4 / 41
第一章 探し物はなんですか
探し物はなんですか
しおりを挟む
*
「青さーん、こいつサボってますけどぉ?」
すぐ横で大きな呆れ声が聞こえてきて、ハッと目を覚ました。
「ヤバッ! 思考停止して寝てた!」
「なんっだよ、それ。ウケんなぁ」
クックッと笑いを堪えるように腹を抱える男がいることに気が付いて、目を見開いた。
「しゅ……しゅんいち?!」
思わず椅子から滑り落ちそうになってしまうから、慌てて体勢を立て直す。
「かっわんねーなぁ。なずな!」
目の前で声を上げて笑っているのは、しばらく東京に出ていて会うのも五年ぶりだけど、どこからどう見ても幼なじみの春一だ。
「春一……おっきくなったねぇ」
「お前は親戚のおばちゃんか! つーか、なずなはチビのまんまだな」
感慨深く頷くあたしの頭を春一は細い目をして上から押さえつけてくる。相変わらずあたしをなんだと思っているのか、扱いが雑すぎて嫌になる。
騒いでいると、二階から青ちゃんが下りて来た。
「おぉ~! シュン~。元気にしてたか?」
「元気っすよ~!」
顔を見合わせたかと思えば、二人はガッシリと抱き合い、久しぶりの再会の余韻に浸っている。そんな二人をしばし眺めてから、水を差すようにとりあえず聞いた。
「ねぇ。何で帰って来たの?」
明らかにピキンッと春一の頭上に何かが走ったようだった。案の定、「帰って来て悪いか?」と睨む顔で返ってくる。
あたしと春一は幼稚園からの腐れ縁。小さい頃は物静かでよく懐いてついて来ていたのに、歳を重ねる度にああ言えばこう言うで、なかなか分かり合えることは難しくなった。
「大人になるって、寂しいよね……」
遠い目をして呟いたのも無視される。春一と青ちゃんは男二人で何やら盛り上がっていた。
本日何度目かのため息をついて、窓の外を眺めた。
すっきりとした青に一筋の白線がくっきりと見える。いい天気。世の中はもうすぐ夏休みが始まるっていうのに、あたしは大事な物を売ってしまい絶望の淵だ。
「じゃあ今日から宜しくお願いします! 青さん」
「おぅ! 部屋空いてるから使え使え!」
「ありがとうございます!」
隣でやり取りをする二人の会話がしっかりと聞こえてきた。
「ちょっと! 今、何て?」
二階に上がって行こうとする春一に、引き留めるように「待てぃ」と手を伸ばした。
「あ、今日から俺、ここに住まわしてもらうから!」
ハートでも付いていそうな春一の言葉に寒気がした。鼻歌まじりで階段を上がって行く姿に呆然と立ち尽くす。
大事な物を売ってしまい、挙動不審男には名前を知られていて、あげく、今日から春一と一つ屋根の下⁉︎
あり得ない‼︎ 今日は何? 災日? 厄日?
