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第二章 ここに居るワケ
ここに居るワケ
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今日も朝から気温は順調に上がっているようだ。最近の夏は咽せるような空気と暑さがあって、クーラーのない部屋の中は窓を開けていても熱帯だ。全身に汗が滲む体をようやく起こし、時計を見た。
時刻は朝六時ちょっと前。
「うっ……はやぁい……」
目覚めの悪さと汗の不快感に、前髪を掻き上げてため息を付くと、ようやくベッドから抜け出した。チェストからバスタオルと下着を適当に掴み、バスルームへと向かった。
この家の作りはけっこう面白くて、一階に雑貨屋、トイレ。二階に玄関、リビングとそれぞれの部屋が三部屋。三階にキッチンと和室が一部屋、バスルームとトイレとなっている。
ちなみにあたしの部屋は階段から一番遠いので、廊下を通ると姉夫婦を起こしてしまう恐れがあるため、リビングを通って階段へと向かう。家全体がもやぁ~としていて、熱気を放出すべく、リビングの窓という窓を開けながら歩いた。
階段を上り、バスルーム前へ着くと、ほっとして扉を開けた。
「うわっ!!」
開けると同時に、低い男の驚いた声。まだボーッとていた頭が一気に目覚めて、視線を真っ直ぐ声の主に向けた。
目の前には今まさにお風呂から上がってきたばかりの春一が、バスタオルを身体の前に広げていたところだった。
「いやぁーーーーーー!!!!」
バッターン! と凄まじい勢いで閉めた扉の向こうから、春一の笑う声が聞こえる。
「なずなのえっちぃ~」
扉の向こうから、からかうように言ってくる春一。言い返そうとドアの取っ手に手を掛けつつ、開けるのはやめた。
「……うぅ……なんでいるのよ!!」
「だって俺、昨日寝てねーもん。やっと仕事一段落ついたから風呂入ってただけじゃん」
「いるならいるって言いなさいよ!」
苦し紛れに扉の向こうに楯突く。
「えー? なずなが勝手に開けたんじゃんか~」
「鍵くらい掛けなさいよ!」
「お! あるんだ、鍵」
お気楽な声と共にガチャリと扉が開いた。ドアに寄りかかっていたあたしは思わず倒れそうになり、春一に支えられた。
「ごめんね、なずなー。お先しちゃって」
ボディーソープの香りがふわりと香る。春一から瞬時に距離を取ると、脱衣場に入りシッシッと嫌な物を払うように手を振った。
「はいはい、行きますって」
のんびり自分の着替えを抱え込むと、あたしが持っていたバスタオルの上に何かを乗せた。
「落としもんだよ~。じゃあねん」
前を向いてひらひらと手を振り、春一は扉を閉めた。残されたあたしはバスタオルの上に置かれた物に視線を落とす。
そこには、さっき勢いよく閉めた時に脱衣場側に落としてしまったんだろう。あたしのお気に入りのピンクの可愛い花柄ブラが置かれていた。
「サイテー、サイテー、サイテー!!」
シャワーを浴び終え、怒りがおさまらずに廊下を叫びながら力強く歩いていた。
「何だよ! ギャーギャー朝っぱらからうるせぇ!」
手前の部屋から青ちゃんが不機嫌なオーラを纏いながら出てきた。眠りを邪魔してしまったらしい。でも、それは春一せいだし!
「だって、聞いてよ青ちゃん! 春一があたしのブッ……」
言い終わる前に、青ちゃんに口元を手で塞がれて、がっしりと肩を組まれる。そして、耳元で囁く声はドスが効いている。
「いいかぁ? なずなぁ。あいつはもうここの一員だ。認めないお前なんて知らねぇからなぁ。仲良くしろ!!」
「分かったか!」と突き放され、バタンッと部屋の扉が閉まった。部屋の中からは早速また寝たのか青ちゃんのイビキが聞こえてくる。
もう! さいっあく!!
何しに帰って来たんだ! バカいち!
