死にたがりの悪役令嬢

わたちょ

文字の大きさ
10 / 48

急転する事態、悪役令嬢の呆れ

しおりを挟む
 ああ、なんて馬鹿で愚かで下らない奴なんだ。
 自分の行いがどう云った結果を招くかなど欠片も考えていない。さやかが可哀想にさえ思えてくる。元は彼女の行いが悪いとはいえ、こんな奴に好かれたばかりにろくに守ってもらえず、余計に増える悪意に晒される。
 熱を持った頬を抑え私は目の前にいる馬鹿、ブランリッシュを蔑んだ目で見る。ずっと見てやりたかったけど一瞬だけ。すぐに笑みを浮かべる。
「何を致しますの」
 赤くはれるであろう頬。だけど痛みなど欠片も感じないと云う様に澄ました顔を作る。ブランリッシュがそれをみて顔を顰めるのにいい気味だと内心せせら笑った。
 もっとその顔を歪めたかったけど視界の端に蒼褪めた顔の召使いたちが見えたから正気に戻った。いつも物静かに佇む彼女たちが今日ばかりは焦り騒いでいる。
 私はそんな彼女たちに微笑んだ。
「何も心配しなくて大丈夫ですので外に出てもらって構わないかしら。少しこの子とお話をしたいんですの。そうですね……十分後ぐらいに頬を冷ませるよう準備してくださる。頬を腫らして学園に行く様な恥ずかしい真似はしたくありませんから」
 私が告げれば彼女たちは慌ただしく部屋の外に出ていく。扉が閉められるのを見届けてからブランリッシュに目を向ける。
「で、もう一度聞きますが何を致しますの」
 冷たい目で見つめてくるブランリッシュにも微笑む。問われても言葉を返さないのは言葉も分からない馬鹿だからなのと言ってしまいたいが我慢。
 にしても意外な展開だな。予想から外れてしまった。
 別の事を考えることで時間のひまを潰す。
 今日はブランリッシュが学園に行っていたから何かを言ってくるだろうとは思っていたが、まさか無言で叩いてくるとは思わなかった。そこまで怒っているのか。まさかそこまでさやかを愛しているとは思っていなかった。ちょっと五人を遠ざけただけでまだ何もしていないというのに、それだけで沸点が切れたなんて。これは今後中々厄介かもな。場合によっては計画の見直しが必要になってくる可能性も……。
「姉上は最低なお方です。人かどうかすら疑いますね」
 ……やっと口を開いたかと思えばこれか。何もしていない女性に手を出す方がどうかと思うのだが……。思うだけ無駄かな。
「何の事です。私が何をしたというの」
「白々しい」
 優雅に問いかけて見せれば吐き捨てられる言葉。まるでゴミを見るような目で見られてしまう。
「いいですか。姉上が何をしようと無駄です。さやかさんは僕らが守りますから」
 言い逃げるように去っていく後ろ姿……。
 案外早く終わってしまった。意味のない長話をしないですんだのはありがたいが、裏を返せばもう向こうは言葉を交わすだけ無駄だと思っているという事だ。これは、少しやばいかも。
 バチンと頬を叩かれる痛み。思うのはどうしてこんな事になってしまったのか。その一言。
 ブランリッシュは再び学園に通うようになるなり前にもましてさやかにべったりになった。折角五人がいなくなり落ち着いていたさやかへの悪意も再び燃え出している。レイザードは私と話して以来さやかとそれなりに距離を置いていたからさやかも落ち着いた生活ができていたのに……可哀想に。
 しかも今日からは前にもまして強い悪意がさやかを襲う事になるだろう。
 それもこれもどうしようもないバ王、セラフィードのせいで。
 ブランリッシュが学園に戻った三日後セラフィードも戻ってきた。当初の予定から五日近く早く。しかも学園についた早々さやかのもとに向かったのだ。予定よりも早くセラフィードが戻ってきたことに喜んでいた女生徒たちもそれには一瞬で萎えた顔をする。
 冷たい目でさやか、だけでなくセラフィードも見ていた。
 しかもセラフィードはそんな中でさやかに対して会いたかったなどと告げたのだ。
 もうこれは無理だ。
 いくら私でもさやかに向かう悪意を抑えることはできないだろう。さやか所かセラフィードに向かう事になる悪意さえ。
計画変更
