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第二部
悪役令嬢と歪んだ家族
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「いやーー、トレーフルブランさんは本当に美しいですなーー。しかもとても賢いときた。これは今後私も精進していかなければなりませんね。でないと釣り合わなくなってしまいそうだ」
そんなことありませんよと柔らかな声で告げながらも、内心ではそうですわねと答えていました。王妃となるために生きてきた私が貴方ごときと釣り合うなんて考えるだけで馬鹿らしいのではなくて。と思ってしまうのを外には出さないように堪えます。
食べ方が汚い。太っている上脂ぎっていて見た目が下品。にやけた顔からは何を考えているのか透けて見えて馬鹿のよう。私を自分の欲望を晴らすための道具としか見ていない気色悪い。賢いなんて口にしながらも下に見ている。自分より上だなんて考えてもいない。その癖話す内容は同じことの繰り返しでバカ丸出し。
本当にこの男は貴族なのかと疑ってしまいます。
まあ、仕方ないですわよね。今後どうなるかもわからない魔王つきの娘を貰おうなんていう物好きが全うな貴族にいるはずもありませんもの。見つけられただけ凄いと思わなければ。
私は男を見つめます。やりたいことリストを思いだし、男の傍でも出来そうなことがないか照らし合わせていきますが一つもありませんでした。そうなるだろうとは予想していましたが、やりたいことはすべて残り一年半の学園生活のうちでやり遂げなければならないようです。
その一年が私の一生です。
それが終われば私はこの男と結婚してこの男が望むように生きていくことになるのです。冷たいものが胸のうちを満たします。
それでも仕方ないのだと私は目の前の男に微笑みました。
これからよろしくお願いします。
なんて思ってもいないことを口にしました。
初めから分かっていたことではありました。何度も言いますが私の家族は血統や家柄にしか興味のない親としては最低な存在です。だから私からセラフィード様、この国の王子の婚約者という立場がなくなってしまえば彼らが愛情を与える理由もなくなるです。
あの日から彼らは私に興味をなくして、どこぞの貴族にでも嫁に出そうと婚約破棄したあの日から私を貰ってくれる相手を探し続けていました。勿論私の意思というものを聞くことはありません。
そして今日やっとお見合いにまで漕ぎ着けることができたのです。相手は地位の低い二流貴族。ただもう商売に成功して金だけはたんまりとある相手。本当ならそれなりの身分があって金もあるような相手が望ましかったのでしょうが、残念なことに私は魔王を身に宿してしまいましたからそんないい相手は見つからなかったようです。それでもまあ金になるのであの両親からしたらいいのでしょう。
私は学園を卒業次第あの男と結婚することになりました。
分かっていたことなのでショックはないのですが、どうせなら捨ててくれれば良かったのにとも思ってしまいます。すぐにでも婚約相手を連れてくるかと思っていたのに中々来ないでちょっと期待していたのです。あんまりにも相手がいなくてどうしようもないから私を家から追放してくれるのではないかと。
そうしたら庶民になってしまいますが自由になります。
やりたいことリストに書いたことも全部できます。何処かのお菓子屋で働いてそこで働きながらカロリーオフのお菓子を作って、何れは自分の店を持ってみたり。子供たちの施設だってだいそれたことは出来ませんが、こつこつお金を貯めれば小さなことはできるはずですわ。勉強なら私でも教えることができますし。
それがあの男の元では何一つさせてもらえなさそうです。
女をアクセサリーか何かだと思っているのは会話の節々から漂っていましたし、私を支配して自分の思い通りに動かしたいというのも良く分かりました。あの男のそういった考え方を改めさせ尻に敷くという方法もなくはないのですが………。そこまでたくましい考え方を持ってないのがいまの現状です。
ここ半年でだいぶ生きやすくなったのですが、家族の部分ではいまだ生きづらいまま。疲れてしまっているのです。
それよりも学園で過ごす残りの時間を自らの人生の一生と考えて行動する方がずっと有意義なことに思えてしまいます。その間にやりたいことをすべてやりきって見せるのです。
明日からはもっと頑張らなければ……。
「姉上!!」
バンと開いたドアに私は目を見開きました。家に帰ってもう寝ようとしていた所でした。そんな所にやって来たのはブランリッシュです。目をつり上げて私を見つめてきます。
「何で!!」
声を荒らげる彼をぼんやりと見つめました。
何かをいいに来るのではないかと思っていましたがまさか今日いいに来るとは。私にはもう誰かと話すような元気は残っていないというのに。
「何で何も言わないんですか! 本気であの男と結婚するつもりなんですか!! あんな豚みたいなやつと! あんな汚いやつと結婚するなんて耐えられないでしょう! 嫌なら言えばどうです。はん、」
感情のままに喚きたてていたブランリッシュの声が止まりました。私をみて苦しそうにします。何でそんな顔をするんですかと私に聞いてきます。私どんな顔をしているのでしょうか。今はそんなことすら分かりません。
「好きなんじゃ…」
絞り出すような声。口許を歪めながらブランリッシュが言います。
「あのグリシーヌ先生が好きなんじゃないんですか! それなのに何で!! 好きな人がいるなら他の人と結婚するなんて嫌でしょう。それなのに、どうして!
