13 / 41
第五章 写真
写真
しおりを挟む
部屋の中は夕陽に照らされて、忙しないミンミン蝉からヒグラシの声へと変わっていた。いつの間にかあたしも春一も、眠っていたらしい。
上半身を起こしてグッと両腕を上げて伸びをすると、隣にいる春一に視線を下げた。
まだ起きる気配がなくて、部屋の中に半分差し込む夕陽にキラキラと閉じた目の端が煌めいているのに気がついた。ゆっくりと寝返りを打った瞬間、一筋の雫が流れ落ちた。
「…………春一?」
泣いてる? 悲しい夢でも見ているんだろうか。
春一がどうして泣いているのかが分からなくて、あたしはただ、春一の寝顔を見ているしかなかった。
起こさないように静かに部屋を出ると、お店へと階段を下りていく。薄暗くなった店内、奥の部屋ではまだ青ちゃんが作業しているようで、あたしは声をかけることなく足を進めた。入り口のドアを施錠してカーテンを閉めようとしたその時、外に人影を見つけた。仕事を終えて帰ってきた姉が二階の玄関に向かうのが見えて声をかけた。
「お姉ちゃん! お帰りなさい」
「あ! なずな。ただいまぁ」
すぐに気がついて手を振ってくれるから、お店の戸締まりを確認すると、あたしは急いで二階に上がって行く。
「ねぇ、お姉ちゃん! 聞きたいことがあるの」
玄関のドアをようやく閉めて、まだ靴もきちんと脱いでいない姉を急かすように言った。
「山内光夜って人知ってる?」
「え? 誰?」
重たそうに両肩にカバンをかけて持つ姉に、リビングに向かいながらついて行く。
「お姉ちゃんのカバンに入っていた紙に書いてあった名前が、あたしの同級生と同じで、今探してるの」
「カバンに紙?」
考え込むようにして姉は悩んだ末、「あ!」と、思い出したようにカバンのポケットから紙を取り出した。
「もしかして、これのこと?」
姉の手には、あたしが見たのと同じ紙があった。
「そうそう! それ!」
リビングの端に荷物を下ろすと、ホッとしたようにソファーに座り、姉が話始めた。
「この子は、ちょっと前の撮影で知り合ったの。カメラアシスタントしてるって言っててね、あたし、その子の置いていたファイルを落としちゃって……」
あたしはうんうんと相づちを打ちながら、ソファーの隣に座って話に食いつく。
「そこにあった写真がね、すーっごくいい写真だったの。で、あたしって興味持ったら即行動でしょ? すぐに彼に話しかけて、連絡先交換したの」
「へぇー」
ため息に似た深い返事が出てしまう。光夜くんの写真がきっかけで知り合いになったんだ。
「あ、そう言えば、明日また撮影見学しに来るって言ってたよ。なずなも来ればいいんじゃない?」
「いいの?!」
「もちろん。朝早いけどね」
「……な、何時?」
姉が仕事で毎朝かなり早く出ていくことは知っている。だけど、大抵あたしが起きた時には姿がないから、ここ数年「おはよう」は言えていない。
「五時に出れば間に合うかな」
「ごっ…五時!?」
早い……でも、これはチャンスだし行かない理由もない。
「分かった! 行く!」
意を決して言うと、「オッケー、じゃあ明日ね」と姉はウキウキしてリビングを出ていった。ソファーの上で膝を抱えて座った。
良かった。千冬のオルゴール、取り戻せるかもしれない。本当に、良かった。
安心するのと同時に嬉しくなった。
ソファーから立ち上がると、春一にも知らせなくちゃと春一の部屋に向かった。
上半身を起こしてグッと両腕を上げて伸びをすると、隣にいる春一に視線を下げた。
まだ起きる気配がなくて、部屋の中に半分差し込む夕陽にキラキラと閉じた目の端が煌めいているのに気がついた。ゆっくりと寝返りを打った瞬間、一筋の雫が流れ落ちた。
「…………春一?」
泣いてる? 悲しい夢でも見ているんだろうか。
春一がどうして泣いているのかが分からなくて、あたしはただ、春一の寝顔を見ているしかなかった。
起こさないように静かに部屋を出ると、お店へと階段を下りていく。薄暗くなった店内、奥の部屋ではまだ青ちゃんが作業しているようで、あたしは声をかけることなく足を進めた。入り口のドアを施錠してカーテンを閉めようとしたその時、外に人影を見つけた。仕事を終えて帰ってきた姉が二階の玄関に向かうのが見えて声をかけた。
「お姉ちゃん! お帰りなさい」
「あ! なずな。ただいまぁ」
すぐに気がついて手を振ってくれるから、お店の戸締まりを確認すると、あたしは急いで二階に上がって行く。
「ねぇ、お姉ちゃん! 聞きたいことがあるの」
玄関のドアをようやく閉めて、まだ靴もきちんと脱いでいない姉を急かすように言った。
「山内光夜って人知ってる?」
「え? 誰?」
重たそうに両肩にカバンをかけて持つ姉に、リビングに向かいながらついて行く。
「お姉ちゃんのカバンに入っていた紙に書いてあった名前が、あたしの同級生と同じで、今探してるの」
「カバンに紙?」
考え込むようにして姉は悩んだ末、「あ!」と、思い出したようにカバンのポケットから紙を取り出した。
「もしかして、これのこと?」
姉の手には、あたしが見たのと同じ紙があった。
「そうそう! それ!」
リビングの端に荷物を下ろすと、ホッとしたようにソファーに座り、姉が話始めた。
「この子は、ちょっと前の撮影で知り合ったの。カメラアシスタントしてるって言っててね、あたし、その子の置いていたファイルを落としちゃって……」
あたしはうんうんと相づちを打ちながら、ソファーの隣に座って話に食いつく。
「そこにあった写真がね、すーっごくいい写真だったの。で、あたしって興味持ったら即行動でしょ? すぐに彼に話しかけて、連絡先交換したの」
「へぇー」
ため息に似た深い返事が出てしまう。光夜くんの写真がきっかけで知り合いになったんだ。
「あ、そう言えば、明日また撮影見学しに来るって言ってたよ。なずなも来ればいいんじゃない?」
「いいの?!」
「もちろん。朝早いけどね」
「……な、何時?」
姉が仕事で毎朝かなり早く出ていくことは知っている。だけど、大抵あたしが起きた時には姿がないから、ここ数年「おはよう」は言えていない。
「五時に出れば間に合うかな」
「ごっ…五時!?」
早い……でも、これはチャンスだし行かない理由もない。
「分かった! 行く!」
意を決して言うと、「オッケー、じゃあ明日ね」と姉はウキウキしてリビングを出ていった。ソファーの上で膝を抱えて座った。
良かった。千冬のオルゴール、取り戻せるかもしれない。本当に、良かった。
安心するのと同時に嬉しくなった。
ソファーから立ち上がると、春一にも知らせなくちゃと春一の部屋に向かった。
14
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる