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第七章 千冬
千冬
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「ほんと懐かしいねー!」
「あ、千冬。あのさ、木箱のオルゴールって、持ってる?」
あたしがついに確信に迫ると、すぐに顔を明るくして千冬は笑ってくれた。
「持ってるよ! ごめんね、あたしこんな状態じゃなずなちゃんに会いに行けないと思って、光夜くんに頼んじゃって……」
話しながら、千冬はベッドの横にある棚の引き出しから木箱のオルゴールを取り出した。それは紛れもなく、あの時ラッピングした紙に包まれた、木箱のオルゴールだった。
「これって、まだ未完成だよね?」
包みを開けながら千冬が言った。
「うん……青ちゃんが、オルゴールを入れてくれるよ。千冬、もうここから外には、出られないの?」
ためらいながらも聞いてみる。一瞬だけ、千冬の顔が曇ったような気がしたけれど、すぐに顔を上げて、笑ってくれた。
「先生に聞いてみるね!」
明るい笑顔は小さい頃から変わらない。細くて色白で、守って上げたくなるような可愛らしさがある見た目に反して、千冬はいつでも前向きで元気で、なんでも自分でやりたがった。あたしが出来ないと弱音を吐くと、勢いよく励ましてくれた。
「千冬とこれから連絡を取るには、どうしたらいい?」
スマホは持っているのだろうか? ふと考えてしまって、困ったように聞くと、すぐに千冬はサイドテーブルからスマホを手に取り、見せてきた。
「これ、あるよっ!」
嬉しそうにスマホをかざす千冬に、あたしもバックからすぐに取り出して、番号とメッセージIDを交換した。スマホに慣れていない千冬は全部あたし任せにするから、おかしくって笑ってしまう。
「これね、光夜くんにもらったんだ。それまでは持ったことがなくて。今も光夜くんと両親しか連絡先入ってないし、誰かと交換とか、よくわかんないんだよね」
困ったように照れながら笑う千冬。
「なずなちゃんと春一くんの連絡先が増えて嬉しい!」
愛おしそうにスマホを胸に抱えてベッドに座り込むと、千冬は画面を見つめている。
「……もしかして、千冬と光夜くんって、付き合ってるの?」
唐突に、口をついて出てしまっていた。千冬は一瞬目を見開いて驚いた表情をしたけれど、すぐに笑った。
「そんな関係じゃないよぉ。光夜くんはね、たまたま友達が入院した時にお見舞いに来てて、その時偶然再会したの。それからずっと、来てくれてるんだ」
思い出すように優しい顔で、嬉しそうに語る千冬。
「ずっと……て?」
「う~ん……もう二年くらい経つかなぁ? 光夜くんね、写真撮るんだよ。地元の写真たくさん撮ってきてくれて、あたし、ずっとこんなところにいても、なずなちゃんにはすぐ会えるんじゃないかなって思うくらいに、たくさんの風景をもらっていたんだ」
千冬の指差す方には、コルクボードいっぱいに風景の写真が飾られていた。
「そしたらね、本当に会えたから、驚いた。来てくれてありがとう。すごく嬉しいよ」
小さくペコリと頭を下げて照れ笑いする千冬に、あたしはどうしようもなく泣きたくなった。だけど、涙は我慢して笑顔に変える。
思い出話や 現在の事、話すことがたくさんありすぎて、いつの間にか時間はどんどん過ぎていった。
「じゃあ、千冬。また来るね」
椅子から立ち上がると、千冬に小さく手を振った。
春一と一緒に病室を出ると、途端にここが病院であることを瞬時に思い出す。消毒の匂いと静けさの中に聞こえる機械音や話し声。あんなに元気そうに見えていた千冬が、病気と戦っていることを思い知らされる。あたしは、春一のシャツの裾をそっと掴んだ。
「……なずな?」
小さく肩を震わせて、湧き上がってくる涙をこぼさないように軽く拭うと、春一を見上げた。
「良かったね! 千冬元気そうで」
きっと、目は赤くなっているかもしれない。だけど、千冬は元気だった。いっぱいおしゃべりもした。光夜くんが言ったことが、嘘なんじゃないかって、疑いたくなった。
だけど、やっぱりここは病院で、治療を受けるためにいる場所で、ずっと千冬がここに閉じこもっていたんだって分かったら、どうしようもなく胸が苦しくなった。
もっと早く、会いに来れたらよかったのに。もっと早く。
俯いて涙を堪えていると、春一があたしの手を繋いでゆっくり歩き出す。
我慢しなくてもいいって言ってくれてるみたいに感じたけど、だけど、あたしはグッと涙を飲み込む。俯いたままこぼれ落とさないように、力を込めて。
だって、悲しいんじゃない。
千冬と会えたことが、あたしは悲しいんじゃなくて、嬉しいんだよ。だから今は、笑っていたい。
千冬、あの日、あたし千冬に会いに行って、本当に良かったって思ってる。
千冬の元気な笑顔を見れて、本当に良かったって思ってる。
千冬は何一つ変わっていなくて、あたしが見る限り病院にいるのが本当に不思議に思えたんだよ。外出許可が取れたら、千冬と行きたいとこがたっくさんあるんだ。
