女王陛下と護衛兵たちの日々〜ワガママ女王陛下の騎士たちは王国の独立を夢見る

アンジェロ岩井

文字の大きさ
18 / 133

第十八話 ゴールデンストリートウォーズーその②

しおりを挟む
フランク・ミラノリアはルーシー・カヴァリエーレとヴィト・プロテッツイオーネの姿が見えるや否や、携帯型の無線機を持ち、別の部屋の闇に紛れ、隠れている部下に指示を出す。
「よし、ヴィトの小僧とカヴァリエーレの小娘の姿が見えた……全員抜かりはないな」
フランクの無線に問題はないという旨の報告が伝わる。
「よし、ヴィトの小僧とカヴァリエーレの小娘が油断したところを一網打尽にする……なぁに心配はいらんよ、奴らは二人で来ている……それに仮に護衛がいたとしても、このパーティには、大勢の関係のない人がいるんだ……古き良き時代のマフィアを自称する奴らは手も足も出んはずさ」
フランク・ミラノリアは自らの勝利を確信し、思わず顔を綻ばせる。そして、その余韻のままに近くのテーブルに置いてあった甘口のブランデーに手をつける。
やはり、勝利の美酒というものは味わい深い。少なくともこの時点でのフランクはこう思っていた。
その時だった。セリアが歌を歌い始めたのだった。
「ほぅ、やはりアメリカ一の歌手だ……中々いい声を出すじゃあないか」
フランクはセリアの甘いとろける声と恋人を思う女性を歌う歌詞に思わず酔う。その世界に没頭し過ぎてしまったのだ。
フランクはブランデーの入ったグラス瓶を片手にホテルの客用の高価な椅子に体を埋める。
「うん、いい曲だ……さてとヴィトの小僧は」
フランクは不意に標的ターゲットのことが気になり、モーニングコート姿のヴィトを探し出す。
「なんだ……全く酒を飲んでいないじゃあないか」
フランクの予想では、ヴィトはセルマの曲に酔いしれ、ご馳走をまるで牛馬が食べるかのようにガツガツと食し、それからバッカスのようにワインをガバガバと飲んで、油断するのかと思っていた。だが、ヴィトは酒を飲むどころか、あまり食事を採ろうとしてもしていない。
変だな。フランクは何かが引っかかった。その時だった。
「おい、テメェら !動くなッ!」
部下の一人が待ちきれずに散弾銃を天井に放ったのだ。女性の悲鳴とパニックになった人々の逃げる音がホテルの狭い部屋にこだまする。
「くっ、バカ者がッ!どうして待てんかった!?」
フランクは席から立ち上がり、部下を叱りつける。
「もっ、申し訳ありません……ですが、今ここでしかルーシー・カヴァリエーレを仕留められるチャンスをないかと判断し……」
「何故、貴様の独断で決めたのだッ!?」
フランクは散弾銃を発砲した男のスーツの上に着ている緑色のコートを勢いよく引っ張る。
「でも、今しかないですぜ」
フランクは部下の顔を睨みつけながら、携帯型の無線機を取り出し、隣の部屋に待機している部下を総動員させた。

