上は関与しない。そうだろう?私が指示を出したなんて証拠はない
トマスは両手の拳を握り締めて、通信モニターの向こうの相手に向かって叫ぶ。
「ふざけるなッ!オレは貴様の指示に従って、ロボットを街に放し、殺人円盤を放ち、あらゆる手駒を揃えて、この国を乗っ取るための最善の努力を果たしたんだッ!今更、関係が無いとは言わせないぞ!オレが捕まったら、お前も共犯だと引き摺り込んでやる!」
「では、私が関与したと言う証拠を示せ、言っておくが、モニターのやり取りはあの後に削除させてもらったよ。キミの方に証拠が残ってる?我が社のハッカーは有能でね。キミが革張りの椅子に座って、ブランデーを片手に部下を怒鳴り付けている間に削除させてもらったよ」
ウォルターの口元が緩む。トマスは頭を抱えて地面に塞ぎ込む。
トマホーク・コープの社長は予想以上の狡猾さだった。トマスが悔しさに支社長室の地面を殴り付けていると、ウォルターの口から小さく発せられた。お前は首だと。
トマスはウォルターがもう一度なじり倒そうと起き上がった時だ。ドアが開いて、一人の男が入って来た。トマスは男の姿を見るなり、体を凍り付かせてしまう。間違いない。あのジョニー・タリスマンと互角に戦い、結果的に彼を捕縛に追い込んだ男、中村孝太郎本人だ。
肩を震わせているトマスとは対照的に通信モニターから相手を眺めていた、ウォルターは口元を大きく歪めて、トマスからすれば、信じられない一言を発した。
「お前だな?我が社の社員の暴走を押し止めて、街を救ったヒーローというのは?通信モニター越しで悪いが、話をさせてもらおうか」
ウォルターの言葉に孝太郎は首を縦に振る。
「初めまして、自分は中村孝太郎と言います。白籠署公安部所属の刑事です」
「私の名はウォルター。ウォルター・J・ギルフォードだ。トマホーク・コープの社長を務めている」
孝太郎は通信モニター越しの男に向かって一礼をした。が、次に彼を見つめた時の目線は険しい。
孝太郎はモニター越しの相手を強く睨み付けながら話を始めた。
「失礼だが、この件はあなたの感知しない所で起こったと?」
「そんな所だ。部下が面倒をかけたな。あいつらは社内のはみ出し者たちでね、私も迷惑を被っていた所だ。白籠市あわゆかば、他の国家を転覆させて私の関心を買おうとしたのだろう。もう一度陳謝しよう」
孝太郎は頭を下げようとしたウォルターを制止させた。代わりにもう一つの質問を浴びせた。
「では、この件にはユニオン帝国自体もあなたの本社も関わっていなかったと?」
「そういう事になるな」
ウォルターは短く吐き出すように呟く。
「そうですか……あなた自身による指示は何も無かった、あくまでもそう言い張るんですね?」
「そうなるな、それよりもキミ個人に私の方から礼を挙げたい。何か欲しい物があれば、教えてほしい」
孝太郎はその問いに短く笑って答えた。
「では、あなたの元の名前を教えて欲しいな?いや、には名前がないんだったかな?あれは称号だった筈だが……」
孝太郎の一言にウォルターの片眉が動く。
「どういう事だ?」
と、彼は微かに声を震わせて尋ねた。
「簡単な話です。皇帝の一族はロックフォード家でしたね?世界史にも記述されている、この国の小学生ならば、誰でも知っている有名な話だ。だが、たまに皇帝一族が民間の勢力を抑えるために、という手段を用いる場合があるそうで……あくまでも都市伝説ですが、その際に与えられる苗字には必ず最後にフォードと付くらしいですね。ミスター・ギルフォード」
ウォルターは唇を少し舐めてから、再び口元の端を吊り上げ、首肯した。
「その通りだ。父は元々皇帝の一族さ、キミの言う臣籍降下の際にギルフォードの苗字を与えられた」
孝太郎は予想通りと言わんばかりに腕を組んで、ウォルターを眺めていた。
ウォルターは肘を付き、孝太郎をもう一度眺め終えると、もういいだろうと、話を切り終えて通信モニターの電源を遮断した。
孝太郎は通信モニターの画面が真っ暗になるのを見届けてから、革張りの椅子の上で震えるトマスに向かって言う。
「お前を逮捕する」
「逮捕」の一言にパニックを起こし、トマスは唸り声を上げて、レーザーガンの銃口を孝太郎に向けたが、その前に孝太郎は持っていた銃でトマスの右手を撃ち抜く。トマスは雄牛のような悲鳴を上げて地面に転がり込む。
右手を抑えて倒れるトマスに孝太郎は冷たい声でもう一度宣告した。
「お前を逮捕する」
右手の負傷と社長であるギルフォードに見捨てられたという事実。更に目の前の刑事の桁外れの強さ。この三点のために、トマホーク・コープ日本支社支社長、ハリー・S・トマスは戦意を喪失して、項垂れて、手錠をかけられて安全な部屋の外へと連れて行かれていく。
トマスは自分のものだった社長室を眺めながら、大きな溜息を吐く。もうあの日々は戻って来ないのだと改めて思いを馳せて。
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