贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ

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第1章過去と前世と贖罪と

10・業と得の話

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「じゃあとりあえず、あだ名決めましょう」
「あ、あだ名…?」

とりあえず、協力者になってくれることがわかったので、
私はエドナにそう言った。
ちなみにまだここは食堂ではあるが、エドナは料理はもう食べ終わっている。

「とりあえず親しくなったからには、あだ名で呼びあった方が良いと思うんです」
「あなた…頭大丈夫?」

自信満々にそう言ったら、何故か心配そうな顔をされた。

「親しくなったって、…私とあなたはまだ仲間でも何でもないのよ」
「え? でも友達ですよね」

そう言ったら重たいため息をつかれた。

「あなたは根本的に勘違いしているわ。
冒険者同士ってのは、基本的にあんまり馴れ合わないのが普通なのよ」
「そうなんですか?」

個人的には、冒険者同士っていうのは戦友みたいな感じで、
お互いのことをよくわかっているイメージだったけど、違うのだろうか。

「冒険者っていうのはね。
あんまり触れられたくない過去や、
言いたくないことがたくさんあったりするものなのよ。
だから例え仲間であっても、お互いの過去については詮索しないのが普通なのよ」
「そうなんですか?」

確かに死ぬ危険性が段違いに高い職業だから、
それを選ぶって事は触れられたくない過去があって、
当たり前なのかもしれない。

「そうなんですか。それと知らずに変なこと言ってすみません」
「別にいいけど…気をつけてね」

それは自分の過去について詮索しないで欲しいと言う態度にも取れたが、
その時の私は全く気が付いていなかった。

「それで話はこれで終わり?
食事も済ませたし、早く部屋に戻りたいんだけど」

どこかそっけない態度でエドナはそう言った。
てゆうかこれだけの料理…食べられるかと本気で心配したけど、
そんな事はなかったようだった。

「じゃあ部屋に戻りましょうか」

そして私達は食堂を後にした。
2階の階段を上り、廊下に入るとふと私はあることに気がついた。

「そういえば今気がついたんですけど、
エドナさんの泊まっている部屋って、私の部屋のすぐ隣ですよね」
「え?」

食堂に行く前に、エドナは荷物を置くために隣の部屋の中に入った。
その時は再会できた喜びで気がつかなかったが、
エドナの泊まっている部屋は、私の部屋のすぐ隣だった。
偶然同じ宿に泊まり、
しかも部屋まで隣と来たら…さすがにおかしいような気もする…。
ん? 待てよ。これってまさか…頭にある可能性が浮上したが、
それはエドナに伝えないことにした。

「まぁ、これも偶然ですよね…」
「そうね…おやすみなさい」
「おやすみなさい」

そう言って、私は自分の部屋に戻ってきた。
その時、部屋の鍵を閉め忘れたことに気が付いて慌てた。
床に置いてあるカバンを見ると、
中身は盗まれていないみたいでホッとした。

ここは異世界。日本みたいに治安は良くないだろうから、
部屋に鍵をかけるのは忘れないようにしないと…
私は部屋に鍵を閉めると、上着を脱いでベッドに入った。
とりあえず念のため、ベッドの周りに結界を張っておいた。
これで不審者は寝ている私に手出し出来ない。
空間術はその力を持った魔道具によるものと説明しておいたけど、
私を殺してでもそれを奪おうとする人間は居るはず、
だから警戒しておいて損はない。

ベッドに横になると、今日1日のことが思い出された。
うん、濃い1日だったな。
馬車には乗ったし、
変な冒険者にはからまれたし、
ギルドで勧誘されまくったし、
そして協力者が出来た。これが一番大きい。

エドナは私の協力者として、色々なことを教えてくれるだろう。
それがすっごく嬉しい。
だってさすがに1人っていうのも寂しいし…不安だし。
私は最強魔力を持っているけど…まだまだ知らない事は多い。
魔力的な側面から見たら、私は確実にエドナより強いだろうけど、
冒険者としての知識や経験はエドナの方が優れているだろうからな…。
彼女から教わることは多いだろう。

そんなことを考えていると、
だんだんと眠くなってきて、気が付いたら眠っていた。



「あれ…?」

ベッドに眠っていたはずなのに気が付いたら、真っ暗闇な空間の中に居た。
周りは暗いのに、私の手足ははっきり見える。
だがその手足はうっすらと透けているようにも見えた。ここはまさか…。

「やぁ」
「ぎゃあーー!!」

突然、逆さまの地獄神の顔が目の前に現れて、私は腰を抜かした。

「ぎゃーって酷いな。人を化け物みたいに…いや化け物か」

くくっと逆さまのまま地獄神は笑った。
得体の知れないその笑みに私は戦慄する。

「な、ななな何ですか、あなたは…?」

私がそう言うと、地獄神は宙に浮いたまま、
くるりと体勢を戻し、王座に腰掛ける。
ちなみに一連の動作の中で、
何故か頭の王冠だけは、地獄神の頭に固定されているかのように落ちなかった。
神様だから重力とか操れるのかな。それとも頭に直接生えてるのかな…。
そんな失礼なことを考えていると、地獄神がクスクスと笑った。
人並み外れた美貌ゆえに、それだけで多くの人を魅了してしまいそうだが、
私にとっては末恐ろしいものでしかなかった。

「やぁ、元気?」

そう言われたが突然の出現に私は言葉が出てこなかった。
一体全体どうして地獄神が目の前に…。

「君の魂を一時的にこちらに呼び戻してみた。
といっても君は死んだわけじゃないし、
地上の君の肉体はちゃんと眠りについているから安心だよ」
「あ、あの、どうして私を呼び出したんですか?」

私は言葉に詰まりながら、それだけ言った。
地獄神と会話すると、
プレッシャーを感じるため、どうしても緊張してしまうのだ。
しかし地獄神はどうして私を呼び出したんだろう…。
その時私はハッとした。
そうだ。魔法の扱い方に気を付けろと言われた矢先に、
カルマを増やしてしまった。
まさか、まさか私を地獄に落とすために呼び出したんじゃあ…

「違うよ。今日呼び出したのは、そのことじゃないよ。
あれは相手が悪いんだし、ボクもそれぐらいで地獄に落としたりしないよ」

何で何も言っていないのにそれが…ってそうだ。地獄神は心が読めるんだった。
あれ…あの時は気が動転して気が付かなかったけど、
心が読めるという事は、隠し事もできないってことじゃ…。

「もちろん、そうだよ」

うわぁ…良い笑顔で肯定したよ。でも心が読まれるなんて嫌すぎる。
何とか心を読まれない方法は…心を無にするしかないけど、
そんな極限状態に追い込まれた漫画の主人公みたいなこと絶対無理だ。
そもそも防ごうにも、私の魔力の供給源は地獄神だから、
その地獄神の読心攻撃を防ぐ方法は…存在しないじゃねーか!

…よし、もう諦めよう。
完全に手詰まりです。
もう心が読める新手のエイリアンだと思うことにしよう。

「君ってたまにものすごく失礼だよね」
「勝手に人の心を読む方が失礼だと思いますけど…止めてくれませんか」
「そんなことより、ボクに聞きたいことがあるんじゃないのかい?」

予想してたけど見事にスルーされたよ…。
その様子だと心を読むのを止めてって言っても、やるんだろうなぁ…。
私は大きくため息をつくと、さっきから気になっていたことを聞いた。

「私とエドナさんを宿屋で引き合わせたのは、あなたですか?」

そうだ。考えてみたらおかしなところはたくさんあった。
そもそも熟練冒険者であるエドナが『たまたま』この町に来た時、
『たまたま』同じ馬車に乗り合わせて、
『たまたま』同じ宿の隣の部屋に泊まっていて、
しかも『たまたま』私が協力者を欲しがっているタイミングで再会した。
これは明らかにおかしい。
何らかの力が、私とエドナを引き合わせたと考えた方が普通だ。
地獄神は興味深そうに頷いた。

