星と花

佐々森りろ

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第九章 四人の夏

四人の夏

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* * *

 花火は小学校の隣にある昔から馴染みのある商店に売っている。変わらない外観の商店は、俺が通っていた頃のままだったけれど、出てきたのはあの頃のおばちゃんではなかった。
 適当に手持ち花火のセットと置き花火のセットを選んで、また来た道を戻る。

「なずなちゃん、光夜くんと会えたかな?」

 心配そうに、最後に追加で選んだ線香花火の入った袋を手にして千冬が言う。

「そろそろ青さんの車が借りれる時間なんだよな。迎えいこっか」
「え、車?」
「そ、車」

 青さんにバーベキューをやると言ったら、免許はあるのかと聞かれた。東京ではほとんど乗ることはなかったけれど、乗れないわけではないし、車があれば千冬と行ける行動範囲も広がるし、無理をさせることも減ると思って、あらかじめ貸してもらう約束をしていた。

 大量に買い込んできた食材を両手に下げて歩くなずなと光夜の姿を見つけると、ブレーキをかけ、ハザードを付けて止まった。

「おーい、乗ってかねぇ?」

 突然現れた俺に唖然としているから、笑ってしまう。助手席の千冬は「おいでー」っと二人に手招きをしている。

「あれ?! これって青ちゃんの車だよね?」

 すぐに気がつくなずなに、俺は頷いて真顔で親指を立てた。

「春一、免許……あるの?」
「あったりまえだろ! じゃなきゃ運転してねーし」

 疑う目で見てくるなずなに少しイラッとするけれど、それはまぁいつものことだと諦める。

「だよね、ラッキー! 食材めっちゃ重くって大変だったの!」

 すぐにトランクを開けて荷物を次々入れ始めた。これで準備は万端だ。

「でわ、行きますか」
「しゅっぱーつ!」

 懐かしいいつもの町並みを走り抜けていく。すぐに窓からは海が見えはじめた。窓を開けて、潮風を感じながら、海へはあっという間に着いた。海水浴の時間もとっくに終わって、日の落ちる手前の海にはもう誰もいなかった。

「わーい、貸し切りだっ!」

 なずなが一番乗りで走っていき、サンダルを脱いで砂浜を踏みしめる。

「千冬っ。気持ちいいよー!」
「今行くっ!」

 なずなの言葉に軽く駆け出そうとした千冬のことを、すかさず光夜が手を取り一緒に歩き出そうとすると、すぐに千冬は立ち止まった。

「ありがとう。大丈夫だよ」

 にっこりと笑って、一人で行けると強い目を向けてくる千冬に、光夜は戸惑うようにしながらも、手を放した。そのまま、千冬の後ろ姿を見守るように見つめている。

「……千冬って、強いよな」

 隣に並んで声をかけると、千冬から目を逸らすことなく光夜は頷く。

「……あぁ、強いよ」

 砂浜ではしゃぐ二人を遠目に見つつ、バーベキューの準備をしながら光夜に聞いてみる。

「光夜は、ずっと千冬の病院に通ってたのか?」
「ああ、偶然再会してから、ずっと……」
「そっか」
「……千冬さ、あぁ見えて本当は怯えているんだ。自分の病気と向き合う事を、恐れてる」

 悔しそうな、辛そうな顔をして、光夜は話を続ける。

「俺には決して見せないんだよな。弱音も、悲しい顔も。千冬の弱さを受け止めてやりたいって思うけど、そんな力、俺にはなくて……」

 静かに拳を握る光夜は、小さく呟いた。

「そもそも、きっと頼りない俺なんかに千冬は弱音を吐き出したりしようなんて、思ってないだろうし……どうしたらいいんだろうな」

 消えそうな、どうしようもない苦しい言葉に、暗くなってしまう光夜。場の雰囲気が落ち込んでしまってはいけないと、わざと満面の笑みで光夜の肩を掴んで言った。

「今この時を、一瞬一秒を、千冬が悲しくないように、怖くないように、精一杯楽しもうぜっ!」

 「なっ」と、ガタイのいい肩を強めに叩いてやると、光夜はあっけに取られたような顔をした後に「そーだな」と、笑ってくれた。

「春一ぃ!! 光夜くん!! 早くバーベキューしよーよー!」

 なずなに大きな声で呼ばれて、光夜と顔を見合わせると、笑って「おぅ!」と手を振った。

 千冬と過ごす夏。
 俺達はきっと、最高の夏を過ごした。なずなにとっても、俺にとっても、光夜にとっても。
 千冬の今を知ってゆく、どんどん知ってゆく。
 いつか、こんな楽しい夏の日も、思い出に変わるから。
 楽しかった、夏の思い出に。






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