ああ、もしかして姉上は汚い男が好きなんですか。あの先生も「ブランリッシュ」
これ以上話されるのが嫌で声をあげました。自分で思っていたよりも大きくて低い冷たい声でした。
「先生は庶民なのですよ。貴族が庶民と結婚できるわけないでしょう。それにお父様たちが決めたことに反論なんてできませんわ。彼らが言うことそれが私たちの全てです。
バカなことを喚かないで頂戴」
見開く目を見つめます。それがみるみるうちに歪んで般若よりもなお恐ろしいものになるのにも私は唇を閉ざし続けました。
「ああ、そうですか!! 貴方はやはり身分だけが大切なんだ!! 最低なやつなんだ! 消えてしまえ!!」
ばたんと扉が大きな音を立てて一度しまりました。強い力で叩き付けられた反動で少し開く扉。その隙間から見えるブランリッシュの後ろ姿をぼんやりと見つめます。
はぁとため息をつきました。
彼が何を考えているのか私は本当は知っているのです。ブランリッシュは私に反抗してほしいのです。父と母の言うことをはね除けて、できれば彼らをこの家から追い出してほしいと思っているのです。
私だってそれができたらどれだけいいかと思います。
でも幼い頃に刷り込まれたものというのは恐いものでどんなに最低なやつらだと知っていても、愛されることなどないのだと分かっていても嫌いにはなれないものなのです。最後の一線で捨てることができないもの。
セラフィード様との関係を終わらせたときにこれも終わらせてしまいたかったのですが、……その最後の一線を越すことができなくて結局そのまま。
そんなの貴方だってわかるでしょうに。私にだけ押し付けようなんてひどくないの。もう見えなくなった背中に呟きます。
だけど……。それも仕方ないこと。むしろ私がどうにかしてあげなければいけないでしょう。それだけの責任があるのだと分かっています。ブランリッシュの兄弟として、彼から全て奪ってもらっものの責任として。
幼かった頃の姿が脳裏に浮かびました。
両親になかば捨てられたように過ごした一人ぼっちの頃。私が一人で暮らしているのに対して、毎日のように両親の傍に引っ付き沢山の愛情を受けて育てられていたブランリッシュの姿。
だけどそれは私がセラフィード様と婚約したことによって逆転してしまいました。
あの両親は極端な人間で王子と婚約した私を愛するようになるとブランリッシュからはあっさり手を離してしまった。
一人で部屋に押し込まれ、課題だけを与えられ続ける毎日。食事も両親とブランリッシュの三人で食べていたのが、両親と私の三人になり、あの子は両親の傍から弾き出された。
与えられた愛情に夢中で、それを失わないようにすることにだけ必死になっていた私はあの子の事を気にする余裕もなくしていた。与えられていた愛情を失って一人になってしまった幼いあの子がどれだけ苦しんだのか、悲しんでいたのか見ようともしなかったのだ。
あの子に憎まれるのは当然だ。だってあの子からしたら私は大切なもの、両親を奪った最低の人間だから。
だからこそ私に願っているのだろう。あの両親を捨てろと。私たちに刻み付けられてしまった両親の愛情を求める気持ちを捨てて、自分を両親から解放してくれることを望んでいるのだそれぐらいの責任は果たせと。
だけど……。
その責任を果たすには私は疲れすぎてしまったのだ。
そんなことありませんよと柔らかな声で告げながらも、内心ではそうですわねと答えていました。王妃となるために生きてきた私が貴方ごときと釣り合うなんて考えるだけで馬鹿らしいのではなくて。と思ってしまうのを外には出さないように堪えます。
食べ方が汚い。太っている上脂ぎっていて見た目が下品。にやけた顔からは何を考えているのか透けて見えて馬鹿のよう。私を自分の欲望を晴らすための道具としか見ていない気色悪い。賢いなんて口にしながらも下に見ている。自分より上だなんて考えてもいない。その癖話す内容は同じことの繰り返しでバカ丸出し。
本当にこの男は貴族なのかと疑ってしまいます。
まあ、仕方ないですわよね。今後どうなるかもわからない魔王つきの娘を貰おうなんていう物好きが全うな貴族にいるはずもありませんもの。見つけられただけ凄いと思わなければ。
私は男を見つめます。やりたいことリストを思いだし、男の傍でも出来そうなことがないか照らし合わせていきますが一つもありませんでした。そうなるだろうとは予想していましたが、やりたいことはすべて残り一年半の学園生活のうちでやり遂げなければならないようです。
その一年が私の一生です。
それが終われば私はこの男と結婚してこの男が望むように生きていくことになるのです。冷たいものが胸のうちを満たします。
それでも仕方ないのだと私は目の前の男に微笑みました。
これからよろしくお願いします。
なんて思ってもいないことを口にしました。
初めから分かっていたことではありました。何度も言いますが私の家族は血統や家柄にしか興味のない親としては最低な存在です。だから私からセラフィード様、この国の王子の婚約者という立場がなくなってしまえば彼らが愛情を与える理由もなくなるです。
あの日から彼らは私に興味をなくして、どこぞの貴族にでも嫁に出そうと婚約破棄したあの日から私を貰ってくれる相手を探し続けていました。勿論私の意思というものを聞くことはありません。
そして今日やっとお見合いにまで漕ぎ着けることができたのです。相手は地位の低い二流貴族。ただもう商売に成功して金だけはたんまりとある相手。本当ならそれなりの身分があって金もあるような相手が望ましかったのでしょうが、残念なことに私は魔王を身に宿してしまいましたからそんないい相手は見つからなかったようです。それでもまあ金になるのであの両親からしたらいいのでしょう。
私は学園を卒業次第あの男と結婚することになりました。
分かっていたことなのでショックはないのですが、どうせなら捨ててくれれば良かったのにとも思ってしまいます。すぐにでも婚約相手を連れてくるかと思っていたのに中々来ないでちょっと期待していたのです。あんまりにも相手がいなくてどうしようもないから私を家から追放してくれるのではないかと。
そうしたら庶民になってしまいますが自由になります。
やりたいことリストに書いたことも全部できます。何処かのお菓子屋で働いてそこで働きながらカロリーオフのお菓子を作って、何れは自分の店を持ってみたり。子供たちの施設だってだいそれたことは出来ませんが、こつこつお金を貯めれば小さなことはできるはずですわ。勉強なら私でも教えることができますし。
それがあの男の元では何一つさせてもらえなさそうです。
女をアクセサリーか何かだと思っているのは会話の節々から漂っていましたし、私を支配して自分の思い通りに動かしたいというのも良く分かりました。あの男のそういった考え方を改めさせ尻に敷くという方法もなくはないのですが………。そこまでたくましい考え方を持ってないのがいまの現状です。
ここ半年でだいぶ生きやすくなったのですが、家族の部分ではいまだ生きづらいまま。疲れてしまっているのです。
それよりも学園で過ごす残りの時間を自らの人生の一生と考えて行動する方がずっと有意義なことに思えてしまいます。その間にやりたいことをすべてやりきって見せるのです。
明日からはもっと頑張らなければ……。
「姉上!!」
バンと開いたドアに私は目を見開きました。家に帰ってもう寝ようとしていた所でした。そんな所にやって来たのはブランリッシュです。目をつり上げて私を見つめてきます。
「何で!!」
声を荒らげる彼をぼんやりと見つめました。
何かをいいに来るのではないかと思っていましたがまさか今日いいに来るとは。私にはもう誰かと話すような元気は残っていないというのに。
「何で何も言わないんですか! 本気であの男と結婚するつもりなんですか!! あんな豚みたいなやつと! あんな汚いやつと結婚するなんて耐えられないでしょう! 嫌なら言えばどうです。はん、」
感情のままに喚きたてていたブランリッシュの声が止まりました。私をみて苦しそうにします。何でそんな顔をするんですかと私に聞いてきます。私どんな顔をしているのでしょうか。今はそんなことすら分かりません。
「好きなんじゃ…」
絞り出すような声。口許を歪めながらブランリッシュが言います。
「あのグリシーヌ先生が好きなんじゃないんですか! それなのに何で!! 好きな人がいるなら他の人と結婚するなんて嫌でしょう。それなのに、どうして!