「なるほど、君はそう捉えるわけだ。
でも残念ながら、
君と彼女が再会した件だけど、ボクはこの件には関わっていないよ」
「え?」
「君と彼女があんな風に再会したのは、君がそう望んだからだろうね」
「なんで私が望んだらそういうことになるんですか?」
「これは…黙っておこうと思っていたけど、
どうしても説明するには話さないといけなくなるから、伝えるよ。
君はさ。カルマってなんだと思う?」
「えっと、業ですよね? 悪い事したら溜まっていくんですよね」
「そうだけど、さらに詳しく説明するなら、
カルマというのは、実は悪い場合でもなく、善いことをしても溜まっていくんだ」
「え? どういうことです?」
「あの時は、君がかなり混乱していたから、説明を省いたけど。
カルマというのは、善い場合も、悪い場合も含む言葉なんだよ。
自業自得って言葉があるだろう?
悪い事したら自分に跳ね返ってくるけど、善い事をしても自分に跳ね返ってくる。
悪いことをしたら不幸が、
善いことをしたら幸運が舞い込んでくる仕組みになっているんだ。
自分がやった行いによって、良くも悪くもなる。
カルマとはその仕組みそのものを言うんだ」
「えっと、つまりカルマっていうのは、良い場合と、悪い場合があって、
その両方を指す言葉なんですね」
「そう、カルマとは、本来はその両方を指す言葉。
でも、これを詳しく説明するには、それを区別しないといけないから。
ここは仮に悪い場合のカルマを“業”。
善い場合のカルマを“得”とでも呼ぼうか。
例えばある人が悪いことしたとする。
するとその分業を稼いだということになるのだけど。
後で反省して、その罪を償うために人助けをしたとする。
そしたらその得によって、業が消えるんだ。
まぁ計算に当てはめると、業がプラスで、得がマイナスみたいな感じだね。
プラスされた業を、得によってマイナスにする。
それが善行を積むということなんだよ」

えっとつまり、私がやらないといけない事は、
9999プラスされた業を、
善行によってマイナスにしていくということか?

「そういう事。
ちなみに君のステータスに表示されるカルマ値は、
さっき言った計算式で成り立っているよ。
最も君の場合はカルマが多すぎて、正確な数値が表示されていないけど、
得を積めば必ず消えているから安心して」

…というか、減らすどころかむしろ増やしているんだけどな…。
本当に消せるんだろか。

「それは君の頑張り次第だよ。
言ったでしょう? これほどのカルマはそうやすやすとは消せはしないって。
君が選んだのはそういう道。諦めるなら、地獄行きだよ?」
「誰も地獄に落ちたいなんて言ってませんよっ。
…しかし得によって業を相殺するなら、
得を積み過ぎた場合はどうなるんでしょうか?」

業を積み過ぎた場合は分かる。おそらく地獄行きだからだ。
でも得を積み過ぎた場合はどうなるのだろう。

「ああ、その場合は来世で持ち越されるね」
「来世?」
「君の世界でいう、輪廻転生。
いわゆる生まれ変わりというやつだけど、
それは確かにこの世界にも存在している。
最も生まれ変わると、記憶を失うから、別人になってしまうんだけど、
魂の性質、まぁ元々の性格だね。それは変わらない。
そして生まれ変わる時に、
得を使うんだけど…これはちょっと説明が難しいかな。
えーっと…」

地獄神は何かを探しているのか、視線をさまよわせる。

「ああ、良い表現があった。
いわゆる、2周目だよ。
ゲームで言う2週目の引継ぎポイントだと思ってくれたらいい」
「え? ゲームをやった事はあるんですか」
「無いよ。でもそれが一番表現として近いかな。
また新たにゲームを2周しようと思ったら、
レベルとか、装備とか、所持金とか引き継いで、始めるでしょ?
それと同じように生まれ変わる時に、
親や、環境、才能、容姿とかも、選択出来るんだ。
でもそれを選択するには、自分が一生のうちに積んだ得が必要になってくる。
現世で多くの人を幸せにした場合、積んだ得も多いから、来世が有利に働く。
逆に多くの人を不幸にした場合、
積んだ得も少ないから、あまり良い環境に生まれることが出来ない」
「でもそれだと、業は得によって相殺されるから、
私の場合、ほとんど手持ちの得がないということになりますけど」

