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第四章 手がかりは
手がかりは
しおりを挟む暑さに寝返りを打ちつつ、考え事をしていた。
青さんが俺のために用意してくれた部屋の中には、布団一式とテーブルが置いてあった。ついさっきまで動かしていたパソコン。何冊かの小説がテーブルの上に無造作に置いてある。
手を伸ばして届く距離にあった一冊を、手に取った。パラパラと、別に読むわけでもなくページを進めていく。やがて、最後までめくり終えると、ため息を吐き出しながら後ろに倒れ込んだ。
和室の畳の匂いがする。久しぶりに感じたな。小さい頃は当たり前のように畳の敷かれた部屋で過ごしてきていた。最近はフローリングとカーペットの床に慣れてしまい、しばらくこの匂いを忘れていた。
どうしようもなく、懐かしいと同時に、寂しさと苦しさが胸に渦巻いてくる。本を開き顔を覆った。溢れ出る涙を止めることができなくて、流れ落ちていくのもそのままにした。
先ほどからパソコンの画面の原稿は真っ白なまま、ただ光だけを放っていた。
『え? 帰って来る?』
駅のホームで椅子に座り、ボストンバック一つを足元に置いて通話をしていた。
久しぶりに降り立った地元の駅は、東京とは違って草木の香りが混じった、少しだけ湿度のこもった暑さを感じた。
日陰に時折吹く風がひんやりと心地いい。スマホの向こうの相手は、幼い頃からお世話になっている北原青さんだ。
『お前仕事してんのか? 辞めてくるのか?』
「……すいません。帰ったら話すんで。それで、お願いがあるんですけど……少しの間、青さんとこに、置いてもらえないですか?」
『え?』
「ちょっと仕事で行き詰まっちゃって……そっちで、休みたいんですよ」
はぁ、と思わずため息が溢れてしまう。誰もいないホームは、地元に帰ってきた安心感と共に、孤独を感じて寂しくなった。
『まぁ、別にいいけど。今、うちになずなも一緒に住んでるから。手は出すなよ』
青さんから出た懐かしい名前になんだか気持ちが軽くなる。なずなに会うのは何年ぶりだろうか。
「ははっ、大丈夫です。あいつと俺はただの幼馴染みですから」
幼稚園から中学までずっと一緒だった。会えば嬉しいし話せば楽しいし、俺がこっちにいた時に気を許せた友達は、なずなだけだった気もする。幼馴染み。そう言って終えばそれまで。あの頃の俺にしたら初恋の相手だったかもしれない。だけど、なずなとはそれ以上は望まない。俺にとっては大切な存在だから。
少しの沈黙の後、青さんがまっすぐに言う。
『あと、俺にはちゃんと話せよ。戻って来る理由を』
真剣な口調にためらってしまうけれど、「……はい」とため息混じりに答えた。
小さい頃から俺の存在を知ってくれている青さん。何かあれば必ず守ってくれたし、両親がいなくてじいちゃんだけしかいなかった俺は、陰湿な雰囲気を纏っていていじめられる事も度々あった。だけど、その度に青さんやなずなが助けてくれた。
だから今回もつい、頼りたくなった。情けないのは分かっている。何度も、何度も何度も、自分でどうにかしようとした。
だけど……もう、限界だった。
気持ちが安らげる場所を求めていたら、ここへ辿り着いたんだ。
久しぶりの故郷は変わらずに自然に囲まれていて、気を緩めると涙が湧き上がってきそうになるから、グッと我慢した。
じいちゃんと住んでいた家はもうなくなってしまったけれど、小学校の横の坂を上っていくと、青さんのお店は変わらずにそこにあった。
シャランシャランと涼しげなベルの音と共に、懐かしい匂いと、見慣れたなずなの姿に、堪えていた涙が、溢れそうになった。
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