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第四章 手がかりは
手がかりは
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春一のおかげで光夜くんの居場所が分かったけれど……東京にいるなんて。そりゃ、行けない距離なわけじゃないし、お金さえあれば行こうと思えば行ける。カウンターに腰かけて、あたしは頬杖をついてため息を漏らした。
「……なずな、一緒に探すか?」
「……え」
隣にいた春一が心配そうな顔であたしを覗き込んだ。
「俺別に暇だし、大事なもんなんだろ? それに、光夜に久々に会って話してみたいしさ」
「……春一ぃ、あんた、いいヤツじゃん」
春一の思いがけない言葉に嬉しさが込み上げる。
「やっさしぃ~! シュンくん。じゃ、なずなを頼んだよ! 俺はこいつらを可愛がらないといけないからね」
青ちゃんは近くの棚を愛おしそうに撫でながら、鼻歌まじりに歌いだす。そして、お店の隣のリメイク部屋へ店内の棚や彫刻達を慎重に運び始めた。
「なずな、夏休みやるよ。今日からこいつら仕上げるのに当分俺が店にいるし、店番別にいらないからさ」
軍手をはめて、頭にタオルを巻き、完全に仕事スタイルの青ちゃんはあたしにウインクして、パタリと部屋に消えていく。
「……せ、青ちゃん。ありがとうっ!!」
張り切って大きな声でお礼を言うと、笑いながら「おぅ!」と青ちゃんの返事が部屋の奥で聞こえた。
「春一もありがと! 頑張って探そうねっ」
両手をぎゅっと握り、握手をする。すぐに準備しなきゃと階段を駆け上がる足を、一度止めた。
「ねぇ、春一! 春一、仕事ある、よね? 大丈夫なの?」
振り返って、階段から身を乗り出したあたしは下にいる春一に確認するように聞く。
「……あぁ、大丈夫だよ。気にすんな。実は俺も夏休み」
「ほんとっ? 良かったぁ、じゃあよろしくね!」
部屋に戻って、充電していたスマホを手に取り画面を眺めていると、ふと思い付く。
「そう言えば、春一の連絡先知らないな」
すぐに部屋から出ると、ちょうど入れ違いに春一が隣の自分の部屋に入っていった所だった。ドアを軽くノックしてから「入るよ~」と、返事も待たずに勝手にドアを開ける。
「なんだよ、まだ返事してねーし」
「いーじゃん、いーじゃん。あたしと春一の仲でしょっ」
小さい時は春一の家の事情で一緒に過ごす時間が多かった。お互いの家に遊びに行くのだってしょっちゅうだった。その時の感覚のままズカズカと部屋に入り込む。
「お前……散々人の事嫌がってたクセに態度変わりすぎだろ。まぁ、いいけど」
呆れながらも、春一は座り込みあぐらをかく。
「春一の連絡先教えて。SNSやってる? なきゃ番号とかメッセージでもいいし」
あたしはスマホの自分のメッセージ画面を開いて見せながら、春一の前に座った。一瞬考えるような素振りを見せたけれど、春一はポケットに入れていたスマホを取り出してあたしに差し出してきた。
「情報発信したりするやつはやってない。とりあえずメッセージ交換だけ」
交換を済ませると、キョロキョロと部屋の中を見回した。
「何もないねー、春一の部屋」
「そりゃそうだろ。来たばっかだしパソコンとちょっとの着替えしか持ってきてねーし」
春一が無造作にスマホをテーブルの上に置くと、あたしはそこに小説があるのを見つける。
「……春一、見かけによらず本なんて読むんだねぇ」
「……なんだよ、見かけによらずって」
少し不機嫌になる春一の横を膝で歩き、小説を手にした。パラパラっと眺めた後、すぐにあたしは本をパタンっと閉じて元に戻した。
「あたし文字だけって無理! 眠くなっちゃうもん。絵があればまだいーのに」
文字の配列にうんざりした顔をしてから、また春一の前に座り直すと、目の前の春一は不貞腐れたように目を細めていた。
「……お前……人の小説にケチ付けんなよ」
怒っているようにも見えるし、悲しんでいるようにも見える。そして、鋭い目であたしを捉えるから、謝るしかない。
「……ごめん」
消えそうなくらいに小さい声しか出なくて、春一はハッとして、慌て出した。
「あ! わりぃ。小説は好き嫌いあるよなっ。なずな、漫画の方が好きだったしな」
まぁ、本なんて図書室からもほとんど借りたことがなかったし、家では春一の言うように漫画ばかり読んでいた。春一があたしに貸してくれたのがきっかけだった気もするけど。そういえば、春一は確かに読書好きな大人しめな男の子だったな。忘れていたけど、よくノートに物語を書いて見せてくれていた気がする。本は、今でも好きなのかな。
「……もしかして、春一の仕事って……」
「え……?」
「小説書いてるの? もしくは……出版関係の仕事?」
「あー……えーっと」
「で、この“ハルイチ”って人の大ファンなんでしょ?! ここにある小説全部この人のだし。春一が小説家ねぇ……」
ふ~ん。と、あたしは自分の勘の良さに惚れ惚れする。だけど、春一がきちんと自分の夢を持っていることに、なんだか羨ましくも思った。
「え……なずな、もしかして“ハルイチ”のこと知らない?」
「……え? この小説書いた人のこと?」
「うん」
「あー……ごめん。知らない」
「……まじか、そっか」
なんだか不満そうに俯くから不思議に思うけど、次の瞬間、顔を上げた春一が話題を変えてくる。
「それよりさ、なずな、アゲハさんが光夜の電話番号知ってるとか言ってなかった?」
春一は話を戻して、なずなに聞いた。
春一のおかげで光夜くんの居場所が分かったけれど……東京にいるなんて。そりゃ、行けない距離なわけじゃないし、お金さえあれば行こうと思えば行ける。カウンターに腰かけて、あたしは頬杖をついてため息を漏らした。
「……なずな、一緒に探すか?」
「……え」
隣にいた春一が心配そうな顔であたしを覗き込んだ。
「俺別に暇だし、大事なもんなんだろ? それに、光夜に久々に会って話してみたいしさ」
「……春一ぃ、あんた、いいヤツじゃん」
春一の思いがけない言葉に嬉しさが込み上げる。
「やっさしぃ~! シュンくん。じゃ、なずなを頼んだよ! 俺はこいつらを可愛がらないといけないからね」
青ちゃんは近くの棚を愛おしそうに撫でながら、鼻歌まじりに歌いだす。そして、お店の隣のリメイク部屋へ店内の棚や彫刻達を慎重に運び始めた。
「なずな、夏休みやるよ。今日からこいつら仕上げるのに当分俺が店にいるし、店番別にいらないからさ」
軍手をはめて、頭にタオルを巻き、完全に仕事スタイルの青ちゃんはあたしにウインクして、パタリと部屋に消えていく。
「……せ、青ちゃん。ありがとうっ!!」
張り切って大きな声でお礼を言うと、笑いながら「おぅ!」と青ちゃんの返事が部屋の奥で聞こえた。
「春一もありがと! 頑張って探そうねっ」
両手をぎゅっと握り、握手をする。すぐに準備しなきゃと階段を駆け上がる足を、一度止めた。
「ねぇ、春一! 春一、仕事ある、よね? 大丈夫なの?」
振り返って、階段から身を乗り出したあたしは下にいる春一に確認するように聞く。
「……あぁ、大丈夫だよ。気にすんな。実は俺も夏休み」
「ほんとっ? 良かったぁ、じゃあよろしくね!」
部屋に戻って、充電していたスマホを手に取り画面を眺めていると、ふと思い付く。
「そう言えば、春一の連絡先知らないな」
すぐに部屋から出ると、ちょうど入れ違いに春一が隣の自分の部屋に入っていった所だった。ドアを軽くノックしてから「入るよ~」と、返事も待たずに勝手にドアを開ける。
「なんだよ、まだ返事してねーし」
「いーじゃん、いーじゃん。あたしと春一の仲でしょっ」
小さい時は春一の家の事情で一緒に過ごす時間が多かった。お互いの家に遊びに行くのだってしょっちゅうだった。その時の感覚のままズカズカと部屋に入り込む。
「お前……散々人の事嫌がってたクセに態度変わりすぎだろ。まぁ、いいけど」
呆れながらも、春一は座り込みあぐらをかく。
「春一の連絡先教えて。SNSやってる? なきゃ番号とかメッセージでもいいし」
あたしはスマホの自分のメッセージ画面を開いて見せながら、春一の前に座った。一瞬考えるような素振りを見せたけれど、春一はポケットに入れていたスマホを取り出してあたしに差し出してきた。
「情報発信したりするやつはやってない。とりあえずメッセージ交換だけ」
交換を済ませると、キョロキョロと部屋の中を見回した。
「何もないねー、春一の部屋」
「そりゃそうだろ。来たばっかだしパソコンとちょっとの着替えしか持ってきてねーし」
春一が無造作にスマホをテーブルの上に置くと、あたしはそこに小説があるのを見つける。
「……春一、見かけによらず本なんて読むんだねぇ」
「……なんだよ、見かけによらずって」
少し不機嫌になる春一の横を膝で歩き、小説を手にした。パラパラっと眺めた後、すぐにあたしは本をパタンっと閉じて元に戻した。
「あたし文字だけって無理! 眠くなっちゃうもん。絵があればまだいーのに」
文字の配列にうんざりした顔をしてから、また春一の前に座り直すと、目の前の春一は不貞腐れたように目を細めていた。
「……お前……人の小説にケチ付けんなよ」
怒っているようにも見えるし、悲しんでいるようにも見える。そして、鋭い目であたしを捉えるから、謝るしかない。
「……ごめん」
消えそうなくらいに小さい声しか出なくて、春一はハッとして、慌て出した。
「あ! わりぃ。小説は好き嫌いあるよなっ。なずな、漫画の方が好きだったしな」
まぁ、本なんて図書室からもほとんど借りたことがなかったし、家では春一の言うように漫画ばかり読んでいた。春一があたしに貸してくれたのがきっかけだった気もするけど。そういえば、春一は確かに読書好きな大人しめな男の子だったな。忘れていたけど、よくノートに物語を書いて見せてくれていた気がする。本は、今でも好きなのかな。
「……もしかして、春一の仕事って……」
「え……?」
「小説書いてるの? もしくは……出版関係の仕事?」
「あー……えーっと」
「で、この“ハルイチ”って人の大ファンなんでしょ?! ここにある小説全部この人のだし。春一が小説家ねぇ……」
ふ~ん。と、あたしは自分の勘の良さに惚れ惚れする。だけど、春一がきちんと自分の夢を持っていることに、なんだか羨ましくも思った。
「え……なずな、もしかして“ハルイチ”のこと知らない?」
「……え? この小説書いた人のこと?」
「うん」
「あー……ごめん。知らない」
「……まじか、そっか」
なんだか不満そうに俯くから不思議に思うけど、次の瞬間、顔を上げた春一が話題を変えてくる。
「それよりさ、なずな、アゲハさんが光夜の電話番号知ってるとか言ってなかった?」
春一は話を戻して、なずなに聞いた。
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