別に来世の心配をするわけではないが、気になったのでそう聞いてみた。

「ああ、ごめん。ちょっと説明が抜けてた。
転生する時に使う得は今まで自分が稼いだ得の総合数値だよ。
業を相殺する時に消費した得もそれに含まれるから、心配はないよ」

なら、良かった。さすがに来世も苦労はしたくないからな…。
つまりだ。
地獄神の話を総合すると、
2週目で色々引き継ごうと思っても、その分の得が必要になる…。
例えば、どっかの貴族のボンボンに生まれて、
一生何不自由なく暮らそうと思ったら、
その分、人を幸せにしないといけないということか。これは大変そうだな…。
てゆうか、もしそうだと手持ちの得がほとんどなかった場合は、どうなるんだ…。

「その場合はまず人に生まれ変わることが出来ない」
「え? それって魔物ってことですか?」
「いいや、魔物じゃない。動物や、あるいは植物、1番多いのが虫かな」
「え…それってまさか害虫とかも含まれます?」
「当然含まれるよ。というか罪人の魂はほとんどが害虫だね。
ムカデとか、蛾とか、クモとか、あと君の世界でも忌み嫌われているあの黒い…」
「それ以上言わないでください…背中が痒くなるんで」

という事は、この世界にも、私の世界と同じように害虫は居るらしい…。
うぇぇ、あんなのに生まれ変わるなんて嫌すぎる…。
頑張って、善行積もう。そう決意した。

「まぁでも罪を犯したからって言って、すぐに虫になる訳じゃないよ。
本人の態度次第で情状酌量の余地があるとされた場合は、
また人に生まれ変わることが出来る。
そこで多くの人を助けて善行を積むことができたなら、
業を消すことができるわけだけど、
もしもそこでまた人を殺したり、
誰かを傷つけた場合は、残念ながら地獄に行くよ」
「という事は償いのチャンスは与えられているわけですね」
「そうだよ。でもそれに気がつける者はとても少ないんだ。
ほとんどは業を消すことが出来ずに、地獄に行くことが多いし、
それにたとえ地獄で業を全て消したとしても、
すぐに人に生まれ変わることは出来ない。
最初は虫から始まり、
何百回と他の生物に生まれ変わって、やっと人になれるんだ。
でもそこでも悪い事してしまうと、また地獄に行き、
人に生まれ変わるまで、
何百回も他の動物、または虫に生まれ変わらないといけないんだ。
この繰り返しから、抜け出せない者は、実はかなり多いんだよ」
「それ考えると、人になれることってひょっとして、すごいことなんですか?」
「そうだね。君は信じられないかもしれないけど、
この世界で人に生まれている人は、それなりに前世で得を積んだ人なんだ。
まぁやっと人に生まれ変われたにも関わらず、
悪いことをしている奴も多いんだけどね」

やれやれといった様子で、地獄神はそう言った。
そうか…悪人が罰せられずにのうのうと暮らしているのはおかしいと思っていたけど、
来世が虫になるって思ったら、なんだか哀れに思えてきたぞ…。

「…じゃあ、逆にお金持ちに生まれた人は、前世で徳を積んだ人なんですね」
「いいや、そうとは限らないよ。
徳を摘みながら、あえて厳しい環境で生まれてくる魂もいるし、
金持ちといっても、愛情が極端に少ない家庭の場合、不幸になる事は決まっているし、
人にもよるかなぁ…これは」
「え? あえて険しい環境に生まれる人っているんですか?」
「居ることには居るけど…これまで説明したら、
君の頭がオーバーヒートしそうだからなぁ」
「オーバーヒート?」
「人が一度に受けることが出来る情報には限りがあるんだよ。
それ以上は頭がオーバーヒートして、受け付けなくなるんだ。
ほら、ボクと最初に話した時、もういっぱいいっぱいって感じだったでしょ?」

あー…確かにあの時はかなり混乱していた。
いきなり死んで、
このままだと地獄に行きますって言われたら誰だってそうなるだろう。
オーバーヒート…確かにそうだったかもしれない。