ああ、もしかして姉上は汚い男が好きなんですか。あの先生も「ブランリッシュ」
これ以上話されるのが嫌で声をあげました。自分で思っていたよりも大きくて低い冷たい声でした。
「先生は庶民なのですよ。貴族が庶民と結婚できるわけないでしょう。それにお父様たちが決めたことに反論なんてできませんわ。彼らが言うことそれが私たちの全てです。
バカなことを喚かないで頂戴」
見開く目を見つめます。それがみるみるうちに歪んで般若よりもなお恐ろしいものになるのにも私は唇を閉ざし続けました。
「ああ、そうですか!! 貴方はやはり身分だけが大切なんだ!! 最低なやつなんだ! 消えてしまえ!!」
ばたんと扉が大きな音を立てて一度しまりました。強い力で叩き付けられた反動で少し開く扉。その隙間から見えるブランリッシュの後ろ姿をぼんやりと見つめます。
はぁとため息をつきました。
彼が何を考えているのか私は本当は知っているのです。ブランリッシュは私に反抗してほしいのです。父と母の言うことをはね除けて、できれば彼らをこの家から追い出してほしいと思っているのです。
私だってそれができたらどれだけいいかと思います。
でも幼い頃に刷り込まれたものというのは恐いものでどんなに最低なやつらだと知っていても、愛されることなどないのだと分かっていても嫌いにはなれないものなのです。最後の一線で捨てることができないもの。
セラフィード様との関係を終わらせたときにこれも終わらせてしまいたかったのですが、……その最後の一線を越すことができなくて結局そのまま。
そんなの貴方だってわかるでしょうに。私にだけ押し付けようなんてひどくないの。もう見えなくなった背中に呟きます。
だけど……。それも仕方ないこと。むしろ私がどうにかしてあげなければいけないでしょう。それだけの責任があるのだと分かっています。ブランリッシュの兄弟として、彼から全て奪ってもらっものの責任として。
幼かった頃の姿が脳裏に浮かびました。
両親になかば捨てられたように過ごした一人ぼっちの頃。私が一人で暮らしているのに対して、毎日のように両親の傍に引っ付き沢山の愛情を受けて育てられていたブランリッシュの姿。
だけどそれは私がセラフィード様と婚約したことによって逆転してしまいました。
あの両親は極端な人間で王子と婚約した私を愛するようになるとブランリッシュからはあっさり手を離してしまった。
一人で部屋に押し込まれ、課題だけを与えられ続ける毎日。食事も両親とブランリッシュの三人で食べていたのが、両親と私の三人になり、あの子は両親の傍から弾き出された。
与えられた愛情に夢中で、それを失わないようにすることにだけ必死になっていた私はあの子の事を気にする余裕もなくしていた。与えられていた愛情を失って一人になってしまった幼いあの子がどれだけ苦しんだのか、悲しんでいたのか見ようともしなかったのだ。
あの子に憎まれるのは当然だ。だってあの子からしたら私は大切なもの、両親を奪った最低の人間だから。
だからこそ私に願っているのだろう。あの両親を捨てろと。私たちに刻み付けられてしまった両親の愛情を求める気持ちを捨てて、自分を両親から解放してくれることを望んでいるのだそれぐらいの責任は果たせと。
だけど……。
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