星と花

佐々森りろ

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第一章 探し物はなんですか

探し物はなんですか

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「青さーん、こいつサボってますけどぉ?」

 すぐ横で大きな呆れ声が聞こえてきて、ハッと目を覚ました。

「ヤバッ! 思考停止して寝てた!」
「なんっだよ、それ。ウケんなぁ」

 クックッと笑いを堪えるように腹を抱える男がいることに気が付いて、目を見開いた。
           
「しゅ……しゅんいち?!」

 思わず椅子から滑り落ちそうになってしまうから、慌てて体勢を立て直す。

「かっわんねーなぁ。なずな!」

 目の前で声を上げて笑っているのは、しばらく東京に出ていて会うのも五年ぶりだけど、どこからどう見ても幼なじみの春一だ。

春一しゅんいち……おっきくなったねぇ」
「お前は親戚のおばちゃんか! つーか、なずなはチビのまんまだな」

 感慨深く頷くあたしの頭を春一は細い目をして上から押さえつけてくる。相変わらずあたしをなんだと思っているのか、扱いが雑すぎて嫌になる。
 騒いでいると、二階から青ちゃんが下りて来た。

「おぉ~! シュン~。元気にしてたか?」
「元気っすよ~!」

 顔を見合わせたかと思えば、二人はガッシリと抱き合い、久しぶりの再会の余韻に浸っている。そんな二人をしばし眺めてから、水を差すようにとりあえず聞いた。

「ねぇ。何で帰って来たの?」

 明らかにピキンッと春一の頭上に何かが走ったようだった。案の定、「帰って来て悪いか?」と睨む顔で返ってくる。
  あたしと春一は幼稚園からの腐れ縁。小さい頃は物静かでよく懐いてついて来ていたのに、歳を重ねる度にああ言えばこう言うで、なかなか分かり合えることは難しくなった。

「大人になるって、寂しいよね……」

 遠い目をして呟いたのも無視される。春一と青ちゃんは男二人で何やら盛り上がっていた。
 本日何度目かのため息をついて、窓の外を眺めた。

 すっきりとした青に一筋の白線がくっきりと見える。いい天気。世の中はもうすぐ夏休みが始まるっていうのに、あたしは大事な物を売ってしまい絶望の淵だ。

「じゃあ今日から宜しくお願いします! 青さん」
「おぅ! 部屋空いてるから使え使え!」
「ありがとうございます!」

 隣でやり取りをする二人の会話がしっかりと聞こえてきた。

「ちょっと! 今、何て?」

 二階に上がって行こうとする春一に、引き留めるように「待てぃ」と手を伸ばした。

「あ、今日から俺、ここに住まわしてもらうから!」

 ハートでも付いていそうな春一の言葉に寒気がした。鼻歌まじりで階段を上がって行く姿に呆然と立ち尽くす。

 大事な物を売ってしまい、挙動不審男には名前を知られていて、あげく、今日から春一と一つ屋根の下⁉︎
 あり得ない‼︎ 今日は何? 災日? 厄日?

「青ちゃん無理! あたし春一と同居なんてあり得ない!」

 二階に向かって叫ぶと、階段から顔だけ出して、満面の笑みで青ちゃんが言った。

「じゃあなずなが出てって~。ここ、俺んちだから」

 ごもっとも~‼︎
 お金はここのバイト代だけじゃ、他にアパート借りて家賃払うのは無理だし、そもそもあたしはここにいたいし。青ちゃんに従うしかない。
 二階から聞こえてくる二人のはしゃぐ声の方に半ベソで睨みつつ、椅子に座り直した。

「あ、なずなぁ~!」
「何っ?!」

 やけになって叫ぶと、春一は苦笑いした顔を出す。

「さっき来た男、光夜こうやじゃねー? 山内光夜やまうちこうや。小学校ん時いたじゃん」

 山内光夜? さっきの挙動不審男の顔を思い出す。

「似てるんだよなー。急いでたみたいだから声かけなかったけど」

 そう言うと、春一はまた部屋に戻っていった。

 千冬。あたし、この時は何にも知らなかったし、気が付かなかった。
 これが、千冬に出逢う、きっかけになったことを。
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