だからね、思い出の場所も、新しい思い出も、
たくさん、たくさん、作ろうね、千冬。
「あ、千冬。あのさ、木箱のオルゴールって、持ってる?」
あたしがついに確信に迫ると、すぐに顔を明るくして千冬は笑ってくれた。
「持ってるよ! ごめんね、あたしこんな状態じゃなずなちゃんに会いに行けないと思って、光夜くんに頼んじゃって……」
話しながら、千冬はベッドの横にある棚の引き出しから木箱のオルゴールを取り出した。それは紛れもなく、あの時ラッピングした紙に包まれた、木箱のオルゴールだった。
「これって、まだ未完成だよね?」
包みを開けながら千冬が言った。
「うん……青ちゃんが、オルゴールを入れてくれるよ。千冬、もうここから外には、出られないの?」
ためらいながらも聞いてみる。一瞬だけ、千冬の顔が曇ったような気がしたけれど、すぐに顔を上げて、笑ってくれた。
「先生に聞いてみるね!」
明るい笑顔は小さい頃から変わらない。細くて色白で、守って上げたくなるような可愛らしさがある見た目に反して、千冬はいつでも前向きで元気で、なんでも自分でやりたがった。あたしが出来ないと弱音を吐くと、勢いよく励ましてくれた。
「千冬とこれから連絡を取るには、どうしたらいい?」
スマホは持っているのだろうか? ふと考えてしまって、困ったように聞くと、すぐに千冬はサイドテーブルからスマホを手に取り、見せてきた。
「これ、あるよっ!」
嬉しそうにスマホをかざす千冬に、あたしもバックからすぐに取り出して、番号とメッセージIDを交換した。スマホに慣れていない千冬は全部あたし任せにするから、おかしくって笑ってしまう。
「これね、光夜くんにもらったんだ。それまでは持ったことがなくて。今も光夜くんと両親しか連絡先入ってないし、誰かと交換とか、よくわかんないんだよね」
困ったように照れながら笑う千冬。
「なずなちゃんと春一くんの連絡先が増えて嬉しい!」
愛おしそうにスマホを胸に抱えてベッドに座り込むと、千冬は画面を見つめている。
「……もしかして、千冬と光夜くんって、付き合ってるの?」
唐突に、口をついて出てしまっていた。千冬は一瞬目を見開いて驚いた表情をしたけれど、すぐに笑った。
「そんな関係じゃないよぉ。光夜くんはね、たまたま友達が入院した時にお見舞いに来てて、その時偶然再会したの。それからずっと、来てくれてるんだ」
思い出すように優しい顔で、嬉しそうに語る千冬。
「ずっと……て?」
「う~ん……もう二年くらい経つかなぁ? 光夜くんね、写真撮るんだよ。地元の写真たくさん撮ってきてくれて、あたし、ずっとこんなところにいても、なずなちゃんにはすぐ会えるんじゃないかなって思うくらいに、たくさんの風景をもらっていたんだ」
千冬の指差す方には、コルクボードいっぱいに風景の写真が飾られていた。
「そしたらね、本当に会えたから、驚いた。来てくれてありがとう。すごく嬉しいよ」
小さくペコリと頭を下げて照れ笑いする千冬に、あたしはどうしようもなく泣きたくなった。だけど、涙は我慢して笑顔に変える。
思い出話や 現在の事、話すことがたくさんありすぎて、いつの間にか時間はどんどん過ぎていった。
「じゃあ、千冬。また来るね」
椅子から立ち上がると、千冬に小さく手を振った。
春一と一緒に病室を出ると、途端にここが病院であることを瞬時に思い出す。消毒の匂いと静けさの中に聞こえる機械音や話し声。あんなに元気そうに見えていた千冬が、病気と戦っていることを思い知らされる。あたしは、春一のシャツの裾をそっと掴んだ。
「……なずな?」
小さく肩を震わせて、湧き上がってくる涙をこぼさないように軽く拭うと、春一を見上げた。
「良かったね! 千冬元気そうで」
きっと、目は赤くなっているかもしれない。だけど、千冬は元気だった。いっぱいおしゃべりもした。光夜くんが言ったことが、嘘なんじゃないかって、疑いたくなった。
だけど、やっぱりここは病院で、治療を受けるためにいる場所で、ずっと千冬がここに閉じこもっていたんだって分かったら、どうしようもなく胸が苦しくなった。
もっと早く、会いに来れたらよかったのに。もっと早く。
俯いて涙を堪えていると、春一があたしの手を繋いでゆっくり歩き出す。
我慢しなくてもいいって言ってくれてるみたいに感じたけど、だけど、あたしはグッと涙を飲み込む。俯いたままこぼれ落とさないように、力を込めて。
だって、悲しいんじゃない。
千冬と会えたことが、あたしは悲しいんじゃなくて、嬉しいんだよ。だから今は、笑っていたい。
千冬、あの日、あたし千冬に会いに行って、本当に良かったって思ってる。
千冬の元気な笑顔を見れて、本当に良かったって思ってる。
千冬は何一つ変わっていなくて、あたしが見る限り病院にいるのが本当に不思議に思えたんだよ。外出許可が取れたら、千冬と行きたいとこがたっくさんあるんだ。
だからね、思い出の場所も、新しい思い出も、
たくさん、たくさん、作ろうね、千冬。
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