春一の部屋に向かって通りすがりに心の中で叫び、自分の部屋に戻った。
今日も朝から気温は順調に上がっているようだ。最近の夏は咽せるような空気と暑さがあって、クーラーのない部屋の中は窓を開けていても熱帯だ。全身に汗が滲む体をようやく起こし、時計を見た。
時刻は朝六時ちょっと前。
「うっ……はやぁい……」
目覚めの悪さと汗の不快感に、前髪を掻き上げてため息を付くと、ようやくベッドから抜け出した。チェストからバスタオルと下着を適当に掴み、バスルームへと向かった。
この家の作りはけっこう面白くて、一階に雑貨屋、トイレ。二階に玄関、リビングとそれぞれの部屋が三部屋。三階にキッチンと和室が一部屋、バスルームとトイレとなっている。
ちなみにあたしの部屋は階段から一番遠いので、廊下を通ると姉夫婦を起こしてしまう恐れがあるため、リビングを通って階段へと向かう。家全体がもやぁ~としていて、熱気を放出すべく、リビングの窓という窓を開けながら歩いた。
階段を上り、バスルーム前へ着くと、ほっとして扉を開けた。
「うわっ!!」
開けると同時に、低い男の驚いた声。まだボーッとていた頭が一気に目覚めて、視線を真っ直ぐ声の主に向けた。
目の前には今まさにお風呂から上がってきたばかりの春一が、バスタオルを身体の前に広げていたところだった。
「いやぁーーーーーー!!!!」
バッターン! と凄まじい勢いで閉めた扉の向こうから、春一の笑う声が聞こえる。
「なずなのえっちぃ~」
扉の向こうから、からかうように言ってくる春一。言い返そうとドアの取っ手に手を掛けつつ、開けるのはやめた。
「……うぅ……なんでいるのよ!!」
「だって俺、昨日寝てねーもん。やっと仕事一段落ついたから風呂入ってただけじゃん」
「いるならいるって言いなさいよ!」
苦し紛れに扉の向こうに楯突く。
「えー? なずなが勝手に開けたんじゃんか~」
「鍵くらい掛けなさいよ!」
「お! あるんだ、鍵」
お気楽な声と共にガチャリと扉が開いた。ドアに寄りかかっていたあたしは思わず倒れそうになり、春一に支えられた。
「ごめんね、なずなー。お先しちゃって」
ボディーソープの香りがふわりと香る。春一から瞬時に距離を取ると、脱衣場に入りシッシッと嫌な物を払うように手を振った。
「はいはい、行きますって」
のんびり自分の着替えを抱え込むと、あたしが持っていたバスタオルの上に何かを乗せた。
「落としもんだよ~。じゃあねん」
前を向いてひらひらと手を振り、春一は扉を閉めた。残されたあたしはバスタオルの上に置かれた物に視線を落とす。
そこには、さっき勢いよく閉めた時に脱衣場側に落としてしまったんだろう。あたしのお気に入りのピンクの可愛い花柄ブラが置かれていた。
「サイテー、サイテー、サイテー!!」
シャワーを浴び終え、怒りがおさまらずに廊下を叫びながら力強く歩いていた。
「何だよ! ギャーギャー朝っぱらからうるせぇ!」
手前の部屋から青ちゃんが不機嫌なオーラを纏いながら出てきた。眠りを邪魔してしまったらしい。でも、それは春一せいだし!
「だって、聞いてよ青ちゃん! 春一があたしのブッ……」
言い終わる前に、青ちゃんに口元を手で塞がれて、がっしりと肩を組まれる。そして、耳元で囁く声はドスが効いている。
「いいかぁ? なずなぁ。あいつはもうここの一員だ。認めないお前なんて知らねぇからなぁ。仲良くしろ!!」
「分かったか!」と突き放され、バタンッと部屋の扉が閉まった。部屋の中からは早速また寝たのか青ちゃんのイビキが聞こえてくる。
もう! さいっあく!!
何しに帰って来たんだ! バカいち!
春一の部屋に向かって通りすがりに心の中で叫び、自分の部屋に戻った。
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