「青ちゃん無理! あたし春一と同居なんてあり得ない!」
二階に向かって叫ぶと、階段から顔だけ出して、満面の笑みで青ちゃんが言った。
「じゃあなずなが出てって~。ここ、俺んちだから」
ごもっとも~‼︎
お金はここのバイト代だけじゃ、他にアパート借りて家賃払うのは無理だし、そもそもあたしはここにいたいし。青ちゃんに従うしかない。
二階から聞こえてくる二人のはしゃぐ声の方に半ベソで睨みつつ、椅子に座り直した。
「あ、なずなぁ~!」
「何っ?!」
やけになって叫ぶと、春一は苦笑いした顔を出す。
「さっき来た男、光夜じゃねー? 山内光夜。小学校ん時いたじゃん」
山内光夜? さっきの挙動不審男の顔を思い出す。
「似てるんだよなー。急いでたみたいだから声かけなかったけど」
そう言うと、春一はまた部屋に戻っていった。
千冬。あたし、この時は何にも知らなかったし、気が付かなかった。
これが、千冬に出逢う、きっかけになったことを。
「青さーん、こいつサボってますけどぉ?」
すぐ横で大きな呆れ声が聞こえてきて、ハッと目を覚ました。
「ヤバッ! 思考停止して寝てた!」
「なんっだよ、それ。ウケんなぁ」
クックッと笑いを堪えるように腹を抱える男がいることに気が付いて、目を見開いた。
「しゅ……しゅんいち?!」
思わず椅子から滑り落ちそうになってしまうから、慌てて体勢を立て直す。
「かっわんねーなぁ。なずな!」
目の前で声を上げて笑っているのは、しばらく東京に出ていて会うのも五年ぶりだけど、どこからどう見ても幼なじみの春一だ。
「春一……おっきくなったねぇ」
「お前は親戚のおばちゃんか! つーか、なずなはチビのまんまだな」
感慨深く頷くあたしの頭を春一は細い目をして上から押さえつけてくる。相変わらずあたしをなんだと思っているのか、扱いが雑すぎて嫌になる。
騒いでいると、二階から青ちゃんが下りて来た。
「おぉ~! シュン~。元気にしてたか?」
「元気っすよ~!」
顔を見合わせたかと思えば、二人はガッシリと抱き合い、久しぶりの再会の余韻に浸っている。そんな二人をしばし眺めてから、水を差すようにとりあえず聞いた。
「ねぇ。何で帰って来たの?」
明らかにピキンッと春一の頭上に何かが走ったようだった。案の定、「帰って来て悪いか?」と睨む顔で返ってくる。
あたしと春一は幼稚園からの腐れ縁。小さい頃は物静かでよく懐いてついて来ていたのに、歳を重ねる度にああ言えばこう言うで、なかなか分かり合えることは難しくなった。
「大人になるって、寂しいよね……」
遠い目をして呟いたのも無視される。春一と青ちゃんは男二人で何やら盛り上がっていた。
本日何度目かのため息をついて、窓の外を眺めた。
すっきりとした青に一筋の白線がくっきりと見える。いい天気。世の中はもうすぐ夏休みが始まるっていうのに、あたしは大事な物を売ってしまい絶望の淵だ。
「じゃあ今日から宜しくお願いします! 青さん」
「おぅ! 部屋空いてるから使え使え!」
「ありがとうございます!」
隣でやり取りをする二人の会話がしっかりと聞こえてきた。
「ちょっと! 今、何て?」
二階に上がって行こうとする春一に、引き留めるように「待てぃ」と手を伸ばした。
「あ、今日から俺、ここに住まわしてもらうから!」
ハートでも付いていそうな春一の言葉に寒気がした。鼻歌まじりで階段を上がって行く姿に呆然と立ち尽くす。
大事な物を売ってしまい、挙動不審男には名前を知られていて、あげく、今日から春一と一つ屋根の下⁉︎
あり得ない‼︎ 今日は何? 災日? 厄日?
「青ちゃん無理! あたし春一と同居なんてあり得ない!」
二階に向かって叫ぶと、階段から顔だけ出して、満面の笑みで青ちゃんが言った。
「じゃあなずなが出てって~。ここ、俺んちだから」
ごもっとも~‼︎
お金はここのバイト代だけじゃ、他にアパート借りて家賃払うのは無理だし、そもそもあたしはここにいたいし。青ちゃんに従うしかない。
二階から聞こえてくる二人のはしゃぐ声の方に半ベソで睨みつつ、椅子に座り直した。
「あ、なずなぁ~!」
「何っ?!」
やけになって叫ぶと、春一は苦笑いした顔を出す。
「さっき来た男、光夜じゃねー? 山内光夜。小学校ん時いたじゃん」
山内光夜? さっきの挙動不審男の顔を思い出す。
「似てるんだよなー。急いでたみたいだから声かけなかったけど」
そう言うと、春一はまた部屋に戻っていった。
千冬。あたし、この時は何にも知らなかったし、気が付かなかった。
これが、千冬に出逢う、きっかけになったことを。
35
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる