25 / 41
第九章 四人の夏
四人の夏
しおりを挟む
* * *
花火は小学校の隣にある昔から馴染みのある商店に売っている。変わらない外観の商店は、俺が通っていた頃のままだったけれど、出てきたのはあの頃のおばちゃんではなかった。
適当に手持ち花火のセットと置き花火のセットを選んで、また来た道を戻る。
「なずなちゃん、光夜くんと会えたかな?」
心配そうに、最後に追加で選んだ線香花火の入った袋を手にして千冬が言う。
「そろそろ青さんの車が借りれる時間なんだよな。迎えいこっか」
「え、車?」
「そ、車」
青さんにバーベキューをやると言ったら、免許はあるのかと聞かれた。東京ではほとんど乗ることはなかったけれど、乗れないわけではないし、車があれば千冬と行ける行動範囲も広がるし、無理をさせることも減ると思って、あらかじめ貸してもらう約束をしていた。
大量に買い込んできた食材を両手に下げて歩くなずなと光夜の姿を見つけると、ブレーキをかけ、ハザードを付けて止まった。
「おーい、乗ってかねぇ?」
突然現れた俺に唖然としているから、笑ってしまう。助手席の千冬は「おいでー」っと二人に手招きをしている。
「あれ?! これって青ちゃんの車だよね?」
すぐに気がつくなずなに、俺は頷いて真顔で親指を立てた。
「春一、免許……あるの?」
「あったりまえだろ! じゃなきゃ運転してねーし」
疑う目で見てくるなずなに少しイラッとするけれど、それはまぁいつものことだと諦める。
「だよね、ラッキー! 食材めっちゃ重くって大変だったの!」
すぐにトランクを開けて荷物を次々入れ始めた。これで準備は万端だ。
「でわ、行きますか」
「しゅっぱーつ!」
懐かしいいつもの町並みを走り抜けていく。すぐに窓からは海が見えはじめた。窓を開けて、潮風を感じながら、海へはあっという間に着いた。海水浴の時間もとっくに終わって、日の落ちる手前の海にはもう誰もいなかった。
「わーい、貸し切りだっ!」
なずなが一番乗りで走っていき、サンダルを脱いで砂浜を踏みしめる。
「千冬っ。気持ちいいよー!」
「今行くっ!」
なずなの言葉に軽く駆け出そうとした千冬のことを、すかさず光夜が手を取り一緒に歩き出そうとすると、すぐに千冬は立ち止まった。
「ありがとう。大丈夫だよ」
にっこりと笑って、一人で行けると強い目を向けてくる千冬に、光夜は戸惑うようにしながらも、手を放した。そのまま、千冬の後ろ姿を見守るように見つめている。
「……千冬って、強いよな」
隣に並んで声をかけると、千冬から目を逸らすことなく光夜は頷く。
「……あぁ、強いよ」
砂浜ではしゃぐ二人を遠目に見つつ、バーベキューの準備をしながら光夜に聞いてみる。
「光夜は、ずっと千冬の病院に通ってたのか?」
「ああ、偶然再会してから、ずっと……」
「そっか」
「……千冬さ、あぁ見えて本当は怯えているんだ。自分の病気と向き合う事を、恐れてる」
悔しそうな、辛そうな顔をして、光夜は話を続ける。
「俺には決して見せないんだよな。弱音も、悲しい顔も。千冬の弱さを受け止めてやりたいって思うけど、そんな力、俺にはなくて……」
静かに拳を握る光夜は、小さく呟いた。
「そもそも、きっと頼りない俺なんかに千冬は弱音を吐き出したりしようなんて、思ってないだろうし……どうしたらいいんだろうな」
消えそうな、どうしようもない苦しい言葉に、暗くなってしまう光夜。場の雰囲気が落ち込んでしまってはいけないと、わざと満面の笑みで光夜の肩を掴んで言った。
「今この時を、一瞬一秒を、千冬が悲しくないように、怖くないように、精一杯楽しもうぜっ!」
「なっ」と、ガタイのいい肩を強めに叩いてやると、光夜はあっけに取られたような顔をした後に「そーだな」と、笑ってくれた。
「春一ぃ!! 光夜くん!! 早くバーベキューしよーよー!」
なずなに大きな声で呼ばれて、光夜と顔を見合わせると、笑って「おぅ!」と手を振った。
千冬と過ごす夏。
俺達はきっと、最高の夏を過ごした。なずなにとっても、俺にとっても、光夜にとっても。
千冬の今を知ってゆく、どんどん知ってゆく。
いつか、こんな楽しい夏の日も、思い出に変わるから。
楽しかった、夏の思い出に。
花火は小学校の隣にある昔から馴染みのある商店に売っている。変わらない外観の商店は、俺が通っていた頃のままだったけれど、出てきたのはあの頃のおばちゃんではなかった。
適当に手持ち花火のセットと置き花火のセットを選んで、また来た道を戻る。
「なずなちゃん、光夜くんと会えたかな?」
心配そうに、最後に追加で選んだ線香花火の入った袋を手にして千冬が言う。
「そろそろ青さんの車が借りれる時間なんだよな。迎えいこっか」
「え、車?」
「そ、車」
青さんにバーベキューをやると言ったら、免許はあるのかと聞かれた。東京ではほとんど乗ることはなかったけれど、乗れないわけではないし、車があれば千冬と行ける行動範囲も広がるし、無理をさせることも減ると思って、あらかじめ貸してもらう約束をしていた。
大量に買い込んできた食材を両手に下げて歩くなずなと光夜の姿を見つけると、ブレーキをかけ、ハザードを付けて止まった。
「おーい、乗ってかねぇ?」
突然現れた俺に唖然としているから、笑ってしまう。助手席の千冬は「おいでー」っと二人に手招きをしている。
「あれ?! これって青ちゃんの車だよね?」
すぐに気がつくなずなに、俺は頷いて真顔で親指を立てた。
「春一、免許……あるの?」
「あったりまえだろ! じゃなきゃ運転してねーし」
疑う目で見てくるなずなに少しイラッとするけれど、それはまぁいつものことだと諦める。
「だよね、ラッキー! 食材めっちゃ重くって大変だったの!」
すぐにトランクを開けて荷物を次々入れ始めた。これで準備は万端だ。
「でわ、行きますか」
「しゅっぱーつ!」
懐かしいいつもの町並みを走り抜けていく。すぐに窓からは海が見えはじめた。窓を開けて、潮風を感じながら、海へはあっという間に着いた。海水浴の時間もとっくに終わって、日の落ちる手前の海にはもう誰もいなかった。
「わーい、貸し切りだっ!」
なずなが一番乗りで走っていき、サンダルを脱いで砂浜を踏みしめる。
「千冬っ。気持ちいいよー!」
「今行くっ!」
なずなの言葉に軽く駆け出そうとした千冬のことを、すかさず光夜が手を取り一緒に歩き出そうとすると、すぐに千冬は立ち止まった。
「ありがとう。大丈夫だよ」
にっこりと笑って、一人で行けると強い目を向けてくる千冬に、光夜は戸惑うようにしながらも、手を放した。そのまま、千冬の後ろ姿を見守るように見つめている。
「……千冬って、強いよな」
隣に並んで声をかけると、千冬から目を逸らすことなく光夜は頷く。
「……あぁ、強いよ」
砂浜ではしゃぐ二人を遠目に見つつ、バーベキューの準備をしながら光夜に聞いてみる。
「光夜は、ずっと千冬の病院に通ってたのか?」
「ああ、偶然再会してから、ずっと……」
「そっか」
「……千冬さ、あぁ見えて本当は怯えているんだ。自分の病気と向き合う事を、恐れてる」
悔しそうな、辛そうな顔をして、光夜は話を続ける。
「俺には決して見せないんだよな。弱音も、悲しい顔も。千冬の弱さを受け止めてやりたいって思うけど、そんな力、俺にはなくて……」
静かに拳を握る光夜は、小さく呟いた。
「そもそも、きっと頼りない俺なんかに千冬は弱音を吐き出したりしようなんて、思ってないだろうし……どうしたらいいんだろうな」
消えそうな、どうしようもない苦しい言葉に、暗くなってしまう光夜。場の雰囲気が落ち込んでしまってはいけないと、わざと満面の笑みで光夜の肩を掴んで言った。
「今この時を、一瞬一秒を、千冬が悲しくないように、怖くないように、精一杯楽しもうぜっ!」
「なっ」と、ガタイのいい肩を強めに叩いてやると、光夜はあっけに取られたような顔をした後に「そーだな」と、笑ってくれた。
「春一ぃ!! 光夜くん!! 早くバーベキューしよーよー!」
なずなに大きな声で呼ばれて、光夜と顔を見合わせると、笑って「おぅ!」と手を振った。
千冬と過ごす夏。
俺達はきっと、最高の夏を過ごした。なずなにとっても、俺にとっても、光夜にとっても。
千冬の今を知ってゆく、どんどん知ってゆく。
いつか、こんな楽しい夏の日も、思い出に変わるから。
楽しかった、夏の思い出に。
13
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる