オッサン織姫の受難

しづクロ

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「年に1回しか恋人に会えないなんて嫌だ」と毛嫌いされ、成り手のいない織姫役に任命されたのは、俺がまだ10代の頃だった。
あくまで臨時だから。
次の候補者には打診してるから。
と長老に言われ続けることウン十年。
若い頃は美少年だと持て囃されていた俺も、時が経ち、ただのオッサンになった。
流石に齢40を迎える男が織姫役は痛すぎるだろうと直訴して、なんとか今年で役を降りることを許してもらえた。

「アイツと会うのもこれで最後か」

渡し船の上から天の川の景色をぼんやりと眺めていると、走馬灯のようにこれまでのことが思い出されていく。

対岸の里から選ばれた今の彦星は、俺より12も歳下の男だ。
男の織姫の相手役なんてとんだ貧乏くじのはずなのに。
それまで毎年持ち回っていた彦星役が、今の彦星になってからは一度も変わらず今に至る。
出会った頃は少年らしさを残していた彼も、もう30近くになるのかと思うとなんだか感慨深い。
俺が役を降りても、彼はまだお役目を続けられる年齢だ。
変わり者だが根は素直で優しい男だ、きっと次の織姫とも上手くやっていけるだろう。
彦星と見知らぬ織姫が仲睦まじく寄り添う姿が目に浮かび、途端に胸が詰まるような、なんとも言えない不快感が体の奥から湧き上がってくる。
俺は船酔いのせいにして横になると、目を瞑って全ての思考を閉ざした。


*******


「おっせぇな~」

天の川を渡りきり、いつもの場所で待っていたが、彦星はなかなか現れなかった。
2時間待っても現れない彦星にいい加減痺れを切らした俺は、探しにいくことにした。

自由奔放な男だが待ち合わせには必ず先に来ていただけに、何かあったのではないかと、そっちの方が心配になってくる。
織姫用の華やかな衣装を煩わしく思いながら、彦星が立ち寄りそうな場所を訪ね歩くが、どこにもいない。

「ったく、どこほっつき歩いてんだ」

歩き回って疲れた俺は、近くの木陰で一休みすることにした。
悪態をつきながらどうしたもんかと途方に暮れていると、どこからかヒソヒソと話す声が聞こえる。

「なぁ、みて。アレ」
「あぁ、例の・・・」
「うわーホンマにオッサンやん」
「アレはないわ~。俺はムリ」

あぁ、久しぶりだな。この感じ。

自分の里では嫌な役を引き受けているだけあって、俺を悪く言ったり嘲笑う奴らはほとんどいない。
最初の頃はこっちに来る度に好奇の目に晒されて、遠巻きに笑われることが苦痛で仕方なかった。
今となっては慣れてしまって傷ついたりはしないのだが、こうして表立って悪意を向けられるのは、近年なかったように思う。

あ、そうか。
いつもはアイツが一緒にいたから。

「姫さんはボクの影に隠れとって」

出会った頃のアイツは、俺の横にピッタリと張り付くと、自分より大きな俺の体を隠すように、精一杯胸を張って歩いていた。
それがおかしいやら可愛いやら。
思わず吹き出すと、「なんかおもろい事あったん?」と無邪気に聞いてくるので、なんと答えて良いものか困ってしまった。
成長して子供っぽさが抜けた後も、さりげなく俺を庇ったり、嫌な視線や空気を感じるなと思ったら急に姿を消して、戻って来た時には視線はパッタリとなくなっていた。

「ずっと守られてたんだな、俺は」

歳のせいだろうか。
それともこれから来る別れのせいだろうか。
妙に感傷的になって涙がじわりと滲んでくる。

早く会いたい。

俺は汗と一緒に涙を拭うと立ち上がり、行方知れずの彦星探しを再開した。




******


「こんなところにいたのか、お前」

やっと見つけた先にいたのは、何度か連れてきてもらったことのある雀荘だった。

「おわぁ!姫さん!なんでおんの?」
「なんでいるのかは、こっちのセリフだ!今何時だと思ってんだ」

徹夜で麻雀をしていたのか。
元々細い目が、開いてるんだかいないんだかわからないくらい糸目になっていた。

「わ~マジかぁ。日付変わってるやん。ごめん、迎え行けんくて」
「このバカ、めちゃくちゃ探し回ったぞ」

疲労困憊で近くの椅子に座り込むと、彦星が慌てて飲み物を注文して持って来させた。

「ごめんな、姫さん。負けられん男の戦いがあって・・・つい」
「へぇ~、で、その戦いは勝ったのか」
「バッチリ負けました!」

元気よく負けを告白して、「やっぱボクは麻雀向いてないわ~」なんてヘラヘラ笑っていたが、急に真面目な顔をして雀卓に座った男たちを見やる。

「やっぱ、腕力でいうこと聞かした方が早いよなぁ」

低い声で指をポキポキと鳴らし始め、男たちを威嚇し始めた。

これ以上付き合っていたら日が暮れる。
怯える男たちを助けるつもりはなかったが、俺は彦星の服の裾を掴んで引き留めた。

「いいから、もう行こう」

その言葉をどういう意味で取ったのか。
彦星は嬉しそうにしながら、痩せぎすの俺を抱えると、雀荘の上の階にある一室へ連れていった。


******


「へぇ~、上が宿になってんのか」

便利だな、と続けようとした言葉は、口付けに阻まれて声にならなかった。
そのままベッドに押し倒され、服を脱がされそうになり慌てて腕の中でもがく。

「ちょっ、待て、話、させろ」
「ん~~?後でいい?先に、姫さん補充せぇへんと・・・」

時間もったいない。
という彦星に、誰のせいだと文句を言いたいが、口付けと胸への刺激に阻まれて上手く言葉が紡げない。

「いや、ホント、待てって、さいご、くらい、話しさせろ!」
「・・・最後?」

動きを止めた彦星が、細い目を見開く。

「お役目を降りる許可がもらえたんだ。だから今年が最後の織姫役だ」

馬乗りになっていた彦星は、身体を離すと力が抜けたようにベッドの上に座り込んだ。

「そっか・・・」
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、うん。いつかくるって思てたけど、今日なんやね」

しばらく呆然としていた彦星だったが、突然何かを思い出したように頭を抱え始めた。

「あ~~~ッ!やったらなおのこと勝たんといかんかったー!!なんで勝てる勝負せぇへんかったんや~、ボクのアホ~~!」
「そういえば、何で勝負してたんだ?」

猛烈に後悔する彦星の姿を見て、勝負することになった経緯を聞いてなかったな、と思い出した。

「アイツら、姫さんがちぃとも可愛ないって言いよるから、んなことあるかアホ、言うて喧嘩になったんよ。そしたら、麻雀勝てたら姫さんの魅力を伝える記事を書いたるって言われて・・・あんなことに」

なんて馬鹿らしくて恐ろしい勝負だ。
知らないところでおかしな広報活動に巻き込まれるところだったのか。
俺は勝利の神様がコイツに微笑まなかったことを感謝した。
そのままベッドに大の字で寝転んだ彦星は、少し沈んだ声でいう。

「結局、姫さんに肩身狭い思いさせたままやったなぁー」
「俺はお前が気にしてくれるだけで充分だよ」

細ガリのくたびれたおっさんを可愛いというコイツの視力が心配ではあるが、俺のことを思って動いてくれたことは有り難かった。
感謝の思いを込めて頭を撫でてやると、お気に召したのか犬のように俺の手に頭を押し付けてくる。

「せや!姫さん!ちょっと付き合うて!」

しばらく気持ちよさそうに髪をすかれていた彦星だったが、急に飛び起きると俺の手を掴んでバルコニーに向かって歩き出した。

カーテンを開き、扉を開けるとあたりはすっかり暗くなっていた。
少し遠くに見える天の川が、キラキラと輝いて存在を主張している。

「な、なんだよ?」

俺は後ろから押されてバルコニーの柵の方へと押しやられる。

「ええから、そこ掴んどいてな」

手すりを両手で掴んだ状態で、何をするのかと様子を伺っていたら、服の合わせから手を差し込まれた。

「おいちょっとまて。まさか・・・ここでする気か!?」

冗談だという言葉を期待して振り返るが、そこにはヤる気に満ち溢れた雄しかいなかった。

「姫さんがめっちゃ可愛く鳴いてたら、みんなが姫さんの魅力に気づくかもしれんやろ?」
「近所迷惑になるだけだろ・・・バカなこと言ってないで部屋に・・・ッ」

糸目から覗く目がギラリと光る。
獲物を見るような獰猛な眼差しは、ベッドの中で俺を責め立てる時によく見る表情で。
これから与えられる快楽を期待した身体が、無意識に抵抗をやめてしまう。
気づいた時には顎を取られて深いキスを与えられていた。
口の中を蹂躙され、服の中に差し込まれた手がいたずらに胸の突起を弄ぶ。

「・・・・ぁッんん」

肌の上を忙しなく這う彼の手に、魔法のように服が脱がされていく。
いつのまにか下履きが脱がされていて。
下半身を撫でる風がここが外だと教えてきて、漏れそうになった声を慌てて噛み殺した。

「我慢せんでもええよ。いっぱい聞かしたろ?」

忍び笑う吐息が耳にかかり、ゾクゾクとした快楽に体が震える。
ダメだ。
このままじゃ本当に、汚くて恥ずかしい声を近隣住民にお届けすることになってしまう!
俺はやめてほしい一心で、背中から俺をホールドしている彦星に涙目で訴えた。

「そ、そんなの!お前だけが知ってりゃいいだろ!」

ピタリと動きが止まる。

「そうやった。そうでした!姫さんが可愛いのもいやらしいのも。全部ボクだけが知っとったらええことでした!」
「だったら・・んっ、ぅ・・・・、もうっ」

部屋に戻ろう、ベッドで続きをしようと言いたいのに。
コイツの手も口も一向に止まらない。
俺の首筋を啄むようにキスを落としては、胸の突起を爪で引っ掻く。
溢れてしまう喘ぎ声を抑えようと、唇を噛んだ口を片手で覆われる。

「せやったら、気づかれんように静かにしよな」
ちっがーーーーーーーうっ!!

耳元で囁かれた言葉に、心の中でツッコミを入れる。
俺の身体を熟知した手は、抵抗しようとするたびに弱いところを責めてきて。
バルコニーの柵と彦星の身体に挟まれた俺は、逃げ場なくされるがままに快楽に翻弄されていた。
中途半端に煽られて頭がぼーっとしてきた頃、後ろの穴に指の感覚がして、俺の身体は喜んで締め付けてしまう。
それが恥ずかしくて。
震えて羞恥心に耐えていると、嬉しそうに抱きしめられる。

「ならしてきてくれたんやね。これやったらすぐに奥まで入れられそうや」

この日のために数日かけて広げていた後孔の感触を確かめるように言われて。
居た堪れなさに息が止まりそうになる。

「嬉しいけど、今度はボクがやりたいから。お楽しみ残しといてな」

来るはずのない今度の話に、胸の不快感が蘇る。

「男の尻を弄りたいなんて物好きはお前くらいだよな」

じわりと広がる不快感を捨て去りたくて、ぶっきらぼうに言った。

「ボクが触りたいんは姫さんのだけ。間違えんとって」
「あっ・・そこばっか・・やめろ」

拗ねたようにいうと、中に潜り込んできた指が浅い性感帯を刺激する。
内股を擦り合わせて耐えていたが、身体が痙攣し始め、目の前が白む感覚に、そろそろイキそうだと思った途端、指を引き抜かれた。

「はぁ・・、はぁ、はぁ・・・」

イキ損ねた貪欲な身体が、密着している彦星の身体に下半身を押し付けて、自分が欲しいものをねだる。

「ホンマ、エロい身体」
「ンッ、あんんぅっ・・・ぅんッ、いぃっ」

急に後ろから突き上げられて、手すりを掴んだ手に力が入る。
動きは激しくなり、前に回された手に鈴口をグリグリと刺激されて、切羽詰まった嬌声が漏れ出てしまう。

「い、やぁアッ、あぁっ、いぃッ!や、声、出る・・・ッ」
「ええよ、もっと聞かして」

静かにヤる話はどこへいったのか。
容赦なく嬲られて、俺は声を抑えることもできずに喘ぎまくった。

「んんぅ・・・ふぅ、ぅんあッ・・・あ、あぁ、イっ、イクッ!」

唇を噛んで抵抗するが、その度に指を差し込まれたりキスをねだられるので、声を抑える隙もなかった。
中からも外からも弱いところを責められて。
俺はあっけなく達してしまった。

「やぁぁあああ・・・ッ!!い、イった!イったからあぁぁ!!」

息つく暇もなく。
達して敏感になった陰茎をさらに刺激されて、透明な液体がベルコニーの柵と彦星の手を汚す。
ぐっしょりと濡れた彼の手の中で震える陰茎がさらに刺激されて、俺の体は自分のものではないみたいに跳ねる。
体が支えきれなくなり、ズルズルと崩れ落ちた体は四つん這いになって。
彼のモノを受け入れている腰だけが高らかに挙げられているという、犬のようなポーズを取る羽目になった。

「やらしい格好やなぁ。姫さん」

誰にも見せたらあかんよ?と言いながら、俺の腰を持って卑猥な音を立てながらピストン運動を繰り返す。

俺はぼんやりとした思考の中で。
俺の中を埋める肉の感触を忘れまいと、必死で意識を保っていた。



******


こうして最後の勤めを終えた俺は、名残惜しげにキスを繰り返す彦星に別れを告げ、自分の里へと帰ってきた。
まだ腹の中に残るアイツの感触が、いつまでも消えなければいいのに。
なんて柄にもないことを思いながら、疲れた身体をベッドに沈ませていた。

どれくらい時間が経ったのだろうか。
玄関のチャイムが鳴る音で目覚めた俺は、まだぼんやりとした頭でドアを開けた。

「来ちゃった☆」
「・・・なんだ、夢か」

玄関先に立つ大きな荷物を背負った男は、先ほど今生の別れをした彦星だった。
最期に付き合わされた変態プレイが相当トラウマだったらしい。
早くベッドに戻って寝直そうと、閉めかけた扉の隙間に足が差し込まれる。

「ちょっとぉー。あんなに熱い夜を過ごしといて、夢オチはないやろ」
「熱い夜?アブノーマルな夜の間違いだろ」

まだ痛む腰をさすりながら部屋に入ると、彦星も当然のように入ってきた。

「なんでここにいる?」
「なんでって、アンタがお役目、降りたからやろ」
「俺が役目を終えたのと、お前がここにいるのは関係ないだろうが」
「あるわ。ボクら織姫と彦星やん」
「“元“な」
「元だろうが、なんだろうが。引退した織姫と彦星が一緒に住んでいつまでもしあわせに暮らしました、めでたしめでたし♪は、よくあることやんか」
「いや、それは・・・」

男女の織姫と彦星なら、引退後に結婚して一緒に住むのはよくある話だが、俺たちは男同士で、しかも俺は彦星よりだいぶ歳をとっていて、それに・・・。
俺の思考は一緒に住めない理由を並べ立てていた。

しかし、それを口にしない理由はただ一つ。

「ボクと一緒に末長く暮らしたくないん?」
「いや、そういうわけでは・・・」

俺も彦星と一緒にいたいからで。

「ほんならええやん。これからも夫夫、仲良くしよーな」
「ふ、ふうふ!?」

差し出された手と握手をしようとしたら、くるりと半回転させられて、そのまま手の甲に口付けを落とされる。
細目の奥から覗く瞳がじっとこちらを見ていて。
その逃げることを許さない瞳を、どこか満ち足りた気持ちで受け止めていた。
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