ヴィト・プロテッツイオーネはこの不足の事態を予想していた。そのために一刻も早く懐からオート拳銃を取り出し、威嚇射撃をしてから、ルーシを逃がそうと試みた。
「ヴィト……やはり」
「そうだ……やはり、セルマはミラノリア・ファミリーの手の内の者だったらしいぜ」
「そうみたいね」
ルーシーは中央の台で勝利の笑みを浮かべているセリアを見ながら呟く。
「あんたは逃げてくれ、恐らくだが、あいつだけではなく、他の伏兵がわんさかいるはずさ」
ルーシーは流石にそんなに大勢は仕込めないわ。と、思っていたが、突然閉められていたホールの両脇のドアから大量の兵隊が出てくるのを見て、それは本当のことね。と、確信を得た。
「ルーシー !!キミはホテルの前に停めてある車の元へ行くんだッ!」
「あなたはどうするの、ヴィト!?」
ヴィトは心配はいらんよという目でルーシに目配せし、オート拳銃をドアから出現した兵隊に発砲した。
「分かったわ、背中はあなたに任せる……それにマルロが予定通りにやってくれていたのなら、あなたの剣がトイレに隠されているはずよ」
ルーシーはそう叫ぶと、ヴィトに後ろを預け、ホテルの正面出口へと向かう。
「さてと、やらせてもらうか……」
ヴィトはテーブルの一つに身を隠し、そこに隠れながら、拳銃を出てきた兵隊に向けて応戦する。
(これではキリがない……)
ヴィトはこの状態は非常にマズイ事だと自覚していた。だが、ファミリーの首領ドンであるルーシーが殺されるよりは全然マシだと腹をくくる。
「ブッ殺してやれッ!」
そんなフランクの物騒な掛け声と共にヴィトの隠れているテーブルに様々な銃弾が発砲される。散弾銃が来なかったのがせめてもの救いだろう。
ヴィトはフランク・ミラノリアへの憎悪をたぎらせ、それからどうやってトイレへと行くのかを思案した。
(参ったな、オレの周囲を見渡したら、殆ど敵ギャングの構成員ばかりだよ……どうすれば、脱出できるんだ?)
ヴィトは一気に自分の脈が遅くなっていくのを感じたが、途端に妙案を思いつく。
(そうだ……確かあいつらは、一度撃った時に全員が一斉射撃を起こするだよな、その時に弾込めをする時間が筈だ……なら、その時を利用して……だが、少しでも喰らえば、もうこの机は終わり……おれは蜂の巣にされちまう)
ヴィトはそんな時にカルロ・ミラノリアが使用していた防御魔法ガードマジックを思い出す。
(そうだ……あの魔法をおれが使えば……銃撃戦をもう一度乗り切れる筈だぜ、確かカルロを倒した後にマリアに習った筈)
ヴィトは頭をフル回転させ、防御魔法ガードマジックの呪文を思い出す。
(チッ、いまいち思い出せない……)
ヴィトは心の中で覚えられていない自分に煽っていると、フランクが向こう側から何やら叫んでいる。
「おい、お前ももう終わりだなッ!今までオレと兄貴のファミリーを苦しめてきたが……とうとう年貢の納め時ってもんだぜッ!」
フランクはいやらしく言う。だが、ヴィトも負けじと言い返す。
「いいや、年貢を納めるのはあんたの方だぜ、オレが知らないとでも思ってのか、お前がゴールデンストリートで金持ちの奥方に麻薬ダストを売ってたのをッ!」
「それが、どうしたんだよッ!白い粉は金になるからな……利用せん手はないだろ?」
「少なくても麻薬は人をダメにすると思うがね !」
「ふん、何が悪いッ!死にたい奴に薬をちょぃと高価な値段で売ってやるのが、何故悪い !」
「いいや、麻薬は人との縁を切らせるからな、あんたらのスポンサーだったギャリアーだって麻薬を売っていたことを知れば、あんたらから離れていたと思うぜッ!」
ヴィトは自信を持って言う。
「どうかな、もういいだろう、無駄話はたくさんだッ!」
フランクは部下にヴィトの隠れているテーブルに銃を向けるように指示した。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―

ぽへみやん
ファンタジー
魔王城への結界を維持する四天王を倒すべく、四属性の勇者が選ばれた。【地属性以外完全無効】の風の四天王に対抗すべき【地の勇者】ドリスは、空を飛び、高速で移動し、強化した物理攻撃も通用しない風の四天王に惨敗を喫した。このままでは絶対に勝てない、そう考えたドリスは、【大陸一の賢者】と呼ばれる男に教えを乞うことになる。 // 地属性のポテンシャルを引き出して、地属性でしか倒せない強敵(主観)を倒そう、と色々試行錯誤するお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...