 魔王を倒した後に悪役令嬢断罪、そして一族共に処刑と云う予定を立てていたのだが、悪役令嬢として断罪されるのはゲームのストーリー通り三か月後の年度末に開かれるパーティーの日。
 教師の信頼も厚い皆の憧れのお嬢様と云う役割でないと動きにくい所もあるからぎりぎりまで粘るつもりだったけど、それまでの周囲を抑えられそうにない。仕方ないだろう。
 ああ、セラフィードのせいでどんどん計画が予定外の方向に進んでいく。誰よりも知っていると自負していたのにいつからこんなに遠くなってしまっていたのだろうか。もしかしたら最初から見えていなかったのだろうか……。
 セラフィードが告げたその後私は彼に声をかけた。あまりの出来事に一瞬固まってしまいながらも我に返っていつも通りの笑みを浮かべて声をかけた。凛とした態度は崩したりしない。
「セラフィード様。お久しぶりでございます。とは云うものの手紙でずっとやり取りしていましたから久しぶりにあったという感じは致しませんわね。一昨日もお手紙を頂いたばかりで……ずっとセラフィード様のお傍にいたような気すら致しますわ」
 たおやかな笑みと共に言葉を紡ぎ出していけばホッとした声が周りから少しではあるが聞こえてくる。
「ですから今は他の方々にお譲り致しますことにしましょう。私たちにはいくらでも時間があるのですからね」
 優しい声で最後まで言い切るとそれではと背を向ける。周りは躊躇いながらも私を見つめそれから安心したように笑みを浮かべていた。
 余裕は一瞬たりとも失われてはいけない。
 私が余裕の態度を失わない限りはまさかとは思っても皆そうだとは断定できないから。それだけの人である自負を私は持っている。セラフィードに対して持っていたものは間違いだったが、これだけは間違ってなんていない。
そして放課後は一人静かにテラスで待っていた。約束などしてはいないがあの男ならきっと来るだろう。放課後になる前も私を探し回っていたようだし。人前で馬鹿なことをされるのも嫌で捕まってはやらなかったが。ここにいればいつかは来るだろう。
 ほら、やってきた。
 大股でやってくるセラフィード。その顔の怖い事怖い事。立ち上がる私を睨み付けてくる目はまるで鬼の目だ。そんな怖い顔をして何を言ってくるのかと思えば最初にやってきたのは言葉でなく拳だった。全く女の子をなんだと思っているのか。
 振り上げたこぶしを見た瞬間気付かれないよう魔法を発動して見えない壁で自分の体を支えた。顔は動いても体は動かない。私は優雅に笑う。
「突然何をするのですか。セラフィード様」
 盛大に歪んだ顔に向けて問いかければ舌打ち一つ。きっと無様に崩れ落ち津私が見たかったのだろう。
「何をするのはお前の方が。何を考えているトレーフルブラン。さやかを傷つけることは俺が許さんぞ」
「はて? 私はさやか様に何もしていないのですが? するつもりもないですし」
「とぼけるな。そのために俺たちをこの学園から遠ざけたのだろうが。しかもルーシュリックの奴に何やら吹き込んだな。何を吹き込んだか知らんが残念だったな。お前の思い通りになどさせん。あんな奴とは縁を切ってやったわ!」
 へっと間抜けな声が出そうになってしまった。優雅さを失ってはいけないと言う思いが何とかそれを抑えたけれど何を云われたのかは理解できなかった。
「レイザード様と縁起りなされたのですか」
 聞き間違いかと確かめるために問う。どうか聞き間違いであってくれと願ったのにセラフィードは自慢げに言う。
「ああ、そうだ。お前の息がかかったものなどさやかの傍には置いておけんからな」
 なんて馬鹿なことを。言葉が喉から出ようとした。だけどでなかった。抑え込んだからじゃない。それだけ驚愕したからだ。本当になんて馬鹿なことをしてくれたのだろう。
それでは……魔王が倒せない。それどころかだ。レイザード家の人間をそんな馬鹿みたいな理由で一方的に縁を切ったなどと周りの人々に知られればセラフィードの信用は地に落ちる。レイザード家の者だって良くは思わない。
 戦争を起こす気なのか。この男は……
「これで分かっただろう。お前の思い通りになど絶対にさせん。さやかは俺が守る」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...