贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ

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第1章過去と前世と贖罪と

26・意外な救世主

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「何をしているの?」

ハンクに胸ぐらをつかまれている時だった。
唐突にギルドの扉を開き、そこからエドナが現れた。

「なんだお前は?」
「私が誰かなんてどうでもいいことでしょう。それよりも彼女を離して」
「部外者は引っ込んでいろ!」

ハンクはまた修羅みたいな表情でエドナを睨み付けた。
しかし彼女は冷ややかな目でハンクを見ただけだった。

「離せと言っているのがわからないの?」

エドナは未だかつてないぐらいの冷たい眼差しでハンクを見た。
私に向ける温かみのあるものとは違い、本当に冷たい目をしていた。

「いつまで胸ぐらをつかまれているつもりなの?
自分の気持ちは、はっきり相手に主張しないと伝わらないと言ったでしょ」

その言葉は、最初誰に向けて言われているものなのか分からなかった。

「私はいつもあなたのそばにいるわけじゃないの。
だからあなたのことは、あなたの力で解決しないとダメなのよ」

そう言われて私はハッとした。
そうだ。自分のことは自分でなんとかしないと、
自分の意見をちゃんと相手に伝えないと、
自分の気持ちは伝わらないんだ。
私はそのことをすっかり忘れていた。

「止めてください!!」

私は思い切ってハンクを突き飛ばした。

「あなたが何を言っているのか、さっぱりわかりませんっ!
確かに勢いで聖月草を採ってくるとは言いましたが、
そんなこと、かけだし冒険者の私に出来るはずありません。
おそらく聖月草は誰かが好意で教会に寄付したものでしょう。
私はこのことには一切関わっていません。以上です!」

私が矢継ぎ早にそう言うと、ハンクがぽかんとした顔をした。

「だが、聖月草は…」
「知らないと言っているでしょうが! しつこいですね!」
「よく言ったわ。セツナ」

エドナが満足そうにそう頷いた。

「とりあえずその件には彼女は一切関わっていないから、
もし今後も付きまとってくるようなら、私が相手になるわ」

それだけ言うと、
私とエドナは呆然としているハンクを置いて、ギルドを出た。
その後ろ姿を、ジャンがいぶかしむような目で見ていた。



「はぁ~助かりましたよ。ありがとうございます」
「はぁ…まさかこんなことになるなんてね」
「そんなことより、どうしてギルドに?」
「いや…、ちょっと市場で買い物しようと思ったら、
近くを通りかかったから、中に入っただけよ」

…相変わらずエドナの方向音痴は筋金入りだ。
市場って、こっちと全然別方向なのに…。

「そんなことよりも…セツナ。ちょっと話があるんだけど良い?」
「何ですか?」
「今後のことで話し合いたいの」

エドナは真剣な顔で私を見た。

「良いですけど…何の話ですか」
「ここでは言えないわ」

エドナにそう言われたので、
とりあえず宿に移って話をすることになった。

「それで話とは何です?」

私は宿の自分の部屋に入ると、椅子に腰掛けてそう聞いた。

「単刀直入に聞きましょう。
あなたは本当に自分の力を隠す気があるの?」
「え? 何ですいきなり?」
「いいから答えて」

エドナはいつになく真剣な表情していた。

「あります…けど」
「なら、どうしてアリアドネの森に勝手に行ったりしたの?」
「それは、…ハンクのお母さんを助けるためです」
「…どうして特に親しくもない彼のためにそんなことをしたの?」
「だって放っておけなかったんです。
彼は自分のお母さんが病気なのに何もしてあげれないって苦しんでいた。
私には助けれる力があるのに、無視することはどうしても出来ませんでした」

私はこの世界に来て、強制的にお母さんと別れることになってしまった。
だからこそ肉親と別れる辛さがどれだけのものなのか想像がつく。
私はそれを彼にも味わって欲しくなかったのだ。

「でも彼は喜んでいなかった…これはどうしてだかわかる?」
「はい…、私は肝心の彼の気持ちを無視していたからです。
自分の感情だけを最優先にして、それを押し付けていた。
だからあんな風に怒られてしまったんだと思います」
「そこまで理解しているなら、
私が言う事は何もないと思うけど、
ただこれだけはどうしても言っておきたいの。
あなたはとてつもなく強い力を持っている。万人の誰もが憧れる力を持っている。
でもね。だからといってそんな風に誰かを救おうとしなくてもいいと思うの」
「そう言われても…私にはそれをしないといけない理由があるんです」
「あなたが何かとてつもなく切羽詰まった理由があって、
人を救わなければならないと言う意思に支配されている事は、
私も薄々感じているわ。
でもどんなに強い力を持った魔法使いであっても、
全ての人は救えないし、
例え救えなかったとしても、あなたが責任に思う必要は無いって。
困っている人がいるなら、それら全てをあなたが救わなくてはいけないの?
それが強い力を持ってしまった者の使命だから?
そんなものははっきり言って傲慢よ」

エドナの言葉はもっともだった。
確かに救おうとすること自体傲慢だったかもしれない。

「それは…そうかもしれません」
「それに救った人が必ずしもあなたに感謝すると限らないわ。
現に今にも殴られそうだったじゃない。
今回はたまたま私が近くにいたから助けられたけど、
今後もそうとは限らないかもしれない。
だからその場の感情で動くんじゃなくって、
もっと先のことを見据えて、
周りに起きる影響を考えて、行動した方がいいと思うの」
「はい、ごめんなさい…」
「…反省してるならいいけど、
あなたのその力がバレれば、
色々な人間があなたを利用しようとする事は忘れないで。
賢者や聖眼持ちの力を欲しがっている権力者なんて、この世界にはごまんといるわ。
この国では幸いにしてしばらく戦争は無いけれども、他国がもし攻めてきたら、
あなたはその最前線で戦わされることになるかもしれない。
それだけじゃなくて酷い場合には洗脳して、
何でも言うことを聞く人形にされたりするかもしれない」

そう言われて、私ゾッとした。
洗脳というと日本でもよく耳にしたことはある。
芸能人が洗脳されて多額のお金を霊媒師に貢いだり、
怪しげな宗教に入って、体と心をズタズタにされたり、
よくニュースやドキュメンタリーで見たことがある。
…それにだ。この世界にはあることにはあるのだ。
傀儡魔法と呼ばれる相手を意のままに操る魔法が。
禁術に分類する魔法で、操られた人間は何でも言うことを聞く人形と化す。
そんなもんを使われたら善行を積むどころの話ではない。
相手の言われるままに、人を殺して、カルマを積むことになるかもしれない。


私はその時になって、初めて自分の考えがいかに甘かったのか悟った。
日本では平和な生活をずっと送っていたから、
政治的陰謀やら、人の悪意に触れることはまず無かった。
だから平和ボケしたまま、この世界で暮らしていたが、
それが今になっていかに危険なことかわかった。
もっとしっかりしないとダメだ。平和ボケしたままじゃいけない。

「ごめんなさい。
私がしっかりしていないばかりにエドナさんに心配をかけて…」
「…別に心配してるわけじゃないけど、
このことがバレて一番困るのはあなたよ?
私は別に何も困らないし、何かあったらさっさと逃げるわよ」

そうあっけらかんとした様子でエドナは言った。

「え、逃げるんですか?」
「当たり前じゃない。何を期待してるの?
自分の身を守れるのは自分だけよ。
誰かが助けてくれるなんて、期待する方がおかしいし、
自分のことは自分で助けないと誰が一体助けるの?」

そう言われて、確かにその通りだと思った。
最強魔力があるから、大抵のことは大丈夫ー大丈夫ーと思っていたが、
エドナに諭されて、確かにその考えが甘かったと気づかされた。
エドナだって、ずっと私の面倒を見てくれるわけではないのだ。
今近くに居るのは、あくまで彼女の善意であって、
そのうち別れなければいけなくなる時が来る。
そんな当たり前のことにも気づいてなかったなんて、…私は本当に馬鹿だ。

「とりあえず、自分が大馬鹿者だということがよくわかりました…」

私はがっくりと肩を落とした。それを見てエドナはため息をついた。

「そこまで卑下しなくていいけど、
何ていうか、
あなたがどんな場所で今まで暮らしてきたのか、わかった気がしたわ。
多分とても平和で、争いとか無い場所で育ったんでしょうね」

うわぁ…当たってるよ。
ここしばらくエドナと一緒に過ごして気づいたが、
エドナはものすごく勘がいいし、洞察力に優れている。
たぶん私が何も言わなくても、
振る舞いとか言葉の端々から、私の事を分析している気がする。

「それよりエドナさんはどうして私にこの話を?」
「ああ、今朝のあなたはすごく眠たそうにしてたから、
ほとんど頭に入ってないと思ってね。
改めて話をした方が良いと思ってしたの」

…確かにあの時は眠くてほとんど聞き流していたけど…。
短い付き合いなのに、私の性格を理解してるな…。

「まぁとにかく、気をつけなさい。
今日はなんとかごまかせたけど、次はこうはいかないかもしれないから」
「わかりました、気をつけます」
とにかくもうこんなことが無いようにしないといけない。
平和ボケしたままじゃダメだ。もっとしっかり生きよう。
私はそう決意した。

「あ、そうだ。エドナさんに相談したいことがあったんですよ。
実は伯爵夫人から謁見が求められていまして」
「え? あなたが?」
「どうやら私が空間術が使えるという事をどこかで知ったらしく、
会ってみたいとの事でしたけど、どうしましょう?」
「ああ、貴族はそういった珍しい物や人物が好きだからでしょうね。
そうね私が思うに――」

その時だった。突然ガタッと物音がした。

「え?」

私とエドナは思わず顔を見合わせた。
私の空耳かと思ったが、エドナも聞いたらしい。

「家鳴りでしょうか?」
「それにしては大きかったような気もするけど」

その時またガタッと物音がした。
今度ははっきりとどこから聞こえてきたかわかった。
クローゼットからだ。
宿にあるクローゼットは実を言うと私は一回も使ったことがない。
服はアイテムボックスに入れておけばそれで済むからだ。
私とエドナは物音を立てないようにクローゼットの方に近づくと、
思い切って扉を開けた。

「のわっ」

その時、クローゼットから一匹の小さな妖精が現れた。
黄緑色の髪に、服は白いシャツとズボンを着ていた。
妖精は私達に気がつくと、口元に苦笑を浮かべ、手を挙げた。

「よ、よう、久しぶりだな」

その妖精の姿を私は知っていた。確か名前をガイと言ったか。

「何で妖精がこんな所に…」

そう驚くエドナにどう説明したらいいのか、私は頭を抱えた。

だから私は地獄に落ちたくないだけなのに、
どうして厄介事が次から次へと来るんだよ…。
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