「で、まぁ業の話に戻るけど、業の厄介なところはね。
これが溜まり過ぎると、実は不幸な出来事を引き寄せやすくなるんだよ」
「不幸?」
「病気やケガをしやすくなるし、周りの人にもその不幸が及ぶことがある。
逆に得が溜まっている場合は、
幸運を引き寄せやすくなるし、自分が願ったことが叶いやすくなる。
例えば、気になる人と宿で再会出来たりといった感じにね」
「え?」
「実は君には隠していたことがあった。
君に与えたスキル、実はアレだけじゃないんだ。
もうステータス表示されるようにしておいたから、見てごらん」

私は慌ててステータスを表示してみた。

【セツナ・カイドウ】
【年齢】17才 【種族】人間 【属性】火、水、風、地、闇、無。
【職業】Fランク冒険者
【称号】無実の贖罪者
【レベル】3
【体力】120/120
【魔力】∞/∞
【筋力】F 【防御力】F 【精神力】F
【判断力】E 【器用さ】B 【知性】A 【魅了】?
【状態】
【カルマ値】9999(判定不可)
【加護スキル】地獄神の加護、超回復、各種免疫、言語理解、空間術、幸運。

え…? なんだか見知らぬスキルが表示されている。なんだこれは。

【幸運】幸運を引き寄せる。かなりラッキーなことが起こる。
といっても普段はカルマが引き寄せる不幸で8割は相殺されている。不憫。

不憫って…魔法に不憫って言われたよ…。でもこれって一体どういうことだ。

「ああ、実は君には、ボクの得を分けておいたんだ。
そうじゃないと君は背負ったカルマが引き寄せる不幸で、
善行を積むこともままならないだろうからね」
「え、そんなことが出来るんですか?」
「出来るけど、それで君のカルマは消えたことにはならない。
得は自分が積んだ得じゃないとダメなんだ」

えっと、つまり今の私はカルマをかなり背負っているけど、
地獄神が分けてくれた得のおかげで、
不幸が押し寄せる事は無くなっている。
でもどれだけ地獄神が得を与えてくれていても、
私のカルマは消えることがない…。

なんじゃそりゃぁぁあぁああ!
逆は良いのに、何で逆はダメなんだよ!!
おかしいだろ!! 不平等だろ!!

「それについては仕方がないんだよ。
そもそもあの忌々しいカルマ転移の術だって、
この世界の枠組みから外れたものだし…」
「どういうことです?」
「うーん、それを今、説明すると君の頭はオーバーヒートどころか、
確実に爆発するだろうから止めておくよ」

なにそれ怖い。
爆発って実際に爆発するのか、精神的な意味で爆発するのか、どっちなのよ?

「まぁそれはともかく、
君のカルマが引き寄せる不幸は、
ボクの得によって相殺されている事は覚えておいて。
といってもこれは完全にじゃない。
一応君には最高金額の宝くじが5回当選できるぐらいの得を与えておいたけど、
それでもこれは君の得じゃないから、完全には不幸を防げない。
君が男の冒険者に絡まれて、魔法を使って、カルマを増やしてしまったのは、
カルマが引き寄せた不幸のせいだろうね」

ああ、確かにあの男のせいで私が空間術が使える事が周りにバレてしまった。
あれはカルマが引き寄せたものらしい。
てゆうか…そんなことよりも…、
最高金額の宝くじが5回当選出来る得って何だよ…。
さらっと言ったけど、ものすごいことじゃないのか。
ていうか、ゲームやったことがないのにゲーム用語について知ってたり、
私の世界の宝くじについて知ってたりするのは、
多分…私の頭の中の情報を見たからだろうな…。
手帳でお金について説明する時にも、同じこと言ってたし…。
ダメだ…頭がオーバーヒートしつつあるのかな。
ツッコミを入れる気力も起きない。

「おや、そろそろ話はこれで切り上げた方が良さそうかな。
まぁ補足として言っておくけど、
ボクの与えた得によって、
君は君の願ったことが叶いやすくなる状況にある。
でも同時に不幸なことも起こることもあるだろう。
君にはこれから不幸なことも、幸運なこともその身に起きる。
それは覚悟しておいて」

「あの…1つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「私には今それだけの幸運が付加されているんですよね?
でも生前は…一度死ぬ前はそんなものは当然無かったわけですよね…。
という事は、私が酷い扱いを受けたのも、
凄惨な死に方を遂げたのも、それが原因ってことですか?」

私にはその記憶がない。でも確かな事は1つだけある。

“また”殺されてしまう――――。

町で男の冒険者にからまれた時、確かに私はそう思った。
そしてその直後に私は反射的に魔法を使って、あの男を倒してしまった。
自分でもどうしてそんな行動をとったのか分からない。
あの後ごたごたしていたせいか、
すっかり忘れていたが、あれはどういうことなんだろう。

「それを知ってどうするの?」

しかし私のその気持ちとは裏腹に、地獄神は能面のように無表情になった。
まるで彫像か何かであるかのように、
人間らしい感情が微塵もそこには存在しなかった。
完全な無。そう形容するに相応しいだろう。
私は先ほどまでの態度の違いに、大いに戸惑った。

「いえ、ただ何となく気になって…」
「思い出したら後悔するよ。君はとてつもなく不幸だった。
でも今は忘れて、元気に暮らしている。
それだけでいいじゃないか、ヒョウム国でのことなんて忘れたままで良い」

無表情のまま、地獄神はそう言う。
その顔が何だかだんだん作り物みたいに思えてきた。
たぶんこれが――――彼の素の表情なのかもしれない。
考えてみれば当たり前だった。
地獄神としてこの世の道理に通じている彼が、
見た目どおりの少年であるはずがない。
おそらく普段は人間らしく振る舞うようにはしているが、
人間みたいに感情に支配される事は無いんだろう。

「あ…、あの私は、私は…それを知らないといけないんです」
「何故?」
「い、いえ、ただ忘れているままじゃいけない気がして」

そう言うと、地獄神がため息をついた。
そうして私を見た時の彼は、いつも通りの飄々とした彼だった。

「やれやれ、君は困った子だね。
ま、結論から言うと、
君の身に何が起こったのか、今は教えることは出来ない。
でも来たるべき時がきたら、必ず思い出せるはずさ」
「でも、私の記憶は死んだ時に、
その衝撃で吹っ飛んでしまったんですよね?
思い出せるでしょうか…」
「それを決めるのはボクじゃない。君自身さ」

どういうことだ。記憶を無くしたのに自分で思い出せるのか?
そう思っていると地獄神はふっと笑みを消した

「君はずいぶんと内面に不安を抱えているんだね。…まぁ当たり前だけど」
「どういうことです?」
「いや、なんでもない。
まぁとにかく、困ったことがあれば、
今日君が出会ったエドナという女性を頼ればいい。
彼女は信用出来る人だよ。
口も堅いし、余計な事も言わないし、
嫉妬にかられて他人を誹謗中傷することもない。
人間としてはまぁそれほど人格者というわけでもないけど、
自分自身の立場をわきまえているから、まぁ及第点かな。
冒険者としての知識と経験も豊富だから、
何か困ったことがあれば彼女を頼ればいい。
きっと助けてくれるはずだから」

………おい。そんな情報をどこで知ったんだよ。

「そりゃ神だから」

うん、私の疑問が一言で解消したよ。
でも神様だから、それが納得できてしまうのが、すごいところだよな…。
だがそんなどこかのほほんとした気持ちは、次に地獄神の言った言葉で吹き飛んだ。

「…それに君は彼女と、これが初対面じゃないからね」
「は? どういうことです、それ?」

初対面じゃない? どういうことだ。
でも私にはエドナと出会った記憶がない。
という事はヒョウム国に居た時にエドナと出会ったってことか?
そう思っていると、地獄神が杖を構えた。

「さて、もう話はここまでにしておこう。地上に帰る時間だよ」
「待っ――――」

まだ聞きたいことがあるのに、そう私が言うよりも先に地獄神が私に杖を向けた。
その瞬間、目が覚めた時には宿のベッドの上だった。
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