9 / 41
第三章 春一の事情
春一の事情
しおりを挟む
「あ! なずな! お前俺のめちゃうまパスタ早食いすんなよなー、ちゃんと味わえ! お前が食べたいって言うからわざわざマーメイドのオイル買いに……」
「ごめん、春一! それより、これ!」
春一が怒っているのも遮って、卒業アルバムを目の前に突き出した。
「……なんだよ」
「いたの! 光夜くん!」
笑顔で春一の横をすり抜け、一階に行くために階段を降り始める。
「はぁ? だーかーら、光夜だっつってんだろ?」
春一も一緒になってお店に降りてきた。店の中に視線を向けると、所狭しと品数が増えている店内に驚く。
「……素敵! どーしたのこれ、青ちゃん」
木で作られた彫刻や棚が置かれているのを見て興奮する。今までも何度もこういうことはあったけれど、毎回ワクワクするのは、青ちゃんのアイディアがいつも斬新で美しいからだ。
「知り合いから安く譲ってもらった。で、これに俺なりのアレンジを加えようと思ってね」
先ほどのお洒落な服からはもう着替えていて、履き古したデニムにTシャツ姿の青ちゃんが気合十分に腕組みをする。
「あと、オルゴールも完成させようと思っていろいろ調達してきたんだけど……なぁ?」
「あ! あのね、あのオルゴールを買った人が誰か分かったの! 事情を説明すれば返してくれるかも」
「え、分かったのか?」
「けどさぁ、プレゼント用で買っていったんだろ? もう他の誰かの手に渡ってんじゃねーの?」
後ろの小窓から春一がサラリと期待を裏切るようなことを言う。
「……わかんないじゃん! もしかしたら、まだ持ってるかもしれないし」
「そんなに大事なもんなの?」
呆れたように言ってくる春一には、大事なものを売ってしまった悲しみは分からない。見つかった嬉しさに湧き上がってくる思いで声が震える。
「十年前に約束したの……大きくなったらまたここで会おうって。この木箱のオルゴールを渡すために……小学校の頃にあたしが一番仲良かった千冬、覚えてる?」
春一はしばらく考え込んでから思い出したように頷いた。
「あぁ、あの色白のちっちゃい子か?」
きっと春一の思い浮かべている子は千冬で間違いなさそうだと、頷いた。
すると、春一がスマホに目を落としてスクロールを始める。
「光夜の家ってさ、食堂やってなかった? 調べたら出てくんじゃねぇ? ここに来たって事は、もしかしたら実家にいるのかもしれないし」
手がかりを探してくれようとしている春一を見て、先ほど見た名前と電話番号の書かれた紙のことを思い出した。
「……お姉ちゃんだ」
「え?」
「お姉ちゃんが、光夜くんの電話番号知ってる!」
「はぁ?」
わけの分からない顔をする春一を気にせず、あたしは急いで二階に駆け上がった。そして、勢い良くリビングのドアを開ける。
「お姉ちゃんっ!!」
リビングの中にはもう誰もいなかった。さっきまであった姉の仕事用カバンも、カメラも置いていない。
「アゲハならまた仕事入ったって、出てったよ」
一階から上がって来た青ちゃんが教えてくれた。一気に希望を失い、がっかりしてソファーに座り込んだ。
「……今お姉ちゃんに電話したら迷惑だろうし、今日はもういつ帰ってくるかも分からないし」
「なずな、オルゴールはまた作ってやるから」
「……でも」
優しく頭を撫でてくれる青ちゃんに泣きそうになっていると、一階から春一の声が聞こえてきた。
「なずなー! 光夜の居場所分かったぞー!」
すぐに立ち上がって階段から下を覗き込んだ。スマホを片手に掲げて春一が笑う。
「光夜の実家に電話したら繋がって、おばちゃんに聞いたら、光夜、今東京にいるみたいだ」
「東京……?」
千冬への繋がりが、徐々に近づいていく。
「ごめん、春一! それより、これ!」
春一が怒っているのも遮って、卒業アルバムを目の前に突き出した。
「……なんだよ」
「いたの! 光夜くん!」
笑顔で春一の横をすり抜け、一階に行くために階段を降り始める。
「はぁ? だーかーら、光夜だっつってんだろ?」
春一も一緒になってお店に降りてきた。店の中に視線を向けると、所狭しと品数が増えている店内に驚く。
「……素敵! どーしたのこれ、青ちゃん」
木で作られた彫刻や棚が置かれているのを見て興奮する。今までも何度もこういうことはあったけれど、毎回ワクワクするのは、青ちゃんのアイディアがいつも斬新で美しいからだ。
「知り合いから安く譲ってもらった。で、これに俺なりのアレンジを加えようと思ってね」
先ほどのお洒落な服からはもう着替えていて、履き古したデニムにTシャツ姿の青ちゃんが気合十分に腕組みをする。
「あと、オルゴールも完成させようと思っていろいろ調達してきたんだけど……なぁ?」
「あ! あのね、あのオルゴールを買った人が誰か分かったの! 事情を説明すれば返してくれるかも」
「え、分かったのか?」
「けどさぁ、プレゼント用で買っていったんだろ? もう他の誰かの手に渡ってんじゃねーの?」
後ろの小窓から春一がサラリと期待を裏切るようなことを言う。
「……わかんないじゃん! もしかしたら、まだ持ってるかもしれないし」
「そんなに大事なもんなの?」
呆れたように言ってくる春一には、大事なものを売ってしまった悲しみは分からない。見つかった嬉しさに湧き上がってくる思いで声が震える。
「十年前に約束したの……大きくなったらまたここで会おうって。この木箱のオルゴールを渡すために……小学校の頃にあたしが一番仲良かった千冬、覚えてる?」
春一はしばらく考え込んでから思い出したように頷いた。
「あぁ、あの色白のちっちゃい子か?」
きっと春一の思い浮かべている子は千冬で間違いなさそうだと、頷いた。
すると、春一がスマホに目を落としてスクロールを始める。
「光夜の家ってさ、食堂やってなかった? 調べたら出てくんじゃねぇ? ここに来たって事は、もしかしたら実家にいるのかもしれないし」
手がかりを探してくれようとしている春一を見て、先ほど見た名前と電話番号の書かれた紙のことを思い出した。
「……お姉ちゃんだ」
「え?」
「お姉ちゃんが、光夜くんの電話番号知ってる!」
「はぁ?」
わけの分からない顔をする春一を気にせず、あたしは急いで二階に駆け上がった。そして、勢い良くリビングのドアを開ける。
「お姉ちゃんっ!!」
リビングの中にはもう誰もいなかった。さっきまであった姉の仕事用カバンも、カメラも置いていない。
「アゲハならまた仕事入ったって、出てったよ」
一階から上がって来た青ちゃんが教えてくれた。一気に希望を失い、がっかりしてソファーに座り込んだ。
「……今お姉ちゃんに電話したら迷惑だろうし、今日はもういつ帰ってくるかも分からないし」
「なずな、オルゴールはまた作ってやるから」
「……でも」
優しく頭を撫でてくれる青ちゃんに泣きそうになっていると、一階から春一の声が聞こえてきた。
「なずなー! 光夜の居場所分かったぞー!」
すぐに立ち上がって階段から下を覗き込んだ。スマホを片手に掲げて春一が笑う。
「光夜の実家に電話したら繋がって、おばちゃんに聞いたら、光夜、今東京にいるみたいだ」
「東京……?」
千冬への繋がりが、徐々に近づいていく。
25
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる