女王陛下と護衛兵たちの日々〜ワガママ女王陛下の騎士たちは王国の独立を夢見る

アンジェロ岩井

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第二部 王国奪還

じいやの来訪

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異世界『オリバニア』
ここでは、一人のギシュタルリア帝国兵が叫んでいた。
「おい、全員来てくれ !!じじいが逃げたぞ !檻を破って逃げやがった !!!」
その兵士の言葉に大勢の兵士が集まったものの、その年寄りは"悪魔の入り口"と呼ばれる場所へと向かい、その白い光に吸い込まれていく。
(うっ、怖い……だが、姫様もこの白い光に包まれた筈……でなければ、城が陥落した日から行方不明なのが説明できん)
ヒゲモジャのいかにも昔の賢者と言われそうなお年寄りは運命に自分の身を委ねるしかできなかった。

ニューホーランドシティーのブランドニュースタウンに住む老婆ーーメアリー・ブラウンはこの街の実質的な市長であり、街の人々の尊敬を集めるドン・カヴァリエーレの元を訪れていた。
部屋に通されると、すぐさまルーシーの手の甲に友情と忠誠の口づけを交わし、自分の悩み事を打ち明けた。
「突然のご来訪をお許しいただき誠にありがとうございます、ドン・カヴァリエーレ」
ルーシーは老婆の友情と忠誠を受け取り、要件は何かを尋ねた。
「実は……わたし隣人とトラブルを抱えておりまして……わたし犬を飼っていたんです」
老婆はトラブルの内容を事細かに話してみせる。何でも彼女は昨年一軒家を購入したのだが、隣に住む中年の男が彼女の住んでいる犬に苦言を言い、犬を処分しろと命令してのだ。従わない場合は法的手続きを取り、家を退去させると迫ったのだ。
「お気の毒な話です。それで、あなたはどうされたいのですか?」
ルーシーの問いにメアリーははっきりと答えた。
「わたしは引っ越したくないんです !!あの家はわたしが今まで働いて貯めたお金で買った家なんです !必死に働いてようやく買えた家なんです !犬だってそうです !ずっとずっと可愛がってきたのに……」
ルーシーはそのトラブルに心を痛めてはいたが、どうやって解決しようか悩んでいた。どんな答えを出すべきだろう。ルーシーが思案していると、いきなり部屋にマリアが入ってきた。
「大丈夫よ、お婆さん !!その悪い奴はわたし達がやっつけて上げるわ !あなたは犬と別れる事はないのよ !!」
マリアはメアリーの手をギュッと握り締める。
「本当なの?ありがとう、お嬢ちゃん……」
メアリーは涙目でマリアの手を握り返す。
「国民を守るのは王と騎士の義務よ !当然だわ !!」
マリアの自信満々な声とは裏腹にルーシーはハァとため息を吐き、額に手を被せるばかりだった。

メアリーが帰った後にヴィトとマリアの二人でその隣人の元を訪れる事になった。無論ヴィトの役目は交渉をスムーズに進めるためと、マリアのお目付役であった。
「ふぅ、難しそうな時間だよ、どっちが悪いのか判断つきにくい状況だよ」
ヴィトが頭の帽子を深く被り直そうとしていると、マリアに「その隣人の方が悪いわ !」と言われた。
「何故だい?」
ヴィトはスーツの上に羽織っている青色のコートのポケットに手を突っ込みながら尋ねた。
「あんな涙を流すお婆さんが悪いわけないわ !悪いのは隣人よ !!」
ヴィトは善悪の区別は難しいと教えるべきだろうかと思案した。この世には善人のフリをして上を騙す卑怯な人間も沢山いる。ルカ・ミラノリアや街の外のコミッションのメンバー等がその最もたる例だろう。マリアもそんな人間に騙されなければいいのだが。
「ねぇ、ヴィトどうしたのよ?」
マリアが不思議そうな顔で尋ねるので、ヴィトは何もないよと素っ気無く返す。
そんな事をしているうちにその隣人の家が見えてきた。シンプルな白木造りの家が二軒並んで立っている。恐らく右の少し年季の入った家が老婆の方で、片方のまだそう汚れていない家がその隣人の家だろう。
ヴィトは隣人の家だと思われる方の家の扉にノックをする。
「はい、どちら様かな?」
ドアを開けて出てきたのは、頭の真ん中にハゲができ、その周辺を白の髪で覆われている中年の男だった。
「わたしはですね、メアリー・ブラウンさんに頼まれて来たのものでして、何卒犬を飼うのを許していただけないものでしょうか?」
ヴィトの問いに対する返事はノーであった。
「いいじゃあないケチな平民ね !お婆さんは犬を殺したくないって涙まで流しているのよ !!」
「へん、それがどうした !こっちは毎晩犬の鳴き声に悩まされてんだ !そんな涙がどうなろうと知ったこっちゃあねぇよ !」
男は凄まじい剣幕でマリアに迫ったが、マリアも怯まずに隣人を睨み返していた。
「まぁまぁ、落ち着いてください……そうだここに60ドルありますので、それで告訴を取り下げてもらえませんか?」
ヴィトは財布から60ドルを取り出し、男の手に握らせる。
「告訴を引き延ばすのなら、助けてやってもいいが……取り下げるのは無理だね、こっちは精神的に参ってんだ……」
「いい加減にしなさいよ !お婆さんはねぇ、その犬をとても大切に思ってるのよ、あんたにそれを咎める権限はないわ !」
マリアの言葉にカチンときたのか、両手に力を込めて男は叫ぶ。
「黙れ、お前にオレの苦しみがわかるものかッ!」
「何ですって、あんたにお婆さんの苦しみが……」
と、ここで二人の間にヴィトが割って入る。
「落ち着いてくださいよ、とりあえずこのお金は貰ってください……それで考え直してみてください……それでも無理なら商店の人たちにわたし達が誰かを誰かを尋ねてみてください」
ヴィトはそう言うとマリアの手を握り、帽子を一旦頭から離し、胸の方に置いてから被り直し、それから帰って行く。
「ねぇ、ヴィト !あれでいいの!?」
「勿論さ、後であいつも考えを改め直すよ」
ヴィトはくっくっと笑いながら帰る。

翌日隣人の男ことリチャード・アンダーソンが屋敷を訪れた。
ヴィトは急いで玄関に出て応対に入る。
「しっ、失礼致しました !ミスタープロテッツイオーネ !ミセス・ブラウンはずっとあの家に住んで貰って結構です !犬を飼っても大丈夫です !それだけ言いに来たのです !」
「ほぅ、それは良かった……で、わたし達が何者かわかりましたか?」
「もっ、勿論です !あっ、これ昨日の60ドルです。キチリとお返し致しますので……」
ヴィトは半ば強引に相手から60ドルを返還され、相手が急いで屋敷を去るのを苦笑いで見つめていた。
「あいつ、もう二度と来ないだろうな」
そんな風に嘲笑していると、一人の構成員の男が急いで門を開けて入ってくる。
「大変です、相談役コンシリエーレ !警察署に中世の格好をした老人が居ると !」
その言葉にヴィトは第六感のようなものを感じ、急いで車を用意するように叫んだ。
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